水面に踊る君と地で歌う僕   作:Allenfort

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金剛が英語の先生だったら絶対居眠りしないしテストで高得点だって……

何てことを考えつつキーボードを叩く今日この頃。


第16話 連合艦隊、抜錨す

敵部隊を退け、既に日が昇っている。久坂は小会議室にて作戦に参加する面々とブリーフィングを行っていた。トラック泊地に来ている艦娘から、所属に関係なく部隊を久坂が編成し、指揮する事になった。

 

第1艦隊は長門を旗艦とし、金剛、愛宕、高雄、隼鷹、瑞鳳。

 

第2艦隊には神通、青葉、陽炎、不知火、夕立、霞。

 

この2つの艦隊から水上打撃部隊を編成し、敵艦隊への攻撃を仕掛ける。先手必勝、殺られる前にやれである。

 

海軍の規定では、艦娘を6名で1艦隊としている。基本的に出撃するのは1艦隊であるため、連合艦隊による作戦は現状では異例といえる。

 

また、連合艦隊は燃料弾薬の消費が多くなる。3人がトラック泊地に持ち込めた資材は輸送船の数が少なかったため、そんなに多くない。これは賭けに等しかった。だが、何度も反復攻撃を行うより、連合艦隊で一撃で仕留める。それを選んだのだ。

 

久坂は不安を抱えつつも、ブリーフィングを開始する。いつもは適当に済ませるところであるが、仲間の命運を賭けた勝負であるが故に、珍しく真面目にやっていた。ここで負ければ、医務室で絶対安静をくらっている黒坂に顔向けできないと言う思いもあった。

 

「いいかお前ら。今回の作戦目標はこのお団子頭、軽巡棲姫だったな……こいつの撃沈だ。いいか、他の奴は逃してもいいがこいつは叩きのめせ。それが上からの命令だ。質問あるかー?」

 

誰も手をあげる事はなかった。久坂はそれを確認すると、口を開く。

 

「よし。今作戦ではお前たちを第45水上戦闘団と呼称する。叩きのめしてこい。以上だ。」

 

ーーーーー

 

第45水上戦闘団は第4警戒航行序列を組んで敵本隊の居場所へと向かう。宮原のところの潜水艦隊が敵本隊の位置を逐一報告しているので、迷うことなく辿り着けそうだ。

 

「神通、敵影は?」

 

長門は自分達より前を航行する水雷戦隊の旗艦、神通に訊く。

 

「ありません。やや曇っているので、高高度に爆撃機がいないか気になりますが。」

 

神通は長門の方を向いて答える。高高度については、既に燃料を満載にしたメテオラ隊と別の隊が上がって哨戒しており、少なくとも事前に設定した絶対防空圏を越えられることはないと思われる。彼らの腕前は大湊や横須賀までも響き渡っているのだから、心配はいらないだろう。

 

その時、高雄が出していた零式水上偵察機から無線が入った。

 

『こちらウィンドホーク。敵艦隊を確認した。グリッド、I16……のわっ! 野郎、撃ってきやがった! 回避! 回避!』

 

『ウィンドホーク、大丈夫?』

 

『なんとか! パイロット! 左翼から燃料漏れ発生!』

 

『クソが! 退避する!』

 

『気をつけて!』

 

高雄は無線を切る。今回飛ばした偵察機にはなかなか腕のいいパイロットが乗っているのだから、ちゃんと帰ってくるだろう。

 

「偵察機が敵艦隊を発見しました。ここから東南東、グリッドI16です。」

 

「わかった。総員! 転針してグリッドI16に向かう!」

 

発見された敵艦隊はちょうど敵本隊の手前に配置されており、下手に無視すれば挟み撃ちにされる危険があった。長門は先に前衛を叩くことを決定し、目標地点へ向かうよう指示した。

 

「艦種が分からないのが少し不安ですね……」

 

神通は少し不安げな表情を浮かべたが、すぐに普段の表情に戻した。仲間を動揺させてしまうのではないかと思ったが故だ。

 

「そうだな……少し慎重に挑もう。あまり無理はしないように。」

 

長門は神通の心の内を察して言う。艦種によって対応が異なるのだから、慎重にいかないと思わぬところで足元を掬われることになるかもしれないのだ。

 

「ええ。対応に手間取って犠牲を出すのはもう懲り懲りですから……」

 

「懲り懲り? 前に何かあったのですか?」

 

不知火は好奇心から神通に訊いてみる。神通といえば、見かけによらず大湊の鬼軍曹と噂されるくらいなのだ。その神通が何をやらかしたのか、少しだけ気になったのだ。

 

「もう昔の話です。新人の援護をしながら敵と戦っていたら、期限までに海岸の対空砲を破壊できなかったんです。そのせいで空挺部隊に多数の犠牲が出てしまって……」

 

少し、しんみりと話した。神通の脳裏には、対空砲の砲弾による黒い煙、空に咲いた赤い血の花、パラシュートを撃たれ、地上へと墜ちていく空挺隊員……そんな凄惨な光景が焼きついていた。

 

そして、生還した小隊長に言われた。『リーダーなら、自分の部隊員ちゃんと生かして、俺らも極力死なせないようにしてくれ。俺らだって死ぬのは怖い。それを勇気で無理矢理抑え込んでるだけなんだから』と。二の腕の死神のエンブレムが特徴的な人だった。

 

「空挺部隊? 陸軍のですか?」

 

青葉が興味本位で食いついた。

 

「いえ、陸戦隊でした。確か……」

 

「航空隊から入電! 敵機との戦闘に入りました!」

 

瑞鳳の声を聞いた艦娘たちは即座に戦闘態勢をとる。装備の安全装置は解除した。まずは対空攻撃だ。

 

「瑞鳳、戦況はわかるか?」

 

「なんとかこっちが優勢です! 数機雷撃機が向かってきます!」

 

「よし! 対空戦闘用意!」

 

長門と金剛は主砲に三式弾を装填し、他の者は砲弾の遅延信管をセットする。戦闘用意完了だ。

 

「来たわ!」

 

霞が叫ぶと同時に砲撃する。ブルーの機体にシャークマウスのノーズアートを施したドーントレスだ。海面すれすれを飛んでいる。深海棲艦側にも腕のいい奴がいると少し感心した。

 

「撃て! 撃て!」

 

長門が三式弾を放つ。海面近くで炸裂して子弾を撒き散らす。それはまるで花火のようだ。これに数機が巻き込まれて海面へと墜ちていく。

 

そして、対空機銃の集中砲火が敵を寄せ付けない。まるで豪雨のように、躱すことは叶わない。パイロットは無念の思いを魚雷と一緒に抱えつつ、蒼い海へと墜ちた。

 

「始末したようだな……進もう。」

 

「はい。長門さん。」

 

ーーーーー

 

その頃、医務室では黒坂がようやく目を覚ましていた。瞼を開いた黒坂が最初にしたことは、自分の手を見ることだった。幸い、手はちゃんとくっついている。

 

体を起こそうにも、なぜか体が重くて起き上がれない……嗚呼、吹雪が僕の腹を枕にしているのか……まったく、スヤスヤ眠ってるよ……

 

「起きたか黒坂?」

 

「起きたぜ宮原。」

 

吹雪の寝顔を眺めていたら宮原がやって来た。頬の紅葉は霞にやられたものだろう。まあ、あいつがやられてやられっぱなしとも思えないし、デコピン一発くらいはやってやったのだろう。

 

「何の用?」

 

「冷やかし。久坂が連合艦隊を出したけど……さっき在日米軍のグローバルホーク偵察機から来た敵の画像を見る限り、勝てずにタイムオーバーかも知れん。」

 

「なんで? 長門がいるんだろ?」

 

「ああ。だがな、交代要員が近海まで来ている。奴らが来たら交代だから、再攻撃の猶予はない。そしてそんな時に限って持ってきた資材が底をつき、本隊までの道中に戦艦棲姫が陣取ってやがる……」

 

戦艦棲姫、士官学校で習ったことがある。戦艦型深海棲艦の中でも上位の存在で、桁外れの火力と耐久性を誇る。長門でもそいつを一撃で仕留めることは叶わないだろう。黒坂は頬に冷や汗が流れるのを感じていた。

 

「全くもって厄介だな……なあ黒坂、勝てると思うか?」

 

「……無理だ。戦力は揃っているが、いかんせんよせ集めだから個人の練度が高くとも連携が取れないだろうし……」

 

「同意見だ。久坂もそれはわかってるようだし。」

 

「ならどうして? 迂回出来ないのか?」

 

「背中から撃たれるか、本陣やられるかも知れないからだ。」

 

「ああ……」

 

黒坂は失念していた、とばかりに頭を抱えた。

 

「ともかく、撤収の用意はしておけ。今は死ぬ時じゃない、だろ?」

 

黒坂は吹雪に目線を落とす。死ぬなら戦場で、本気を出してそれで負けて散る……それならきっと後悔も何もなく、相手に敬意を持って、そして、笑って死ねるだろう。だけど、今はその時じゃない。仲間を生きて本国へ帰さねばならないのだから。将校とは不自由な身分だと、黒坂は改めて思った。

 

「あー、あと……」

 

「ん?」

 

「吹雪とムフフなことすんのは帰ってからにしとけー。」

 

「しねーよバーカ!」

 

黒坂は手元にあった金属製の受け皿を投げつける。宮原はそれをキャッチした。

 

「冗談だよ冗談。」

 

宮原はそれを黒坂に投げ返す。そんなことをしていたからか、気づかなかった。吹雪が少し残念そうな表情を浮かべたことに……

 

ーーーーー

 

第45水上戦闘団は会敵した。敵艦は6隻いたが、既に航空攻撃で2隻は沈めた。これは本隊ではない。だが、旗艦がまさかの戦艦棲姫であった。姫クラスがこの海域に2隻は同時に現れたことになる。

 

「なんか、ちょっと本格的にヤバいっぽい?」

 

「ぽい、じゃなくて本格的にヤバいですよ!」

 

青葉は戦艦棲姫の姿をカメラに収める。このパパラッチ魂が後々役立つことを誰も知らなかった。

 

「だが、アレを放置するわけにもいかんな……神通、先に第1艦隊が攻撃して戦艦棲姫を損傷させる。第2艦隊はそのあとで攻撃し、とどめを刺してくれ。」

 

「わかりました。」

 

水雷戦隊は防御力に難がある。戦艦棲姫とまともにぶつかったら結果は目に見えている。だからこそ、長門たちが先に攻撃して戦艦棲姫の戦闘能力を削ってからトドメを刺させようという策だ。

 

艦娘たちは平気そうに振舞っているが、もし何も縛るものがなかったら我先にと逃げ出していただろう。開戦以来、数多くの兵士や艦娘を恐怖のどん底にたたき落としてきた戦艦棲姫が目の前にいるのだから。

 

だが、誰も逃げることはなかった。今朝になって知った深夜の戦い……後方で踏ん反り返っているだけのはずの3人の司令官は敵の強襲揚陸部隊を前に、逃げることなく戦ったのだ。

 

将校が逃げることなく勇敢に戦ったのに、自分は逃げていいのか? そんな思いが彼女らを踏み留まらせた。

 

「よし。主砲、徹甲弾装填!」

 

「Me tooデース!」

 

長門と金剛は徹甲弾を主砲に装填すると、戦艦棲姫に狙いをあわせた。向こうもこっちに狙いをつけようとしている。

 

「先手必勝だ! 撃て!」

 

「Fire!」

 

金剛と長門の先制攻撃。初弾命中。それを目視で確認した2人は続けて主砲の一斉射を繰り出す。砲弾の3分の2は直撃したようだ。しかし、戦艦棲姫はそれでも平然としている。小破くらいしかしていないのではないだろうか。

 

戦艦棲姫が砲塔を動かした。狙いは……隼鷹だ!

 

「隼鷹! 狙われてるわよ!」

 

「へ? アタシ!?」

 

高雄に言われて気づいた隼鷹が慌てて回避行動を取ると、瑞鳳とぶつかりかけた。そこに戦艦棲姫が砲撃を繰り出す。

 

「ヤバっ!」

 

隼鷹は咄嗟に巻物……もとい、飛行甲板を広げて砲撃を受け止める。何発かは甲板で防いだが、数発は隼鷹に当たった。

 

「痛っ! だーから装甲薄いんだって!」

 

隼鷹の飛行甲板は粉々、服もあちこち破れ、黒い煤が付着している。航空機はもう出せない。

 

「砲雷撃戦用意!」

 

「撃てぇーっ♪」

 

高雄と愛宕は2隻の軽空母ヌ級flagshipへと砲撃を繰り出す。そこからさらに雷撃。砲弾と魚雷を食らったヌ級の片方は破片を撒き散らしながら後方へ吹き飛び、海へと還っていく。もう片方は大破し、航空機を出せない。無力化だ。

 

砲撃戦を繰り広げている間に、敵艦隊との距離は徐々に縮まってくる。長門はタイミングを見計らっていた。

 

もう少し、もう少しで魚雷の射程圏内。そんな時だ。戦艦棲姫の主砲の発射準備が整ったのは。そして、その狙いは……長門だった。

 

「何っ……!」

 

回避か? 否。間に合わない。それに、今回避したら後ろにいる金剛に当たる。ならば、金剛より堅い装甲を持つ自分が受ける。そう決めた。

 

戦艦棲姫の体高の1.5倍はあろうかという艤装から砲弾が放たれる。数発は海面に吸い込まれて水柱を立て、幾つかは長門に命中した。砲弾が長門の艤装の一部に食い込み、吹き飛ばす。長門自身も爆風でよろけるが、なんとか持ち直した。

 

全体の3分の1の砲身が壊れ、電探の調子もおかしい。火災が起きなかったのが幸いであった。

 

「なかなかやるな……」

 

それた敵弾の爆風は水雷戦隊も襲った。しかも、戦艦棲姫はさっきの砲撃で、まだ半分の砲塔でしか撃っていなかったのだ。狙いは防御力の低い水雷戦隊に切り替わる。金剛が砲撃を繰り出すが、それでも戦艦棲姫は狙いを変えず、駆逐艦を狙って砲撃する。防御力の低い駆逐艦にとっては至近弾でも致命傷となり兼ねない。現に、不知火が破片を足の推進装置に喰らい、浮力を失いかけていた。艤装のアームの一部は魚雷発射管ごと吹き飛んでいた。大破だ。

 

霞は艤装に直撃弾を喰らい、浮力は保っているが自力航行は最早不可能だ。

 

「撃て!」

 

長門が叫ぶ。とうとう戦艦棲姫が魚雷の射程圏内に入ったのだ。魚雷発射管を損傷、または脱落した不知火、霞以外は戦艦棲姫に向けて魚雷を放つ。酸素魚雷が排出する二酸化炭素は窒素と違って水に溶けてしまう。そのため、航跡はほとんど見えない。まるで、暗殺者のようだ。

 

戦艦棲姫は長門、金剛の砲撃で多少損傷しており、動きが鈍っていた。機関部に一発貰ったのかもしれない。その上、航跡の見えない魚雷を回避する術もなく、一発残らず推進装置に魚雷を喰らった。

 

一際高い水柱。飛んでくる装甲板の一部、海面に漂うドス黒い液体……戦艦棲姫は轟沈したのだ。

 

開戦以来、軍人や艦娘にとって恐怖の象徴であった戦艦棲姫を、1人も欠けることなく撃破したのだ……




扶桑姉様が保健室の先生とかぴったりじゃね? と設定協力の友達と駄弁る砲火後。

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