Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia   作:ローレンシウ

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第百二十六話 Mutual aid

 明日の戦いに備えるために惜しまれながらも大盛況を博した宴を切り上げた後で、ウィルブレースらセレスチャルは皇太子と兵たちとを伴って、城内を検分して回っていた。

 

「こちらは寡兵ですから、城内に侵入されればおしまいです。攻撃だけでなく、守備も重視しなければ」

 

 ウィルブレースが自身の過去の戦争経験などを踏まえた上で、そう意見を述べる。

 これは玉砕してよい戦いではない、つい先刻までは明日の戦いで果てるつもりでいた兵たちにも、生き残ってもらわなければならない。

 

「夜のうちに銃眼の位置を変えておきましょう。これまで使っていたものは塞いで、別の場所に。新しい銃眼を《蜃気楼奥義(ミラージュ・アーケイナ)》などの呪文で隠せば、敵はまず以前の銃眼の場所を狙い、新しい銃眼からの攻撃に対しては無防備になるはずです」

 

 聞いたところでは、ハルケギニアの『土』メイジにはそういった、ちょっとした改築作業などが容易に出来るらしい。

 自分も《物体変身(ポリモーフ・エニィ・オブジェクト)》の疑似呪文能力を使えば手伝うことができるだろうから、明日に響かない範囲で協力してもらい、手分けして素早く済ませてしまえばよいだろう。

 

「……その、《蜃気楼奥義》というのは?」

 

 ウェールズが首を傾げて、そう質問した。

 

「幻覚を生み出す魔法です。城の上に幻覚の城を重ねて、以前と変わりがないように見せかけておくのです。幻覚であることを知っているこちらの兵には向こう側が透けて見えますが、敵側からはこちらが見えません」

「なんと、そんなことも出来るのか……」

 

 皇太子は顔をしかめると、小さく溜息を吐いた。

 敵側の悪魔どもにも同じようなことが可能な者がいるのだとすれば、それを知らずに戦っているこちらが勝てぬのも道理だ。

 

「……なるほど。当面はそうして凌ぎ、敵が異常に気付いたころには既に君の策によって乏しくなった火薬や弾丸が尽きている、というわけだな」

「ええ。新しい銃眼はなるべく高い場所につけましょう。高所からの狙撃の方が有利ですし、それに敵側に《真実の目(トゥルー・シーイング)》などの持ち主が混じっていても、有効距離に入らなければ看破はされませんから。秘密の通路や非常用の出口、それに罠なども、いくらか用意して隠しておくと効果的でしょうね」

 

 それから、ウィルブレースは『眠れる者』が新たに招請したセレスチャルたちがそれぞれ受け持つ場所を決めていった。

 もちろん戦闘中は必要に応じて各自で判断して動いてもらうが、原則として受け持ちの場所に留まり、負傷兵の看護やハルケギニアで知られていない敵が出現した場合の対処法の指示などに携わってもらうのだ。

 

「それから、常に各部署の間で連絡が取れるように、《レアリーのテレパシー結合(レアリーズ・テレパシック・ボンド)》も指揮官に配っておかなければ。一箇所たりとも破られるわけには行きません。おそらく、ディーキンが用意してくれるでしょう」

「……あなた方の使う魔法については、後で紙にでも書いてまとめて教えてもらわないとな」

 

 苦笑するウェールズに、ウィルブレースはにっこりと笑みを浮かべて見せた。

 

「ええ、こちらの魔法についても詳しく説明していただけるのなら。大変興味がありますし、情報交換を密にすれば、新しい有効な戦法がまだ考え付くかもしれません」

 

 そう言いながら、次の作業に取り掛かる。

 別行動をとっているディーキンたちのほうの首尾はどうだろうか、と考えながら……。

 

 

 

「オオ、これってブリミルさんの像だよね?」

 

 何かまだ明日の戦いに使えそうなものはないかと仲間たちと共に城内を物色していたディーキンは、礼拝堂で始祖ブリミルの大きな像を見つけて、嬉しそうに目を輝かせた。

 なお、現地に詳しいフーケと頼れる大人のコルベールには、別行動で頑張ってもらっている。

 

「これは、何かに使えそうだよ」

「この始祖の像を、戦いで使おうってことかい? ……それは、ちょっとバチ当たりなんじゃないか?」

「何いってるのよ、悪魔を追っ払ってブリミルの子孫を助けるために使うんでしょ? お喜びになることはあっても、怒ったりなさるはずがないじゃないの」

 

 キュルケにそう言われて、まあそれもそうかなとギーシュも納得する。

 ルイズもいくらか不満そうな顔をしてはいたが、強いて反対はしなかった。

 

「まあ、事態が事態だし……。でも、一体何に使う気なのよ?」

「それは、ウィルブレースのお姉さんとか、王子さまたちとも相談して考えてみないとだけど……。もしかしたら、ルイズにも手伝ってもらいたいことができるかもしれないの」

「……え、私に?」

 

 思いがけず協力を求められて、ルイズがきょとんとした。

 

「そうなの。ルイズは、すごい魔法が使えるでしょ? それを見せてあげたら、きっとレコン・キスタの人たちも、自分たちに偉そうに命令してくるデヴィルよりすごいって思うんじゃないかな」

 

 ルイズの『虚無』は、全力で用いれば極めて広範囲に影響を及ぼせる。

 デヴィルらにはなるべくその存在を知られたくはないのだが、ここぞという場面では切り札となるはずだ。

 

「……ダメ?」

「な、なにを言ってるのよ。パートナーに協力を求められて、断るメイジなんているはずがないじゃないの。私に任せておきなさい!」

 

 ディーキンやウィルブレースばかりが動き回っている中、蚊帳の外に置かれた感じで内心やや不満を覚えていたルイズは、俄然張り切ってぐっと胸を張ってみせる。

 

「それじゃ、私たちは明日の戦いで何をしたらいいかしら?」

 

 キュルケはそう尋ねてみた。

 

 ルイズ以外の面々は、みな相応に腕は立つとはいえ、特筆するほど変わった能力などは持っていない。

 城を守るアルビオンの勇士たちに混じってただ一介の兵として戦うようにと言われるなら、それはそれでやぶさかではないし、一人一人の兵の働きを軽んじる気も毛頭ない。

 ないが、明日の戦の立役者になるであろう人物を近くで見てきた身としては、何か変わった仕事を任されないものかと期待する気持ちもあった。

 

「ええと。キュルケたちには城のいろんな場所を守ってもらって、起きたことをディーキンに伝えてもらえたら嬉しいの」

 

 デヴィルのやり口すべてについて兵たちにあらかじめ周知徹底しておくなどというのは到底不可能だし、自分自身まったく予想していなかった事態が起こる可能性も十分にある。

 そういったときに、城全体の状態を把握してどう対処するべきか判断するのは、この世界とフェイルーンの両方についてある程度以上詳しく把握している自分が最も適任だろうということで、ウィルブレースや国王、皇太子らとも意見がまとまっている。

 もちろん、全体への正式な命令は自分の意見を伝えた上でアルビオンの王族に下してもらうことになるだろうが、指示を仰ぐ前に素早くこちらの判断を現場に伝えてくれる仲間たちが要所要所にいてくれたら、とても心強いはずだ。

 

 ディーキンは明日の戦いでは、《レアリーのテレパシー結合》をここにいる仲間たちとつなげておくつもりだった。

 

 別に、この城の士官たちを頼りにしていないわけではない。

 だが、起こっている事態を的確に伝えてもらうのにも、対処法を確実に伝えるのにも、初対面のアルビオンの指揮官よりも気心の知れた彼女らの方がうまくいくことだろう。

 もちろん、仲間たちに非常事態が起こったときには確実に把握して助けに行きたいから、という個人的な理由もあるが。

 

「わかりました。明日の戦いでは、私、先生の目になってみせます!」

 

 シエスタは、誇らしげにぐっと背を伸ばしてそう言った。

 それから、ちょっと迷ったような様子を見せた後で、おずおずと質問する。

 

「……その、明日の戦いでしっかり働くには、相手のことをできるだけよく知っておいた方がいいですよね……。それで、先生に、少し質問をしたいのですけど……」

「もちろんなの。何?」

「ええと、昼間の話にあった、生き返って悪魔の仲間になったという方々の正体は、何なのでしょう。……悪魔の偽装、でしょうか?」

 

 昼間に兵士から聞きだした話では、敵軍には寝返った味方ばかりか、死んだはずの味方までもが加わって平然とこちらに杖を向けてくるのだという。

 それも一人や二人ではないらしい。

 おまけに、そのような裏切り者は不死の力を授かっていて、斬っても撃ってもすぐに傷が塞がり死なないのだとか。

 

 ディーキンは敵軍に加わっていると思われる悪魔や、その能力についてはざっと話してくれた。

 しかし、その中には生き返って敵軍に加わったという兵たちに関する説明はなかったように記憶している。

 

「ウーン……、それが実は、ちょっとよくわからないんだよ……」

 

 ディーキンは、困ったように首を傾げて考え込んだ。

 

 敵を寝返らせることは、呪文なり超常能力なりでドミネイトでもすれば、まあできないことはないだろう。

 だが、死人を不死身の兵として蘇らせるとなると、かなり厄介な問題になってくる。

 そのようなことの出来そうなデヴィル、ないしは他のモンスターには、今ひとつ心当たりがなかった。

 ごく少人数なら呪文などを使って何とかなるかもしれないが、かなりの人数がそのようにして敵軍に加わっているらしい。

 

 もっとも単純なのは変身の能力を持つデヴィル自身が化けることで、ある種のエネルギー耐性やダメージ減少能力などを利用すれば、不死身に見せられないこともない。

 デヴィルの多くは普通の兵士が振るう普通の武器ではろくに傷つけられないし、炎を浴びてもまったく傷つかないのだ。

 しかし、姿形は似せられても、他人の記憶を読み取って本人そっくりに振る舞うなどといった能力はデヴィルにはないはずである。

 見ず知らずの他人ならともかく、よく見知っている戦友たちを騙しきれるものだろうか。

 

 フェイルーンには、ディープスポーンというモンスターもいる。

 一つ目の巨大な球体からたくさんの触手が生えているおぞましい姿をしているが知能は高く、自身が喰らった生物の模造品を生み出して使役するのだ。

 しかし、彼らが模造生物を生み出せる速度はそれほど速くないはずだし、同じ悪の生物とはいえデヴィルとは特に接点などなく、協力関係にあるとはあまり思えない。

 それに、生み出された模造生物は不死の力など持ってはいない。

 

 では、ヴァンパイアなどのアンデッドという線はどうだろうか。

 フェイルーンのヴァンパイアは殺害した生物を、自分の同族に作り変えて隷属させることができる。

 彼らは傷を高速で塞ぐ能力や、倒されてもしばらくの後に復活する能力など、不死身と思えるような力も持っている。

 しかし、彼らは太陽の下に出られない。

 だから、他の兵に混じって軍隊で戦うことなどできるはずがないのだ。

 ワイトなどの日光に弱くなくてかつ仲間を増やせるアンデッドも存在はするが、外見がかなり歪んでしまい、生前の人格や能力も失われるのが普通である。

 

 ならば、ドッペルゲンガーやその亜種族というのは?

 彼らは本物そっくりに変身するだけで能力の模倣はできないし、もちろん不死身でもない。

 それに、たくさんの偽者を作るには、数を揃えるのも大変だろう。

 

 少々変わったところでは、ミラー・メフィットなどというものもいる。

 この珍しい来訪者は、以前にタバサの母親らの偽物を造り出すときに用いた、《似姿(シミュレイクラム)》の擬似呪文能力を発動できるのだ。

 だが、作られた似姿は本物よりも弱く脆いもので、やはり不死身になるという部分の説明がつかない。

 

 ディーキンは他にもいろいろと考えてみたが、いずれも今ひとつしっくりこなかった。

 

 そうなると、あるいはフェイルーンの側のものではないのかもしれない。

 デヴィルたちはこちらに来てかなりの期間がたっているはずだし、実利を重んじる合理主義者だ。

 有用なものを見つければ、積極的に取り入れるだろう。

 

「……ねえ、ハルケギニアの魔法とか生き物で、そういうことができるやつはないの?」

 

 ディーキンは、仲間たちにそう尋ねてみた。

 皇太子やアルビオンの兵たちが気付かないくらいだから、おそらく一般的なものではないのだろう。

 だが、博識なタバサなどには、あるいは何か心当たりがあるかもしれない。

 

「…………」

 

 ディーキンに頼られたから、というわけでもあるまいが、タバサは真剣に考え込んだ。

 

 ハルケギニアの吸血鬼はグールを作ることができるが、一人につき一体だけだ。

 大勢の蘇った兵士を抱えるには相当数の吸血鬼と手を組まなくてはならず、現実的だとは思えない。

 そうなると……。

 

 ややあって、あまり自信がなさそうに、思いあたったことを口にする。

 

「……ひとつには、クロムウェルが本当に虚無の使い手で、私たちの知らない呪文を使っている、ということが考えられる。もしそうでないとしたら、心を操ったり傷を治したりするのは、『水』以外には考えられない」

 

 それを聞いて、ルイズとキュルケが首を傾げた。

 

「そりゃあ、確かに水の領分だろうけど……。でも、死人を生き返らせたり不死身にしたりするほど強力な水の魔法なんて、聞いたこともないわよ?」

「そうね。もしそんなものがあったら、これまでにも戦争の時に使われているはずだわ」

 

 タバサは二人の反論に対して、小さく頷いた。

 

「系統魔法では、確かにありえない。でも先住魔法なら、あるいは」

 

 クロムウェルは本当に虚無の使い手で、ルイズとは違う何か強力な呪文を習得している。

 あるいは、強力な先住魔法の使い手である。

 

 そのどちらの方がよりありえそうなのかは、タバサにもわからなかった。

 ただ、あくまでもひとつの可能性として考えついた、というだけである。

 

 実際にはどちらも間違っているのだが、そんなことはタバサにも、この場にいる他の誰にも知る由のないことである。

 

「思い出した! 確かに、そりゃあありえるぜ」

 

 そのとき、シエスタの背負っているデルフが、唐突に声を上げた。

 全員の注目が、彼に集まる。

 

「あー、いや、昔そんな感じのを見たことがあってよ。俺と同じ、先住の魔法で動いてるやつさ。ブリミルも、あれには手を焼いてたもんだぜ」

「ああ。そういえば、君は始祖の使い魔に持たれた剣でしたね」

 

 最近デルフと仲良くしているエンセリックが、口を挟んだ。

 

 一体何の話をしているんだ、といった感じのギーシュには、ディーキンがかいつまんで説明をする。

 まあ彼には話しておいてもいいだろう。

 

「ふうん……。じゃあ、虚無って線はないと思っていいのかしら?」

「あたりめーだろ、死人を生き返らせるなんてのは虚無の領分じゃねえよ。命を与えるとか、心を操るとかは、どう考えたって水だぜ」

 

 まあ、記憶を消す術とかは、虚無にもあるけどよ……と付け足したデルフの言葉をよそに、キュルケが首を傾げた。

 

「でも、変ねえ。水の力なら、『火』には弱いんじゃないかしら?」

 

 キュルケは誇り高い火の使い手として、自系統の優位性についてはかなり詳しく知っていた。

 

 水系統は生物の体内の水の流れを司り、それを通して心や体を操ったり、傷の治癒を促進したりする。

 それゆえに、火に焼かれて水分を失った肉体組織を修復させるのは難しいはずなのだ。

 たとえば、ガラスの破片が突き刺さった眼球は腕のいいメイジなら元に戻せないこともないが、先日戦ったメンヌヴィルのように火に焼かれた場合はまず無理である。

 

「そりゃあそうだ。よっぽど強力な水の力で動いてても、火で焼けばまず再生はできないはずだぜ。もっとも、ブリミルが戦った連中は精霊に頼んで雨を降らせたり、水の膜で体を守ったり、その辺も対策してたけどよ」

「戦場では、火こそが主役よ。呪文だけじゃなく、火薬や銃弾も飛び交うわ。高熱に弱いなら、すぐに不死身のメッキがはがれそうなものだけど?」

 

 昼間の兵たちは、蘇った兵士は斬っても撃っても死なずたちまち傷が塞がっていく、不死身としか思えない、と証言していた。

 しかし、火に弱いのであれば、高熱の銃弾を至近距離から撃ちこまれたり火メイジの呪文を受けたりしたときには傷が癒えないか、少なくとも治りが遅くなるといったくらいの反応はあるだろうし、そのことにこれまで誰も気が付かなかったとはちょっと考えにくい。

 もしも水の膜で体を守ったりしていたならば、対抗できるかどうかはまた別の問題として、それこそ火が弱点なのではないかと誰でも思い至るだろう。

 なのに、そのような話は一切出なかったのだ。

 

「それなら、ディーキンの来たところの呪文とかで何とかできると思うの」

 

 今度はデルフに代わって、ディーキンがそう返事をした。

 

 水の膜などの目に見える形ではなく、高熱から身を守る術はフェイルーンにはいくらもある。

 たとえば、ごく初歩的な《エネルギーへの抵抗力(レジスト・エナジー)》の呪文をかけておくだけでもいいだろう。

 そうしておけば、戦場でちょっとばかり火を浴びた程度ではまず傷つくことはあるまい。

 敵に存分に不死身ぶりを見せつけた後は、メッキがはがれる前に後方に下がってしまえばよいのだ。

 

 デルフの見立てが正しければ、要するに蘇ったという兵たちは、水の精霊力とやらで仮初の命を吹き込んだアンデッドの亜種のようなものか。

 炎以外の攻撃では永続的なダメージを受けない再生能力を持っていて、そこにエネルギー耐性を与える呪文なり装備品なりで弱点対策をしてあるのだろう。

 ディーキンはその推測を、確実とは言えないがと前置きをした上で、仲間たちに伝えておいた。

 

「死者をそんな風に冒涜するなんて……。それが本当なら、許せません! 何としてもクロムウェルを征伐して、その方々を解放しなければ!」

「…………」

 

 義憤に燃えるシエスタをよそに、タバサはじっと考え込んでいた。

 

 炎でしか倒せない敵が、炎を防ぐ呪文で身を守っている。

 それが本当だとしたら、ちょっと聞いた感じでは無敵のようにも思えるが……。

 

「……もし会ったら、どうやって倒せばいい?」

 

 ディーキンの方を見て、そう尋ねる。

 しかし、彼が返事をする前にデルフが答えた。

 

「そこの嬢ちゃんに呪文を使わせりゃあいいさ、ブリミルはちゃんと対策を見つけたんだ。今は読めんかもしれんが、呪文書に書いてあるはずだぜ?」

 

 ルイズの手元には今、タバサの屋敷で発見した古代の呪文書に加えて、ウェールズから拝領した『風のルビー』がある。

 必要な時に指輪をはめてページをめくれば、呪文は見つかるだろう。

 

「何よ。どんな呪文なのかくらい、もったいぶらずに教えなさいよ!」

 

 そう問い詰められたデルフが、明かした呪文は……。

 

(……あら? それって、ディー君が『遍在』を消すのに使ってたやつじゃない?)

(ンー。そうみたい)

 

 どうやらそれは、防御術の基本にして奥義たる『解呪(ディスペル)』の呪文に他ならないようだった。

 なるほど、生前の知識や知能を保ったまま術者に絶対服従し、しかも再生能力を持つという強力な傀儡にも、『解呪』されるだけで倒れてしまうという大きな弱点があるわけか。

 それが確かなら、もはや恐るるに足らずといえよう。

 

 とはいえ、考えておくべき問題はまだまだいくらでもある。

 

「ええと。それじゃあ次は、ヴォルカリオンさんを呼び出して。必要なものを買い揃えておかないと……」

 

 

 

 ――そうして、夜は更けていった……。

 




ミラージュ・アーケイナ
Mirage Arcana /蜃気楼奥義
系統:幻術; 5レベル呪文
構成要素:音声、動作
距離:長距離(400フィート+術者レベル毎に40フィート)
持続時間:精神集中+術者レベル毎に1時間
 術者はこの呪文によってどんな範囲内でもまったく別の地形であるかのように見せかけることができる。
この幻術には聴覚、視覚、触覚、嗅覚の要素が含まれる。つまり、海辺の景色を作るときには、波の音、砂を踏む感触、潮の香りも同時に再現できる。
効果範囲は、術者レベル毎に一辺20フィートの立方体の区画1個ぶんである。
この呪文は自然の地形のみならず、建物の外見を変えたり、何もないところに建物を加えたりすることもできる。
クリーチャーを直接変装させたり、隠したり、追加したりすることはできないが、効果範囲内にいるクリーチャーは現実の地形の中で隠れるように、幻の中に隠れることができる。

レアリーズ・テレパシック・ボンド
Rary's Telepathic Bond /レアリーのテレパシー結合
系統:占術; 5レベル呪文
構成要素:音声、動作、物質(異なる2種類のクリーチャーの卵のかけら2つ)
距離:近距離(25フィート+2術者レベル毎に5フィート)
持続時間:術者レベル毎に10分(解除可)
 術者は自分と何体かの同意するクリーチャー間をテレパシーによって結合する。
一度の呪文で結合できるのは、術者自身および術者レベル3レベル毎に1体までの同意するクリーチャーである。
リンク内の各クリーチャーは同じリンクの中にいる他のすべてのクリーチャーと結合されており、どの言語を話すかに関係なくテレパシーによる意思の疎通が可能である。
一度リンクが結ばれたなら、この呪文は同じ次元界の中にいる限り、どれだけ距離があろうと機能する。
術者は、望むなら形成するリンクから自分を除外することもできる。
テレパシック・ボンドはパーマネンシイ呪文で永続化することができるが、パーマネンシイを1回使用するごとに2体のクリーチャーだけを結合することができる。
 なお、レアリーというのはこの呪文を開発した人物の名前である。

レジスト・エナジー
Resist Energy /エネルギーへの抵抗力
系統:防御術; 2レベル呪文
構成要素:音声、動作
距離:接触
持続時間:術者レベル毎に10分
 この防御術はクリーチャー1体に対して、術者が選択したエネルギー5種類([音波][酸][電気][火][冷気])のうち1つに対する限定的な保護を与える。
対象は選択したタイプのエネルギーに対する抵抗10を得る。
すなわち、対象がそうしたダメージを受けるたびに、そのダメージはそのクリーチャーのヒット・ポイントに適用される前に10ポイント差し引かれる。
なお、一例として炎によるダメージについて言えば、体の一部に着火した程度であれば毎ラウンド1d6ポイントのダメージを受けるに留まる(つまり、この呪文で守られていれば燃えている松明を素手で掴むなどしてもまったく傷つく恐れはない)。
エネルギーに対する抵抗の値は術者レベル7レベルで20ポイントに、11レベルで最大の30ポイントに上昇する。
この呪文は、対象の装備品も同様に守ってくれる。

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