水面に踊る君と地で歌う僕   作:Allenfort

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連動作とのネタ合わせしたり風邪ひいて熱出たり……

零戦妖精の本気を見るのです!

今回はスカイクロラのオマージュとなっています。


第3話 ストールターン

次の日。黒坂は旅行こと、鎮守府の施設見学をしていた。案内役は戦艦の金剛だ。山城は今朝、酷い倦怠感を訴え、寝込んでしまった。見舞いに行ったほうがいいかと黒坂はちょっと悩んでいた。

 

「テートクー! 次は工廠デース!」

 

「ああ。本物を見るのは初めてだな。」

 

金剛が勢いよく扉を開いて工廠に入る。続いて入ろうとした黒坂に、壁に激突して跳ね返ってきたドアが命中。

 

「へぶしっ!?」

 

今日は厄日だな。それより金剛可愛いな。そんなことを考えていたら、金剛がこっちに来いとばかりに跳ねているのが見えたので、そこへ歩いていく。そこには、日焼けした坊主頭に捩り鉢巻きをしたゴツいおっさん妖精がいた。

 

「この妖精が佐世保鎮守府の工廠長デース!」

 

「おや、アンタが新しい提督かい?」

 

「はい。昨日配属になった黒坂零士少佐です。」

 

「ああ。よろしく頼む。高原中将が選んだんだ。間違っても物集みたいなクソ野郎ではないだろうな。」

 

工廠中の妖精が縦に頷く。そこまで物集は嫌われているのか、まあ、仕方ないか。黒坂にも物集が嫌われるような理由が山ほど思い当たるので、当たり前だと結論づけた。

 

工廠奥に、他とカラーリングの違う零戦があった。ちょうど整備が終わったところのようだ。

 

「工廠長、あの零戦は? ぱっと見11型のようだけど。」

 

「残念。21型だ。ありゃ、クーガ隊の機体だ。随分独特のペイントだがな。」

 

クーガ隊、この佐世保鎮守府に所属する第67飛行隊の通称。山先六鹿率いるエースたち。

 

零戦21型は基本的にカウリングは黒、胴体と翼は白というカラーリングだ。しかし、優一の機体はボンネットとカウリングが黒、胴体はグレーで、上から下に行くにつれて薄くなっていく。ラダー以外の動翼は黄色くペイントされていて、プロペラは黒く、先端とスピナーが黄色。キャノピー下には函南機を表す『262-02』と機体番号が記されている。

 

「なかなかいいな。」

 

「しかし、何故にグレーなのだ? 洋上迷彩はブルーだろう?」

 

「グレーの迷彩は印象に残りにくいって聞いた。まあ、深海棲艦相手にどれだけ通用するかはわからないけどな。」

 

「なるほどな。」

 

近くに並べてある零戦を中年の女性が整備している。妖精ではなく、人間だ。

 

「あの人は?」

 

「ああ、笹倉さんか。うちの主任整備士。整備の腕はピカイチ。」

 

すると、屋外から轟音。どうやら、開発した砲のテストをしているようだ。

 

「ニキ! ロクタ! どうだい!?」

 

笹倉は砲のテストをしていた整備班の妖精に大声で訊く。装備の実用テストは整備班の仕事のようだ。

 

「こりゃダメっすね! 軸ズレしてるせいで横っ腹にヒビが入りやした!」

 

「全く! これじゃスクラップ行きしかありませんぜ!」

 

「だとさ。工廠長、アレ分解して作り直して。」

 

「ああ分かった。おいお前ら! あの砲を解体班に回せ!」

 

工廠長の指示で妖精たちがテキパキ動き、砲を運んでいく。不良品はこうしてリサイクルされるが、少しは廃棄物が出てしまう。

 

「どうも。昨日配属になった黒坂です。」

 

黒坂は笹倉に挨拶する。ツナギに赤いベストが特徴的だった。

 

「ああ。アタシは笹倉。ここの整備主任だ。」

 

「HEYママ! ワタシの艤装の修理は終わりましたカー?」

 

「ママ?」

 

金剛が笹倉をママと呼んだので、黒坂の頭の上には疑問符が浮かぶ。

 

「完璧に直った。ああ、アタシはここの艦娘の艤装や妖精の機体の整備をしてたら、いつの間にかママって呼ばれるようになったのさ。」

 

「なるほど。納得しました。」

 

整備士が信頼できるほど心強いものはない。妖精も上手くまとめている。

 

そんな時、ダクトを改造した妖精専用通路から優一ともう一人妖精が出てきた。そういえば、偵察飛行に出るように命令してたな、そう思い出す。

 

「ちょっと見てくる。」

 

黒坂は外の滑走路に運び出されていく零戦21型を追いかける。

 

栄発動機が唸り、滑走路を駆け抜けた2機の零戦は青空へと旅立っていった。

 

「お手並み拝見といきますか。」

 

滑走路の端で眺めていた黒坂はそう呟いた。

 

ーーーーー

 

深海棲艦の出現ポイントはある程度決まっている。僕と僚機の土岐野尚文は出現ポイント近くを飛んでいる。

 

「まさか初めてってわけじゃないよな?」

 

土岐野が無線で唐突に訊いてきた。

 

「任務が? 機体が?」

 

「機体。」

 

「零戦ならいつも乗ってる。」

 

「了解。」

 

それきり土岐野は何も言わない。余計なことを言わない奴は好きだ。僕は相棒に恵まれているのかもしれない。

 

僕は時々音楽プレーヤーで音楽を聴きながら飛ぶ。本当はやかましい曲の方が好きなんだけど、無線を聞き逃したり、エンジンの異音やリンケージ音を聞き逃すわけにはいかないので、静かな曲を小さな音量で聴く。

 

1人で偵察に出た帰りにやかましい曲を聴く機会もあるかと思っていたが、そんな機会には恵まれていない。

 

もし、機体が駄目になって、どうしようもなくなったら聴こう。曲が終わる前に死ねたらいいな、と思う。そもそも、妖精に死があるか疑問ではあるが。

 

目標地点に到達。僕と土岐野は機体を反転させて背面飛行し、下方を目視で偵察する。深海棲艦が出現するサインである黒ずんだ物体も、渦も泡も見えない。高度は1000mまで落としているが、何も確認できない。何もいないということだ。

 

土岐野に合わせて背面から機体を戻す。

 

「何もないな。鎮守府に帰ろう。」

 

「了解。」

 

その時だった。僕の視界に3つの機影が映った。

 

「警戒! 敵機接近!」

 

僕は無線にそう言うと同時に操縦桿とラダーペダルを操作し、右旋回に入れていた。土岐野は上昇するようだ。

 

「敵機3機、11時方向。」

 

敵の位置を報告しながら右旋回し、海面すれすれまで降下。すると、魚が跳ねるのが見えた。否、敵が撃ってきたのだ。

 

背後を確認。2機だ。ツイてない。機種は単発のF4Fワイルドキャット。国籍マークはない。

 

片方は上昇、片方は僕を追う。

 

僕の左手は好戦的ならしく、『撃っていいか』と僕に訊く。まだだよと宥めながらチャンスをうかがう。

 

旋回して敵弾を回避。増槽投棄。反動に合わせて上昇。機体を左右に傾けながら背後を確認。まだ付いてきてるな。機首を上に向け、スロットルを絞り、フラップを下ろして減速。

 

飛行機はある程度の速度がないと飛べない。速度を失うと失速(ストール)、機体が落下を始める。

 

速度計をチェック。機体はストールし、上を向いていた機首がひっくり返る。フラップを上げスロットルを全開にする。ラダーで機体をスライドさせる。追いかけてきた敵機が僕の真正面、つまり、さっきまで下だったところを通り過ぎる。

 

撃っていいよ。既に安全装置を解除していた左手はトリガーを引き、一瞬だけ通り過ぎた敵機に7.7mmと20mmを浴びせかける。

 

翼の付け根にある燃料タンクに曳光弾が当たったのだろうか。青い炎に包まれ、炎上しながら左翼が折れて海面へ墜ちていった。

 

もう一機は正面から突っ込んでくる。ヘッドオン狙いか? 否、目の前で急旋回した。甘いよ。

 

すぐに追いかける。海面すれすれを飛ぶ敵機。その少し先、数秒後にあいつがいる場所に機銃を撃つ。命中。赤い炎、エンジンに命中したようだ。そのまま墜ちて海面に叩きつけられた。可哀想、そんな言葉が思い浮かぶが、僕はそう思っていないのだろう。まるで、ケーキの上にチョコレートで描かれたおめでとうの言葉のように、誰も思っていない言葉なのだ。

 

周囲を確認。敵はいない。土岐野はどこだろう?

 

「どこにいる?」

 

「北に離脱中。間も無くポイント2。」

 

土岐野からの返答があった。向こうには腕利きが単騎で向かったはずだから苦労しただろう。

 

メーターをチェック。操縦系統問題なし。エンジン温度よし。油温やや高し。

 

上昇して雲の上に出ると、土岐野機がいた。僕はその左斜め後ろを飛ぶ。

 

「喰らったか?」

 

「全然。」

 

「何機やった?」

 

「2機。」

 

「ブラボー!」

 

隣を飛ぶ土岐野がコックピットの中でサムズアップしているのが見えた。そして、旋回して僕と土岐野は鎮守府への帰路に着いた。

 

ーーーーー

 

「深海棲艦の動きは?」

 

「動きなし。」

 

「敵機は?」

 

「F4Fワイルドキャット3機。全て撃墜確認。」

 

「こっちの損害。」

 

「ゼロ。」

 

土岐野が淡々と報告する。その内容を黒坂はパソコンに打ち込んでいく。報告書用テンプレートに必要事項を記入し、プリントアウト。最近、電波塔をやられてしまったらしく、復旧するまでメールという素敵な文明の機器が使えない。

 

そもそもメールで報告は緊急時以外禁止なので、報告書用テンプレートを使って報告書を作成、プリントアウトし郵送。このシステムにより、提督と秘書をする艦娘、通称秘書艦の負担が減った。

 

「下がっていいよ。お疲れ様。」

 

「失礼しまーす。」

 

土岐野はそう言うと妖精専用通路から自室へと戻る。

 

「コーヒーもらっても?」

 

「いいよ。」

 

優一はここでコーヒーを飲んでいくようだ。その近くでは零戦妖精、篠田虚雪が新聞を読んでいる。

 

「篠田、何かあった?」

 

「別に。南方戦域は日本軍(ウチ)のワンサイドゲームらしい。近々、深海棲艦の巻き返しがあるかもな。」

 

「そんなに優勢なの?」

 

優一はコーヒーを啜りながら篠田に訊く。

 

「ああ。インドネシアのパレンバンにある油田からの輸送ルート防衛のために、大本営が南方戦域に力を入れているらしい。」

 

「あ、司令官にお手紙です!」

 

執務室に入ってきた吹雪は黒坂に封筒を渡す。黒坂は器用に封を破り、中の書類を読む。すると、表情が一瞬で強張る。

 

「篠田、その言葉が本当になりそうだ。敵の大規模な部隊が南方戦域で活発な動きを見せている。山先と鶴保に『いつでも飛べるように用意しておけ』って伝えて。」

 

「了解。」

 

篠田は読み終わった新聞を適当にその場に置くと、妖精用通路を通って自室へ戻っていった。

 

優一もコーヒーを飲み終えると、使い捨てカップをゴミ箱に入れ、通路を使って自室へと戻っていった。

 

ーーーーー

 

その日の夜。黒坂は山城の部屋にいた。寝込んでいるようだったので、様子見に来てみたところ、日頃の疲れが出たらしく、体調を崩しているようだった。

 

そんなこともあり、汗を拭いてやって額に濡れたタオルを乗せてやったりと、思いつく限りの事をして、今は枕元でリンゴの皮を向いている。

 

「提督……お手数をおかけします。」

 

「いいよ。それよりごめん。体調不良に気づけなくて……」

 

「いえ、昨日着任したばかりなんですから……」

 

「そう……」

 

黒坂は器用にリンゴに耳をつけ、皿に盛る。

 

「食べられる?」

 

「なんとか……」

 

「そう。体起こすよ。」

 

今度は山城の背中に手を入れ、ゆっくりと起こし、リンゴを食べさせる。艦娘の体調やメンタルのケアも提督の仕事。黒坂はそう思っていた。

 

リンゴを食べさせ終わると、山城がなぜか涙を流していた。

 

「どうした? 辛い?」

 

「いえ……提督は優しいんですね……まるで、扶桑姉様を見てるみたいで……」

 

「そう……山城、僕ね、扶桑の最期を遠目に見てた。」

 

「姉様の……?」

 

「あの時来たのが物集の指揮下……佐世保鎮守府所属の艦隊だったから間違いない。扶桑は僕らを助けに来てくれた恩人だ。だから、必ず扶桑を見つけ出してみせる。宮原と久坂も手伝ってくれるはずさ。」

 

「提督……もしかして、キスカを生き延びたあの地を這う死神って……提督のことですか……?」

 

そんな二つ名もあったな。最初は畏敬の念を込めて。数多の敵を撃ち倒す様からついた。だけど、久坂は蒸発していたから知らないだろう。地を這う死神が蔑称となっていることを。

 

多くの仲間が死ぬ中、地を這うように生きて帰ってきたのだから。

 

「さあね。そんな事は忘れちゃった。それよりも早く寝て早く治してくれ。体が資本だよ。それに、君が戦っているところが早く見たいんだ。あの大きな艤装を着けて戦っているところは、さぞや壮観なんだろうなぁ。」

 

「はい……あの、一つワガママを言ってもいいでしょうか?」

 

「いいよ。」

 

「あの……子守唄を歌ってもらえませんか? 私が風邪をひいたとき、いつも扶桑姉様がリンゴを剥いて、そして……子守唄を歌ってくれたので……」

 

黒坂は山城を横にして子守唄を歌う。また一つ、約束が増えた。必ず果たしてみせると誓いつつ、今は山城が少しでも早く良くなるように願いつつ、歌い続ける。




スカイクロラキャラ

山先(ヤマサキ)六鹿(ムツガ)
コードネーム クーガ

スカイクロラ イノセンテイセスに登場。クーガ隊隊長。僚機を失わないというポリシーを持つエースパイロット。


土岐野(トキノ)尚文(ナオフミ)
コードネーム 不明

スカイクロラシリーズには大体登場するエースパイロット。人当たりのいい女好き。


篠田(シノダ)虚雪(ウロユキ)
コードネーム ラスティ(映画版の通信にて)

スカイクロラに登場。暗めの雰囲気のパイロット。常に黒い長袖を着ている。


笹倉(ササクラ)永遠(トワ)

スカイクロラシリーズに大体登場する整備士。小説では男だったが、映画版では中年の女性になっていた。本作では映画版の笹倉が登場。但し、やることは小説版(つまり、魔改造)


ニキ、ロクタ

映画版スカイクロラに登場した整備士。

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