Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia 作:ローレンシウ
「矮小なモータルどもよ。貴様らが終にバートルへ堕ちる日が来るまでは、これ以上我らを煩わせぬことだ!」
ゲートから姿をあらわしたピット・フィーンドは、腕組みをして目の前の定命者たちを冷たく見下しながら、そう言い捨てた。
先ほどのキュトンどものように問答無用で攻撃してこないのは、相手の力をそれなりに警戒しているからなのだろうか。
あるいは、儚い彼女らの命などではなく、永遠の魂を手に入れる機会を窺っているからかもしれない。
いずれにせよ、タバサは怯えた様子もなく一歩進み出ると、その巨大な敵を冷たく睨みつけた。
「父を返して。すぐに」
その要求に対して、相手の側からは嘲りと蔑みに満ちた返答が返ってくる。
「愚かな。一連の無粋かつ不当な介入の末に、言うことがそれか。盗人猛々しいとは正にこのこと。あの囚人は元よりバートルの所有物、貴様らのものなどでは――」
タバサは相手の言葉が終わるのを待たずに、無造作に杖を振った。
一瞬のうちに複数の氷の矢が形成され、四方八方から悪魔を串刺しにせんと襲い掛かる。
だが、先ほどのキュトンたちとは違ってピット・フィーンドには動じた様子もなく、それどころかかわそうとさえしない。
降り注いだ氷の矢はことごとく、悪魔の体表で硝子細工のように砕け散り、蒸発していった。
その体を覆う赤い鱗には、傷ひとつさえもついていない。
怒りによってスクウェア・クラスにまでランクアップした彼女の魔力をもってしてもなお、強力な呪文抵抗力やダメージ減少能力によって幾重にも守られたこの恐るべきデヴィルを穿つには力が足らなかったのだ。
ピット・フィーンドは依然として腕組みをしたまま、戸惑うタバサを侮蔑しきった目で見下しながら、ただ一言、何事かを呟いた。
何とも形容のしがたい、おぞましい響きの言葉を。
「……!!」
タバサはその言葉を聞いた途端、全身に怖気が走った。
本当に、耳で聞いたのかさえもわからない。
声が全身の皮膚から浸透し、骨まで軋ませながら食い込んでくるような、頭の中まで穢されるような錯覚に襲われ、意識が混濁して、数秒間は何を考えることもできなかった。
がらんがらんと大きな音を立てて、大切な父の形見の杖が床に転がる。
拾おうにも全身の筋肉が萎え、麻痺して、身動きひとつすることもできなくなっていた。
ピット・フィーンドが放ったただ一言の《冒涜の声(ブラスフェミィ)》に打ちのめされて、タバサは恐怖に目を見開いたまま、その場に立ち尽くすしかなかった。
「タバサ、大丈夫!?」
ディーキンが彼女に呼びかけながら、対峙する両者の間に割って入る。
ピット・フィーンドが軽く口の端を歪めながら、今度は彼の方に手を伸ばそうとした、ところで。
「……ぬう?」
痛みこそないものの、横合いから体に不快な衝撃を感じて、そちらの方に目を向け直した。
そこには、銀の短剣を手にしたジョゼフが立っていた。
彼はまたしても『加速』の力を使い、ディーキンも気づかぬうちに悪魔の懐へ入り込んで、その脇腹を斬り付けたのだ。
しかし、ジョゼフは顔をしかめて、手にした銀刃と自分が斬り付けた箇所とを交互に見つめていた。
短剣は硬い鱗に力任せに当てたために刃こぼれを起こし、それだけ強く叩きつけたはずの相手の体には、傷ひとつついていない。
キュトンとは違い、ピット・フィーンドのダメージ減少能力は、善の力によって聖別されていないただの銀の刃では克服することはできないのである。
刀身には強力な麻痺毒が塗ってあったが、これもデヴィルには通用しない。
「どうやら貴様には、こいつでは効かんらしいな……」
そんなジョゼフの呟きに対する相手の返答は、攻撃だった。
鋭い爪の生えた腕が目にも止まらぬ速さで振るわれ、矮小な人間の体を叩きのめそうとする。
「危ない、ジョゼフさん!」
ディーキンが叫んだ。
しかし、確かに相手の体を捉えたと見えた爪は、虚しく宙を薙ぐ。
「なんだと……?」
ピット・フィーンドは呆気にとられて、自分の手を見つめた。
一体、なにが起きたのか。
瞬間移動か、それとも幻覚の類か。
でなければ、《時間停止(タイム・ストップ)》のような……?
「どこへ……」
「『エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ』……」
やや離れたあたりから詠唱の呟きが聞こえてきて、ピット・フィーンドとディーキンは同時にそちらの方に目をやった。
いつの間にかジョゼフがそこに立って、デヴィルに杖を向けているではないか。
ディーキンは、その詠唱に聞き覚えがあった。
少し焦ってデヴィルがそちらに向き直ろうとした瞬間、ジョゼフは詠唱を完成させて……より正確には、そこまでで詠唱を打ち切って、『エクスプロージョン』の威力を解き放った。
これ以上長い詠唱を行えば破壊する範囲が広くなりすぎるし、また敵に先んじて放つのにも間に合わないからだ。
眩い閃光が、悪魔の巨体を包み込む。
「オオ……!?」
だが。
「『動くな』!」
まだその光が収まらぬうちに、閃光の中から怒ったような叫びが投げかけられる。
「……ぐぅっ!?」
今度はかわす間も、抵抗を試みる暇さえもなかった。
その《力の言葉:朦朧(パワー・ワード・スタン)》によって、一瞬のうちにジョゼフの精神は圧倒され、意識が朦朧となって、何も考えることができなくなってしまう。
からんと乾いた音を立てて、手から杖と短剣が滑り落ちた。
閃光が収まると、そこには怒りで顔をゆがめたピット・フィーンドの巨体が、変わらずに立っていた。
いや、全身に焼け爛れたような傷跡があり、鱗が剥げて痛々しい姿にはなっている。
だがその傷跡も、見る間に塞がって、無傷の状態に戻りつつあった。
いかにすさまじい威力を誇る『エクスプロージョン』とはいえ、善の属性を帯びた呪文ではない以上、ピット・フィーンドのような上位のデヴィルに真のダメージを負わせることはできないのだ。
「何かは知らぬが、モータルの分際で小賢しい真似をしおって……!」
怒りに顔を歪めてジョゼフに詰め寄ろうとするピット・フィーンドの前に、ディーキンが立ち塞がった。
手には、エンセリックが握られている。
「ディーキンが、あんたたちの囚人を勝手に連れ出したのは悪かった、のかもしれないけど。これ以上、二人に手は出させないの!」
「気をつけてください。この来訪者は強大で、狡猾な手管を使いますよ!」
エンセリックが相変わらず言わずもがなで具体性に欠ける、役立ちそうもないアドバイスをしてきた。
「ディーキンは、忠告に感謝するよ」
それでも、こんな時でも律儀に礼は述べておく。
ピット・フィーンドはそんな目の前のちっぽけで奇妙な生物を胡散臭げに見下ろすと、彼に対しても《力の言葉:朦朧》の疑似呪文能力を投げかけた。
「『動くな』!」
しかし、ディーキンはまったくその影響を受けないようで、平然としている。
「あんたがこれ以上手を出さないでくれるなら、そうしてもいいの」
ピット・フィーンドはほんの少しだけ顔をしかめると、内心で警戒を強めた。
先ほどの《冒涜の声》や今の《力の言葉:朦朧》が通じていないところを見ると、こいつはかなりの使い手かもしれない。
他の二人にしても取るに足りない相手ではあったが、見たことのない妙な手管を使ってきた。
いずれにせよ所詮は脆弱なモータルだが、とはいえ万が一にも痛い目を見ては馬鹿馬鹿しい。
そもそも、彼には最初から、タバサらを殺す気はなかった。
下級のデヴィルでしかないキュトンどもには、思いがけない獲物を手慰みに拷問し惨殺してやろうというくらいのつもりしかなかっただろうが、最上級デヴィルであるピット・フィーンドは違うのだ。
彼女らが執着しているらしい先ほどの囚人を餌にうまく騙くらかすことで、新たな契約を結ばせ、その魂を手に入れることを目論んでいた。
ひとつやふたつの魂を余分に手に入れたところで最上級デヴィルにとっては大した功績にもならないが、思いがけない気晴らしとささやかな臨時収入とを逃す手はないだろう。
向こうから攻撃してきたので、ならばまずはこちらの力の方が上なことを見せつけてやってからと思っていたが、それは必須というわけではない。
相手にこれ以上戦う気が無いというのならば、なおさらのことだ。
ピット・フィーンドは多少のプライドの痛みと不快感とを飲み込んでそう結論すると、それまでは威嚇するように拡げていた自分の翼を閉じて体の周りに巻き付け、声の調子を努めて敵意を抑えた穏やかなものに変えた。
「賢明なことだ。万にひとつ、貴様らに我を倒せたとしたところで、あの囚人が解放されるわけでもないのだからな」
ディーキンはこくりと頷いて、エンセリックを鞘に納める。
それで外見上は気を許した風に見えたが、もちろん彼らのやり口はよくわかっていた。
デヴィルと話すことは、デヴィルと剣を交えること以上に剣呑なのだ。
なぜなら命だけでなく、魂までもが危険に晒されるから。
「では、順を追って話そうではないか。貴様らは、先ほどの囚人と言葉を交わしたかったのだな?」
「そうなの」
それでも、現状では会話をする以外に更なる情報を引き出して、より良い結果につなげる道はないだろう。
それに、口を武器にするのはデヴィルだけでなく、バードも同じことなのだ。
「だが、バートルの法は、囚人に面会を認めていない。あの囚人は、正当な契約に基づいて拘束されている。その拘束を不当に破り、我らのプレーンから引き離すことは認められぬ」
「シャルルが、なぜ貴様ら悪魔どもの囚人などにならねばならん! 契約とやらを交わしたからか!?」
ディーキンとピット・フィーンドが話している間に、朦朧状態から立ち直ったジョゼフが険しい顔をして話に加わってきた。
だが、力に訴えてもどうにもならぬことを悟ったか、それ以上戦おうとはしなかった。
杖と短剣は拾い上げたものの、既に懐にしまい込んでいる。
「ほう。無知蒙昧なモータルが、わけもわからずにしたことかと思ったが。満更、事情を知らぬわけでもないらしいな?」
ピット・フィーンドはくぐもった笑いをこぼしながら、悠然と頷いた。
「いかにも。あの囚人は、生前に我らの同胞と『売魂契約』を交わしている。その条項に従い、魂は死後に、我らバーテズゥのものとなる定めにある」
「では、父は……、父は、これからどうなるというの?」
ようやくおぞましい麻痺の状態から脱したタバサも、ディーキンの後ろからそう口を挟んだ。
杖を拾い直してデヴィルを睨みつけてはいるが、その声にも、視線にも、前ほどの強さがなく、どこか弱々しかった。
敵のおそろしさを知ったためか、自身の無力を痛感したためか。
あるいは、父の状態をはっきりと告げられたためか。
「ああ、実に哀れなことだ。残酷な運命だ……」
一心に父のことを想う娘の問いに対して、デヴィルは口先だけの憐憫と邪悪な笑みと共に教えてやった。
バートルに堕ちた魂殻は、あらゆる拷問を加えられて生前のすべての人格と人間性を魔力と共に搾り取られた後に、最後にその抜け殻を『処理穴』に落とされる。
そこで体を蛆虫に貪られ、その排泄物の中から精神を持たない最下級のデヴィル・レムレーに生まれ変わるのだと。
「……!!」
タバサの顔が怒りにさっと紅潮し、また激高して杖を振り上げそうになる。
しかし、ディーキンがそれを抑えると、タバサの顔をじっと見つめながら、首を横に振った。
彼の悲しげな目を見つめているうちに怒りがすっと引いていき、代わりに無力感に苛まれて、タバサはがっくりと杖を下ろした。
自分の力では、この悪魔を殺すことはできない。
よしんば仮にできたとしたところで、それがなんになるだろう。
それで、父が解放されるわけではないのだ。
「……何か、できることはないのか」
ジョゼフが苦しげな顔をしながら、そう尋ねた。
「おれはこれでも、一国の王だ。シャルルの魂を解放してやれるなら、なんでも払おうじゃないか」
ピット・フィーンドがそれを受けて、にやりと口の端を歪める。
「そうだなあ……。囚人を想う貴様らの真心に、答えてやりたいとは思わんでもないが……」
心にもないことを言いながら、さてどんな条件を突き付けてやろうかと、楽しく思案を巡らせた。
幽閉の環境を多少(牢をいくらか広くするとか、天窓付きにしてやるとかいった、子供騙しの)改善するのと引き換えに、多額の金品を支払わせるか。
貴様らが生きている間は囚人への拷問やレムレーへの変性を免除してやる代わりに、死後に魂を差し出せと要求する(たかだか数十年の免除など、デヴィルにとっては何も払ってないのと同じだし、この連中が早逝するようにはからってもよいわけだ)か。
あるいは、こいつはどうやら善人ではないようだし、国王だというのが事実なら、あの囚人の魂ひとつと引き換えに何百何千の魂をバートルに堕とせと要求しても通るかもしれない。
実際には、自分にあの囚人の『売魂契約』を破棄する権限はないのだが、まあそんなものはどうとでも誤魔化して反故にできるというものだ。
そんな風にうきうきと考えていたとこへ、横合いからディーキンが口を挟む。
「ジョゼフさん。ディーキンが思うに、そんなことをする必要はないの」
「……なんだと?」
「貴様、何を言い出す。今は、その者と我が交渉をしておるのだ!」
そう言って睨みつけてくるピット・フィーンドを、ディーキンは真っ向からじいっと見つめ返した。
「少なくとも、あんたたちには別にこっちが何も払わなくても、シャルルさんを拷問したり、レムレーにしたりはできないの。違う?」
ピット・フィーンドは、虚を突かれた様子だった。
タバサとジョゼフの目が、ディーキンに注がれる。
「……どうして、そんなことがわかるの?」
「根拠はあるのだろうな?」
ディーキンはこくりと頷くと、そう考える理由を二人に説明していった。
まず、先ほどのシャルルの姿。
確かに汚れていたし、いくらか傷ついてもいる様子だったが、おそらくは単に幽閉されているだけで、日常的に酷い拷問を加えられているという感じではなかった。
それ以前に、そもそも九層地獄に数年前に堕ちたはずの魂が、脱走したわけでもなく捕らえられたままになっているのに、いまだにレムレーに変えられていないということ自体が不自然なのだ。
バートルは、無慈悲で効率主義の社会である。
使える『資源』をさしたる理由もなく遊ばせておくはずはない、搾り取れるエネルギーはさっさと搾り取って、抜け殻はレムレーに変えてしまうはずだった。
そして、タバサの実家で見つけた『売魂契約』に書かれていた契約の内容。
ディーキンはシャルルを呼び出したとき、彼がまだレムレーになっていなかったことで、前々からあるいはと思っていたことを確信した。
「シャルルさんは確かに死んだけど、あんたたちはまだ、彼と交わした契約を果たせてないんだよ」
デヴィルが、何かの利益を与えるのと引き換えに死後に魂を得るという旨の契約を交わした場合、たとえ契約者が死んだとしても、その利益を与え終えていないうちは魂を正式に手にすることはできない。
それでは、契約が満了したとは認められないからだ。
「だから、今はただ契約が済むまで牢に閉じ込めておいてるだけで、彼を拷問したりレムレーにしたりすることはできないの。そうでしょ?」
「…………」
ピット・フィーンドは、忌々しげに牙を剥き出して顔を歪めたが、明らかな嘘を吐くことはできなかった。
不承不承頷いて、ディーキンのその推測を肯定する。
「だが、それは何の意味もないことだ!」
ぴしゃりと、そう付け足した。
「契約が果たされるのが何年後、何十年後、何百年後であろうと、あの囚人がいずれ来る日に怯えながら無為に牢で暮らす期間が長くなるだけのこと。貴様らが新たな契約を交わして、解放してやらん限りはな!」
「シャルルさんを解放するのに、新しい契約を交わす必要なんかないの」
ディーキンは胸を張って、そう断言した。
ウィルブレースや『眠れる者』といった、デヴィルに詳しい来訪者の仲間たちとも事前に相談し、地獄の法についていろいろと確認して、このような場合にするべきことはあらかじめ打ち合わせてある。
「こっちは、新しい契約を結ぶんじゃなくて……、シャルルさんが交わした契約に、異議を申し立てるの!」
「異議? ……異議だと?」
ピット・フィーンドは一瞬驚いたように目を見開いたものの、次いで、侮蔑の表情を浮かべて嘲り笑った。
「くははは、何を言い出すかと思えば。所詮は、道理を知らぬ愚か者か! よいか、モータルよ。『売魂契約』の執行に異議を申し立てることができるのは、当事者だけなのだ!」
「当事者ならいるの、ここに!」
ディーキンはそう言って、タバサのほうを指し示した。
「……なんだと?」
「この子は、シャルルさんの娘なの。契約書で定められてる、ええと……、『受益者』ってやつなんだよ!」
したがって、契約の内容に不備があるならば異議を申し立てる権利があるはずだと、ディーキンは主張した。
それから、タバサの実家で手に入れた『売魂契約』の書面を取り出して、ピット・フィーンドにつきつける。
「これが契約書だよ。ディーキンはタバサの代理人として、あんたたちはここに書かれた契約内容に違反してると申し立てるの。だから、シャルルさんの魂は解放されなくちゃいけない!」
ピット・フィーンドはその書面を睨みつけ、困惑して立ち尽くすタバサの顔と、自信に満ちたディーキンの顔とを交互に見つめ……。
やがて、不承不承に頷いた。
「……いいだろう。ならばバートルの法廷において、あの者に公正な聴聞会を与え、裁きの場を設けてやろう」
なぜならば、『原初契約』がそうするように要求しているからだ。
秩序の存在であるデヴィルは、それに従わねばならなかった。
「被告人と受益者には、当事者として招かれる権利がある。それ以外で同様の権利を受けられるのは、弁護を行う代理人だけだ!」
ピット・フィーンド:
九層地獄界における一般的な上級デヴィルの中では最高位に位置する存在。
赤い鱗に覆われた体、鋭い牙、コウモリのような大きな翼と長い尾を備え、身の丈は12フィートもある。
両手の爪、両の翼、尾、病毒を帯びた牙による同時攻撃は恐ろしいほどのダメージを叩き出し、数々の強力な疑似呪文能力をも備え、配下のデヴィルを招来し、銀製でかつ善の属性を帯びた武器による攻撃か、善の副種別をもつ呪文による攻撃でなければ決して真のダメージを負うことはない。
たとえ真のダメージを与えられるような攻撃手段を持っていたとしても、アメリカ陸軍第三世代主力戦車・M1エイブラムスの主砲を二、三発食らってもまず致命傷を負わないほどにヒット・ポイントも高い。
一年につき一度だけだが、《願い(ウィッシュ)》の疑似呪文能力を用いることもできる。
最も強大なピット・フィーンドは公爵の称号を持っており、さらに昇格すると唯一無二の形態をもつデヴィルになり、通常はその中からアークデヴィルが選出される。
小説「ダークエルフ物語」の中では、『冥王』と称されていた。
ブラスフェミィ
Blasphemy /冒涜の声
系統:力術[悪、音波]; 7レベル呪文
構成要素:音声
距離:40フィート
持続時間:瞬間
この呪文は術者を中心とした半径40フィートの拡散範囲内にいる、属性が悪でないすべてのクリーチャーに対して、さまざまな有害な効果を与える。
被害は短時間の幻惑や筋力低下、数分間の麻痺、即死などで、術者との力の差が大きいほど受ける被害は大きくなる。
加えて、術者が自身の出身次元界にいる場合、効果範囲内にいる属性が悪でない他次元界のクリーチャーは意志セーヴに失敗すると直ちに各自の出身次元界に送還されてしまう。
送還以外のすべての効果は抵抗(セーヴィング・スロー)不可である。
ただし、術者と同等以上の力(ヒット・ダイス)を持つ相手に対しては、この呪文は何の効果もない。
ピット・フィーンドはこの呪文と同等の効果を持つ疑似呪文能力を、回数無制限で使用することができる。
パワー・ワード:スタン
Power Word Stun /力の言葉:朦朧
系統:心術(強制)[精神作用]; 8レベル呪文
構成要素:音声
距離:近距離(25フィート+2術者レベル毎に5フィート)
持続時間:本文参照
術者が力ある言葉を一言呟くだけで、対象となったクリーチャーはその言葉を聞くことができるかどうかに関わらず、即座に朦朧状態となる。
朦朧状態のクリーチャーは手にしたものをすべて取り落とし、何も能動的な行動をすることができない。
この呪文の対象にできるのは現在のヒット・ポイントが150以下のクリーチャーだけであるが、対象となっている場合には抵抗(セーヴィング・スロー)の余地はなく、必ず効果を発揮する。
ヒット・ポイントが少ないクリーチャーほど、朦朧化している時間は長くなる。
ピット・フィーンドはこの呪文と同等の効果を持つ疑似呪文能力を、回数無制限で使用することができる。
原初契約(げんしょけいやく):
バートルの支配者であるアークデヴィル・アスモデウスと、原初の秩序の神々が交わしたとされる契約のこと。
地獄に落ちた魂の懲罰システムに関する取り決めであり、アスモデウスはその契約の抜け道を無慈悲に悪用することで、定命の存在を堕落させ魂を収穫している。
この契約の原本は、バートル、メカヌス、セレスティアという三つの秩序の次元界に存在している。