朝日が自分の体を塵へと変えていく。
そうか、自分はここで終わりなのか。
完膚なきまでに叩き潰された。
もはや足掻くまい。
そう思った次の瞬間、己の目に飛び込んできたのは遠い昔に見た記憶のある墓石だった。
これはあの忌々しい男の…?
傍らにはやはり覚えのあるトランク。
自分の手を見れば記憶の中のそれより小さく視界も随分と低い。
まさか時間を巻き戻したのか?
考えられるのはスタンドによる攻撃だが、承太郎のスタンド能力は自分と同じ「時間を止める」筈。
「フンッ、いいだろう。どういうつもりか知らんが遊んでやろうじゃあないか」
どこのどいつか知らないが、このDIOに喧嘩を売るとはなめた真似をしてくれる。
口の端を上げて笑いトランクを持つ。
やはり声も幼い、か。
- - - -
「きみはディオ・ブランドーだね?」
「そういうきみはジョナサン・ジョースター」
記憶と寸分違わぬやり取り。
幼いジョジョはやけに甘ちゃんな面をしている。最初はこんな顔をしていたのか…まぬけとしか言えん顔だ。
阿呆犬が走ってくるのも同じだ。たかが畜生など放っておいてもいいが…無性に苛つき足を振り上げる。
その瞬間軸足にしていた方がブレてしまいやけに軽い「何か」を蹴り飛ばしてしまった。ちっ、いきなり小さくなった体に追いつかないのか。
「デ、ディオ…、…ありがとう!きみはダニーの恩人だよ!」
「は?」
「こんな大きなハチ、刺されたらひとたまりもなかった!」
思わぬ言葉に目を開き、ジョジョの指さす先を確認するとハチにしてはやけにデカい物体が転がっていた。どうやら先ほど蹴り飛ばしたのはハチだったらしい。
くっ、まとわりつくなまぬけと阿呆犬!
それぞれが動くのに邪魔な場所にいて蹴る事も殴る事も出来ない!
人間らしいこの体では以前のような力が出ず実に忌々しい!
やけに疲れた対面を終え自己紹介も終わる。これでやっと休めるのか…精神攻撃用ならば確かにこれは効果的だ。
部屋に向かおうとしたところで懐かしい物を見つけた。
石仮面。
また吸血鬼になるべきか否か…。
わずかな間ぼんやりとしてしまったらしく気がつくとジョジョがカバンを持っていた。
思い切り眉を寄せてジョジョの腕を思い切り掴む。
この程度の痛みに手を離すとは、軟弱すぎるぞジョジョ!…いや、離して貰わねば腹が立つのは自分だが。
「勝手に触るんじゃあないぜ!それは召し使いの仕事だ」
「はっ!そうだね、召し使いの仕事をとってしまうのはいけない事だ」
はっとして得心したように頷き自分に笑顔を向け、すぐに召し使いを呼ぶジョジョ。
そうじゃない!!
- - - -
広い草原、穏やかに流れる小川。
暖かく柔らかな日差しが優しく降り注ぎ、頬を撫でる爽やかな風は草のいい匂いを運んでくる。
隣にはバスケットを持ち微笑む美しい少女(エリナ)、少し先を走るのは見るからに活発そうな少年(ジョナサン)とその愛犬(ダニー)。
…どうしてこうなった!!
膝をつきうなだれる自分にエリナやジョジョがおろおろし始める。
阿呆犬まで顔を覗き込んできたが気にする余裕はない。
何だ、何がいけなかった。
勉強やマナーを教えた事か?(自分が認めた相手のあまりの酷さにプライドが許さなかった)
孤立させなかった事か?(今更頭の悪いガキと付き合えなかった)
時計を奪わなかった事か?(もっといい物を知っている為手を出す気にならなかった)
エリナを助けた事か?(ガキにキスをする趣味はない。+自分と同じような事をしようとしていたガキをぶちのめした。機嫌が悪く人を殴る理由が欲しかった)
阿呆犬を焼かなかったからか?(神がかったタイミングでなぜか毎回助ける事になった)
全部な気がしてならない。
いや、このDIOが間違うなどない。ない筈だ。
「ディオ、気分が悪いなら…」
「いや、大丈夫だ。それよりもそろそろ昼食にしよう」
「もうそんな時間か!ぼくはもう腹ぺこだよ」
「もう、ジョナサンたら!」
立ち上がったはいいものの、両脇と後ろをがっちり固める二人と一匹に顔が引きつりそうになる。
この二人は恋仲…ひいては夫婦になった筈だが何故間に自分がいるのか。
自分自身に誓おう。
この仕打ちをした輩を絶対にぶちのめす。
絶対にだ!