【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.Ⅷ

感覚が夢のような気がして、ああ、これは夢なんだと自覚する

霧が掛かった空を翼は落ちていく

落ちて―――落ちて―――堕ちて、堕ちて、堕ちて―――

際限なく空を落ちていく

それはまるで片翼をもがれた小さな小鳥

今の自分を表わすかのような夢

でも、自分は飛ばなくてはならない

片翼だろうと大空を羽ばたいてみせる

羽ばたかなければ―――

 

 

「―――たーくっ、本当に真面目が過ぎるぞ翼? その内、本当にぽっきりいっちゃいそうだ」

 

 

その、声と共にふわりと後ろから抱きつかれる

こんな安心感を与えてくれるのは世界に二人しかいない

そしてこの声は―――!

 

「奏―――!」

 

振り向く翼

眼の前で微笑んでくれる奏は防護服を纏っている

対する自分は今の防護服を

 

「鏡華の言う通りガチガチだな。まるで一本の剣みたいだぞ?」

 

「……一人になって私は、一層の研鑚を重ねたんだ。数え切れないほどのノイズを倒し、死線を越え、そこに意味など求めず、ただひたすらに戦い続けてきたんだ」

 

「そっか。だったら―――」

 

そう云うや早く

奏はアームドギア、ガングニールを構え、

 

「その研鑚って奴―――見せてもらうぞ」

 

  ―閃ッ!

 

大上段からガングニールを振るった

驚いた翼はそれでも紙一重ぎりぎりで避ける

 

「か、奏!? どうして……」

 

「ほら、驚いてちゃ防げるものも防げないぞ翼っ」

 

「ッ―――」

 

何故奏と戦わなくてはならないのか

翼は叫びたくなる気持ちを抑え、ガングニールの一撃を大剣と化した天羽々斬で防ぐ

これも、私に対する仕打ちなのだろうか

夢の中で奏と戦うことになるなど

 

これ以上残酷な仕打ちはありはしない!

 

「あ、別に仕打ちじゃないからな。あたしのストレス解消だからな?」

 

「へ……」

 

いきなり変なことを言われ、動きを止めてしまう翼

そんな絶好の隙を逃がす奏ではない

 

  ―蹴ッ!

 

ガングニールで弾き、半回転しながら回し蹴りを叩き込む

モロに喰らった翼は“一、二回バウンドしながらごろごろと転がる”

 

(……“転がる”?)

 

よく見渡せば、そこはもう落ちていく空ではなかった

そこは二年前、全てが変わってしまったあの会場

 

「ん~、やっぱ制限時間なしで暴れる(うたえる)って最高だなぁ。久し振りだとそれが一層楽しいね,

まったく」

 

奏は場所のことなどお構いなしで楽しそうに歌を紡ぎ、力を高めていく

本当に―――楽しそうだ

自分はいつからあんな風に楽しく歌うことを忘れてしまったのだろう

 

「最近ずっと寝っぱなしだからさ、動くことすらままならねぇんだよ。だからさ、翼。今って云う時間を楽しもうぜ」

 

「…………うん」

 

翼は頷くと歌い、天羽々斬を構える

これは夢―――泡沫(うたかた)に消えゆく幻想

だったら、奏の好きなようにやらせてやろう

どうせ死にぞこなった身だ

また見れるだろう

だが―――

 

「いくよ―――奏ッ」

 

「おうっ、来いッ!」

 

やられっぱなしは少し嫌だった

だから、少なくともさっきの一撃分だけは

返させてもらうよ―――!

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

「―――あはは、いやぁ~、暴れた暴れた」

 

「……私は凄く疲れたよ」

 

「そいつは結構じゃないか。そう思えるんだから。あたしは精神体だから全然疲れないんだよな」

 

戦いを終えた二人は互いの背に凭れステージに座り込んでいる

思い出に残っていた会場は二人の攻撃でさらにボロボロになっていたが、どうでもよかった

 

「私……思うんだ。私の命に、意味や価値なんてないって……」

 

「……誰の命だって、意味や価値はないんだと思うよ。あたしの命だって、鏡華の命だって―――でも、それはたった一人、自分自身だけの命の時だけだ。他人がいれば意味や価値が出てくる。あたしの無意味な命は翼と鏡華が、鏡華の命は私と翼が、そして翼の命は私と鏡華が意味や価値を決めてくれるんだ。あたしはそう考えてるし、それを感じてきた」

 

「それじゃあ私の命の意味や価値って何?」

 

「自分で見つけるものじゃないかな」

 

奏の言葉に翼は「奏は私に意地悪だ」と返す

でも、意地悪な奏は“今は”いない

鏡華が言っていた

二年前と変わらず、と

つまり奏は未だに覚めることのない夢の中にいるのだ

それはいないのも同じだ

 

「それはちょっと違うとあたしは思うな」

 

「え……?」

 

「あたしがいるのか、いないのか―――それは翼が決めることさ」

 

「私が? だったら私は―――」

 

いない―――なんかと考えない

奏はいる。いつか眠りから覚めて鏡華みたいに戻ってきてくれると信じる

それが気持ちとして表れたのか、景色が会場から水の中に変化する

いつの間にか奏は少し離れた場所にいた

 

「時間だ。戻らないと鏡華が心配するしな……」

 

「奏……」

 

「安心していいよ翼。片翼(あたし)は必ず舞い戻ってくる。そしたら、鏡華と三人でまたツヴァイウィングとしてどこまで飛んでいこう」

 

「……うん!」

 

「それじゃあまたな翼」

 

そう言って背を向ける奏

翼はその背が見えなくなるまでずっと見続け―――

 

「あ、そうそう。あたしの眼が覚めたらさ、一緒に鏡華に告白しようぜっ」

 

「へぅ!?」

 

―――ることはできなかった

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

静かに、翼は眼を開ける

それを見た看護士が医師に報告

急いでメディカルチェックを行おうと指示を飛ばす医師

それをポットの中で見ながら外を見た

外は太陽が空高く昇り、蒼く染まっている

耳を澄ませば、校歌が聞こえてきた

まるで、自分だけが外と切り離されゆっくりと時間が進んでいるかのよう

 

(そっか。私、仕事でも任務でもないのに学校休むの初めてなんだ)

 

精勤賞は絶望的かな、と毎年取っていた賞を思い出す

ついでに夢に見た奏の言葉も

 

(告白か……。恥ずかしいけど、奏と一緒ならどんな結果になっても大丈夫だと思う。でも……)

 

奏と一緒では昔のままだ

だから、少し奏に嘘を吐こう

目覚めた奏が知った時が楽しみだ

 

それまで、無様に生き恥を晒していようではないか

剣が剣のまま人間(ひと)に戻れるように―――


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