機動戦士ガンダム ~さらにその先へ~   作:haneさん

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勢いで書いてみました。
暇つぶしにでもご覧ください。


1話 転生しました

僕は、僕の秘密を今明かそう。

生前よく見たアニメのセリフだけど、僕の今の状況を最もよく表している。

いや、君の生まれの不幸を呪うがいい、の方があっているかもしれない。

 

「リヒト、何してるの?」

 

突然の事に廊下で棒立ちしていた僕の後ろから、昨日までは頼もしいと思っていた姉が声をかけてくる。

 

「なんでもないよ、キシリア姉さん」

「…何か隠してる?」

 

僕の引きつった顔と、驚愕の事実を思い出して混乱している頭じゃ、とても目の前の姉を誤魔化すことは出来なかったようだ。

何とかしてこの場を切り抜けたかったが、我が姉は心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。

 

「ん、怪我はしてないみたいね。顔色は悪いけど」

 

顔色が悪いのは、目と鼻の先に顔を近づけられた事による緊張が原因だ。

なにしろ目の前の姉はロボットアニメ『機動戦士ガンダム』に登場する悪役、ザビ家の長女キシリア・ザビなのだから。

 

キシリア・ザビと言えば、ジオン公国軍突撃機動軍司令にしてキシリア機関と呼ばれる独自の諜報機関を持つ女傑だ。

前世ではSEED世代だった僕でも知っている、暗殺などの裏工作が得意な黒いキャラクターだ。

容姿はマスクとヘルメットというオバさんなのだが、今の姉さんは5歳の幼女である。

当然マスクもヘルメットも無く、可愛らしいただの幼女である。

 

…大事なことなので二回言ったが、ホントにこの可愛い幼女が将来紫ババァになるとは想像も出来ない。

 

「む、何か失礼な事考えたでしょ」

「な、何も考えてないよ、キシリア姉さん」

「ホントかなぁ。でも、私はお姉さんだからね、信じてあげる」

 

流石は未来の紫、ジオン公国軍突撃機動軍司令である。他人の考えた事が分かるようである。

 

「でも、皆がガルマを気にして寂しいからって、悪戯なんかしちゃ駄目だよ」

「…ごめんなさい」

「よろしい」

 

前世の記憶を思い出す直前、僕は確かに寂しさから悪戯をしていたので素直に謝った。

一応僕の名誉の為に言っておくが、目の前の姉が怖かった訳ではないのだ。

 

ちなみに弟のガルマも『機動戦士ガンダム』に登場するキャラクターである。

今は3歳のリアル坊やだが、将来はジオン公国軍地球方面軍司令の大佐まで出世するエリートである。

そして、親友と思っていた赤い彗星のシャアに謀殺される運命を背負っているキャラクターでもある。

 

「疲れたから、部屋で休んでるね」

「部屋で拗ねてる、の間違いじゃない?

「そんな子供じゃないよ」

 

からかってくる姉を一瞥し、僕は自分の部屋に急ぐ。

今は兎に角、情報を整理したかった。

 

部屋に着くまで、少し情報を整理しよう。

今の僕はザビ家の四男リヒト・ザビ(5歳)、キシリア・ザビの双子の弟だ。

ちなみに前世の記憶を持った転生者である。

 

転生した切欠は、神様のミスで死んだ、という在り来り(?)な理由だ。

そして在り来りな賠償として、僕は異世界への転生と三つの特典を提案されたのだった。

 

僕は希望の転生先を伝えたのだが、神様は僕の希望聞いてくれず転生先は候補の中からランダムで決まるとだけ教えられた。

ただ、転生先の世界は知らされなかったが、アニメ・マンガ・ゲームの世界という事は教えてもらった。

 

転生先の情報を得られなかった僕は、汎用性のある特典を希望した。

僕は原作に関わりたいと思ったことは無いし、アニメ・マンガ・ゲームの世界に転生すると言っても死亡率が高い作品ばかりではない。

出来ればけいおん、みなみけの世界で死ぬ前と変わらない生活を送るのも良いし、ARIAの世界に転生してアクアに移住するのも良い。

剣と魔法の世界に転生するにしても、魔王が攻めてこない平和な世界が良いし、スポーツ漫画の世界に転生して、題材になっているスポーツに打ち込んでみるのも良い。

 

そんな漠然とした希望を持っていた僕が選んだ特典は次の三つだ。

一つ目の特典は、カスタマイズ能力。これは自身の能力の数値化、取得スキルを可視化し、ポイントを使い自由にカスタマイズ出来る能力だ。

この能力を使えば一流と呼ばれるキャラの仲間入りが出来、けいおんの世界なら世界的に活躍するミュージシャンを目指すし、みなみけの世界ならサッカー選手になってワールドカップ優勝を目指す、ARIAの世界の世界ならネオヴェネチアでイタリア料理店のオーナーを目指す。

 

二つ目の特典は、ポイントを使用してマンガ、アニメ、ゲーム、小説など、この世に存在する全ての創作物に登場するキャラクター、道具を召喚する事が出来る特典だ。

また、カスタマイズ能力と組み合わせる事で、転生した世界に存在しないスキル、魔法とか気など、本来ならその世界に存在しない力を手に入れる事も可能だ。

 

もっとも、僕はこの特典で所謂強キャラを召喚するつもりは無く、大量のモブキャラを召喚するつもりだった。

転生した世界で楽に生きたいのであって、世界を征服したい訳じゃない。

例えば同人誌などを千円で販売するとして、一万部売れば売り上げは一千万円になる。現実的に一万部なんて売れないが、一万人のモブキャラを召喚して一部ずつ購入して貰えれば実現可能だ。

召喚するモブキャラに求められる能力に特別な物は無く、働いて貰えればそれで十分なのである。

 

三つ目の特典は、二つ目の特典の召喚対象に不動産を追加する事。これは正直、一つ目の特典と二つ目の特典に使用するポイントを貰おうと思ったのだが、神様が賠償としてまとまった量の初期ポイントとして支給してくれると言うので、僕は召喚対象に不動産を含める事を要求した。

この特典で店を開いて商売するも良いし、持ち家を召喚してニートになるのも良い。持ち家があるのは何かと便利だと判断したのだ。

畑を召喚して、二つ目の特典で召喚したモブキャラに低賃金で働いて貰えば夢のニート生活なのである。

 

ちなみに、特典によって得た能力、道具や召喚した人物、不動産は神様のご都合主義的な力により、その世界の住民に不信感を与えずに当たり前の物として受け入れられるそうだ。

 

 

こうして特典を手に入れた僕は転生した。

もっとも、赤ん坊の時に僕としての記憶と意識があると怪しまれるし、僕の精神衛生的にも良い影響は無いと五歳になるまで僕の記憶と意識は封印されたのだが。

 

「よりにもよってファーストガンダムの世界に、悪役ザビ家の人間として転生とは」

 

機動戦士ガンダム、通称ファーストガンダム。絶大な人気を誇るガンダムシリーズの第一作である。

スペースコロニー群、サイド3がジオン公国を名乗り地球連邦に独立戦争を挑んでくる作品で、独立戦争開戦前には110億だった人口が緒戦の所謂一週間戦争にて28億人が死亡、終戦時の人口は55億人と二人に一人は死亡した作品だ。

さらに言えば、機動戦士ガンダムの続編で、7年後を描いたZガンダムでもグリプス戦争が勃発するなど、争いが絶えず最後は文明が産業革命以前まで衰退してしまう世界である。

 

これが一般市民として転生していれば安全な場所に引き篭もるのだが、僕はジオン公国を支配するザビ家の人間だ。

はっきり言えばジオン公国はザビ家による独裁国家であり、独立戦争に負けて戦争責任を負わされる未来が待っている。

 

人口を半分にした戦争の責任を負わされるのだ、普通に考えて死刑だろう。

まあ、独立戦争でザビ家の人間はほぼ全員が戦死んでいるので、実際に死刑になった人間はいないのだが。

唯一生き残ったザビ家の人間で続編のZ、ZZ、UCに登場したミネバがいるが、彼女は独立戦争終結時でも赤ん坊だったから特殊な扱いだろう。

 

「このままだと、戦争を主導したザビ家の人間として戦争責任を負わされて死刑だし、そもそも戦死する可能性や暗殺される可能性もあるんだよな。あのクソ神、最悪の世界に最悪の立場で転生させやがった」

 

そもそもの話、原作にリヒト・ザビなるキャラクターは存在しなかった。

僕がイレギュラーな存在である可能性もあるし、サスロ兄さんみたいに暗殺される可能性もある。

 

「そもそも、このままだとザビ家の人間として地球に戦争しかけて、世界の半分の人間を殺すんだよなぁ」

 

地球連邦がコロニー側を搾取、弾圧している事は知っている。それ良いことだとは思わないが、だからと言って人口を半分にしてしまう戦争を肯定することは僕には出来ない。

というより、戦後の現代日本で育った僕は戦争自体に良い印象を持っていない。

 

「戦争なんてやらなきゃ良いのに」

 

この僕の主張はザビ家の中でも異端だろうし、リヒト・ザビとして生きてきた5年間の記憶から判断すると大半のスペースノイドに受け入れられない可能性が高い。

地球連邦から搾取されている現実がある以上、当然スペースノイド側には怨みの感情がある。

 

コロニーは地球連邦の植民地である以上、何時かは独立を望む声が上がってくるだろう。

もし地球連邦政府がコロニーの、スペースノイド事を尊重し、アースノイドと区別せずに統治していれば問題無い。

しかし、地球連邦政府の政治はアースノイドを中心に行われている。そもそもスペースノイドも地球連邦市民なのだが、地球連邦中央議会に対する参政権も無く、サイドの首長を決める権限も無い。政治に参加する権利は与えられていないスペースノイドだが、アースノイド以上に税金という義務を押し付けられて入る。

その税金はコロニーを維持する為にも使われているが、その大半がスペースノイドに還元される事はない。

 

「同じ国民なのに住んでいる場所によって権利を与えられず、より重い税金を支払わなければならない。さらに最悪な事に、そんな最悪の場所に移住したのは地球連邦政府が強制したからだし、コロニーの建造費も借金として背負っているって、どう考えてもスペースノイドに不平不満が出る」

 

日本で言えば、選挙権と被選挙権が無くてアメリカあたりの役人がやってきて、勝手に利便性の無いビルなんかの建物を建設して、その建築費が日本の借金になる。ついでにアメリカ国民以上の税金を払っているのに、アメリカ国民以下の福祉サービスって事だ。

作品は違うが、コードギアスの世界のように日本独立を求める声が必ず上がるだろう。

 

「コロニーを作るコロニー公社は地球連邦が100パーセント出資した会社で、その利益はアースノイドにしか還元されていない」

 

そして、この利益の還元にも問題がある。

地球に住むという特権を有したアースノドだが、その実態は一握りの富裕層と貧困層に分かれる。

スペースコロニーに人類が移住した意義は、地球環境の保全と回復だ。地球環境を破壊する行為の一つに、工業などの経済活動がある。

当然、地球での工業は制限される部分があるだろうし、環境を汚染させないクリーンな工場を建設するにも投資が必要だし、コロニーが生産した安価な製品が輸入されてくる。

恐らくこの世界で有名な企業、アナハイムエレクトロニクスも本社は地球だが主な生産拠点は月やコロニーで、これは宇宙で生産した方がコストは安いからだ。

 

こんな事が出来るのは一部の企業だけだ、生産拠点を移転出来ない中小企業は軒並み倒産。

第一次産業にしても林業、漁業は環境保全の名の下に活動が制限され多くの失業者を生み出し、農業も大規模生産が可能なコロニー産に押され失業者を生み出すだろう。

このような貧困にあえぐアースノイドの立場では、自身の仕事、生活を奪ったスペースノイドに対して悪感情がある。

そしてスペースノイドが支払った税金を元手に、アースノイド貧困者に対する福祉が行われている為、アースノイド貧困層はスペースノイドを自身の奴隷と考えることで自分達の精神安定を保っている。

自分達は乞食ではなく、スペースノイドという奴隷を使役する雇用主だと。

 

そんなアースノイドが地球連邦の参政権を有しているのだ、スペースノイドの独立など許すはずがない。

もし許せば、地球には飢餓が蔓延し、アースノイドによる反乱が発生するだろう。アースノイド貧困層を生かす為には、スペースノイドが支払う税金が必要不可欠なのだ。

 

それなのに、地球連邦は将来的にサイド3の自治権を認める。

原作を知る僕とリヒト・ザビ、二人の記憶から推測した暴論なのだが、ある意味ではザビ家の活動のせいだろう。

ジオン公国のコロニー落としにより地球の人口は激減したが、落下による直接的被害の他にも、二次被害として飢餓や疫病による死者も相当数存在する。

この二次被害の死者の大半は貧困者であり、職の無い貧困層は戦争が激化すればするほど、地球連邦軍人という職を手にして戦死していった。

 

批判を恐れずに言えば、地球連邦政府の足かせとなっていた貧困層がジオン公国との戦争で死亡した事で、スペースノイドが支払う莫大な税金が無くても地球連邦政府が養える程度の規模に縮小したのではないだろうか?

さらに言えば、サイド3はスペースノイドの一部でしかない。ある程度の飴を与えることで、サイド3の二度目の独立戦争、他サイドでの独立戦争勃発を抑止したかったのかもしれない。

まあ、ジオン公国が残した借金から逃げた可能性もあるけど。

 

地球連邦政府にしても、スペースノイドを搾取すれば人口は半分になるような独立戦争を仕掛けられるのは悪夢だっただろう。

何しろ単純に考えても市場は半減して経済の規模が縮小するし、コロニー落としで地球環境が激変する。戦争特需はあっただろうがそんな物は一過性だ。

ジオン公国内の穏健派に自治権を与え、戦争の責任を全てザビ家に押し付けた方が後々スペースノイドを統治し易いと判断したのだろう。

サイド3側にしても、借金は残ったが自治権という成果を手にしている。独立戦争でガス抜きも出来ているし、自分達の事は自分達で決められる土壌も出来た。借金も公国のMS技術売却で返済しているから、一般市民の不満は少なかったはずだ。

 

「まあ、全ては学の無い僕の妄想なんだけど。だからと言って独立戦争に賛成できない」

 

独立運動なら賛成するのだが、これからどうすれば良いんだ・・・

一つ言える事は、絶対にニートにはなれないって事だけは決定している。

ニートが一定数存在する社会って、実は平和な証拠なのかもしれない。

 

 




亀更新なると思いますが、宜しくお願いします。

2015/12/29 修正
①主人公を三男から四男に修正
②ガルマの年齢を修正

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