【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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Part ossia 幸せのカタチ2

黄昏時を過ぎた風鳴の屋敷。そこの部屋の一つ、鏡華の部屋

部屋には三人の女子と一人の縮こまった男子がいた

 

「ひっく……えぐ、ぐすん……見られた。鏡華に全部見られたぁ……」

 

泣いているのは、誰であろう奏

いつもの様子では想像も出来ない奏の姿に、ますます鏡華は身体を縮める。同時に可愛いなと思ってしまうのは記憶の底に封印した

そんな奏を抱きしめて慰めているのは、普段は逆の立場である翼。未来も隣に座って慰めている

 

「奏。鏡華だって悪気があって見た訳じゃないんだ。叔父様から見せないようにした結果がああなって……」

 

「そ、そうですよ。それに、司令には後で私と翼さんがキツく言っておきますから!」

 

ちなみに、鏡華を吹き飛ばした原因である弦十郎は翼と未来に怒られてヘコんでいる

一応、彼なりに罪悪感はあるのだろう

 

「それでも、鏡華に見られたのは変わんねぇよ……」

 

「いや、それはそうなんだが……」

 

翼も困った様子で言葉を紡ぐ

マズい。何がマズいのかって―――こんなに落ち込む奏は初めてなのだ

対処法が分からないでいた

仕方ないので、

 

「鏡華」

 

「あんですか?」

 

「鏡華が蒔いた種だ。鏡華が何とかしろ」

 

「はあ!?」

 

「ああ、ついでだ。小日向を送ってくるから、任せたぞ」

 

「へっ? え、ええ?」

 

人に任せて、逃げ出した!

ついでに未来も引っ張って部屋を出てく

取り残された鏡華は閉じられた扉を見ていたが、再び開けられない事を悟ると背後を振り返る

振り返れば、同じように絶句してぽかんと口を開けたままの奏が扉を凝視していた

 

「逃げた……」

 

「ああ、逃げたな……」

 

「翼が、あたしから逃げた……」

 

「俺も逃げられた。あれ、後でお仕置きするのが一番いいよな」

 

「明日、翼が着る服はスク水だけだ」

 

「バニーにしない? スク水探すの面倒」

 

そうだな、としょんぼりする奏

言葉数が減ってしょんぼりする奏を見て、鏡華は苦笑を浮かべて立ち上がった

歩くとバレるので、鏡華は《遥か彼方の理想郷・応用編》を発動。瞬間に奏の後ろを取っていた

驚く隙を逃さず、鏡華は優しく奏を抱きしめた

 

「ッ……!」

 

「悪かったって。んな恥ずかしがるなよ」

 

「は、裸見られたんだ。誰だって恥ずかしがるわ!」

 

「ま、そうなんだろうけど」

 

首に両手を回し、赤髪に顔をうずめる

ふんわりとした感触にふわりと鼻腔をくすぐる良い匂い

 

「何してんだよ鏡華」

 

「んー、良い匂いだなって」

 

「あたし達の自慢の彼氏が変態になった……!」

 

「うぉい! 誰が変態だ! 誰が」

 

「遠見鏡華。あたしと翼と未来の彼氏。三股、ハーレム三昧のソングライター」

 

「ごめん、それ以上やめて。俺が泣きそう」

 

半ば泣き声で言うと、奏はやっと笑ってくれた

思わず鏡華も笑って抱きしめる腕に力を籠める

 

「まー、なんだ。本当にごめん」

 

「いいよ。鏡華だから、仕方ないから許す」

 

「そりゃどうも。俺に出来る事なら命令一つ聞くけど?」

 

「じゃあ、もちっとだけぎゅっと」

 

「もちっとっていつまで?」

 

「んー……んじゃ、翼が帰ってくるまで」

 

「仰せのままに」

 

鏡華は奏を自分の元へ引き寄せる

奏もそれに逆らわず、むしろ背中を預けた

それから、鏡華と奏は取り留めない会話で盛り上がった

他愛のない会話はずっと続いて、そして―――

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

「まったくもう。いきなり連れ出すなんて酷いです」

 

「すまない。他に良い言い訳が見つからなくて。……だが、立花も待ってる事だしちょうどよかったんじゃないか?」

 

「それはまあ、そうですけど……」

 

複雑そうな表情を浮かべる未来

翼と未来は弦十郎の運転する車の後部座席に座って、宿舎に向かっていた

もちろん指示したのは翼。奏に辱めを与えた罰なのだそうだ

 

「だけど、まさか奏さんがあそこまでピュアだなんて初めて知りました」

 

「ああ、あれは私も驚いた。奏、私にはセクハラ紛いの事はしてくるのに、自分は乙女だったんだな」

 

「乙女って……」

 

翼の言い方に苦笑を覚える未来

 

「だってそうだろう? 人にはセクハラ紛いの事をしてくるのに、自分は裸を見られただけで泣いてしまう。乙女と言う以外何と呼ぶ」

 

「は、はあ。後、翼さん。同じ事二回言ってます」

 

「む……」

 

思わず口を閉じる翼

すると、口を開いたのは意外にも運転席にいた弦十郎

 

「奏の両親は娘を溺愛してな、自然とそういう教育を受けてたんだろう」

 

「英才教育とかお嬢様教育、と云うアレですか?」

 

「表現としちゃあ間違ってないな」

 

だからか、と納得する翼

そうこうしている内に、宿舎の前に到着した

未来だけ降り、窓を開ける翼

 

「それじゃあ、また明日。立花によろしく言っておいてくれ」

 

「分かりました。司令もありがとうございました」

 

「うむ。お休み、未来君」

 

「はい。あ、翼さん。奏さんの事ですけど……」

 

「なぁに心配はいらん」

 

未来の質問意答えたのは翼ではなく弦十郎だった

 

「鏡華の事だ。どうせ、すぐに仲直りして仲良く乳繰り合ってるだろう」

 

「……翼さん」

 

「了解した。叔父様、早急に戻ってください。嫉妬と云う銘の刃が鞘走る前に」

 

「はっはっは。ああ。それじゃあな未来君」

 

笑い声で返した弦十郎はそう言って車を反転させて、元来た道を戻っていく

未来はふぅと笑みをこぼし、宿舎に入っていくのだった

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

帰宅した翼が鏡華の部屋で見たのは

ベッドに入って規則正しい寝息を立てている鏡華と奏の姿だった

まさか、と不安が頭をよぎり、音を立てずに近付いて掛け布団をめくってみると

 

「――――――」

 

服は着たままだった

勝手に大人の階段を昇ってくれなくてほっとする反面、羨ましいと云う気持ちも涌き上がる

と、よく見れば、奏が鏡華の腕を枕にしている反対側―――逆の腕が空いているではないか

恐る恐る掛け布団をめくり、空いている場所に自分を潜り込ませる

その瞬間―――鏡華の瞼が開いた

 

「ひゃっ!」

 

声を出しそうになって、どうにか押しとどめる

が、ちょっと漏れてしまったようだ

瞳だけが翼を捉える

 

「ああ、翼か。お帰り」

 

「た、ただいま」

 

「で、どうして俺のベッドに乗って、俺の腕を奏みたいに枕にしようとしてるの?」

 

「だ、駄目なのか? 奏は良くて私は駄目なのか!?」

 

上目遣いにちょっと涙眼の翼に、鏡華は首を横に振る

 

「いや全然。だけど、ちょっと待って欲しいかな」

 

そう言うと、ゆっくりと奏の頭の下にあった自分の腕を引き抜く

両腕が使えるようになると、手が届く場所に置いてあった紙とペンを取り、薄暗い中、何かを書き始めた

 

「何を書いているの?」

 

「新しい歌詞。寝てたら思いついたから今の内に書き留めてんの」

 

「そうか。……出来たら、私と奏に歌わせてくれ」

 

「んー、どっちかって云えば、これはユニットよりも翼だけの方が映えると思うんだよな。和風ロックだから」

 

「そ、そうか」

 

手早く済ませ、紙とペンを元の場所に戻す

 

「さて、と。それじゃあ寝ますか」

 

布団に潜り、鏡華は奏を抱き寄せる

 

「な、ななな何を……!」

 

「ほら、翼は俺の反対側に来て」

 

「……? うん」

 

言われた通り先程まで奏が寝ていた位置で身体を横にする翼

翼の手を掴んで引っ張り奏を抱きしめているような位置に置く

 

「……まるで、奏が私と鏡華の娘みたいな光景だな」

 

「みたい、じゃなくてそれを表現してみたんだけど。起きた奏が驚くのが眼に浮かぶな」

 

「まったく……」

 

とか言いながら案外満更でもない様子の翼

自分から最適な位置に手を置き換える

 

「お休み鏡華」

 

「ああ、お休み―――お母さん」

 

「ッ、言うな―――お父さん」

 

言い返してやったが、鏡華は笑みを浮かべてさらりと受け流した

そのまま夢の世界へ誘われる

仕方がないな、と思いつつ翼も瞼を閉じるのだった

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

早朝、奏は眼を覚ました

誰よりも早く寝てしまったのだ。一番早くに起きるのは当然だろう

目が覚めて―――自分が置かれている位置に気付いた

 

「どう云う事だ? これ」

 

片や鏡華の身体が

片や翼の身体が

奏の身体を包み込んでいる

どうやら、寝ている間に体勢を変えられてこんな寝方になっていたようだ

 

「だけど―――存外、悪くないな。こう云うのも」

 

奏に両親の記憶は残っていない

記憶喪失とか、幼かったからではない

上書きされたのだ。ノイズが両親や他の人間を殺した時の記憶によって

あの時の記憶は鮮烈に奏の網膜から脳内に、昔の記憶を上書きしてまで焼き付いた

だから―――新鮮で、嬉しかった

 

「なあ、翼、鏡華」

 

未だ眠り続けている二人の頬をそっと撫でる

 

「いつまでも、それこそ一生、あたしと一緒にいてくれるか?」

 

奏は独りぼっちが一番怖かった

独りだと何も出来なくなる。自分が自分じゃなくなりそうな錯覚に陥る

翼を独りにしてしまった自分にこんな事で怖がる事など許されないかもしれないが、

 

「あたしは―――世界があたし達を見捨てても、三人一緒が良いな」

 

そう、聞こえない二人に願った

のだが―――

 

「くっ―――くくく……」

 

「ふ、ふふふ……」

 

押し殺した笑い声のデュエットが聞こえてきた

眼を見開き、二人の顔を交互に見る

 

「お、お前ら……! まさか最初から眼覚まして……!」

 

「んー、俺は存外悪くないなって所で」

 

「私はどう云う事だって所だ」

 

「どっちも最初からだった!」

 

うわー、と真っ赤になった顔に手を当てる奏

そんな奏を見て、鏡華と翼は示し合わせたように奏を二人同時に抱きしめた

 

「にゃ、にゃにを……!」

 

「俺達はどこにも行かねぇよ。もう二年前の出来事はごめんだ」

 

「まったくだ。私を孤独にさせた鏡華と奏には、罰として一生傍にいてもらうからな」

 

「――――――」

 

―――まったく

本当にまったくだ

この二人といると、焼き付いた記憶が剥がされていく気分だ

 

「そりゃっ」

 

ベッドのバネを利用して寝たまま跳躍すると云う荒技を披露する奏

落下地点を修正し、翼と反対の鏡華の隣に寝た姿勢で落下する

驚いている隙に今度は鏡華を真ん中にして抱きついた。鏡華をちょっと押して、翼にも抱かせる場所に移動させる

 

「お?」

 

「だったら、二人のその台詞―――プロポーズとして受け取っとくぜ?」

 

「…………」

 

「元より、そのつもりだ」

 

二人からの熱い視線に、鏡華は視線を彷徨わせる

プロポーズはもうちょっと大事な場所で云うつもりだったのだが―――

 

「まあ、いいか。俺達に普通なんて無理だろうし」

 

「そうだぜ鏡華」 「そうだよ鏡華」

 

奏と翼の声が重なる

諦めたように首を振った鏡華は、二人を抱き寄せ、

 

「風鳴翼さん」

 

「はい」

 

「天羽奏さん」

 

「おう」

 

「結婚出来ないと思う。誰からも祝ってもらえないかもしれない。それでも……それでも一生―――俺と一緒にいてください」

 

「もちろんです」

 

「当たり前だろ」

 

面と向かって、生まれて初めてプロポーズした

即答で返答する翼と奏。鏡華を抱きしめ返す

それだけで胸が温かくなる

幸せのカタチは人それぞれだ

例え歪であろうと、自分達が幸せならそれでいい

それが―――世界から見捨てられようとも


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