吹雪、金剛、霧島、飛龍、蒼龍、千歳は工廠で出撃準備を整えていた。トラック泊地へ空襲を目論む敵空母機動艦隊が南下中との報を受け、迎撃に向かうことになったのだ。ただ、敵は空母だけではなく、どこかにある陸上基地の航空隊も相手することとなる。先日の戦闘でクーガとメテオラが粗方撃墜したが、どれだけ残っているか分からない。
情報部から敵艦隊は空母ヲ級を含む機動艦隊という情報が入った。戦爆連合を壊滅させたのも、この艦隊の飛行隊のようだ。
飛龍を旗艦とする第2戦術攻撃隊(黒坂命名)は用意を整えると、桟橋から海に降り、大海原へ向かう。航空隊も滑走路から次々と飛び上がり、翼をきらめかせる。黒坂、宮原、久坂は帽子を振ってそれを見送っていた。
「陸で
黒坂はそんな冗談を1人呟き、笑っていた。それは、不安を無理して塗り潰そうとしていたからなのかもしれない。もし、自分も前線に出られたのなら、艦娘の背中を見守って、そう思っていたのは確かだった。
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輪形陣の中心にいる飛龍のインカムに山先からの通信が入った。敵航空隊と会敵。あと30秒で戦闘に入るとのことだ。
『クーガ、機種は分かる!?』
『あれは……F4F-3ワイルドキャットか?』
『ワイルドキャット? 確かなの?』
『……確認した。間違いない。』
飛龍は違和感を感じた。敵空母はランクが高いほど主に連合軍機の比較的後期、または性能の良い機体を使う。ワイルドキャットは比較的前期の機体で、初期には零戦にカモにされていた(戦法の見直しによって逆転したが)こともある。なぜ、戦爆連合を壊滅させたはずなのにワイルドキャットなのか。最新の零戦22型が護衛で、一式陸上攻撃機も、ガッチリ編隊を組んで後部機銃で応戦すれば勝てるはずなのだ。(ワイルドキャットも初期型はそんなに硬くない)
数が多かったのか? 相手が腕利き? 機体が墜とされたから予備機? それとも、目標と違う艦隊と会敵した?
『こちらジャックポット! どうなってる!』
『ジャックポット、何があったの!?』
『ヲ級じゃない! いるのは軽空母ヌ級だ! しかもflagship級! 戦艦ル級flagship2隻、軽巡ツ級élite、駆逐ロ級が2だ!輪形陣を組んでる!』
青笹が敵の陣容を飛龍に伝える。どうやら、違う艦隊のようだ。しかし、見過ごすわけにはいかない。
『飛龍、敵戦闘機は粗方始末した。攻撃隊を出しても大丈夫だろう。』
飛龍は山先に従い、蒼龍と千歳に99式艦爆と97式艦攻を出撃させるように指示する。
「蒼龍、千歳さん、攻撃隊を!」
蒼龍が放った弓矢が97式艦攻へと姿を変え、千歳の操り人形のような99式艦爆も、手に持っている飛行甲板に乗せると、動き出し、空へと舞い上がっていく。飛龍はそれと同時に黒坂へ敵艦隊発見の報告をする。
飛び立った航空隊のうち、どれだけの数が帰ってくるのか。飛龍、蒼龍、千歳は慣れようにも慣れることのないこの複雑な思いを胸に、彼らを見送っていた。
「みんな、戦闘用意!」
飛龍が指示すると、艦隊の面々は主砲や副砲の安全装置を解除する。すると、山先から再び無線が入った。
『攻撃隊により、駆逐艦全滅、ヌ級も中破、だが、敵艦攻、ドーントレスが何機か抜けた。すまないがそちらで対処してくれ。』
「みんな! 艦攻がくるよ! 対空戦闘!」
「ワタシの実力、見せてあげるネー!」
金剛は自信満々に主砲の角度を手元のコントローラーで調整する。すると、視界に5機のドーントレスが入った。魚雷を吊り下げている。
「主砲、Fire!」
「主砲、撃てっ!」
金剛と霧島が主砲を放つが、装填してあった徹甲弾が直撃するなんてかなり低い確率なわけで、もちろん外れた。だが、金剛には隠し球があった。そう、久坂が持ってきた三式弾を2発ほどギンバイしてきたのだ。
「Fire!」
三式弾は放たれてから設定した時間が経過すると、空中で炸裂し、前方へ円錐状に弾子を撒き散らす。その弾子もさらに炸裂して航空機を攻撃する。
命中した1機は燃料タンクをやられたのか、爆散した。が、4機は平然と飛んでいた。
余談だが、WW2の米軍曰く『パンパン破裂するが、花火みたいで被害は少なかった』そうな。
「What!?」
「金剛さん! 来ますよ!」
吹雪は12.7cm連装砲を構える。吹雪の連装砲は手持ち式で、感覚的にはグレネードランチャーに近い。
「姐さん! 後はあっしらにお任せを!」
金剛の艤装の待機スペースから飛び出してきた妖精たちが各所に設置された対空機銃を操作し、ドーントレスへ銃撃を見舞う。激しい弾幕を絶え間なく浴びたドーントレスは堪らず撃墜されるか、魚雷を投棄して逃げていく。
「私と蒼龍、千歳さんは陣から離れて航空機を回収。金剛さんはこのまま敵艦隊へ攻撃お願い!」
「ワカリマシター! follow me!」
金剛が先頭に立ち、霧島と吹雪が続く。その数分後に飛龍たちの元に帰ってきた航空隊は4分の3ほどであった。
『金剛さん、脱出したパイロットが付近にいるようです。余裕があったら救助してください!』
『OK!』
その頃司令部では黒坂、久坂、宮原が机に広げられた地図に線を引き、ピンを刺していた。
「飛龍から敵艦隊発見の報告。グリッドF12!」
黒坂がそのポイントに押しピンを刺し、線を引く。その近くのグリッドD17とJ17にも同様にピンが刺してある。
『飛龍聞こえる? 余裕があったら彩雲を何機か飛ばしてくれ。ポイントはグリッドB20、F19、H20だ。』
『了解!』
黒坂は指示したポイントにマークする。そこを中心にコンパスで円を描く。これは彩雲の索敵半径だ。3機を分散させ、広範囲を索敵する気なのだ。
「宮原、どれがクサい?」
「この3点を線で繋いだ時……3点から等距離にあるF19が1番クサい。」
「それでいいのかエリートさんよ?」
とかいいながらも久坂は支援艦隊にF19へ向かうように指示する。なんだかんだで宮原と黒坂を信頼しているのだ。
金剛、霧島、吹雪は単縦陣で敵艦隊へ接近していく。敵は軽空母と戦艦が健在だった。その上では銀の翼が翻り、対空砲を躱し、囮となっている。ル級がやっと電探に引っかかった金剛たちの存在に気づくが、既に金剛、霧島の射程内。
「ブッキー! ヌ級をお願いシマース!」
「分かりました! 援護お願いします!」
3人は真正面から反航戦に持ち込む。すれ違いざまの撃ち合い。チャンスは一瞬。吹雪はそれを誰よりも得意としていた。
金剛が50m先のル級に4番砲塔で砲撃する。ル級近くに水柱が3つ上がった。
『夾叉した! そのままぶっ放せ!』
あらかじめ飛ばしておいた零式水上偵察機から報告。金剛は砲撃諸元をそのままに連撃を繰り出した。
腹の底まで響く轟音。衝撃波が海面を震わせ、徹甲弾が撃ち出される。徹甲弾は防護シールドに覆われていない艤装部分に命中。
『ル級、第2、3砲塔損傷! どこかに引火したか? 炎上中! 中破!』
また水上偵察機から報告。そのまま弾薬か燃料まで延焼してくれないかと金剛は思う。
霧島は金剛の射角を元に、狙いをもう1隻のル級に合わせる。少しだけ狙いをずらし、砲撃。霧島が頭の中で思い描いた通りの弾道を描き、吸い込まれるようにル級に命中。弾薬庫にでも当たったのだろうか、派手な爆発を起こし、ル級は姿を消した。爆沈したようだ。
ヌ級は護衛が全滅したのを見て、撤退しようとする。だが、それに吹雪が並走する。ヌ級は既に中破しているので、航空機を出せない。
吹雪は体をヌ級に向けると、手元のスイッチを操作する。すると、大腿部に装備されている魚雷発射管が90度傾き、ヌ級へ弾頭を向ける。さらに、魚雷発射管に装着してあるレーザーサイトが海面に赤い線を浮かび上がらせる。吹雪は着弾時にヌ級がいるであろう場所にレーザーを向ける。
魚雷発射管から酸素魚雷が飛び出す。軌跡を残さずに、まっすぐヌ級を狙って突き進む。そして、その横っ腹に命中し、炸裂。爆風でヌ級の体の半分が文字通り吹き飛び、細胞やら金属片を撒き散らしながら海中に没した。
黒坂は飛龍からその一部始終を伝え聞いた。
『よくやった。偵察機からの報告があるまで現地点で待機。』
その時、別の周波数に連絡が入った。黒坂はすぐに周波数を切り替え、グリッドF19に向かった彩雲からの報告を聞く。
『スカイアイ、どうだ?』
『ビンゴ! ヲ級を確認! 片目から青い光を放っている! 新型のようだ……おっと、敵機のお出ましだ! ズラかる!』
『機種は!?』
『よくわからん! F4UコルセアかF6Fヘルキャット!』
『退避しろ! 飛龍! グリッドF19へ向かえ!』
『了解!』
久坂は無線機のマイクを掴むと、周波数を変えて自分の艦隊へつなぐ。
『長門、グリッドF19へ行ってエリート死神さんの艦隊を援護してやれ。』
『了解。グリッドF19へ向かう。』
今度は宮原が艦隊へ連絡する。
『でち公、グリッドD17とJ17に分散して向かい、F19に向かう敵がいたら牽制しろ。近寄らせるな!』
『了解でち!』
その間に黒坂が味方を表す青い駒をそれぞれの目標地点へと移動させる。
「……口火は切られた。やるぞ。」
宮原がつぶやくように言うと、黒坂と久坂も賛同するように頷いた。