水面に踊る君と地で歌う僕   作:Allenfort

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3作目、予想よりUAが来たので驚きであります!


第1章 戦火の中で
第1話 艦娘、生きる兵器


次の日、黒坂は大本営で高原から正式に命令を受けていた。

 

「黒坂零士少佐、明日付けで佐世保鎮守府への着任を命ずる。なお、艦隊は物集少将の艦隊を引き継ぐこと。物資もそこにあるので、代理の宮原中佐と交代してくれ。」

 

「謹んでお受けいたします。」

 

黒坂は陸戦隊で数々の戦果を挙げているが、前線から離されるのがイヤという、どこかの空の魔王のような理由で昇進を辞退していたので、そのツケで昇進を果たした。

 

また、着任が明日付けなのは移動時間を考えてのことである。新幹線があるとはいえ、移動での疲労が溜まった状態で着任は辛いだろうという高原の気遣いも含まれている。

 

「さて、入りたまえ。」

 

高原がドアに向かって言うと、誰かがドアを開けて入ってきた。黒坂はもちろんその方向を向く。

 

「失礼します。新しい司令官をお迎えにあがりました!お久しぶりです、黒坂少佐!」

 

そこにいたのは吹雪型駆逐艦の1番艦、吹雪だった。

 

「お、吹雪じゃないか! 元気にしてたか?」

 

「はい!」

 

高原がコホンと咳払いすると、2人は高原の方を向いて姿勢を整えた。

 

「それでは、任地へ向かいたまえ。あと、交通費については領収書をもらって宮原中佐に渡してくれ。経費で落とすから。」

 

「了解です。自腹はご勘弁願いたいですからね。」

 

「言っておくが、車内販売のは経費に入れるなよ。それは自腹だ。」

 

「チッ。」

 

「おい貴様、舌打ちしたな?」

 

「いえ、なんでも。」

 

「そうか。では、またいつかな。」

 

「ええ。お元気で。」

 

黒坂はクルリと振り向き、退室しようとしたまさにその時……

 

「てい。」

 

高原が黒坂のケツを蹴り上げた。

 

「いてっ! 何するんですか中将! ケツが2つに割れてしまいます!」

 

「元から割れてるだろ。舌打ちしてケツ蹴られるだけで済んだのだ。安い出費と思え。それに、しばらくこんなイタズラも出来なくなるんだしな。」

 

「それもそうでしたね。」

 

「あ、あとお前と一緒に新しい零戦妖精がそっちに配属になるからよろしく。」

 

「了解。」

 

黒坂は次会うときは心臓止まるようなドッキリを仕掛けてやると心に誓い、吹雪とともに退室した。

 

ーーーーー

 

駅から新幹線に乗り、しばらく新幹線の旅を楽しむこととなった。

 

「そういえば司令官、足は大丈夫なんですか?」

 

吹雪は黒坂の左足を一瞬見てから問う。黒坂は苦笑いを浮かべながらも答える。

 

「まあな。もう慣れたよ。」

 

「そうですか……ごめんなさい、もっと注意していれば司令官が陸戦隊をやめるようなことには……」

 

「気にするな。いつか前線には立てなくなるとは薄々予感してたし。」

 

黒坂は少し落ち込み気味の吹雪の頭を撫でる。27歳の黒坂にとって、中学生くらいの外見の吹雪は妹のような存在だと言えよう。

 

吹雪は艦娘と呼ばれる、人間の少女の外見をした軍艦である。が、艤装をして戦う時以外はほとんど人間と変わりなく、個性もある。大体の提督は彼女らに愛着を持ち、なるべく犠牲を少なくしようとする傾向が見られる。

 

それは、建造で大量に資材を消費するのを危惧し、犠牲を少なくするように言っている大本営の方針と偶然にも一致することとなった。

 

黒坂も艦娘を兵器とは思っておらず、戦友と捉えている。

 

ちなみに、物集が軍法会議にかけられる羽目になったのは、犠牲を物ともせずに物量で押すという方針であり、戦果を出せるならいざ知らず、犠牲が増えるばかりで戦果はロクに出ないという無能ぶりを発揮した為である。黒坂も、そのせいで失ったものが多かった。

 

吹雪はそんな指揮官の元、運よく生き延びた幸運な艦娘である。

 

黒坂に頭を撫でられた吹雪は、最初は少し戸惑ってはいたが、段々目を細めて気持ち良さそうな仕草を見せる。入院していた黒坂のお見舞いをした時によく撫でられていたので、慣れているらしい。

 

「そうだ、戦艦の装甲チョコを買ってきたんだが、ちょっとチャレンジしてみないか?」

 

「え……司令官、中々のチャレンジャーなんですね……」

 

「まあな。というか、着任は明日なんだし、司令官はやめてくれ。いつも通りで。」

 

「はい。零士さん。」

 

ちなみに戦艦の装甲チョコはその名の通り戦艦の装甲並みに硬いというチョコである。黒坂の同僚にはこれを胸ポケットに入れていたおかげで致命傷を免れたという奴までいる。どうしたらこんな硬さになるのかと、齧りながら思う黒坂だった。正しい食べ方は舐めて溶かすなのだが。

 

そうしていると、吹雪がウトウトとし始めた。佐世保から東京に黒坂を迎えに来て、また佐世保に戻りである。疲れたのだろう。

 

「寝るか?」

 

「え……あ、はい……」

 

黒坂はシートの肘掛を上げると、カバンからブランケットを取り出し、自分の右ひざをポンポンと叩く。

 

「いいんですか?」

 

「僕は大丈夫。それに、右脚だし。」

 

吹雪が大人しく膝を枕にして横になると、黒坂はブランケットを掛けてやる。しばらくすると、吹雪はスヤスヤと寝息を立て始めた。

 

黒坂は性懲りも無く戦艦の装甲チョコを齧りながら窓の外を見つめる。懐かしい陸戦隊2期生の同期とチョコの早食い競争をしたことを思い出しながら。

 

シーレーンの封鎖により、生活水準は大東亜戦争前くらいまで戻った。建物やインフラはそのままだが、燃料の量が限られている上に軍に優先して回されていることもあり、前のように電気を幾らでも使えるというわけではなくなった。黒坂が乗る新幹線も、1日に2本しか走っていないというくらいである。

 

また、シーレーン封鎖に伴い、日本は食料を自国で賄う必要が出てきた。最初は食糧難に陥ったが、農作物の高騰による収入の増加や外資系企業、サービス業の需要低下に伴って農家が増え、なんとか食糧難は一定の解決を見せた。現在も最低限の食糧は配給されているし、足りなければ高いがスーパーなどで購入出来る。

 

新幹線の線路近くには緑一色の田んぼがいくつも見える。コンクリートジャングルよりも、そっちの風景の方が黒坂は好きだった。

 

空を陸軍の3式戦闘機飛燕が飛んでいる。あの小さな飛燕に乗っているのは人間ではない。文字通り"妖精"だ。

 

どこで発見されたのか、何者なのかは公開されていない。黒坂に分かっているのは、妖精は人間の味方であること、艦娘は妖精の手で生み出されたことだ。

 

別に、黒坂はそれを気にかけてはいなかった。そんな謎を追求するより、目の前の敵に集中したほうがよっぽど建設的だと思っているからだ。

 

やがて、外は暗くなり、星が光りだす。銀色に輝く満月が夜空を照らすその光景はとても幻想的だった。灯火管制が敷かれ、家々の明かりは消え、代わりに空の星々が地上を照らすようになった。

 

「ん……ん〜……」

 

黒坂が夜空に見とれていると、吹雪がモゾモゾと動き出した。どうやら起きたらしい。

 

「起きた? まだ寝ててもいいよ。」

 

「いえ、もう十分寝ました……」

 

「そっか。」

 

「だけど……もう少し膝をお借りします。」

 

そう言って吹雪はしばらく膝枕を堪能した。

 




吹雪は最初の艦だったので、とても愛着深い艦なのです!他にも色々な艦娘を出す予定です!

え?空戦はどうしたって? もう少しお待ちください!

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