Dragon Ball KY   作:だてやまと

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ヤムチャVSマジュニア 後編

「ちっ……やるしかないか」

 ヤムチャもまた気を溜めはじめる。気功波として扱えるヤムチャの技は二つ。かめはめ波と操気弾だけだ。かめはめ波は威力に優れて気の消費もほかの技に比べると控えめという、実にスタンダードかつ有用な、悟空を含めた戦士たちにとっては基本であり切り札ともなり得る技。

 操気弾はヤムチャが独自に開発した技であるが、こちらは少々エネルギー効率が悪く、一発当てるだけではかめはめ波ほどの威力には至らない上に、かなりの気を消耗する。

 それでも、ヤムチャには愛着があったし、何よりも活用法として幅広いのは操気弾である。そもそも、気の総量で負けているのだから、かめはめ波で力勝負に挑んでも結果が見えている時点で選択肢は無いに等しい。

「いくぞ、操気弾!!」

 気を溜めるというシンプルな所作ひとつではあるが、実年齢で言えば三歳であるピッコロより気の扱いに慣れていた。無論、過去の大魔王であった頃の生まれ変わりに近いわけであり、純然たる三歳児でないことは明白であるが、ヤムチャもまた過去の五十年がしっかりと感覚として残っている。先に技を完成させたのがヤムチャであったのは、経験の差である。

「ぬっ!?」

 気を溜めている最中であったピッコロが、ヤムチャの放った操気弾に反応して逃げる。しかし、避けられても無駄にならないのが操気弾の長所である。

 気の技術が過去に比べて飛躍的に向上しているヤムチャの操気弾は、もはや操作に両腕の所作を伴う必要はない。素早く追尾する操気弾に続いて、ヤムチャ自身も突撃する。

「なっ!?」

 困ったのはピッコロである。得意分野で勝負を仕掛けようとしたら、あろうことか先に相手が技を出してきた上に、本人まで来た。しかも気弾はまるで生き物のように追尾してくるのである。

「先に気弾を潰す!」

 操気弾を潰そうと、ヤムチャの攻撃を掻い潜って小さな気弾を撃つが、操気弾が、ピッコロの気弾を避ける。これにはピッコロも驚愕である。自動追尾の気弾はピッコロも撃てるが、相手を自動で追うだけあって、相殺も容易であるという弱点があったはずなのだ。

 操気弾は自分やクリリンの追尾弾とは違う。そう勘づいたが、時すでに遅し。気弾を放った隙をヤムチャが捉えていた。

「かめはめ波ッ!」

 最大限に貯めた気ではないが、それでも強力な必殺技たるかめはめ波と、操気弾の挟み撃ちである。喰らうと明らかに不味いかめはめ波にまずピッコロの意識は向き、これを相殺。当然、ヤムチャはこれを読み切っている。

 本命は操気弾。かめはめ波を相殺するために足止めされたピッコロに最早、避ける術などない。

 猛追してきた操気弾の直撃を食らったピッコロは、流石に堪えたのか吹き飛ばされる。以前はここで油断して反撃を食らったヤムチャだが、そもそもまだ操作可能なわけであるし、彼我の実力を把握していれば油断しようがない。

 操気弾による連打。それがヤムチャの戦闘スタイルを追求した上での最も好ましい必殺技だった。

 二発、三発と的確に操気弾の攻撃がピッコロにヒットする。ドッヂボール大の気弾が、まるで人間をボールのように蹴り飛ばしているようにさえ見える。

 クリリンは修行の中で、取り分け狼牙風風拳を鍛えるヤムチャしか見ていなかったのだが、どうやら操気弾と狼牙風風拳はその性質が似ているようだ。獲物を追い詰めていくさまは、どこか共通している。

「舐めるなッ!!」

 しかし、これにはピッコロも屈しない。渾身の力で気弾を放って操気弾を打ち消し、攻撃に転じてきたのである。

 再び打撃戦に移行するとみたヤムチャが待ち構えるも、ここでピッコロ、大きく腕を伸ばすというナメック星人ならではの戦闘スタイルを取る。格闘戦であるのに一方的な間合いで戦えるこの手法はヤムチャにとっては驚異である。慌てて逃げようとするが、足を掴まれ、一気に引き寄せられる。

 そのまま強烈な殴打を頬に喰らって、ヤムチャは武舞台に叩きつけられた。これに追撃をしようとするピッコロであるが、流石にド派手に倒れたヤムチャに、審判がダウンを宣言。カウントに移行する。

「ワン、ツー、スリー」

 この大会に参加した理由が孫悟空打倒であるピッコロとしては、流石にルールを無視して攻撃に転じることができない。ヤムチャは半ばルールに救われる形になったが、流石にピッコロの怒りの一撃を顔面に食らっては、ダメージが無いわけがない。

「フォー、ファイブ、シックス……おっと、ヤムチャ選手立ち上がりました!」

 しばらくゆっくりと休み、ヤムチャは軽やかに立ち上がる。さて、とりあえず実戦で狼牙風風拳と操気弾が有用であることは確認できたのだが、問題はこの勝負である。既に手の内の半ば以上を見せてしまったヤムチャとしては、ここからは同じことの繰り返しとなってしまう。一度見た技をそうそう食らってくれるピッコロではあるまい。

 しかし、それはピッコロにとっても似たような状況であった。先ほどのクリリンといい、このヤムチャといい。勝てるとは思うが、いくらなんでも強すぎる。

 クリリンはそれこそ、場外というルールによって下したが、流石に同じ戦法を二度とは使えまい。孫悟空という父を倒した相手だけが危険だと踏んで、それ以外は単なる雑魚だと考えていたが、明らかにクリリンとヤムチャは孫悟空の強さに迫っている。

「こうなれば、この島ごと吹き飛ばして、まとめて殺すしかないか」

 試合である以上、殺しては不味いが、そもそも孫悟空を殺すのが目的のようなものであるからして、特に不都合は無い。ゲームを楽しむという目的も無いわけでは無いが、孫悟空とクリリン、ヤムチャが徒党を組んで迫ってくると、流石に負ける。

 ピッコロは意を決して上空高くに舞い上がる。全力を出し切れば、おそらく自分も疲労で立てないだろうが、相手は全員死んでいる。水さえあれば生きられるナメック星人である。食料には困らないので、ゆっくり休めばそれで世界征服は完了したと同義である。

 空中戦では得意の狼牙風風拳の真価を発揮できないヤムチャは、ピッコロの行動を観察しながらも危機を察知して気を高め始める。突っ込んでくるにしろ、気功波を撃つにしろ迎撃には最適のかめはめ波がベストであろう。

 対するピッコロもまた、気を溜め始める。気の総量で言えばヤムチャより上を行くピッコロである。おまけに爆裂魔波という技は全方位に放つ上であの威力である。それを指向性を持たせて、照準を絞ることによって凝縮。威力はさらに高まることになる。

「やべえ。ありゃ、やべえぞ」

 気の高まりにただ事ではないと気づいた悟空とクリリンは、イザというときのためにやはり気を貯める。間違っても試合に水刺すような二人ではないが、せめて仲間を連れて逃げればドラゴンボールで会場の人間を蘇らせることができるという算段の悟空と、一度死んでいるクリリンはもう死ねないので、防御のためである。

 一方、せっかく一回戦を勝ち進めてようやく暫定トップレベルの武闘家となったヤムチャは、逃げることを許されない。

「か……め……は……め……!!」

 最大限に高めた気を両の掌に集中させて、さらに練り上げる。冷静に考えれば若干変な技名をわざわざ呟くのは、実のところその言葉が不思議と気を集中させる呼吸にしっくり来るからだ。亀仙人が狙ってつけた名前なのかは知らないが、悟空以下仲間たちはこの技名の呼吸を重用している。

 ヤムチャの気の高まりに、ピッコロはさらに狙いを絞って武舞台とその周囲に限定する。これで悟空とクリリン、ヤムチャは確実に葬れる。

「はあああっ!!」

 こうして、マックスパワーの爆裂魔波がピッコロの掌から放たれる。凄まじいエネルギーの余波で突風が巻き起こり、観客たちは途端に阿鼻叫喚に陥る。悟空は大慌てで先ほど結婚したばかりのチチと、隣にいた天津飯を。クリリンはやはり近くにいた審判を抱きかかえて全力で逃げ出した。

「波ッ!!!」

 ヤムチャは既にそんな周囲のことなど見えてはいなかった。極限にまで高めた気を一気に放出。特大の――勿論、この時の周囲の感覚で言う特大ではあるが――間違いなく、ヤムチャの現状の最大瞬間火力をピッコロに向けて放った。

 爆裂魔波とかめはめ波は両者を結ぶ線上で激しくぶつかり合う。バチバチというスパーク音が鳴り響き、余波で会場全体に熱波が走る。

「はああああっ!!!!」

「ぐ、ぐぐっ!」

 全力のピッコロとヤムチャの必殺技合戦は、流石というべきか、ややピッコロの有利に進む。これには観客も身の危険を感じたのか、身を竦めるもの。或いは逃げ出すものが続出して、会場はまさしく阿鼻叫喚に陥った。

「おっと、これはヤムチャ選手のかめはめ波を放ち、マジュニア選手も似た技を放っております。ややヤムチャ選手不利か!!」

 審判、まさかのクリリンの腕の中での実況再開である。半ば呆れつつもクリリンは安全圏に逃げると、審判の心意気も組んでヤムチャとピッコロの激しい攻防を見守るべく空を舞う。審判も最早、空を飛ぶクリリンのことなど不思議がることもなく、懸命に理解の範疇を超えた超常現象の行方を、誰が聴いているのかも構わずに言葉にしている。

「クリリンさん、どう思われますか?」

 そしてまさかの即席コメンテーターへの起用である。もはやプロ根性と呼べるレベルではなく、執念すら感じさせてくれる。よくよく考えれば、この天下一武道会にて既にピッコロ大魔王の存在を知り、セルを倒したのがサタンでないことも見抜いていたりと、影の理解者であったのだ。事実、審判の胸の内は恐怖よりもこの強烈すぎる試合の行方に傾いており、クリリンというこれまた超実力派の戦士が自分を守ってくれていることもあって、俄然実況を進める気でいる。

「えっと、とりあえず見たまんまですね。このままだとヤムチャさんが危ないです」

 思わず普通に答えてしまったクリリンだが、おそらくヤムチャなら堪えるだろうという憶測の元、冷静さを取り戻している。

 じりじりと押されているヤムチャは、それこそ決死の覚悟でのかめはめ波であり、その威力は悟空のそれと比べてもほとんど大差はない。やや劣るにしろ、相対するピッコロの技が爆裂魔波の凝縮砲でなければ押し返していたであろうレベルである。

 しかし、流石に限界だった。気の総量で劣る上に、相手の技が明らかにまずい。精一杯のかめはめ波は遂に爆裂魔波に飲み込まれ、ヤムチャは咄嗟に両腕で身体をガードして耐えようとする。

 ずん、という音と共に爆裂魔波がヤムチャを包み込み、光が爆ぜる。サングラスをしている審判は光の中で辛うじて堪えるヤムチャの姿を確認するが、喧嘩中とはいえ恋人たるブルマは卒倒しそうになる。

「ヤムチャ様!!?」

 それ以上に慌てふためいていたのはプーアルだった。飛び出したいのを何とか堪えて、ヤムチャの無事を祈るが、それでも身体は自然と前に行く。ウーロンが尻尾を捕まえて懸命にそれを制止しなければ爆裂魔波の余波で吹っ飛んでいたかもしれない。

 ピッコロは光がヤムチャを包み込むのを確認すると、流石に気のほとんどを放出した反動か、ふらふらと漂うように武舞台に降り立つ。孫悟空たちを殺せなかったのは失敗ではあるが、少なくともヤムチャという強敵は屠ったのだ。試合中の事故として片付けられれば、よもや生まれてこの方、個人として何か悪いことをしたわけでもない自分を悟空は攻撃できまい。

 後は、試合を放棄してクリリンと悟空を片方ずつ、順番に殺していけば天下は目の前である。天津飯もかなりの達人ではあるが、今のピッコロの敵では無い。

 そんな思案をするピッコロであったが、予想外な出来事が起こる。爆裂魔波が直撃した部分――ヤムチャのボロクズのような死体が転がっているであろう場所が、もぞもぞと動き出したのである。

「くはっ……流石に痛いで済むレベルじゃないな」

 無論、ヤムチャである。倒れ方がなんとなく、栽培マンの自爆を喰らった後のような感じであったので一瞬ヒヤリとしたクリリンであったが、完全に油断していたあのときとは違い、かめはめ波で随分と威力を相殺した上で、咄嗟とはいえどガードまでしたのだ。相当のダメージを喰らってはいるが、死ぬようなことは無い。

「おおっと、これは凄まじい!! ヤムチャ選手何とか堪えきった模様です。しかし、ダウンのまま起き上がれません。ワン、ツー、スリー……」

 審判に司会に実況にと、とにかく多忙な審判は忙しなくカウントを取り始める。ヤムチャの無事に一同は喜び、ピッコロは驚いて呆然としているが、ダウンした相手に殴りかかるとなれば、流石に悟空も黙っては居ないだろう。

 一方、ヤムチャは懸命に起き上がろうとするが、如何せん気を使い果たしている上に、肉体もボロボロである。立ち上がることは出来るかもしれないが、そこまでだ。余力としては、まだピッコロに分がある。

「へへ。まあ、一回戦敗退じゃなかっただけマシか」

 ヤムチャはそれだけを呟いて、どうと武舞台に寝転がる。やるだけやったのだ。これが結果ならば受け入れざるを得まい。

「エイト、ナイン、テン……マジュニア選手、激闘の末にヤムチャ選手をKO。遂に決勝戦への切符を手に入れました!!」

 審判の言葉に、ヤムチャは不思議と爽やかな気分でよろよろと立ち上がると、飛びついてくるプーアルの頭を撫でながら拍手の中、武舞台を後にした。




最大限、狼牙風風拳をその名前から理論立てて活躍させてみました。

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