なんとか書き上がったのですが、その、後半を書くのが難産でした。
ドレスの種類とか。
あとヴァルトルートさんのグラちょっと描き直してたりしてます。
ドラクマとの小競り合いは何事もなく収まった。
というのも、錬成陣を潰すのに起こした地震でパニックを起こしてしまったらしく(なお、ブリッグスの皆はオリヴィエ姉さんの指示ですぐに召集がかかったので落ち着いた)、しかもどういう訳かドラクマの軍が一斉に引き上げて行ってしまったのだと。
うん、間違いなく私達の所為だね。
あちらさんが引き上げたのって、もしかしてあの辺一帯を浄化したから?血の門を機能させない為もあるが、無念の内に散って行った名も無き防人の霊位を慰める意味も込めて結構入念に浄化やったら、ちょっと加減を間違えたらしく、邪なモノを滅し荒ぶるモノを鎮める力を持ってしまったのだ。
うわぁ、やっちまった―――……過ぎ去ったことはどうしようもないので、これからはやり過ぎには注意しようと心に誓う。
因みに今までどうしていたのか聞かれたので、ドラクマの伏兵と鉢合わせして逃げ回っていたと答えておいた。他の皆はともかく、オリヴィエ姉さんの目が怖かったけどどうにかそれで納得してくれた。
だけど要塞に戻って報告が終わった後すれ違い様に「今度は本気見せて見ろよ」と言われた時は寒気がした。
つーか、姉さんにバレている?魔術とかは比較的バレないようにしているけど……となると剣や体力のほうか。その辺もうまくごまかさないとなぁ…………
そうして月日は流れ、出向の期限である半年が来た。
その間、ヴァルトルートは要塞の中で必要なカリキュラムをこなしたり、オリヴィエに稽古をつけてもらっていたりした。
たまに諸用があってノースシティまで行ったりもしたが、地元住民でもないので暇な時に行くような場所など分からなかった。ただ、キャスターが時々散策しているらしく、美味しいケーキ屋などを教えてもらって出掛けたりもした。
半年過ごした部屋を片付けて、さてブリッグスを出ようとヴァルトルートが玄関先に向かうと、ある人物がいた。
オリヴィエである。
「来たか、ヒューズ」
「オ……アームストロング大佐?どうなさったんですか?」
「お前を待っていた。セントラルに行くぞ」
「はい?」
なんで?セントラルに戻るのは分かるけどさ、何故に姉さんも?
そう考える中、ヴァルトルートはオリヴィエに連行されて行った。
それを、この半年彼等を見てきたブリッグス要塞の人々は何故か微笑ましく見送っていた。
どうしてこうなった…………
セントラルの某所にて、ヴァルトルートはドレスを着せられた身体をガチガチに固まらせていた。
列車に揺られてセントラルに辿り着いたところまでは良い。
だが、その足で士官学校の寮へ戻ろうとしたところ、オリヴィエに止められた。学校には話をつけていると、半年前と同じような台詞を言われ、連れていかれたのはどう考えても上流階級の人間が集う鹿鳴館のようなサロン。そこで待機していたアームストロング家の使用人がオリヴィエ達を出迎え荷物を運ぶと、オリヴィエはヴァルトルートの腕を掴んでサロンの控室に向かった。またそこで待機していたメイド達に、オリヴィエは「用意させていたアレをセッティングしろ」と告げ、ヴァルトルートはメイド達によって着替えさせられた。
メイド達がセットしたのはハイネックで背中が大きく開いた翠色の長い裾のイブニングドレスと、金とライトストーンでシンプルな装飾が施されたヘッドドレス。前世でもこんなに値が張りそうな物などヴァルトルートは身につけたことなどない。
しかも先程オリヴィエは“用意させていた”と言っていた。ドレスのサイズがピッタリなのもオリヴィエが調べて用意させていたからだろう。だが、何故一士官生でしかないヴァルトルートのために用意させたのか、本人ですら分からない。しかも、オリヴィエはというと普段と変わらない軍服姿である。いや、逆にドレス姿よりもそっちの方がオリヴィエらしいのだが。
「ほぉ、なかなか似合っているじゃないか」
「はぁ……」
薄化粧を施されたヴァルトルートは何とも言えなかった。
「あの……なんでわざわざ此処に連れて来たんですか?」
はっきり言ってヴァルトルートは一士官生の身であり、これまで高価なドレスを身につけたこと所か、このようなサロンに行ったことすらない。
「ふむ、理由はちゃんとあるのだがな。実際に行ってみた方がいいだろう」
「はぁ……」
「さ、行くぞヒューズ。いや、“ルート”と呼んだ方が良いか?」
「へ?」
オリヴィエから自分の愛称が出て来たことに混乱しかけたヴァルトルートであったが、オリヴィエに手を引かれて控室を出て広間に連れていかれるまでその理由は見出だせなかった。
サロンの広間には多くの紳士淑女が集っていた。
多くの視線がこちらに集中している中、オリヴィエはヴァルトルートをエスコートしながら進んでいた。
エイヴィヒカイトの副産物のせいで人の視線やら気配に敏感になってしまったヴァルトルートは更に萎縮してしまっていた。
ある程度進んで、オリヴィエは歩を止めた。顔を伏せていたヴァルトルートもそれに従って歩を止める。
先程の面白いものを見るような、邪な視線は感じられない。
代わりにこちら―――ヴァルトルートに向けられている視線は優しく、温かなものだった。例えるなら、やっと会えたと期待するような。
「待たせたな。連れて来てやったぞ」
「ありがとうございます、“姉上”」
……………………
………………
…………
……
その声と台詞に、ヴァルトルートの思考は停止した。
恐る恐る顔を上げてみると――――
「――――また、会えましたな、ルート殿」
アレックス・ルイ・アームストロングが、微笑みを浮かべてそこにいた。
ヴァルトルートは―――――
(――もう、禿げていたんだ)
軽く現実逃避していた。
十数年ぶりに再会したアレックスとヴァルトルート。
アレックスから出た思いもよらない言葉とは?!
そしてヴァルトルートはどう反応する?!
その頃、セントラルの地下では不穏な気配がうごめいていた――
次回も更新時期は不明ですが、よろしくお願いします。
活動報告にてアンケート結果を発表します。