ちょっとイシュヴァール殲滅戦キングクリムゾン致しました。
はっきりいって戦闘描写むずいもん。
後半の術式というのはオリジナルです。たぶん。
確か何処かの記述で、戦雷の聖剣を手にした蓮の創造はマリィ(亡霊)と相性が悪いとかあったので。
祝詞は延喜式にあった大祓をイメージしていただけると。
一部修正しました。
対ホワイトグリム作戦が始まって以降、ロイはヒューズから目を離さないように気を配っていた。ロイ達の部隊は最前線からやや離れた場所にあり、時々単身で襲って来るイシュヴァール人を返り討ちにすることが多くなっているが、警戒を怠るような真似はしない。
横目でヒューズを見やると、一応は警戒はしているのだろう。だが、付き合いの長いロイには分かっていた。感情を切り離すことで、無駄を排しているのだろう。その証拠に、翠色の眼は暗く、光を宿していない。
ロイだけでなく、部隊全員がその異常に気付いていた。普段のマース・ヒューズという人物は、戦場にありながら巧みな話術によって緊張を解す。だが、今の彼はそんな余裕すらなかった。暗示をかけなければいけないくらいまで追い詰められていた。
理由は分かっている。彼の姉―ヴァルトルートだ。彼女は対ホワイトグリム要員として駆り出されている。
自分の身内が戦闘の、それも最前線にいると聞いたら安否を心配するのが普通だ。国家錬金術師で少佐の地位にあるロイといえど、どうすることも出来ない。
「ヒューズ、お前も少し休め。警戒していても疲れるだろう」
「いや、いい。休んでいる時に敵襲にあったらマズいしな」
マズいのはお前の方だ、とロイは思った。
今の精神状態では何かあっても対応しきれない。それならば、心を少しでも落ち着かせるため休んだ方がいい。
「これは命令だ。そんな状態では必要な時に動けないだろう」
「……分かった、そうする」
正論を出されたヒューズは表情を変えずに答え、少しふらつきながら建物の壁に背を預けた。
それを見ながらロイは部下達に指示を出そうとした。
「マスタング少佐!」
一人の兵が駆け寄ってきた。確か他の部隊の人間だったはずだ。どうしたのだろうかと思っていると、彼らにとって衝撃の事実を告げたのだった。
「ヴァルトルート・ヒューズ中佐が、重傷を負われました!!」
ヴァルトルートです。あれから終戦を迎えましたが、終盤でまさかのまさかでしくじりました。
でも考えたら、この戦いには多くの国家錬金術師が駆り出されていたのだ。人間兵器として扱う以上、その判断に性格は問われない。
軍人であるグラン大佐やアル――アームストロング少佐なら余計な被害を出さないようにする。特にアルは、正史では優しすぎるがゆえにイシュヴァール人を殺すことに躊躇していたが、非戦闘員である女子供がいなかったこと、本人自身の心が強化されていたことで、合理的な判断を下せていた。
だが、中にはそうでもない人物もいる。
気が弱い者などならまだいいのだが、見境なく行動を起こす者もいて。私が負傷したのもソレが原因だ。
普通味方の近くで爆発させるか、あのキ○○イ。動けないでいた一般兵を庇ったことで左腕に大火傷を負ってしまったのだ。本来ならエイヴィヒカイトの恩恵で即座に回復可能なのだが、怪我のレベルから怪しまれること大なので意図的に抑えている。はっきり言って痛みがキツイ。小さい火傷をした時のピリピリとした痛みが腕全体に襲ってくるのだ。利き腕ではないからよかったが、正直不便だ。
今は自宅で大人しくしている。あの時クリスがいたらキ○○イ…もといキンブリーを妨害できたかもしれないが、あいにくその場にはいなかったのだ。
というのも、イシュヴァールに残っていた原作におけるキーパーソン、ロックベル夫妻の救出を頼んでいたのだ。クリスならば隠密は適任だし、例え武僧に襲われたとしてもイシュヴァールに来てからの結果を見る限りやられる可能性は低い。
実際、使い魔を通じて作戦成功の知らせを聞いていたのだが、直後にこの有り様だ。
一つのことを成功させて一つのことでミスるとは――。
しかもそれだけでなく、キンブリーがマース達の前で持論を展開して挑発。マースが手を出しかけたが、ロイが何とか押さえてくれたらしい。それに加え、グラン大佐がキンブリーに対し厳重注意をしてくれたとのこと。金鰤ザマァ。それでも懲りないだろうけど、結局牢屋にぶち込まれるしいいよね!
今頃、キャスターがイシュヴァールの浄化をやっているだろうから、血の紋としての機能は失われるだろう。人造人間達の思惑はできる限り潰しておくのがいい。
アメストリス東部、イシュヴァール。
イシュヴァールの民はおろか、駐屯していた軍もいなくなったその地に、人影が在った。
露出度の高い青の和装に、狐の耳と尾。何も知らない人間が見たなら、一種のコスチュームプレイ、“裏”の事情に関わる者なら人間を素体とした合成獣と思うだろう。
だが彼女は合成獣どころか“ヒト”ではない。信仰によって精霊の領域にまで押し上げられた存在。魔術師のサーヴァント・キャスター、玉藻の前。それが彼女の真名だ。
キャスターはイシュヴァールで殲滅戦が行われていた時から暗躍していた。
血の紋としての機能をなくすため、包囲されていたイシュヴァールの地の各所に術式を施したのだ。
そしてその術式は、これから執り行う儀式により完遂する。
精製された水銀で描かれた魔法陣。その中心に突き刺してあるのは、キャスターの主ヴァルトルートの聖遺物である戦乙女の剣。
舞台は整った。
自身の宝具である鏡を展開すると、キャスターは祝詞の詠唱を紡ぎ始めた。
「――――――――――――――――――――」
「――――――――――――――――――――――」
「――――――――――――――――――――――――――」
詠唱に呼応するように、魔法陣と剣が輝きだす。同時に、キャスターが施した術式の核である水晶も、周囲から“ナニカ”を吸収するように輝きだす。
「―――――――――――――――――――――――!!」
魔法陣と水晶の輝きを剣が吸収するように強く青白く輝きを放ち、天を貫いた。