機動戦士ガンダム ~さらにその先へ~   作:haneさん

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お待たせ致しました。
三連休で執筆しようと思ったら、風邪でダウンして進捗0の為に遅れてしまいました。
皆さまも体調管理にはお気を付けください。




8話 第二次スペースコロニー建造

 

 

母艦のカタパルトから射出された勢いをそのままに、自機のスラスターを全開にしてさらに加速していく。

出撃前はある程度離れていた小惑星帯が、みるみるうちに目の前に迫ってきた。

加速によるGを感じながら、操縦桿を操り目の前に迫る小惑星を避けていく。

 

『わが征くは星の大海』とはいかず、情緒のかけらも無い岩だらけの空間だが気分が徐々に高揚していくのを感じる。

が、高揚していく心とは違い、頭はまだまだ冷静だ。

 

目の前の小惑星を左に除け、漆黒の宇宙を駆ける。

また目の前に岩が映し出されるが、先ほど避けた小惑星よりも小さい。恐らくMSが身を隠す事も出来ないのではないだろうか?

とは言え、このままでは正面衝突コースなのでスラスターの角度を修正し、目の前の岩の上を行く軌道に変更する。

 

小惑星帯を最短距離で抜ける軌道が見える。

見えた軌道に沿うように機体を操作し、確実に一つ一つ小惑星を避けて前に突き進む。

まるで自分がニュータイプになったかのような全能感を覚えつつ、ただひたすらに前へ前へと進んでいく。

 

「リヒト、右!」

「リヒト様、右です!」

 

キシリア姉さんと香燐の声に反応して右を見れば、そこには銃を構えて接近してくる白い機体。

視線を合わせた事で火器管制システムが白い機体を自動ロックオン、コックピット内にロックオンを知らせるアラームが響いた。

 

「うわっ」

 

反射的に僕はトリガーを引いた。

パイロットの操作に従い、僕が登場するザクが装備するバズーカから砲弾が放たれる。

…目の前で接近してきた白い機体に向けて。

 

あーあ、やっちゃった。

 

走馬燈じゃないが、砲弾が白い機体に炸裂する瞬間がスローモーションで見える。

その光景を僅かばかりの後悔と、この後に訪れる衝撃を想像した。

 

「バカ! 近すぎる!」

「なんで撃っちゃうんですか!」

 

二人の非難を最後に、僕が登場するザクは自身が放った砲弾の爆発から逃れられず、白い機が破壊された直後に同じ運命を辿った。

 

 

『Shooting down』

 

 

それまで映っていた小惑星帯の映像が真っ暗になり、赤字で書かれたメッセージだけが表示されている画面を見つめ、トリガーから指を離す。

前世でやっていたガンダムゲームなら、「自爆-3」と表示されるプレイだ。

 

「ジムを撃墜しているから、差し引き+1かな」

 

個人プレイヤー的にはデメリットが無い結果だが、ゲームなら僕の搭乗するザク2の方がちょっとだけコスト高いので敵軍が有利になってしまうのだが。

…前世からの癖は、死んでも治らないようだ。

 

人生初のMSシミュレーションは開始3分で終わりを告げるのだった。

 

「もう、何をやってるの!」

「流石に迂闊過ぎです」

「ホント、ごめん」

 

小惑星帯をフルスロットルで駆け抜けたのは良いが、まさか敵機との出会い頭に相打ちになるなんて。

でも、最低限の仕事はしたよな。自爆とは言え、敵機を一機撃墜したんだし。

 

「センサーに感あり! 残りの二機を捕捉しました!」

「ナイスよ、香燐!」

「データを送ります」

「確認したわ、回り込むわよ!」

「はい!」

 

撃墜判定を受けているので動けない僕を置いて、キシリア姉さんと香燐の機体は小惑星帯を進んでいく。

撃墜判定を受けていても周りの状況は確認出来るので、優秀な部下である香燐が送信してくれるデータで戦況は確認出来る。

 

このファインプレーは索敵特化型のザクに登場している香燐だから出来る事で、ノーマルタイプに登場しているキシリア姉さんには出来ないだろう。

機体の性能もそうだが、性格的にも。

 

ちなみに僕は機動力特化型である。機動力を上げるために装甲を犠牲にしているので、この辺りも自爆した原因になっている。

やっぱり、装甲は大事だわ。

 

さて、MSシミュレーションは3対3の形式で行われている。事前に初心者用の操縦レクチャーを受講し、実践編としてこのシミュレーションは開始された。

機体は僕達がザク2、敵機がジムという編成で行われており、僕の自爆攻撃により現在は2対2となっている。

その後、キシリア姉さんの指揮の元にジム2機を背後から奇襲、一機を撃破。

残り一機に対してキシリア姉さんと香燐は油断する事無く2対1の状況で戦い続け、徐々に相手を追い詰めていき最後にキシリア姉さんが止めを刺して僕達の終了となった。

 

シミュレーションは僕達の勝利なのだが、個人的には大変不本意な結果だ。

キシリア姉さんは僕と違って負い目が無いので、素直に勝利を喜んでいたが。

 

「今更ですけど、キシリア様にMSをお見せして宜しかったのですか?」

「構わないさ。未来の事を知らなければ、ただのロボットゲームだから」

 

今回のシミュレーションはニューロリンカーのフルダイブ機能を利用している。

何故フルダイブ機能を利用したかと言えば、単純に体が小さすぎて現実世界でコックピットを模したシミュレーション機を使えなかったからだ。

 

「リヒト、これ面白いね!」

「喜んでもらえて嬉しいよ。ホント、キシリア姉さんをサイド8に連れてきて良かったよ」

「むぅ、私が連れて来てあげたんだよ!」

「はいはい」

 

第二次スペースコロニー建造の為にサイド8を訪れたのだが、我が麗しの姉君も何故か憑いてきた。

色々と機密もあるのでキシリア姉さんはザビ家に残してきたかったのだが、舌戦の末に姉さんの必殺涙目ローリングサンダーが炸裂。

なし崩し的にキシリア姉さんを連れ、僕と香燐、引率者として香燐の両親の五人で夏季休暇としてサイド8に訪問したのだった。

 

キシリア姉さん的にはガルマも連れて来たかったようだが、奴は出発当日に謎の腹痛と熱に襲われて自宅待機となった。

きっと今頃は親友のキャスバルと羽を伸ばしている事だろう。

 

「でも、本当にあの家にいるより楽しい」

「…そうだね」

 

ザビ家の中で、何故か僕達二人は冷遇されている。

冷遇と言うより、あまり興味を持たれていないと言った方が正しい。

一応の名家なので育児放棄などは無く、英才教育を施してくれはするが無関心なのだ。

 

父デキンはジオン共和国のNo2なので仕事が忙しく、稀に帰宅しても末っ子のガルマを構いたがる。

長兄ギレンは役に立つか立たないか、が判断基準なので何の役にも立たない子供な僕達年少組には興味が無い。

 

次男サスロはザビ家で最も過激なダイクン信奉者だからか、基本的にザビ家全員を嫌っている。なんでも、ジオン・ズム・ダイクンの元でこそ『人の革新』が訪れるらしい。

そんなサスロ兄さんからすると、ダイクンの邪魔をするザビ家は背信者という事だ。

息子、弟から背信者呼ばわりされている父と長兄は、サスロ兄さんの若さを理由に無干渉に徹している。理想に燃えるのは若者がかかる麻疹というのが二人のコメントだ。

ようするに中二病にかかっていると判断されているサスロ兄さんだが、家族の中でも特に僕とキシリア姉さんを嫌っているが、本人曰くこれはダイクンの邪魔をするザビ家の人間+財産目当ての後妻が産んだ子供だから。子供は親を選べないので、こんな理由で憎まれるのは勘弁して欲しい。

 

三男のドズル兄さんは人が良いので比較的友好的だが、すぐ上の兄が嫌っているので表向き無干渉、裏では色々と庇ってくれる良い人だ。顔は怖いし、庇ってくれているのだが空回りしている事も多いのだが。

ザビ家の兄弟で唯一既婚者だったのも納得である。

 

そんな環境で育ったからか、キシリア姉さんはザビ家が好きでは無いようだ。

ここ最近、やたらと僕やガルマ、キャスバル、アルテイシアに構いたがるのも、ザビ家では得られない家族の温もりを求めての事だろう。

…アストライアさんと香燐の母親がそう言っていたので、恐らく本当の事なのだろう。

前世では独身、まだ20代前半だったので、な僕では子供の機敏は全く分からない。

原作でも男勝りな軍人になってしまったのも、自身の有能さをザビ家の連中に見せ付けたかったからかもしれない。

 

それと最近になって義妹という言葉を知ったらしく、僕とアルテイシアを結婚させて自分の義妹にする事を計画している。

それなら自分がキャスバルと結婚すれば良いと言ってやったのだが、年下は興味ない、ときっちりと断られてしまった。…横で言いていたキャスバルは喜んでいな。

いや、僕も年下の子は好きな部類だけど、流石に一歳の乳幼児と結婚しろと言われてYesと答える訳にはいかないでしょ。常識的に考えて。

 

ちなみに我が弟ガルマとアルテイシアの結婚は、頼りないガルマだとアルテイシアが可哀想なので無理だそうだ。

頑張れ、ガルマ!

 

「折角だから、もっと遊ぼうか」

「当たり前でしょ! こんな時に遊ばないでどうするの!」

「…修行よりも楽だし、ウチも遊びたい」

 

ま、仕事は明日からで良いでしょ。

元社会人としては無責任な行動という自覚はあるが、やはり休みは欲しい。

でも、譲れない事もある。

 

「それじゃ、別のゲームで遊ぼう!」

「え~、このゲームで遊ぼうよ」

「ウチもこのゲームが良い。いえ! 私も別のゲームで遊びたいです!」

「それじゃ、多数決で別のゲームね」

 

流石我が忠臣香燐。主の意向を正しくくみ取ってくれたようだ。

事前にMS操縦技術Lv3を取得しているのでMSシミュレーションは苦手では無い。しかし、どうしても先程の自爆の悪いイメージが残っている。

ここは素直に別のゲームで遊んだほうが無難だろう。これ以上、変なイメージが定着するのは嫌だ。

 

ちなみにMS操縦技術Lv3は一般部隊のエースパイロット並みにMSを操縦出来るようになる技能だ。Lv4になると軍としての有名エースパイロット並み、Lv5で神クラスになると召喚システムの説明書に書いてあった。

ジオンで言えば青い巨星とか黒い三連星、赤い彗星、紅い稲妻などがLv4になる。連邦で言えばテネス・A・ユングとかが当てはまる。主人公のアムロ君は一年戦争当時はMS操縦技術だけならLv3だが、ニュータイプ能力Lv4があるので地球連邦軍でも二位の撃墜スコアを誇るようだ。

 

「遊ぶのはこの『ソード・アート・オンライン』ね」

「…これだけじゃ面白いか分からない」

 

紹介パンフレットをキシリア姉さんに見せるが、やはり気持ちはMSシミュレーションに残っているようだ。

まあ、あれだけ自分の思い通りに勝てたんだから、そりゃ楽しかった事だろう。

僕と違ってね。

 

「このゲームは現在開発中なんだけど、明日のニューロリンカー発表会で発表予定なんだ。だから、発表会前に実際に遊んだ子供の感想が欲しいんだって」

 

勿論でまかせだ。明日発表予定である事は本当だが、だからこそ今更子供の感想なんて求めていない。そんな物は既に収集済みだ。

開発中と言うのもウソで、ソースコードごとサーバ機器やファイルサーバを召喚しているので、SAOは茅場晶彦がデスゲーム化した際に使用したカラクリをバグとして修正したくらいだ。

SAOと同様に召喚したALOとかGGOなどは微修正をかけた程度だ。

 

 

「…リヒトの役に立つ?」

「勿論!」

「それじゃ、やる」

 

よしよし、キシリア姉さんもやる気になってくれた。

若干萌え幼女のような雰囲気だったのが気になるが、原作通りに成長するよりは良いので気にしない事にしよう。

個人的には両手でスカートの裾を握っていたのと、上目使いが高ポイントです!

って、実の姉に萌えてどうする僕。

 

と、こうして僕達のサイド8滞在一日目はニューロリンカーで遊んで終了した。

SAOはアニールブレードを手に入れて終了している。キャラメイクは僕とキシリア姉さんが片手剣、香燐が短剣を選択した。

このキャラクターデータはSAOを提供する運営会社のオーナー(勿論僕だ)の好意により保存され、SAO正式サービス開始時に使用出来るようになっている。

 

 

 

 

 

サイド8滞在二日目。

キシリア姉さんと香燐は滞在している1バンチコロニーにある遊園地、前世のディ○ニーやU○J的な所だ、に遊びに行っている。

勿論、香燐が忍者(見習い)とは言え子供だけで遊びに行くのは危ないので香燐の両親が付き添っている。

初めて遊園地に行く子供組だけでなく、前世で何も親らしい事を出来なかったと後悔している香燐の両親も嬉しそうだった。こういう光景を見ると、召喚して良かったと思えてくる。

 

遊園地に向かう四人を見送った僕は、スペースコロニー召喚の前に秘密研究所に立ち寄っている。なんでも、見せたい研究成果があるらしい。

 

「ようこそ、リヒト坊や」

「所長は午後からニューロリンカー発表会があるので、今回は私達がエスコート致します」

「宜しくお願いします」

 

秘密研究所で出迎えたのはブラヴァツキ女史、パラケルスス女史の二人だ。

この二人が対応してくれるという事はMSと異世界関連の技術なのだろうか?

 

「さ、まずは地下の機密エリアに行きますよ」

「地上部分を含めて、この研究所の殆どが機密エリアなんですけどね」

 

名称の通り、この研究所は機密性の高い技術開発を行っている。

その為、研究所の入り口では何通りもの認証をクリアする必要があり、主に軍事技術を開発している地下エリアに行くにはさらに認証が必要となる。

本日製品発表を行うニューロリンカーは軍事技術ではないので、地上ブロックでの開発となっている。

まあ、一般的に見てニューロリンカーは何処も開発していない技術なので、産業スパイもこの機密レベルに疑問を抱かず、更なる機密エリアがあると考えさせない為にもある程度目に入る部分でニューロリンカーの開発は行われている。

 

「そう言えば、昨日のMSシミュレーションで自爆したらしいじゃない」

 

地下の機密エリアに向かう途中、突然ブラヴァツキ女史が切り出してきた。

正直、今一番触れて欲しくない話題だ。

 

「…やっぱり知っているんですね」

「私はMS開発部の責任者だからね」

 

何だろう、部下につまらない失敗を知られるのって複雑な気分。

前世では部下はいなかったけど後輩はいたし、それなりに失敗はしたけどここまで複雑な気分にはならなかった。

そりゃ前世の社会人生活で新人時代以外は、ケアレスミスなんてしなかったけどさ。

 

「なんか改善して欲しい点があれば聞きますよ」

「…自機に被害が及ぶような至近距離では炸裂系の武器は使えないよう、火器管制システムに制限を入れて欲しいです。また、至近距離に接近された際の牽制用に頭部バルカン砲が欲しいです」

「あの場面でバズーカが撃てず、頭部バルカン砲で攻撃出来ていれば自爆は無かったですからね」

 

自爆は無かっただろうが、その代わりに敵機を撃墜出来ない可能性も出てくる。

頭部バルカン砲はあくまでも牽制用なので、余程の事が無ければ敵機を撃墜出来ないので、あの場面では一旦距離を取りバズーカを発射する必要が出てくる。

この判断をあの場面で出来たのか、それは僕にも分からない。

 

「後は装甲の強化ですね。やはり装甲材はガンダリウムγを採用しましょう、既存のザク2では装甲に難ありです」

「使える装甲材があるのに、態々性能の低い装甲材は使いません。最低でもガンダムに匹敵する装甲を持つザクを造って見せます」

 

ガンダムに匹敵する装甲を持つザク。当然量産機なので、100機、1000機と製造されるだろう。

流石にビームライフルや艦船のメガ粒子砲は防げないだろうけど、それでも圧倒的な戦力アップだ。下手なマシンガン程度では撃墜出来なくなる事は間違いない。

 

「後はジェネレーター出力とすらスター推力の向上ですね」

「問題は向上した性能を維持したまま、生産性と整備性、拡張性をどう維持するかです」

「…そこは専門家にお任せします」

 

何処かの下町にある製作所の社長が言っていた。ものづくりは失敗の繰り返しで泥臭い作業の繰り返しだと。

僕も前世である程度経験したが、要件を上げるのは簡単なのだがそれを実現するのは非常に泥臭い。

…最も、要件を決める側も楽な行為ではないのだが。

 

今更そんな面倒な事はやりたくない、というのが本音だ。

 

「まあ、それが私達の仕事だから良いですけど」

「ステラだけじゃ心配だから、私達も色々と助けてあげる」

「異世界技術を搭載するのも面白いアイディアですね」

「坊やに見せたい機体も、実はクラリスが持ってきた技術をザクに搭載してみた機体なんだ」

 

ほう、異世界の技術を搭載した機体か。

中々オモシロそうな機体じゃ無いですか。

 

「さて、早速お披露目しますね」

 

地下機密エリアにある実験室、MSの起動テストを行うのでそれなりの広さがある、に到着後、異世界の技術を搭載したザク2がお披露目された。

最も、見た目は通常のザク2と変わらないのだが。

 

「坊や、このモニターを見て」

「FPSの画面見たいですね。あの機体のカメラに映っている映像ですか?」

「その通り。あの機体のコックピットに映っている映像をこっちに転送しています」

「それじゃ、早速始める」

 

パラケルスス女史の言葉を合図に、モニターに無数のミサイルが表示される。

と同時に画面が赤く染まる。レッドアラートによるパイロットへの警告だ。

しかし、この物量、キラ・ヤマトとフリーダムの組み合わせでも対処不可能なのでは無いだろうか?

画面いっぱいにミサイルが表示されているのを見ると、超一流のエースパイロットでも対応出来ないと思うのだが。普通に撃墜されて終わる未来しか見えない。

 

しかし、次の瞬間に事態は僕の予想外の方向に急転した。

モニターに映るミサイル全てにロックオンマークが表示され、全てが撃墜されたのだ。

 

たった一機で数百のミサイルを撃墜する。

ZZのメガ粒子砲などで面攻撃を行ったなら分かるが、事前のロックオンマークから想定すると面攻撃を行ったとは思えない。

 

「全てをロックオンしたんですか?」

「はい。全ミサイルをロックオンして撃墜しました」

「あの一瞬で可能なのですか? とても人間業とは思えないのですが」

「ニューロリンカーの力です」

 

ニューロリンカーの力。

思いつくのは、加速の力。

ニューロリンカーが登場する『アクセル・ワールド』のある意味で基幹技術。

たしか、思考を1000倍に加速するプログラムで、現実時間で1.8秒が体感時間で1800秒になる。

しかし、思考を加速するだけで肉体は加速しない。つまり、ロックオン操作は出来ないはずだ。

 

「それとクラリスから提供されたIFSの力です」

 

IFS、イメージ・フィードバック・システム。人間の思考を直接コンピュータに伝達するシステムだったはず。

って、加速された思考をそのままコンピュータに伝達させたから一瞬で数百のミサイルをロックオン出来たのか。

…僕が言うのも変だけど、これはチートな組み合わせじゃないだろうか?

 

「加速された思考を、そのままIFSを通じてザクを操ったんですか?」

「その通り。召喚した本人だけあって、リヒト坊やは理解が早いね」

「…操作入力は加速状態のままで行えますが、物理的にザクが動く速さは変わらないのが課題です」

「つまり、今みたいに数百のミサイルを撃ち落とすのには数百の砲門が必要という事ですか?」

「数百までとは言いませんが、一つの砲門では装填、砲塔の移動、発射とタイムロスがあるので複数の砲門が必須となります」

 

フリーダムみたいなMSが必要なのか。あとはベビーアームズみたいな歩く弾薬庫みたいなMSとの相性は良いだろうし、通常のMSでもメリットがある機能だ。

 

「後はIFSによる操縦も必須。ミノフスキー粒子下だとニューロリンカーが100%性能を発揮出来ない。加速機能を使うだけで精一杯」

「で、クララリスが目を付けたのが思考で操縦するIFSだったんです」

「負荷分散で対応したのか」

 

足りない分は何処かから持ってくる、なんて言葉もあるし、負荷分散はシステム構築する時の基本だよね。

砲門の問題もあるけど、これも時間があれば解決するでしょ。最悪インコムを装備すれば解決すると思うし。

 

「それと正式ブロジェクト発足前の準備段階ですが、第三世代機と第四世代機の開発準備を始めました。まだまだ開発資料を集めている程度ですが」

「了解。ちょっと考えたんだけど、開発コードネームは第三世代機がクルセイダー、第四世代機がセンチュリオンにしようと思う」

「担当の者に伝えておきます」

 

何故このコードネームなのかは、分かる人には分かる。

とある戦車が元ネタとだけ言っておこう。

 

「坊や、私達が見せたいのは以上だからお仕事に行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃい」

「…行ってきます」

 

こうして僕は秘密研究所を後にし、ディートリヒが操縦するシャトルに乗り込みスペースコロニーの召喚予定地に向かうのだった。

到着後は何時もの様にシステムメニューを開き、テンプレートとして保存していた設定から大型スペースコロニーを選択して召喚を実施する。

宅配ビザを注文する感覚で色々とカスタマイズ後、[OK]ボタンをクリックすれば数秒後には目の前にシリンダー型のスペースコロニーが現れる。

 

ここまでは誰でも出来る簡単なお仕事だ。

召喚する設定も、事前にシーゲルさんと打ち合わせした通りに選択しているだけだしね。

事前に召喚を決めていた住居型12基、農業型4基、工業型4基の他、海洋型を新たに1基建造している。

海洋型も他のスペースコロニーと同様の大型になっており、開放型シリンダーコロニーとなっている。最大の特徴は陸地の7割が海となっており様々な魚が生息している。

本来は海水を地球から運んでくるのだが、今回は海水込みで召喚したのだ。それも、ちゃんと波が発生する装置つきだ。

これも元日本人として寿司が食べたかったからだ。僕は食には妥協しない男なのだ。

そもそも、カロリーベースで言えば農業コロニーが無くても自給自足は可能なのだが、食事の味も種類もかなり限定されてしまう欠点がある。

コロニーの食事事情は三食同じメニューという事も珍しく無いのだ。

 

そんな食生活は耐えられない。好きな時にラーメン(醤油、味噌、とんこつ)を食べ、ある時は牛丼屋(吉○家、松○)に立ち寄り、ちょっと贅沢したいときはイタリアンやフレンチ、回らない寿司に行き、ガッツリ食べたいときは焼肉やステーキを食べたい。勿論スイーツも重要だ。

こんな我がままを叶えるため、農業用コロニーは建造されている。現在召喚している農業用コロニーでも小麦や稲作、酪農、養豚、養鶏などが行われている。

今回召喚した農業用コロニーでは酒造なんかも計画されており、僕が大人になる頃にはロマネ・コンティを超えるワインが作られる事だろう。

 

また、今回建造したスペースコロニーに設置している水珠、無から水を生み出してくれる不思議アイテムで一個当たらい毎分10リットルの純水を生み出す能力を持っている。

一日あたり14,400リットルなので、日本人が一日に使用する生活用水量は平均250リットルなので約58人分にしかならない。

それでも元々スペースコロニーは循環型社会なので、これでも十分に助かる。

余ったら氷にしてコロニー外に保管すれば良いし、元日本人としては新鮮な水を飲みたい。

…それに、上手い日本酒を造るには良い水が必須だからね。

 

水珠は一個あたり1万ポイントするが、住居型コロニーと工業型コロニーには五個ずつ設置し、農業型コロニーには10個、海洋型コロニーには一個設置している。

 

ここまでは簡単な作業なのだが、これから住民一億人を召喚する仕事がまっている。

みんな同じ設定という訳には行かないので、細かく設定して召喚する作業が苦行だ。

ある程度はランダム機能任せだが、それでも良い感じの職業分布や男女比率、年齢分布を作るため、付与する技能と召喚人数などをシーゲルさんから指定が来ている。

医療技術がある人(医者)を30万、正確に言うと専門分野まで細かい指定がある、法律知識がある人(弁護士)を4万など細かい設定を指定して召喚する必要があるのだ。

シーゲルさんの娘さんがいたら止められてしまう行為かもしれないが、設定した技能に沿った職業に付いてもらう予定だ。これが所謂デスティニープランである。

勿論、サイド8は職業選択の自由があるので後から転職してもらっても問題無い。

 

…それと召喚機能にインポート機能があると良いのだが、システムメニューから設定していく必要がある手動作業なのがユーザーに優しくないシステムだったりする。

将来的には人口5億人を目指すので、今後約4億は召喚する必要があるので苦行はまだまだ続く。

 

ちなみに、今日はこのスペースコロニーに宿泊予定だ。新たに建設したスペースコロニー内の30万人収容可能なスタジアムで召喚しているが、それでもスペースは10分程度で埋まってしまう。

この為、係員の誘導により召喚スペースが空くのを待つ時間もあるので、その間に僕は隣の会場に移動して人を召喚する事を繰り返していく。

予定では後20日で1億人を召喚する予定だ。残り約9970万人、頑張りますよ。

 

…上の予定は完全オフの日も入っているけど、六歳児の仕事量じゃない気がする。

僕は後何回この苦行をすれば良いんだ。

え、後333回? 一回当たり30分かかるから休みなく24時間続ければ7日で終わる計算ですか。

一日あたり12時間の作業時間なら14日で終わる計算だ。

はあ、憂鬱だ。前世の悪夢が続いているような気がする。それに安易な作業見積もりは破綻しやすいからなぁ。

 

美味しいご飯の為、いや、サイド8の輝かしい未来の為に頑張りますか!

いや、僕にはサイド8の未来が見えている。まるで新鮮な生卵をかけた白米のように輝いている未来が。

…薄くスライスして、たれが染みた牛肉があればなお良し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は7年後の宇宙世紀0068、原作通りに議会で演説中のジオン・ズム・ダイクンが倒れた。

 




と言う訳で、次回は『青い瞳のキャスバル編』です。
それと初の戦闘シーン? を書いてみたんですが、文才の無さに絶望ですね。

その反動か、ザクの魔改造化が始まりました。
撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心 これがこの作品のザクです。
ジムのビームスプレーガンなんて豆鉄砲です。でも、ビームライフルは勘弁。

最後、今後登場予定の第三世代機クルセイダーと第四世代機センチュリオンのパイロットはローズピップとアリスですな、間違いなく。

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