水面に踊る君と地で歌う僕   作:Allenfort

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湖畔で一泊キャンプという学校行事にて、海自の公開してたレシピのカレーを作っちゃおうと、設定協力の友達と画策し、本当に作ってみました。結果? 女子にも好評。流石海自カレー。


第18話 エースの空

爆撃機接近の報を受け、メテオラ隊が迎撃に上がった。トラック泊地より離れた小島にある観測所兼対空陣地からの情報によると、北東から中型爆撃機が4機接近中で、護衛戦闘機が随伴しているとのことだ。

 

先ほど到着した陸軍航空隊の三式戦闘機"飛燕"と二式複座戦闘機"屠龍"が合流し、地上の観測所からの情報を元に予想会敵地点へと向かう。クーガも遅れてくるだろう。

 

『こちら陸軍第37戦闘飛行隊のパンサーだ。よろしく頼む、メテオラ。』

 

『第67飛行隊、メテオラです。爆撃機は頼みました。梅雨払いは我々が請け負います。』

 

『心強いな。我々は高度5000mまで上昇し、真上から爆撃機を狙う。そちらはどうする?』

 

『現在の高度で敵戦闘機を迎え撃ちます。敵は機種にもよりますが、上昇性に優れていますから、我々が気を引いたほうがいいでしょう。』

 

『わかった。最適の健闘を。』

 

パンサーがサムズアップした。鶴保にはそれが一瞬だけ見えた。鶴保もサムズアップして返すと、パンサーは仲間を率いて上昇していく。飛燕に搭載されている水冷エンジンが、零戦の空冷エンジンとはまた違う音を立てながら青空に溶けていく。

 

『さあ、我々は高度を維持、このまま予想会敵地点へ向かいます。』

 

『トゥーアップ、了解。』

 

『ポップコーン了解。』

 

『カイリ、了解。』

 

『スプライト、了解。』

 

『スカルヘッド了解。』

 

予想会敵地点には、敵機がわんさといた。数的には不利。今のところは。爆撃機はB-25ミッチェル。護衛機はP-47サンダーボルト。直線番長だ。

 

『厄介な奴が来たな……』

 

高嘴はテンションの低い声で言う。

 

『トゥーアップはアレに乗るべきだと思いますよ? 強引で……』

 

『うるせえポップコーン!』

 

『2人ともそこまでに。ヘッドオンは避けてください。12.7mm8門に正面から挑むのは愚作です。』

 

『簡単なことじゃない。撃たれる前に背後について、逃げられる前に落とせばいい!』

 

織科ははしゃいでいるようだ。高嘴と雛木は内心正気を疑いながらも、織科の言う通りにするしかなかった。他に手が思いつかないのだから。

 

6機は左右に散らばった。すると、雲の間から急降下してきた飛燕が12.7mmの雨を敵機に浴びせる。あくまでも戦闘機狙いだ。

 

P-47はあちこち装甲で覆われており、硬い。それでも何発かの機銃弾はキャノピーを貫通し、パイロットキルを決めた。飛燕は散らばって衝突を避けながら機首をあげて再び上昇に転じていく。何機かは運悪く敵機と激突し、周りを巻き込みながら墜ちていった。

 

どうやら敵は隊長機をやられたようで、統制が乱れていた。チャンスとばかりに鶴保たちが敵の後ろへと食らいついていく。旋回戦に向かないP-47では振り切るのも難しく、水平飛行で振り切ろうにも当たれば強い20mmで叩き落されるのがほとんどだった。

 

やられてばかりではなく、相手も果敢に攻撃してくるが、速度が速すぎるのが仇となり、零戦を次々と追い越してしまう。

 

『左翼に被弾! 損害軽微!』

 

雛木が被弾したが、主翼に穴が空いただけでまだやれそうだ。

 

そして、屠龍が上空からB-25に襲いかかった。敵は鶴保たちに気を取られ過ぎていた。爆撃機の銃手も、やっと屠龍に気づいて応戦したが、時既に遅く、エンジンや主翼に20mm弾、37mm対戦車機関砲を食らい、炎上したり、翼が折れて墜ちていく。

 

屠龍のパイロットは爆撃機が炎上し、搭載している爆弾に引火して派手に爆散する様を見て歓喜の声を上げた。

 

『やったぜジャイアントキリング!』

 

『ざまーみろってんだ! 帰ったら一杯引っ掛けるぞ!』

 

敵の護衛機は任務失敗を悟り、撤退していく。この頃になってクーガ隊がようやく到着した。

 

『ダンスパーティはお終いか?』

 

『ええ。天使たちは羽をたたんでおかえりのようですよ。』

 

山先の軽口に鶴保も軽口で答える。だが、彼らは気づいていた。撤退していく敵機の中から、何かがやってくるのを。

 

『ジャックポット、スローハンド、悪いが陸軍機を先導して帰還していてくれ。陸さんは洋上飛行に慣れていないからな。』

 

『ポップコーン、スプライト、スカルヘッドも同行してください。』

 

隊長機の指示を受けた5人は陸軍機と一緒にトラック泊地へと進路をとった。

 

ーーーーー

 

『随分出遅れたな。』

 

赤と黒の独特のペイントが施され、尾翼には逆さ吊りにされた男のエンブレムをあしらったP-51Aマスタング6機で構成された深海棲艦側航空隊、第47戦術飛行隊"ハングドマン"は出撃に手間取り、戦闘空域に到着した頃には既に護衛対象のB-25は全滅していた。

 

目の前にはメタリックグレィや制空迷彩の零戦が飛んでいる。

 

『各機、コヨーテ(クーガ)狩りの時間だ。手土産なしで帰るのはマズイからな。』

 

『了解。』

 

隊長機が増槽を投棄すると同時に列機も増槽を投棄して、隊列を組んだまま一糸乱れぬ右旋回し、クーガ隊とメテオラ隊へ機首を向ける。

 

『来たぞ。ペイントからするに、敵のエースだ。どこの隊か分かるか?』

 

『あれは……ハングドマンです。近くの陸上基地から飛んできたんでしょう。』

 

戒田が答える。

 

『メテオラ、弾は?』

 

『7.7mmならまだ大量にあります。これでもいけますよ。』

 

『よし。行くぞ!』

 

山先、戒田、鶴保、高嘴、織科は隊列を組むと、敵部隊へと機首を向けた。高度はこちらがやや優勢。

 

山先たちは散開する。敵もそれを見ると散開し、それぞれ戦闘を開始した。

 

織科はスプリットSで上から横に並んだ3機の背後に回りこみ、狙う。織科に気づいた敵はすぐに散開し、そのうちの1機が急減速。織科の背後に回り込んだ。

 

撃ってくる、織科は直感的に感じ取ると、機体を左に旋回させた。すると、その近くを12.7mmと7.62mm弾が通り過ぎていく。

 

当たらないよ。織科は呟いた。

 

敵が照準を合わせてくると、今度は右に旋回して回避する。丁度頃合いだ。

 

フラップダウン。スロットルを絞る。敵機との距離が縮まる。

 

操縦桿を思い切り引き、急上昇。フラップアップ。スロットルを全開。機体が反転した状態で失速する。敵パイロットからすれば、織科が消えたように見えただろう。

 

織科機は急降下する。プロペラで発生させた風を昇降舵に当て、無理矢理機首を敵機へと向ける。

 

もらった、織科は呟くと、トリガーを引き、7.7mm弾を浴びせた。どうやら、敵機の昇降舵と水平尾翼の接続部分にでも当たったのだろうか、舵が脱落するのが見えた。こうなれば姿勢制御もままならない。無力化だ。

 

織科はラダーで少し機体を左にスライドさせると、その横を悠々と通り過ぎていく。敵パイロットはキャノピーを開けて脱出するところだった。脱出する瞬間、織科と目があった。お互い、健闘を讃えるかのように敬礼した。またどこかで戦おうとばかりに。

 

『カイリ、敵機撃墜。』

 

それと同じ頃、高嘴は敵機を追いかけていた。敵機は上下左右へヒラリヒラリと回避機動をとり、高嘴を翻弄する。

 

敵機がフラップを下げた。高嘴はそれをしっかりと目視した。どう出る?

 

敵機が急上昇。ストールターンか? 違う、ループだ。ならばもらった!

 

「墜ちろ!」

 

上昇すると読んでいたからこそ、反応できた。読んでいなければ、織科が対峙した相手のように敵機を見失っていただろう。

 

高嘴は敵機が上昇で速度を失ったところを狙い、残っていた僅かな20mm機関砲を撃ち込んだ。すると、敵機のエンジンから煙が上がり、失速する。エンジンが停止したのだろう。

 

失速して海へと墜ちて行く機体からパイロットが飛び出すのが見えた。悪運の強い奴だ。そう思いながら、高嘴は呼吸を整えた。戦闘機動によってかかる大きなGのせいで、呼吸しづらく、酸欠になりかけていた。

 

ふと、計器盤に貼り付けられた一枚の写真に目をやる。その写真には、少女……高嘴の妹が写っていた。それを見て呼吸を整えると、再び外へと目を向けた。

 

そこでは鶴保が1対1のドッグファイトを繰り広げていた。最初に2機相手取っていたはずだが、もう墜としたようだ。

 

鶴保が狙う敵は中々の腕前で、引きつけたところでバレルロールし、オーバーシュートさせる。鶴保は撃たれる前に機体を反転させて急降下。敵も少し距離を置いて追跡する。速度は400km/hを超え、操縦桿が一気に重くなる。鶴保は片足を計器盤に押し付け、力一杯操縦桿を引いた。

 

敵も機首を上げた。このとき、敵機が鶴保機の速度を僅かに上回っていた。

 

鶴保は機体を垂直に立てると、操縦桿を右手前に引く。機体は右に180度ロールし、背面飛行に一瞬だけ入る。敵機の位置を確認した鶴保はその真上に覆いかぶさるように、否、突き刺さるように操縦し、真上から7.7mm弾を撃ち込んだ。エンジンから白い煙、主翼付け根のタンクからは出火した。

 

しばらくすると燃料タンクが爆発し、左翼が折れる。機体は錐揉みしながら墜ちていく。パイロットは錐揉みに入る寸前に脱出に成功した。間一髪だった。

 

山先と戒田は互いを援護しあいながらも敵を狙っていた。残りはこの2機だ。

 

『背後に!』

 

戒田が叫ぶ。山先は敵機の追撃を中止すると、戒田の背後の敵へと狙いを変えた。敵機は戒田から離れて回避に移る。すると、さっきまで山先が狙っていた方が今度は山先を狙う。

 

『お前の相手は俺だ!』

 

今度は戒田がその敵の背後に回りこむ。

 

戒田に追われた敵はインメルマンターンで振り切ろうとする。戒田は強烈なGに耐えながらも喰らい付く。すると、戒田の背後から弾が飛んできた。山先に追いかけられている敵機だ。自分たちと同じ手を使ってきたようだ。

 

『クロスボウ、クロス行くぞ!』

 

『了解!』

 

山先は敵の追撃を中止すると、もう一機の敵の前にワザと躍り出た。2人は敵に追いかけられながらも空中で接近。並走する。

 

『スタンバイ!』

 

『オーケー!』

 

『よし……ナウ!』

 

山先機と戒田機が急旋回して、空中でクロスする。追いかけてきた敵機は1回目は辛うじて激突せずにクロスすることが出来た。

 

しかし、山先と戒田はS字の旋回を繰り返す。敵もそれを追うが、4度目でとうとう僚機と空中衝突した。片方は胴体にぶつかられ、バランスを崩して木の葉のようにくるくる回りながら墜ちていく。

 

もう片方は翼が折れて錐揉みしながら墜ちていく。

 

相手は上手かった。が、山先と戒田が一枚上手だったようだ。妖精の飛行隊が編成されて以来、ずっと一緒に飛び続けた仲だからこそできた技である。一歩間違えば敵ではなく山先と戒田がああなっているところだったのだ。

 

『敵機の全滅を確認。西へ向かい、艦隊と合流するぞ。』

 

山先を先頭にして、エースたちは旋回する。日本へと帰る艦隊と合流するために。




エース同士の空戦なんてどうだろうか? と試験的に書いてみました。他にもエース部隊は考えてあります。登場するかどうかは評価次第かな……

そうそう、この前の誕生日にて、妹(挿絵描いたのと別の方)がケーキにチョコペンで吹雪を描いてくれました。上手すぎて食うのもったいなかった……

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