Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia   作:ローレンシウ

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第七十五話 Familiar of the Void

ルイズらから《上級瞬間移動(グレーター・テレポート)》の件で質問攻めにされたディーキンは、いささか困惑していた。

 

この世界では瞬間移動系の呪文が一般に知られていないということは把握していたので、きっと驚いてくれるだろうとは踏んでいた。

だが、調査に入る前のちょっとしたサプライズ程度のつもりで、悪戯心以上のものはなかったのである。

それゆえに、予想外の反響の大きさに少々戸惑ったのだ。

 

(ウーン、でも……)

 

確かに冷静に考えてみると、瞬間移動の呪文が無いということは、瞬間移動に対する防御呪文の類も当然無いということだ。

そうした世界において瞬間移動ができることがどれほどの強みになるかを考えれば、皆の反応もそう過剰だとは言えないのかもしれない。

窃盗でも暗殺でも破壊工作でも、何でもやりたい放題で、露見する心配もほとんどないだろう。

 

そういえばフーケ騒動のときにもそのことはちょっと考えてみてはいたのだが、すっかり頭から抜け落ちていた。

自分の世界の常識から外れたことというのは、やはり本当の意味で理解するのはなかなか難しいものだ。

 

「ええと……。ディーキンは本当に、そんなに大したことはしてないんだよ……」

 

ディーキンはとりあえず、そう言って皆を落ち着かせながら、ひとつひとつ質問に答えて説明していった。

 

まず、フェイルーンでは瞬間移動の呪文は、ある程度高等ではあるもののごく一般的なものだということ。

一般的であるがゆえに、当然そういった呪文に対する防御法や対処法も確立されていて、重要な施設などでは対策がなされていること。

そして、先ほどの呪文はスクロールから発動したものなので、自力で使えるわけではないということ、などなど……。

 

そういった話を聞いた一同は、しきりに感心したり、驚いたりしていた。

 

「はあ……、ディー君の住んでたところって、スゴいのねえ。

 きっとこっちよりも、ずいぶん魔法が発達してるところなんでしょうね?」

 

もしかしたらあの恐ろしいエルフたちよりもなお優れているのでは、とキュルケは考えた。

 

先住魔法は強大だが、その原理は精霊の力を借りることによるものだ。

いかに強力な精霊といえども、空間を飛び越えて移動するなどということが出来るとは思えない。

 

しかし、ディーキンははっきりと首を横に振った。

 

「イヤ、そんなことはないの。むしろこっちの方が、魔法がずっとたくさん使われてると思うよ。

 ……ねえ、あんたもそう思うでしょ?」

 

「ん? ……まあ、そうでしょうね」

 

ディーキンから唐突に話を振られたエンセリックは、特にひねくれてみせるでもなく、素直に同意した。

 

「フェイルーンの一般的な人間の社会では、魔法はごく限られた一部の民のものです。

 一般人は、少なくとも日常的には、ほとんど恩恵にあずかってはいませんよ。

 ウィザードやソーサラーの数にしても、こちらのメイジの数に比べればごく僅かなものですからね。

 魔法の社会への普及度においても、その使い手の数においても、こちらの方がずっと勝っていることでしょう」

 

「……そ、そうなんですか?

 でも、あのラヴォエラさんのような、天使様もおられるところなのに……」

 

シエスタが疑問を口にする。

 

「いえ。彼女のようなセレスチャルは、魔法による召喚に応じた場合以外では物質界には滅多に姿を見せません。

 そういった異次元界の存在と頻繁に関わりを持てるのも、やはりごく一部の者だけです。

 一般人のほとんどは、天使にも悪魔にも、エレメンタルにも、まず生涯一度も出会うことさえありませんよ」

 

「まあ……、つまりその亜人の坊主は、元いた世界でも大したやつだってことなんだろ。エン公よ」

 

シエスタの背負っているデルフリンガーが口を挟んだ。

 

「そう言うことになりますかね、デル公君」

 

「だろうな。そりゃあ仮にも、俺の相棒の先生だしな!

 そんだけ力があって、『虚無』みてえな力まで使えるんだからよ。

 大したことないなんてわけがねえやな!」

 

なぜか嬉しそうに、かちゃかちゃと金具を鳴らしてまくしたてる彼のその発言を、ルイズが耳聡く聞きとがめた。

 

「……ちょ、ちょっと待ちなさいよ。今なんて言ったの?

 確か、『虚無』がどうとか……」

 

「ん? ……ああ、俺もさっきおめえらと瞬間移動したときに思い出したんだけどよ。

 ブリミルも、たまにああいう呪文使ってたんだよな」

 

「し、始祖と同じ呪文って……、そんな、まさか!」

 

「まさかも何もねえよ、本当のことだぜ。ああいうのは『虚無』以外の四系統や、先住じゃ無理だな。

 ……そうそう、それにおめえの使ってる、あの爆発みてえなやつもだぜ」

 

 

 

――――その発言の後は、当然のように大騒ぎ(主に騒いでいたのはルイズだが)となり。

 

しばらく皆であれこれ話し合ったり、情報交換をしたりすることになった。

といっても、実質的に話し合いに参加できるような情報を持っているのは、ディーキン、エンセリック、デルフリンガーの3者のみ。

後の者は、おおむね彼らの話を聞いているだけだった。

 

「なるほど、デル公君の今覚えている限りの、『虚無』の呪文の話から判断するに……。

 私どもの世界における、テレポートやゲート、ディスペル・マジックや、ディスインテグレイト……。

 それにメジャー・イメージやプログラムド・アムニージアなどの呪文も、『虚無』とやらに分類されるようですね。

 もちろん、他にもたくさんあるかもしれませんがね」

 

「ほほう? エン公や亜人の坊主のいた世界じゃ、『虚無』の呪文はそんなふうに呼ばれてんのか?」

 

「ええ。しかし、フェイルーンではそれらは特にその他の呪文との違いはなく、ごく一般的なものです。

 系統も召喚術、防御術、変成術、幻術、心術など、多岐にわたっています。

 レベルについても、とても高いものからごく低いものまで、様々なようですね」

 

「なんとまあ……、『虚無』の使い手が珍しくもねえってのかい?

 こりゃまた、おでれーたぜ!」

 

「まあ……、もちろん、性質が同質であっても、規模やレベルの点で差異はあるかもしれませんがね。

 ブリミルなる人物が、君の言うように一軍をも壊滅させるほどの規模の術をも扱ったというのなら、エピック級かも知れません。

 それに、驚いたのはお互いさまというものですよ。

 こちらでは物質の組成を恒久的に組み替え得るような高等呪文が、非常にありふれていて基本的なものだというのですからね!」

 

「あん? 『錬金』とかのことか?

 おめえらのいたとこじゃあ、使ってねえってのか?」

 

「うん。前にも話し合ったけど、こっちの世界とフェイルーンとは、何千年か前までは行き来があったと思うの。

 別れた後で、魔法の体系が変わっていったんじゃないかな?」

 

「そうらしく思えますね。ただ、こちらの方で重要な呪文がいくつも『虚無』に組み入れられて失伝した理由は不明です。

 同様に、『錬金』のような高度だったはずの呪文を、低レベルのものにすることに成功した理由もね……」

 

エンセリックは、話を続けながら思案を巡らせていた。

そこへ、黙って聞いていたタバサが口を挟む。

 

「……逆の可能性は?」

 

「うん? なんですか、賢いお嬢さん」

 

「逆。私たちの方が元で、それがあなたたちの方に行って変化した。

 そういう可能性は、無い?」

 

「ええ、もっともな疑問ですね。

 ……ですが結論からいえば、双方に言い伝えられている歴史を考慮すると、おそらくそれはないかと思いますよ」

 

「歴史?」

 

「ふむ、ああ……。

 そういうのは私よりも君の方が専門でしょう、任せますよ」

 

首を傾げる周囲の面々に対して、説明を面倒がったエンセリックから話を振られたディーキンが、代わって話をしていった。

 

「ええと……、こっちでは、ブリミルっていう人が今いるメイジの始祖なんでしょ?

 確か、六千年くらい前の人だったよね」

 

「ええ、そうですわ。その始祖の血を引く子たちが興したのが、ガリアやアルビオンなどの諸国家なのです」

 

ディーキンはオルレアン公夫人のその言葉にひとつ頷きを返すと、説明を続けた。

 

「うん……。だけど、フェイルーンで最初に魔法の力で栄えた王国は、それよりもっと、ずっと古いっていわれてるの」

 

「始祖よりも古いって……、どのくらいよ?」

 

「ウーン、細かいことまでは、わからないんだけど……。

 ええと、『ネザリル』っていう、人間の支配する魔法の帝国ができたのが、たしか一万年とちょっと前だよ。

 それで、その王国は何千年も続いて……、だけど結局は滅びたの。それが、今から千何百年か前のことだ、って言われてる」

 

「そ、そんなに!?」

 

驚きに目を見開くルイズに、軽く頷いて見せる。

 

「うん。……だけど、それはまだ“人間の”国の話なの。

 エルフは、ネザリルの魔術師たちは最初に、何もかも自分たちから学んだって言ってるんだ」

 

「エルフから人間が? まさか!」

 

キュルケは、信じられないというように声を上げた。

 

他の面々も、おおむね同じ気持ちのようだ。

エルフを恐れ、何千年にもわたって敵対しているハルケギニア人の常識からすれば、確かに信じがたいことなのであろう。

 

「もちろん、本当にそうなのかはわからないけど……。

 エルフの王国がネザリルのできるよりずうっと前からあった、って言うのは本当のことなの。

 少なくとも二万五千年くらい前には、もうエルフたちの繁栄は始まってたんだって。

 大勢のエルフの魔術師たちが集まって、大陸を分裂させるくらいすごい魔法を使ったりしたこともあったそうなの」

 

「……に、二万五千年……」

 

あまりにスケールの大きい話に、一同は驚いたり困惑したりした様子で、互いに顔を見合わせている。

タバサだけは、いつもの無表情のままだったが。

 

「だけど、彼らもやっぱり、一番最初に繁栄した種族っていうわけじゃないんだよ。

 それ以前に……、記録に残ってる限りでは世界で最初に繁栄していた種族のことを、『創造種』っていうの。

 彼らの繁栄したのが、三万年から四万年くらい前のことで……、それより前には世界はとても寒くて、氷で覆われていたらしいんだって」

 

そこでエンセリックが口を挟んで、皆の注意を元の話に引き戻した。

 

「ああ、そのあたりで結構ですよ。よい講義を、どうもありがとう。

 今は歴史に深入りするのはほどほどにしておくとして、まあとにかく、そういうわけです。

 ですので、六千年ほどの歴史だというこちらの魔法文明の方が先にあったと考えるのは論理的に無理だということですね」

 

「わかった」

 

タバサが納得して頷いたのを見てから、エンセリックは話を続けた。

 

「それで、先程の話の続きに戻りますが……。

 より根本的な疑問としては、なぜ魔法体系の分類を五大元素に分けるように変更したのか……。

 それはあるいは、元からこの地にその分類に基づく元素への親和性を持つ、貴族の血統が根付いていたからなのか。

 だとすれば『虚無』が失われたのは、ここではその素養を持つ者が生まれることが稀だったからという、ただそれだけの理由なのか?」

 

半ば皆に説明するような、半ば独り言を呟くような調子で語っていたエンセリックは、そこでしばし言葉を切った。

次いで、ひとつ溜息を吐く。

 

「……しかし、こんな分析はまるで的外れなものなのかもしれません。

 いかんせん、情報が足りませんからね」

 

「ンー、そうだね……。デルフは、他には何か覚えてないの?」

 

「すまねえ。忘れた」

 

「まあ、私どもの世界の方でも、“災厄の時”などで大分変化は起こりましたからね……。

 こちらでも何かあったのだろうとは思えますが、今のところは情報がろくにありませんから、何かあったのだろうと推測するのみです。

 ……現在のところでは、わかるのはこのくらいまでですかね?」

 

ディーキンはエンセリックの出した結論に同意するように頷くと、そこで、じっと聞き入っているルイズの方に顔を向けた。

 

「アア、ところで、さっきのデルフの話からすると……。

 ルイズは、『虚無』の属性のメイジだってことになるのかな?」

 

「……っ、」

 

突然そんな話をされたルイズは、息を呑んで使い魔の顔をまじまじと見つめ返し……。

次いで、意見を伺うように、エンセリックとデルフリンガーの方に目を向けた。

 

「ええ、それらしく思えますね。事実、お嬢さんに召喚された君自身が、『虚無』と呼ばれているのと同種の力を使えるのですからね。

 メイジに相応しい使い魔が呼ばれるという、こちらの原則にも合います。どうです、デル公君?」

 

「ああ、間違いねえと思うぜ。武器屋で坊主が俺を持った時、なんか変な感じがしたしよ。

 ガンダールヴじゃなくても、『虚無』の担い手に召喚された使い魔だったから、そんな風に感じたんだろうな」

 

2振りの剣たちは、ディーキンの推測をごくあっさりと肯定した。

 

「そうね、ルイズが伝説の系統だなんて、ちょっと驚きだけど。

 言われてみると、納得がいくことが多いわ」

 

キュルケもそう言って、うんうんと頷く。

タバサは何か思うところでもあるのか、じっとルイズとディーキンとを見比べていたが、その考えに反対だというわけではないようだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、いきなりそんなことを言われても!」

 

「そうですね……。あなたはトリステインの名門、ヴァリエール公爵家の御令嬢なのでしょう?

 ならば、王家の血を引く者。『虚無』の素養が開花しても、不思議ではありませんね」

 

オルレアン公夫人もまた、そう意見を述べた。

しかし、当のルイズ自身は、まだ納得がいっていないらしい様子をしていた。

 

「私は……、その、変わった素質はあるにしても……。

 未だに『ゼロ』のルイズなのよ? それが、急に始祖の系統だなんて……」

 

そんな考えをすること自体が自惚れているような、畏れ多いような気がして、ルイズは眉根を寄せた。

そこにエンセリックが、特に深刻そうでもないのんびりした調子で口を挟んだ。

 

「お嬢さん。まず、先程も言ったとおり、こちらの『虚無』とやらは……。

 少なくとも力の種別としては、私どもの世界の方では、特に変わった代物というわけでもないのですよ。

 ですから私としては、特に自惚れる必要も卑下する必要も無いかと思いますがね。

 伝説だの始祖だのと、あまり気負われなくともよいでしょう」

 

ディーキンも、頷いて同意を示した。

 

「そうなの。別にルイズが何の系統でも、ディーキンがルイズの使い魔をやってることには関係ないの。

 それに、もし本当にそうだとしたら、ルイズが魔法を使うには『虚無』について調べればいいってことになるからね。

 どうすればいいか分かったってことは、一歩進んだってことでしょ? それはいいことだよ」

 

「…………そ、そうね」

 

他人事だと思って気楽な事を……、という気持ちもあったが。

周囲の皆が自分を見る目が、本当にいつも通りで何も変わらないのを見ていると、ルイズも次第に落ち着いてきた。

 

冷静に考えてみれば、まだ自分が『虚無』だと決まったわけでもないのだし。

仮にそうだとしても、その呪文の唱え方がわかったわけでもない。

現状では特に何かが変わるわけでもないのだから、確かに狼狽する必要も舞い上がる必要も無いだろう。

 

「わかったわ、本当かどうかはわからないけど、とりあえず、ありがとう。

 ……じゃあディーキン、タバサの方の用事が終わり次第いろいろと調べてみるんだから、協力をお願いね。

 あんたたちの世界の『虚無』にあたる呪文のこととかも、後で聞かせなさいよ!」

 

そう言って笑顔を見せたルイズに、ディーキンはにっと笑い返した。

 

「もちろんなの、ディーキンは期待に応えるよ!」

 

それから、ひとつ付け加える。

 

「……アア、その情報のことだけど。ディーキンには『虚無』について、ひとつ知ってることがあるよ。

 ディーキンのいたところでも、フェイルーンとは別の大陸では、5つの元素に分けて魔法を分類してるそうなの。

 そこには、“ヴォイド・ディサイプル”っていう、『虚無』を専門に使うメイジもいるんだって」

 

皆の注目が集まる中で、ディーキンは荷物袋の中から、一冊の古い、比較的薄い本を取り出した。

 

「この前ラヴォエラに頼んで、ボスからそのカラ・トゥアっていうところについて書いてある本を送ってもらったの。

 あんまり詳しいことまでは書いてなかったけど……、今度、もっといろいろ調べられないか聞いてみるね」

 

それから、ディーキンは本を開いて、『虚無』について触れている部分を、詩を吟じるようにして読み上げていった。

 

 

 

 

 世界を形作る元素の力は4つ、地・水・火・風である

 

 されどそれらには含まれず、何も形作らずして形作るもの、見えずして存在するもの……

 最も強く、最も制御することの難しき力、“第5の元素”がある

 

 第5の元素とは、すなわち『虚無』である

 

 それは、他の元素の間にあってそれらを結びつけている力である

 ゆえに実体は無く、何も形作ることはできず

 しかして確かに存在しており、他の元素が何物かを形作るにあたっては不可欠のものなのである

 

 それは、たとえるならば一曲の歌の、音符と音符の間にある空白に似ている

 音符は、地・水・火・風の各元素であり、その間に『虚無』がある

 ひとつの音と、次の音の間には何もない……では、その空白部分は不必要なのであろうか?

 

 もちろん否である

 その空白こそがそれぞれの音にリズムを与え、単なる音を妙なる調べと成すのに不可欠なものだからだ

 

 この力を修めんとする者は、『虚無』と他のすべての物との関わりを理解し、その関係を感じ取るべし

 さすれば、物と物との間にある距離や時間、個々の形などというものは、取るに足らぬものだと悟るであろう

 

 …………

 

 

 

 

「……虚無……」

 

無意識にそう呟きながら、タバサはようやく得心がいったような思いがしていた。

 

ああ、そうか。

だから、あの人はルイズの使い魔だったのだ。

 

伝説の『虚無』がそのようなものであるならば、そして、ルイズがその担い手であるのならば。

確かに詩人であり、人を動かす力に長けたディーキンは、それに相応しい存在だろう。

 

しかし同時に、少し寂しいような気持ちもあった。

 

もちろん、ディーキンを自分にとっての勇者だとも感じているタバサには、今更彼が自分の使い魔だったなら、などと望む気持ちはない。

仕えるべき勇者を使い魔にしたいだなんて、そんなことをどうして思えようか。

けれども、それでもルイズと彼の間には確かに絆があって、自分との間には何も無いのだと改めて感じさせられると……。

彼自身はそんなことを気にしないと確信しているにしても、なんだか無性に寂しかった。

 

それに、彼の世界では珍しくないことであるにもせよ、伝説の系統の使い魔で、しかも自分自身でもそれと同じような力を使えるだなんて。

近くにいるのに、なんだか遠く高い、手の届かない存在になってしまうような気がした。

少し前までは、自分の力や知識には、確かな自信があったのに……。

今では、何だかひどく自分が頼りなく無知な、小さな存在になってしまったように思えてくる。

 

(私には……。彼に相応しいようなものは、何もないのではないか)

 

そんな願望を持つこと自体が、勇者に対する不敬だとしても。

 


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