機動戦士ガンダム ~さらにその先へ~   作:haneさん

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約1年振りの更新です。
・・・この1年、修羅場やガンダムオンライン復帰と色々ありました。

取りあえず、最近は無性に大洗に行きたい。。。
観覧車先輩、お疲れ様でした。



4話 圧倒的存在感は大事

「君はアホか?」

「確かにコレは非効率かもしれない。しかし、世の中には効率では計れない事もあるんです」

「その通りだ。しかし、コレはその論理の外の話だ」

 

流石に元プラント最高評議会議長、言い負かせない。

何度も何度も繰り返し説得しているのだが、彼は首を縦に振ってはくれない。

 

「拠点として宇宙要塞を召喚するのは妥協しよう。しかし、このイゼルローン要塞を召喚する必要は無いだろう。召喚コストが高すぎる上に、この巨大要塞を運営するのに、どれだけの人員が必要になると思っているのだ!」

「大は小をかねる。折角召喚するなら、一級品を召喚したいじゃないか」

「結局はそれが君の本音だろう。君は自分の趣味を優先したいだけなのだ」

 

それを言われると辛いのだが、イゼルローン要塞は趣味の範疇に収まらないスペックを誇る。

正攻法では落とせない、難攻不落の要塞。それがイゼルローン要塞なのだ。

仮にジオン公国から独立した場合や、ネオ・ジオンみたいに蜂起した場合に根拠地になりえる施設なのだ。

 

「要塞を召喚するのであれば、ボアズ要塞で良いではないか。それに、イゼルローン要塞が登場する銀河英雄伝説には他の要塞、ガイエスブルグ要塞なども登場しているという話ではないか」

「そんな事は無いよ。ボアズ要塞は核攻撃で完全破壊、多くのザフト兵が死亡した要塞だし、ガイエスブルグ要塞も破壊されている。将来、SEEDのキャラクター、銀英伝のキャラクターを召喚した時、縁起が悪い要塞を拠点にしていると心証が悪くなるよ。破壊された要塞と、難攻不落の要塞じゃ安心感が違うのだよ、安心感が」

「む」

 

僕達のこの言い争いが始まり1時間、ようやく決着がつきそうだ。

そう思うと、今まで二人で検討していた内容が脳裏を駆け巡ってくる。

勝利の予感を脳が感じ取ったのだろうか?

 

 

 

 

--1時間前

 

 

 

「銀河大航海時代か、良いのではないか」

「良かった。反対されたらどうしようかと」

 

思い立ったが吉日とばかりに、銀河大航海時代の到来を目的に定めた翌日の朝。

僕はシーゲル・クラインが住むマンションを訪れ、彼に現世での目的を語った。

彼のマンションは独身者向けの1LDKだ。まだ入居して間もないため、家具は少ないが本だけは大量に供えられていた。

 

「エヴィデンス01、クジラ石と呼ばれている化石を知っているかい?」

「ええ、ガンダムSEEDで何度か登場したので。結局、クジラ石につて作中で言及されなかったので、本当に地球外生命体の化石なのかは不明なのですが」

「それは僥倖。自分の手で知るならば兎も角、この様な形で真実は知りたくない」

 

作中のシーゲル・クラインはよくクジラ石の前にいた記憶がある。彼の専門は宇宙生命学と天文学だったから、この手の話題は好きなのかもしれない。

それならクジラ石の真実を知りたくない気持ちも分かる。僕の趣味で例えれば、好きなマンガの最終回をネタばれされた感じだろうし。

 

「それじゃ、協力してくれるんですか?」

「その為に私は呼び出されたのだろう。それに、私も人は何処まで行けるのか知りたいと思っている」

「地球外生命体と接触したら、その際の交渉はお任せしますね」

「勿論だとも。それがコーディネイター(調整者)たる私の役目だ」

 

あれ、でもコーディネイターって新人類と人類の調整者だったような?

地球外生命体との調整、対話はイノベイターの役割だったかも。

イノベイターといえば、刹那・F・セイエイとデカルト・シャーマンの二人。

刹那は主人公だけど、シャーマン大尉は脇役(?) だから使用ポイント少なそうだし、計画が実行段階に入ったら召喚してみよう。

 

「それで、どのように銀河大航海時代を迎えるのかね? 今の人類の技術力では、太陽系を出ることすら不可能なのだぞ」

「そこは僕の力を使う。僕の能力は人の召喚の他に、道具を召喚することも出来るんだ。この能力を使って、所謂ワープが可能な宇宙船を召喚します」

「私も君に召喚された身だから、君の能力は疑わない。だが、ワープは本当に可能なのか? 君が召喚しようとしているのは別世界の技術なのだろう、その技術がこの世界で正常に機能すれば良いのだが」

「…多分可能だと思います」

 

指摘されるまで気が付かなかったけど、フォールド航法ってこの世界で使えるのかな?

ミノフスキー粒子みたいな不思議粒子は使用してなかったはずだけど、アニメ作品の技術だけに現実世界で実現できるか分からないだよなぁ。

いや。ここは現実世界じゃなくてガンダム世界だけど、多作品の技術が使えるか不明だ。

演算ユニットが必要なボソンジャンプや、平面宇宙を経由する超光速航法よりは可能性ありそうだけど。

最悪、ダブルオークアンタ召喚してワープホール作る技術を元にすればいいや。

この世界とは別世界だけど、同じガンダムシリーズだから何とかなるはず。

 

 

・・・それに、アムロ相手に叫んでみたいしね。

「俺が、ガンダムだ!」って。

 

 

「それでは、この場は可能という前提で話を進めよう」

「とりあえずの計画ですが、マクロスという作品に登場したSDF-1マクロスを召喚します。マクロスは地球に飛来した異星人の恒星間宇宙船で、人類は飛来したSDF-1マクロスを研究する事でフォールド航法を始めとした重力制御システム、熱核タービンエンジンなどのオーバーテクノロジーを手に入れたのです」

「つまり、そのマクロスを召喚、研究する事で君はそれらの技術を手に入れようと言うのだな」

「その通りです。マクロス一隻では時代は動かせないですが、SDF-1マクロスを研究して手に入れた技術を民間レベルで活用出来るまで広める事が出来れば、確実に時代を変える事が出来ますよ」

 

恒星間航行出来る船が一家に一隻、というのは夢物語だろう。

だが、恒星間航行を業務とする航空会社(?) が何社か設立する時代を作りたい。

その為にも、フォールド可能な旅客機を造り出す技術がいるし、庶民が海外旅行のように気軽に利用出来るようにする必要もある。

 

銀河大航海時代の到来。

言葉では簡単だけど、色々とやるべきことは多そうだ。

 

「概要は理解した。この時点で私が感じた課題と修正事項が一つずつある」

「・・・もう課題と修正事項があるんですか?」

「なに、修正事項は簡単な指摘だし、課題は君が、リヒト・ザビが無意識に逃げている事だ。そう難しいことじゃないさ」

「僕が無意識に逃げている事。何となく想像出来ますが、教えてくれますか? シーゲル閣下。」

「スペースノイドとアースノイドの問題、スペースノイドの独立問題だよ」

「やっぱりソレですよね」

 

シーゲルさんに指摘された問題は、確かに無意識的に避けている問題だ。

前世ではアニメ作品の中ということで意識し、平和な日本の中で生活していた為に感じなかった感情。しかし、リヒト・ザビとして生きる事で、と言っても5年しか生きていないが、感じる不公平感。

 

自分達の事を自分達で決める事が出来ず、遠く地球からの方針に従わされている政治と経済。

同じ地球連邦市民だと言うのに、明らかにアースノイドと異なる税制。

コロニーという狭い箱庭に押し込められた窮屈感と、宇宙という人類にとって未知な空間で生活するストレス。

 

アースノイドにも自然災害というリスクはあるが、同じようにスペースノイドも事故・テロ等に極端に弱いスペースコロニーで生活するリスクがある。

何しろ、コロニーに穴が開けば重大な事故に繋がるし、ここで暮らししている人々はふとした瞬間に壁の向こう側に広がる死の世界を想像してしまうのだ。

 

もし、この瞬間に足元に穴が開いたら、と。

勿論想像の先は真空に投げ出される自身、或は家族の体だ。

だからこそ、強制的に移住させられたスペースノイドは、安全な、少なくとも何時も想像してしまう死の恐怖が無い、母なる大地に帰る事を強く望むのだ。

 

「今の政治体制は地球を中心とした、地球を強者とする為の体制となっている」

「圧倒的多数のスペースノイドが参政権を持っていませんからね。一応同じ国家に属してはいますが、実際は宗主国と植民地の関係ですよ」

「どこかで見たことがある関係だね」

「まあ、よくある関係ですからね。歴史的に見ても、アメリカはイギリスの植民地から独立して誕生した国家ですからね」

「『代表なくして課税なし』とは良く言ったものだ」

 

代表なくして課税なし。アメリカ独立戦争時のスローガンの一つだ。

当時イギリスの植民地であったアメリカは税金を納めていながら、英国議会に自分たちが選んだ代議士を送ることが出来なかった。

そのような政治体制でアメリカに対する課税が可決される事でアメリカはイギリス本国への反感を高めていき、最終的にはアメリカ独立戦争へと発展していった。

今のサイド3とよく似た状態なのだ。

 

ちなみに、当時のアメリカは投票権の無い議員を一人英国議会に送る事は許されていたらしい。

サイド3を始め、各サイドにはそのような権利は無いので状況は更に悪いのかもしれない。

まあ、投票権の無い議員を送ったからと言って、地球連邦への不満が解消されるとは思えないが。

 

「話を戻すが、現状の政治体制のまま銀河大航海時代を迎えたとしても、地球を強者とする現在の体制は維持されるだろう」

「現在の強者たる地球が、その覇権を簡単に譲り渡す訳ないですよね」

「地球が強者である事で利益を得ている者達がいる以上、それは難しいだろう」

 

地球とスペースコロニー、アースノイドとスペースノイド。

その関係は単純であり、少々複雑な部分がある。

 

政治体制的に言えば、地球連邦政府という国家に所属している。

この国家は民主主義なのだが、何故かスペースノイドには参政権が与えられておらず、代表として立候補する事も代表を選ぶ事も許されていない。

つまり、先のアメリカの例のように、スペースコロニーは連邦議会に代議士を送る事が出来ないのだ。

 

仮にスペースノイドに対して参政権が与えられれば、次に問題になるのは議席数だろう。

サイド毎に連邦議員を一人選んだとしても、人口比を考慮するとアースノイドとの一票の格差が問題になってしまう。

連合議員は旧国家を参考にブロック分けされ、ブロック内の人口を参考に議席数が割り当てられているからだ。

例えば人口100人のブロックには1議席、人口200人のブロックには2議席、人口300人のブロックに3議席と割り当てられる。実際は議席数に決まりがあるので、このように綺麗に割り当てる事が出来ないが、きちんと法律としてルール化されている。

この議席数の割り当てルールをそのまま適用してしまうと、現在の人口比から想定するとスペースノイドに大半の議席が割り当てられ、議席数の上限がある以上、アースノイドは議席数を失う事になる。

仮に議席数の上限を増やしたとしても、人口比で議席数を割り当てるルールがある以上、どうしてもスペースノイドの議席数が多くなり、連邦議会の議席の過半を占める事になる。

 

つまり、地球はその覇権をスペースコロニーに奪われる事になる。

人口比で議席を割り当てるルールを止めればアースノイド優位の議会運営となるが、一票の格差という問題を残す事になるし、このまま人口増加が進めばサイド建設が進み何時かはスペースノイド側の議席数が過半を占めるようになる。

と言うより、僕が銀河大航海時代を迎えれば、確実に地球はマイノリティとなる。

 

「別の利益を与える事で、スペースノイドの参政権を認めさせる事は出来ないですかね?」

「難しいだろう。スペースノイドが参政権を持たない事で利益を得ているのは、地球の特権階級だけでは無い。確かに彼らはスペースノイドが生み出す富を独占しているが、全体を見ればアースノイド全体が利益を得ている」

「・・・本当に世界は面倒です」

 

全体的に見れば、スペースノイドは経済的に困窮している訳ではない。

むしろアースノイドの方が貧困に苦しんでいる人は多い。人口110億のうち90億がスペースノイドという事を考慮すれば、汗水流して働く中産階級のスペースノイドが働かない(働き口がない)アースノイド貧困層を支えている形になる。

勿論これには裏があり、スペースノイドには空気税という名の人頭税があるので、収入を得なければ税金を払えず刑務所行きだし、行政側としても税収が減るのは困るので就職斡旋や労働者の能力開発には力を入れているからだ。

 

ちなみに、徴収された税金がスペースノイドに還元される事は殆ど無い。

徴収された税金を分配する連邦政府、連邦議会がアースノイドにより構成されている為、その予算は地球に分配される仕組みになっているのだ。

今も昔も、地元に予算を持ってくる議員が良い議員なのだ。

 

勿論この予算の分配もスペースノイドの不満となっている。

地球連邦政府としては、アースノイドより手厚い就職斡旋、能力開発の行政サービス、スペースコロニー建造などのインフラ整備をアピールしているが、結果的に地球が富を得るための投資に過ぎない、とスペースノイドの反感を余計に買っている。

 

さて、簡単に世界の経済を考えると、世界の富の半分は1%アースノイドにより独占されている。残りの半分はスペースノイドと約50%のアースノイドが保有している。

アースノイドの残り半分は全体の1%以下の資産を保有している層で、日々の糧にも困窮する貧困層である。

現代風に言えば、1日1ドル以下で生活している貧困層になる。

そして貧困層の生活は、スペースノイドの支払う税金を財源とした炊き出しなどの行政サービスにより成り立っている。

 

「貧困に喘いでいるアースノイドの大半は、スペースコロニー産の安価な製品により職を失ったブルーカラーだ」

「工場も月やスペースコロニーに移転、農作物も環境汚染の風評被害に加えてスペースコロニーで生産された安価な物が出回っていますからね」

「私も議長時代に似たような事で批判された記憶がある。さらに問題を掘り下げれば、その貧困層は生活保護などの地球連邦政府の社会保障により生活しているが、その財源はスペースノイドの税収だ」

「社会保障を受けているアースノイドにとっては職をスペースノイドに奪われた怒りと、そのスペースノイドの施しで生きている屈辱を感じている」

「そしてスペースノイドは言われない批判に対する怒りと、アースノイドより重い税がアースノイドの利益になっている怒り」

「判断を間違えれば戦争一直線、平和的に解決したとしても色々と問題を残しますね」

 

平和的にスペースノイドが参政権を手に入れれば、公平な税制を求めるだろう。

そして圧倒的なスペースノイドの人口を背景に、スペースノイドの要求は連邦議会で承認されるだろう。

公平な税制が承認されたとしても、必要な支出額は変わらない。

公平な税制を適用すれば、人頭税の側面がある空気税は廃案となるだろう。廃案になれば当然税収は減るので、バランスを考えれば支出を減らすか、増税をする必要がある。

議会の優位性を考えれば、減らされる支出は地球に使われていた予算が削られるだろうし、増税となればアースノイドにも同じように課税される。

 

経済的に余裕のあるアースノイドは少しの不満で済むかもしれないが、貧困に苦しむアースノイド貧困層は大反対だろう。

支出の増大に加えて、税金の使い道が自分達を貧困に追い込んだ連中の住処の保全の為に使われるのだから。

 

「誰もが納得する政治は存在しないよ。今の政治はアースノイドが納得した、アースノイドに都合が良い政治になっている。アースノイドにとって、今の体制を維持する事が望ましい。それは富を独占する特権階級だけでなく、アースノイド全体の共通認識だろう」

「人民の、人民による、人民の政治、と演説すれば、アースノイドとスペースノイドが連邦市民として手を取り合いますかね?」

「その演説で有名なリンカーンだが、演説時は奴隷解放を巡って南北戦争の真っ只中だったそうだよ」

「・・・結局、アースノイドとスペースノイドは手を取り合えないという事ですか?」

 

シーゲルさんに口では反論してみるが、僕もアースノイドとスペースノイドが平和的に手を結ぶのは難しいと考えている。

理由は先にも述べたように、民主主義が多数決原理である以上、今の体制下では地球は一地方に地位を下げてしまう。

この時点でスペースノイドが勝者、アースノイドが敗者という図式になってしまい、アースノイドが勝者であるが故に表面化していないアースノイドの貧困問題が深刻化するだろう。

経済活動の中心が宇宙に移動している以上、産業が衰退し続ける地球が貧困問題を解決する事は難しく、アースノイドに対する社会保障を無駄な出費とスペースノイドが判断した時、生きる糧を失った貧困層は暴徒化するだろう。

 

そして、スペースノイドが、アースノイドに対する社会保障を無駄な出費と判断するのに時間はかからない。

何しろ、宇宙での仕事はいくらでもあるのだ。彼らがスペースコロニーに移住して職を求めれば、それで貧困は解消される。

 

「アースノイドとスペースノイドの経済問題が解決しない限り、両者が手を取り合うのは難しいだろう」

「シーゲルさんは、この問題を先送りして銀河大航海時代を迎えれば、問題解決までのプロセスが難しくなると考えているのですか?」

「新たな移住先は、そのままステークホルダーになるからね。現在でもアースノイドにスペースノイド、ルナリアンがそれぞれの利害を争っているが、マーズノイドが自身の利益を主張すれば調整はさらに難しくなる。これ以上複雑化する前に、ある程度の指針は地球人類として合意しておく方が良い」

「確かに、今の政治体制は地球を中心とした物です。この体制のまま銀河大航海時代を迎えて、銀河中に人類が旅立った後に体制を変えようとすれば・・・」

「事態が独立戦争へと発展した場合、それは銀河大戦へと発展する可能性がある。その戦争の犠牲者は生活圏が拡大し人口が増加している事を考慮すれば、この世界で本来発生する独立戦争よりも多くなる可能性が高い」

 

銀河大戦というワードで想像するのは銀河英雄伝説だが、この世界の死亡率はガンダム世界の比では無い。

歴史上、恒久平和は存在しないとヤン・ウェンリーと発言していたが、僕も恒久的な平和は不可能だし、自分が死んだ後の事まで責任は持てない。

しかし、自分が生きている間の平和の為、戦争の種を先送りするのは何か違うと思う。

 

「この問題、どうすれば解決すると思います?」

「まず両者が感じている怒りを解消し、お互いが納得する解決案を提示する必要がある」

「・・・ジオン独立戦争の結果は、ある意味理想的だったのかもしれないですね」

「独立戦争の経緯は君から聞いた範囲でしか把握していないが、犠牲者の数に目をつぶれば理想的だろう」

「ギレン兄さんが国民の怒りを扇動した事により、サイド3は怒りの感情を発散させる事が出来た」

「そしてザビ家という共通の悪を断罪する事で、地球連邦は覇権を維持し、サイド3は自治権を勝ち取った」

「地球連邦政府としてもスペースノイド全体に参政権を与えるより、サイド3に自治権を与えた方がダメージは少ないですからね」

「地球連邦とサイド3、お互いが納得出来る落としどころです」

「市民レベルでは憎しみが残るだろが、大半はザビ家に向ける事で体制に与える影響を軽減出来るだろうからな」

 

サイド3に自治権を与え、独立国家として扱えば地球連邦議会への参政権を与える必要はない。

なにしろ、地球連邦とは別の国家なのだから、サイド3側にとっても求める理由も無い。

仮にサイド3に参政権を与えていれば、他サイドからも参政権を求める声は強くなるが、自治権ならば問題無かったのだろう。

他国に資源を求める必要があるサイド3相手ならば、経済という首輪をつける事が出来るのだから。

 

ジオン独立戦争後、他サイドが独立を求めなかったのは地球連邦の弾圧が強まっただけでなく、地球連邦の経済圏に留まる以外に選択肢が無かったからでは無いだろうか?

 

「この問題、シーゲルさんならどのように解決します?」

「さて、私の理想としては話し合いで解決したいが、地球側に明確なメリットを伝える事が出来なければ難しいだろう」

「サイド3の自治権を認めれば、独立戦争が回避出来る事はメリットになりませんか?」

「地球連邦がサイド3の軍事力を侮っている以上、戦争回避はメリットにはならない。艦隊を派遣すれば戦争に勝利出来ると確信しているのだ、この自信が開戦を選択する理由になる可能性の方が高い」

「サイド3、ジオンの軍事力を公開出来れば良いんでしょうけど、ジオンの主力であるMSとミノフスキー粒子は軍事機密ですからね」

 

まだモビルスーツの開発も始まっていないし、ミノフスキー粒子も発見されていないが、下手に公開すればギレン兄さんや紫ババァに消されてしまう。

特にギレン兄さんは冷徹な合理主義者だ。そんな兄さんにとって地球連邦の衆愚政治は悪以外の何者でもない。兄さんにとっては、自身が直接管理する事が人類とっての利益であり、正義なのだ。

 

ジオン公国独立は国民の悲願であると同時に、ギレン兄さんにとっては人類を正しく管理する為の第一歩となる偉業だ。

それを邪魔する存在は悪であるし、平和的な解決手段を提示しても効率の悪い手法と受け取られてしまえば、それは兄さんにとっての悪になるだろう。

 

「平和的な解決方法を模索しつつ、独立戦争の準備する必要がありそうですね」

「非常に不本意だ。しかし、戦争の可能性がある以上、為政者として準備する必要があるだろう」

「『戦争は勝って終わらなければ意味が無い』、ザラ議長の言葉ですね」

「パトリックと違い、『戦争は負けて終わっては意味がない』、と私は発言させて欲しい」

 

肩をすくめるシーゲルさん。

共にプラントの議長を務めた男の言葉だが、僕には目の前にいるシーゲル・クラインの言葉の方が好ましいと感じた。

勝つには『勝利』とう選択肢しかないが、負けない方法には『引き分け』という方法があるからだ。

引き分けながら、お互いに利益を分け合える決着も望めるだろう。

 

「それでは今後の方針は、平和的な解決を模索しつつ、戦争の準備と銀河大航海時代に向けた準備をするという事で良いですか?」

「その方針で問題ない。それと私のもう一つの指摘事項だが、何もSDF-1マクロスを召喚する必要は無いのではないか?」

「しかし、フォールド航法を手に入れる為には必要な事だと思うのですが」

 

僕の質問にシーゲルさんは顎を撫でし、苦笑を浮かべる。

 

「召喚に使用するポイントは有限なのだ、節約出来る部分は節約するべきだ。SDF-1マクロスは作品名になっているのだ、作品に対する影響度により使用ポイントが高くなるのではないか?」

「確かに、SDF-1マクロスあればこそのマクロスですからね。正確な使用ポイントは確認してみないと分かりませんが、結構高めだと思います」

「ならば、SDF-1マクロスの技術を元に製造された艦船を召喚した方が安上がりだろう。我々が必要としているのはSDF-1マクロスでは無く、SDF-1マクロスが元になった研究成果なのだから」

 

言われてみれば、SDF-1マクロスを無理して召喚する必要は無いのか。

初代マクロスではフォールド可能なのはSDF-1マクロスくらいだったが、マクロスフロンティアまで時代が進めばフォールド可能な民間機も多く出回っていたはず。

シェリルがフロンティア船団に来た時に乗っていたシャトルとか、軍艦に拘るならSMS増援部隊のマクロスクォーターを召喚すれば良いや。

 

「シーゲルさんの言う通りですね、召喚する艦船は検討します」

「何を召喚するかは任せるよ」

「後は拠点をどうするか、ですかね?」

「オフィスレベル、ちょっとした工場レベルであれば確保も容易だろうが、艦船の開発拠点を確保するのは難しいだろう。君の能力を活用しようにも、スペースコロニー内に拠点建設可能なスペースが無い」

 

これが地球な地下の秘密基地、それこそジャブローレベルの基地を建設するのだが、スペースコロニーには地下空間は存在しない。

 

「いっそスペースコロニーを建造してみるかい?」

 

頭を悩ます僕に、シーゲルさんは事もなげに言ってのける。

いや、僕も妄想では考えていた案だけど、シーゲルさんの口から聞けるとは思わなかった。

 

「先ほどの話題に戻るが、平和的に解決するにしろ、戦争により独立するにしろ国力は重要だ。そして人口は国力の要素になる」

「それなら、ジオン公国と同程度の国力を持つサイドを新たに建設するのはどうでしょう? 史実ではジオンの国力は地球連邦の30分の1でしたが、僕達が建造したサイドが味方すれば15分の1になります」

「15分の1でも十分絶望的な差だと思うがね。ジオン公国敗戦の原因の一つは無秩序な戦線の拡大だが、拡大した戦線の幾つかを担えればジオン公国の負担を減らせるメリットはあるか…、そもそも地上に攻め込まない方が良いのだろうが」

「ドズル兄さんに援軍を送って、ソロモン陥落を防げるかもしれない」

 

ソロモン陥落がジオン公国敗北を決定付けたのなら、それを防ぐよう艦隊を派遣すれば良い。

それに南極条約で決着させる為にレビル脱走を防ぐのも良い。

 

「そうだ、折角なら初期拠点としてイゼルローン要塞を召喚しましょう」

「イゼルローン要塞?」

「銀河英雄伝説という作品に登場する宇宙要塞です」

 

嬉々としてイゼルローン要塞のスペック、作中での活躍を語る。

これもオタクの性として、シーゲルさんには我慢してもらおう。

まあ、イゼルローン要塞のスペックを知れば、シーゲルさんも召喚に賛成してくれるだろう。

 

大事な事なので、ここでイゼルローン要塞の概要を改めて説明しよう。

大事なことなので!

 

直径60km、耐ビーム用鏡面処理を施した超硬度鋼と結晶繊維とスーパーセラミックの四重複合装甲を持ち、宇宙港は2万隻の艦船が収容可能で、400隻を同時に修復可能な整備ドックや一時間で7500本のレーザー核融合ミサイルが生産可能な兵器廠、7万tもの穀物貯蔵庫と酸素生産も兼ねた広大な食用植物プラントを持つ宇宙要塞だ。

また、20万床のベッドを持つ病院の他に、学校、映画館、民間人の居住施設などのインフラも充実し、軍人・民間人を合わせると500万人の人口を有する巨大都市としての機能を持っている。

攻撃面も強力で、要塞主砲の「雷神のハンマー」(トールハンマー)は一撃で数千隻の艦隊を消し飛ばす威力を持つ、まさにチートと呼ぶに相応しい要塞なのである。

 

「明らかにオーバースペックだ。2万隻の艦船が収容可能な宇宙港? 2万隻の艦船を建造、維持するのにいくらかかると思うのだ」

「・・・物量チートと言わる連邦軍も戦艦・巡洋艦で500隻くらい、補給艦とか合わせても2000~2500隻だった記憶があります」

「2万隻の戦闘艦を運用出来れば、それこそ本当に物量チートだな」

 

シーゲルさんの呆れた声に、僕はイゼルローン要塞の利点を考えた。

指摘通りオーバースペックなのは理解しているし、それを運用する予算も人員も馬鹿に出来ない。

しかし、そのような不利を承知で召喚したい魅力がイゼルローン要塞にはあるのだ。

・・・ただのオタクの妄想かもしれないが、この気持ちは抑えられない。

デス・スター建造を嘆願したスターウォーズファンの人達なら、この僕の気持ちを理解してくれるに違いない。

 

「良いですかシーゲルさん、イゼルローン要塞は今後迎えるであろう銀河大航海時代に無くてはならない存在なのです」

 

地球とスペースコロニー、アースノイドとスペースノイド。

色々と問題は山住だが、人類のさらなる発展と飛躍の為に僕は力を尽くそう。

 

しかし、千里の道も一歩より。

まずは、目の前のプラント最高評議会元議長を説得しなければ。

 




お待たせして申し訳無い。
少しずつですが、執筆は続けているので鈍足更新で続けていきたいと思います。

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