【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.Ⅴ

あれから―――

正確には響がガングニールの適合者として目覚め

翼と鏡華の二年ぶりの喧嘩が起こり(結局乱入した弦十郎の圧勝だったが)

響が翼にはたかれてから―――

約一ヶ月が過ぎようとしていた

その間、当然ノイズの襲撃は絶え間なく発生し、否応なく戦闘を繰り返していた

もうそろそろ戦闘にも慣れていい頃である

これまでの戦闘の記録をモニターに映して見ていた弦十郎は、

 

「……一月《ひとつき》経っても変わらんか」

 

ぽつりとそう呟いた

元々戦闘を繰り返し死線を潜り抜けてきた翼は当たり前のこと、完全聖遺物と云う性能《スペック》の高い武装を以ってして戦いに臨んでいる鏡華は高い戦闘力を有している

だが、この二人に比べて響は一ヶ月前まで何も知らぬ日常で生活していた。また、戦闘訓練なども学生と云う身分のため時間が思うように取れない

それに彼女には嘘を付かなければならない未来《しんゆう》がいる

バレないためにどうしても自由な時間全てを削るわけにはいかないのだ

 

しかも、響は未だアームドギアを具現できないでいた

だが、これには鏡華がある他のメンバーには内密に仮説を立てていた

響はあくまでアームドギアとして具現したガングニールの“破片を”その身に宿している

防護服を形成するための大元のガングニールは現在も奏が所有している

アームドギアを具現化するための欠片は奏が所有しているのではないのだろうか

だから響はアームドギアを具現化できないのではないだろうか

あくまで鏡華の想像でしかなかったがあながち間違いではないと弦十郎は思っている

 

さらにあの一件以来、言葉にこそ出さないが翼と鏡華、響の間に亀裂が入ってしまっている

どんなに鏡華がいつも通りに接しようと口を開くどころか視線さえ合わせようとしないのだ

そんな状態で連係などできるわけがなく、必然的に翼は一人でノイズと戦い、鏡華は響のフォローに入りながら殲滅していく

結局、一緒に戦わないのでまた亀裂が深まるばかり

悪循環としか表現できなかった

 

「何とかしないとな……」

 

呟く弦十郎

だが、そうは言っても良い案が浮かんでいるわけではない

どうすればいいのか、一人悩む弦十郎だった

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

時刻はおおよそ四時半近く

時計を持っていない鏡華は適当にそう決め付け、学生寮へ歩いている

五月だが、すでに月が薄っすらと昇っているのが見えた

 

―――おい、鏡華。いい加減どうにかしろよなー

 

月が昇っていると認識した途端、頭の中に響く声

周りに誰もいないのを見回すと、鏡華は深くため息を吐く

 

「あのねぇ……、俺がどんだけ苦労してるか君には分かんないの? 廊下ではわざわざ翼の移動ルートに“先回りして”声を掛けたり、定時ミーティングの時はできるだけ相づちを打って話を渡したりしてるのに……。それを何? ガン無視? 酷いと思わない!?」

 

―――いや、知ってるよ。“月が出てる間の事は”。半分は翼が悪いってことも

 

「半分? もう半分は俺が悪いって言いたいの?」

 

―――そんなわけないだろ? 鏡華が悪いわけないじゃないか

 

まるで母親が子供に言い聞かせるように声の主―――奏は言う

その声は優しく頭に響いていく

 

―――もう半分は誰も悪くなんかないんだ。翼も、鏡華も、響って子も。皆悪くない。もう半分は、こんな風にした運命って奴が悪いんだ。あたしがこんなこと言うのはおかしいかもしんないけどさ

 

「……………」

 

学生寮に着き、寮母に挨拶しているため、鏡華は何も答えない

否―――今の言葉に返す言葉が思いつかない

 

―――それじゃあ、そろそろ着くみたいだし、寝させてもらうよ鏡華。また何かあったら呼んでくれよ、熟睡してない限り起きるからさ

 

「……うん。―――奏」

 

―――うん?

 

「ありがと。奏がそう言ってくれるだけで俺は、また頑張れる気がする」

 

―――ッ、あ、ああ、おやすみ、鏡華

 

「ああ、おやすみ、奏」

 

そう言うと、今まで感じた繋がりみたいなのが消えるのを感じた

いつものことなので気にはしない

鏡華は深く呼吸をすると、「よしっ!」と意気込み、

 

  ―こんこん

 

眼の前のドアを叩いた

ドアの横に貼り付けられたカードには

小日向未来

立花響

と、書かれていた

奥から「はーい」と聞こえる

がちゃり、とドアが開けられ、未来が顔を出すと、

 

「やぁ、小日向。夕方にごめんね。立花、いる?」

 

鏡華はいつも通りの笑みでそう、声を掛けた

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

「―――いきなりでほんとにごめん。こっちも急に頼まれてさ」

 

「い、いえっ、全然! むしろ大歓迎です! ばっち来いです!」

 

「未来~、深呼吸、深呼吸」

 

突然の訪問にパニくる未来をテーブルに頬をべちょ~と着けている響がフォローする

普通は立場が逆なのでかなり珍しい光景だ

鏡華は二人のそんな光景に微笑むと、コートから缶ジュースを取り出してテーブルに置く

 

「二人に差し入れ。ここ、寮にいる間って水かお茶しか飲めないっしょ?」

 

「あ、ありがとうございます……。でも、もしバレたら……」

 

「気にすんな。ルールってのは破るためにある……ってのは学生にはちょっと無理があるか。ま、気にすんな。いざって時は俺が庇うから」

 

笑う鏡華に響と未来も釣られて笑い、「それでは」とプルタブを開ける

こくこく、と喉を嚥下していくジュースの味が心地よい

ほぅと息を吐く響と未来を見て、鏡華はにやり

さらにポケットから缶を取り出すと

それを見て驚いている二人に気にせず、少し仰った

 

「先生……それ、お酒なんじゃ……」

 

「そうだよ。ノンアルコールだけど、立派なお酒」

 

「先生確か未成年でしたよね……?」

 

「Yes―――ま、口止め料は払ってんだし、二人は報告できないけどねぇ」

 

二人はしばし、互いの手に持つ缶を見て、「……あ!」と声をあげた

だが、今となっては後の祭り。鏡華にまんまと乗せられた

鏡華は呆然とする二人を見て笑うと一息に仰いだ

 

「ぷはっ……。ここを出たら、真っ直ぐ中央棟に行かなくちゃならないんだ。少しは多めに見てくれ」

 

「……そう云えば、響に用があって来たんですよね?」

 

「え、私ですかっ?」

 

いきなり自分に振られて声をあげる響

鏡華は空になった缶を持ってきていたビニール袋に片すと、自分が来る前からテーブルに置かれていたノートをとんとん、と叩いた

 

「“これ”、回収して来いってさ。不良教師に対する罰さ」

 

「ああ、“これ”ですか……これまたご迷惑をお掛けしました……」

 

これ、とは響が担任から提出するよう言われたノイズに関するレポートだ

ここ最近響は授業中に人の話はうわのそら、居眠りはすると云ったことで注意されていた

もちろん本人は悪気があってやっているわけではない

朝から夕まで本業の勉学を

夕から深夜はノイズと戦うための“勉強”を

こんな生活スタイルで居眠りしないはずがない

かく云う鏡華だって、授業がない時間はもっぱら睡眠に使い、それで他の教師に注意を受けていた

 

響は謝るが、それに対し未来は、

 

「鏡華先生は不良教師なんかじゃありません……!」

 

“そこ”を重点的に受け止めていた

 

「未来……」

 

「鏡華先生は凄く真面目です。どんな生徒にも分け隔てなく接してくれる優しい先生です。時間がないはずの時だって生徒の質問に真剣に答えてくれるただ一人の先生です! 先生が不良だなんて、嫌がらせと同じです! 優しくて、真面目で、生徒思いで、そんな先生この学院には一人もいません! いるのは私が大好きな鏡華先生だけですっ!!」

 

感情に任せて怒鳴り散らす未来だったが、最後に意味不明な恥ずかしいことを言っている事に気づき、顔を真っ赤にして慌てて鏡華から視線を外す

そんな未来を、鏡華はじっと見詰める

ふぅと息を吐くと、この後の展開を期待している響の前で

 

「ありがとな小日向。心配させたみたいで……」

 

ぽん、と頭を撫でながらお礼を言った

たったそれだけ

まさかとは思うが鈍感なのだろうか、と響は思う

―――と、

 

「~~っあ……っ!」

 

突然頭を押さえる鏡華

驚く二人の前で鏡華は額を押さえ、

 

「なんなんだよ……こんにゃろ……」

 

と、誰かに言うように呟いていた

響と未来は心配そうに声を掛けるが、「大丈夫」と安心させるように呟く

実際、ただ寝ていたはずの奏が、急に鏡華の頭の中で叫んだからだ

一切の肉体攻撃ができない奏が喰らわせる唯一の攻撃だが、これがまた地味に痛い

何しろ頭の中に反響するのだ。かなり響く

閑話休題

 

未だ仕上がっていないレポートを鏡華監修の下、仕上げてしまい鏡華はそれを受け取る

かなり字は汚いが、まあこれで教師は納得するだろう

すると、鏡華のポケットが振動を始めた

ケータイなので取り出し、確認する

弦十郎からで、定例ミーティングの召集だった

 

「……はぁ」

 

それを見た鏡華はため息を吐くと、レポートをカバンにしまい立ち上がる

 

「どうかしたんですか?」

 

「もう少しいたかったんだけど、先輩教師から催促が来たんだよ。ついでに多少お話したいから立花も連れてくるようにって」

 

無論、嘘をつく

 

「ま、またですか……。ごめんね、未来」

 

「……仕方ないよ、呼び出しなんだから。でも―――」

 

未来はそう言うと自分のパソコンの画面を響に見せる

モニターには動画サイトに投稿されていること座流星群の動画が映し出されていた

 

「こっちの方はなんとかしてよね」

 

「ぁ……うん! 何とかするから、だから……ごめん」

 

響も立ち上がり部屋着を脱ごうと服に手を掛ける

それに慌てたのは鏡華だ

 

「わぁっ! ちょ、ちょっと! 俺がまだいるのに着替えんなっ!」

 

「そ、そうだよ響! 鏡華先生は先に外に出てくださいっ!」

 

「お、おうっ! ―――あ、ちょっとその前に小日向!」

 

「は、はいっ」

 

「ポニテ、似合ってるよ。いつもと違った雰囲気で可愛い」

 

「っ―――!?」

 

未来が驚いている内に鏡華は即座に外に出た

鏡華に「可愛い」と言われた未来はそのままぽけー、とあまりの嬉しさに放心してしまう

横で脱げない部屋着をもぞもぞさせていた響に気付くまで後数分―――

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

それはまだ、シンフォギア―――天羽々斬に出会う前

叔父の弦十郎に連れられてきた少年と出会った

少年はまるで女の子みたいで、最初本当に間違えて泣かせてしまった

そんな彼には恥ずかしい、自分には懐かしい大切な出会い

それから少年とはいつも一緒にいた

異性の友達は彼一人で、すでに彼に惹かれていたのは間違いない

 

その出会いから数年後

今度は保護されたと云う椅子に縛られた少女に出会った

最初はとても恐かった。今にも襲い掛かってきそうな猛獣みたいだった

少女は「ノイズを倒す力をくれ」と叫び、弦十郎はそれに応えた

唯一あったガングニールの欠片の適合者候補となれた少女だったが、自分みたく適合率が高いわけではなく薬品による無理矢理な適合だった

血反吐にまみれながらも手にした力を喜ぶ少女に自分はまた惹かれていた

 

そんな二人がいてくれたから自分は剣ではなく、人間(ひと)として生きてきた

一緒にいれば何も恐くない

なのに―――

その二人は、ある日を境に消えてしまった

死亡の可能性が高いと公表され自分もそう思い、だけど、心のどこかでは生きていると信じていた

でも、生きる理由をなくした

二人がいたから自分は人間(ひと)として生きていけたのだ

二人がいなくなってしまったら自分はどうすればいいのだろうか

眼の前が真っ暗になった

堕ちて、堕ちて、堕ちて―――気付いた

二人がいなくなったのは、自分が弱いせいだと

強くならなくてはならいと

 

だから―――

自分は己を剣とした

感情なんかいらない。無機物《つるぎ》に有機物《ひとのこころ》なんか必要ない

必要なんか―――ない

それなのに、私は―――感情を捨てられなかった

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

やれやれ、と奏は普段掻けない頭を掻く

現在の彼女は、云わば幽霊に近い存在だ

月が出ている夜の時間だけ、彼女は鏡華を通して見たり聞いたりすることができた

何故かと聞かれれば返答に困るのだが、調べてきた鏡華によると

アヴァロンの正式な所有者、つまりは騎士王

彼は生前月の加護を得ていたとされており、月が出ている間のみ三倍の力を発揮すると云う伝説を持っている

恐らく、それが関係しているんじゃないかと鏡華は語る

 

まあ、そんな“些細な”こと奏にはどうだっていいのだが

 

そんな奏は、真っ白とも真っ暗とも、広くとも狭くとも、家具があるともないとも感じる空間にいた

どこかなんて知らないが、ここが鏡華と繋がっている時の奏の場所

そんな場所で、奏は胡座を掻いて座るようにしている

 

「まったく……鏡華ってば、鈍感なんだよなぁ。あの未来って子、絶対惚れてるだろ」

 

まったく、ともう一度呟く奏

今の自分はあんな風に鏡華に身体を触れられても感じることはできない

鏡華の笑みに笑うことはできても、笑顔を向けることはできない

本当の自分は今もなお眠り続けている

精神的に繋がっているが、それだけでは足りない

次いで、思い出す

大切な思い出を

 

天羽奏の初めてできた異性の友達

初めて会った時、手を伸ばしてきて、思わず反射で噛み付いて泣かせてしまった

 

弦十郎の下、兄弟姉妹のように接してきた家族

食事中、時々舟を漕いでいた鏡華のおかずを取って喧嘩したり、修業の時は色々と無茶をさせた

 

鏡華と翼―――三人でいればどんなことだってできる最高の仲間

 

自分に向ける笑った顔

 

困ったような、だけど仕方ないとでも云う顔

 

怒った顔、寝ている顔

 

そして―――

真実を知ったあの悔しそうに泣いた顔―――

 

「って……あたしはどんだけ鏡華に惚れてんだい」

 

自分の感情に思わずツッコミを入れてしまう奏

だが、それは紛れもない彼女の本音

でも、と奏

自覚している

それでも顔が紅潮するのを抑えられない

 

「あたしは―――鏡華が大好きだ」

 

声にして呟く

誰にも聞かれることのない自分の想い(こころ)

翼も持つ―――同じ想い

 

奏は自分で宣言してからふるふる、と頭を振る

この想いは眼が覚めてから言葉に、もしくは歌にすればいい

当然その時は翼と一緒にだ

 

今は、と奏は鏡華にバレないように繋ぎ、鏡華の見ている光景をテレビでも見るかのように見る

実はバレないようにこっそり見るのにハマっている奏だった

場所は二課

眼の前には翼が席に座りコーヒーを飲み、響が立ってノイズについて説明している

了子のノイズの襲撃が作為の可能性があると云う説明やオペレーターの朔也、友里あおいからのハッキングされたと云う報告を聞いてほえーとしている

 

「あはは、やっぱ翼と真逆で面白いな響は」

 

そんな感想を抱く

反対に翼は聞きながら人知れず紙コップを握りつぶしていた

その時聴かされていたのが、アビスと呼ばれる最下層に厳重封印されている完全聖遺物、デュランダルについて

たぶん、翼が思い出しているのはデュランダルではなく、“二年前に盗まれた”とされる完全聖遺物、ネフシュタンの鎧のことだろうと奏は思う

二年前―――つまりあの時のライブ襲撃だ

 

鏡華が所持するアヴァロンもだが、完全聖遺物はその内に秘めるエネルギーが未知な上、膨大だ

手荒に扱い、もし暴走でもさせたらどんな大惨事になるか分からない

故に起動させるための実験の申請が許可されるのはかなりの時間を有する

ネフシュタンの鎧はようやく実験にこじつけ、二年前、奏と翼―――ツヴァイウィングが歌う真下で極秘裏に行われた

だが、実験は失敗

 

その時ネフシュタンの鎧が盗まれたらしい

政府はネフシュタンの鎧紛失の件でさらに完全聖遺物起動実験については固くなったらしい

しかも、現在唯一研究が進められているデュランダルをアメリカが安保をたてに再三の引き渡しを要求しているらしい

直属の上層部である国会の官僚達は危険性を考えず完全聖遺物を外交のカードの一枚として考えているらしい

また、自分が知らないところでも、それ以外の国家や組織、個人が狙い、日夜闘争を繰り広げているらしい

 

「……ま、あたしにはどうでもいいことだけどなぁ」

 

そんなとても大切なことを奏はどうでもいいと投げ捨てる

今のだって鏡華が話してきて、適当に受け流していた報告の数々だ

今、ふっと思い出しただけだ。どうせすぐに忘れる

 

「どうでもいいこと、だけど……」

 

どうして人間同士が仲良く出来ないのか

どうしてみんなで一緒に進もうとしないのか

どうして争いはなくならないのだろうか

 

どうしてなのか

奏には分からなかった

 

そして

奇しくもその疑問は

自分のシンフォギアを引き継ぐ響も考えていたことだった


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