転生者はとあるキャラの姉   作:白燕狭由那

25 / 28
お久しぶりです。

電子辞書を新調してからちょっとやる気が出てきました。

あと最近FGOや三國無双にハマってプレイ動画視聴していました。すみません。
はっきり言いますとね、ヘクトールと于禁がかっこよすぎる。



第拾捌話 栄光と闇

風が吹き、砂塵が舞う。砂を巻き上げる風は熱と共に血と肖煙の臭いを運んでいた。

軍がイシュヴァールに総攻撃を開始してから半年が経過していた。圧倒的な兵の数を導入しているのにも関わらず、イシュヴァール側に勢いの衰えは見られなかった。イシュヴァラの武僧の戦力、戦闘用ホムンクルスなど理由は様々だが、根底にあるのは故郷のために戦うということ。

軍も成果がでないことに焦りを感じたのか、本格的に国家錬金術師を投入していった。彼等は大きな成果を軍に齎したが、自身の心を蝕んでいった。それでも、彼等は戦い続けた。理想と現実の板挟みになりながら、上からの命令とは言え自らが行った所業に苦しみながら、自らの行いに罪悪感すら持たず悦しみながら、全てを受け入れ散って逝った者達のことを胸に刻みながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃声と爆音が街中に鳴り響く。その中をロイとその部下は駆け抜けていた。

彼等が通った道の脇には、息絶えた人間達が倒れていた。褐色の肌と赤い目。イシュヴァールの民だった。だが、その中にイシュヴァールの民とは異なるモノが含まれていた。褐色の肌は同じだったが、赤い目は作りものめいた、硝子玉のようなもので、顔立ちも人形のように整いすぎたものだった。

彼等だけでなく国の裏で暗躍する者達ですら知らないだろう。一人の未来を知る魔術師が造り上げたホムンクルスであることに。

 

やがて彼等は銃撃戦が行われている建物に辿り着いた。中にはマース・ヒューズが率いる隊が相手側の様子を伺っていた。

ロイはヒューズから状況を聞くと、一旦建物から出た。自分のいる場所が相手の死角になっていることを確認すると、発火布製の手袋を装着した指を鳴らした。錬成反応の光がほとばしり、建物の屋上で爆発を起こす。それを見た兵達は驚嘆の声を上げた。

ロイは状況を確認するため建物の屋上に上がった。

屋上で目にしたものは、銃撃していたと思われる倒れ伏したイシュヴァールの民。どれも獲物を握ったまま事切れていた。自分が行ったこととはいえ、あまり気持ちの良いものではない。早々と確認を済ませて隊に戻ろうと考えて、足を一歩踏み出した時、ロイは気付いた。

イシュヴァールの民の身体が足元から徐々に塵化していっている。錬金術でも物質を灰塵にするものはあるが、自分が行ったのは空気中の酸素を反応させて爆発させるものだし、仮にやったとしても時間差で効果は出て来ない。そんなことを考えている内に、その場に在った死体は全て消えていた。それをただ見ていたロイだったが、死体が在った場所に何かが落ちているのを見つけた。拾い上げてみると、ダガーナイフのような刃物だった。マースが愛用しているものに似ているが、鋭利さで言えばこちらの方が上だ。これを触媒に錬金術を発動させたのだろうか。そうだとしても一体誰が?ロイの疑問はヒューズが呼びに来るまで尽きなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ロイ達から離れた場所に構えられた陣営。その一角に一人の将校が腰掛けていた。

 

 

「……なんとか、うまくいったわね」

 

魂を吸収し、淡く発光した剣の刃を見つめながらヴァルトルートは呟いた。OVA由来の原作知識でロイが指パッチンで銃撃者達を爆破していたことから、それに便乗した。誘導性と永劫破壊の性質を付属させた苦無を建物周辺に待機させ、使い魔越しにロイが指パッチンして爆破した瞬間に苦無を心臓に目掛けて発射し、魂を算奪した。魂を奪われた者達は今頃塵となっているだろう。

彼女自身、友人の同胞の命を奪うことに罪悪感が無いわけではない。だがこれは戦争。生き残るためには他のものを犠牲にする必要がある。そして、人造人間を倒すための力を得るためにも、屈強な魂を収集しなければならないのだ。

ヴァルトルートは剣を鞘に納めると、次の戦いの反応があった使い魔に意識を集中させた。

 

 

 

 

それからしばらく経ち、幕屋に戻ったロイは拾った刃物を眺めていた。鋳物とは違う、手作業で鋭さを磨かれたフォルムに一種の関心を持っていた。

あの場で見つけた刃物は倒した者と同じ数あった。やはり何者かが自分が錬金術を発動させた瞬間を狙って刃物を投擲し、錬金術を発動させたのだろうか。もしそうだとしたらいくつか疑問がある。

なぜ隠れてやる必要がある?表向きイシュヴァールの民を粛正するこの戦い、自分と同じく駆り出された錬金術師なら何か連絡があってもおかしくないはずだ。

どうやって錬金術を起こしたのか?触媒となった刃物には錬金術の要となる錬成陣は書かれていない。

 

 

ロイは懐中時計を見て気付いた。考え込んでいるうちに、かなりの時間が経ってしまっていたようだ。

それにしては、相方の帰りが遅い――――。座り込んで固まった身体をほぐしながらロイがそう思った時、外から砂を蹴りながら走る音と息を切らしている呼吸が聞こえた。

ヒューズが戻ってきたかと、そう思いながら幕屋の入り口に目を向けるとヒューズが走ってきた勢いそのままで入ってきた。その表情は走ってきたというのに、血の気が引いたように青白い。

 

「おいヒューズ、どうした?何かマズイ知らせでもあったのか?」

 

軍にとって良くない知らせが来たのかと、ロイはヒューズの肩を掴み揺す振った。それに遅れて、ヒューズは重い口を開いた。

 

「……姉ちゃんが、中佐に昇進した」

「ルートが?それはすごいな。だが、こんな時期に…?」

 

普段ロイはヴァルトルートのことを階級で呼ぶが、例外として親しい者――士官学校の同期などとの間では愛称で呼んでいる。

それは彼女の弟(ヒューズ)との間でも同じで、幕屋という二人しかいない環境で無意識に漏らした言葉だった。

准尉から少佐という破格の昇進をしたヴァルトルートに当時は驚きもしたが、彼女を士官学校時代から指導しているオリヴィエの手腕によるものということを聞いていたこともあり、なんとなく納得していた。だが今この時期に昇進したということはどういうことだろうか。

 

「今度の最前線で総攻撃を仕掛けるらしくて、その分隊長に姉ちゃんも含まれることになってるんだ。対白い死神(ホワイトグリム)として」

「っ!!」

 

 

すぐ終わるだろうと思われていたこの戦い。それが予想以上に長引いている理由が、イシュヴァラの武僧と白ずくめの集団だった。特に白ずくめの集団は身の丈以上の重量級の武器を軽々と操り、銃撃すら恐れずに向かってくることから一部の兵からは白い死神―――ホワイトグリムとして恐れられていた。これまでに何人もの錬金術師が相手にしてきたが、彼等の勢いを止めることはできず、逆に生命を絶たれていった。そんな中でホワイトグリムを圧倒し、殲滅できたのが鉄血の錬金術師バスク・グラン、紅蓮の錬金術師ゾルフ・J・キンブリーなどの錬金術師、そしてヴァルトルートだった。ホワイトグリムこと戦闘用ホムンクルスの生みの親であり、その特徴を知る彼女だからこそ彼等の盲点を突き倒すことができた。それが皮肉にも、彼女の名を高めてしまっていたのだ。

勿論、ロイやヒューズなどの軍に所属する者はホワイトグリムが身内から生み出されたものなど知る由もない。それに、ヴァルトルートが設定した命令によりロイやヒューズはホワイトグリムに遭遇したことはない。

 

 

「なぁロイ、俺はどうすればいいんだ」

「ヒューズ」

「こうして話している間にも姉ちゃんはどんどん遠くに行く……俺の手が、届かない場所に」

「ヒューズ」

 

ヒューズは胸元に手をやり軍服を握り締めた。そこには、中央から届いた婚約者(グレイシア)の写真と手紙が仕舞われている。

 

「姉ちゃんをそばで守ってやれない俺なんかに、グレイシアを幸せにする資格なんてあるのか?」

「ヒューズ!!」

 

ロイは思わず声を荒げる。ヒューズはその声が届かないのか、虚ろな目でロイを見る。

 

「教えてくれ、ロイ……」

 

 

 




ヒューズさんすまん……好きな人ほどいじめたくなるというかね……
書いている本人が一番驚いている。まさか闇落ちとまではいかないが、それに近い状態になるとは。




しばらく更新まで時間がかかると思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。