【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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ossiaとは楽譜記号の一つで、読み方はオッシア
意味は、あるいはまた
代替可能な楽譜を示すときに用いられる記号です

ossiaと称される話は番外編として考えてください
それでは、どうぞ


Part ossia 幸せのカタチ

結婚とは女の最高の幸せ―――らしい

どこかの雑誌や漫画で書いていたのを、鏡華はうろ覚えだが頭の片隅に残っていた

生憎と鏡華自身は男だったので最高の幸せかどうかは分からなかったが、好きな人と結ばれるのは嬉しい事だ

ただ―――鏡華は、自分を好きと言ってくれる彼女“達”に最高の幸せは贈れない

日本は重婚禁止の国の一つ。好きな人の中に重婚可能な国の人間がいれば、外国でなら認可されるのだが、鏡華を含めて全員が生粋の日本人だ。重婚は不可能である

では、どうすれば鏡華は彼女達に最高の幸せを贈れるのだろうか―――

 

「―――で? 何故、そんな事を俺に話す」

 

呆れたようにヴァンは問い返す

持っていたグラスの中で氷がカランと踊った

 

「いや、相談出来る男がお前しかいなくて……」

 

「二課内に男はいるだろう」

 

「全員、恋人がいねぇんだよ。つか、二課って独身率が高いんだよな」

 

藤尭はオペレーター能力は高いのだが、こう云う事に関してはヘタレそうだし、緒川は仕事が恋人。唯一、了子とデキてても良かった弦十郎もいない。もちろん、所帯持ちの職員はいるのだろうが、知り合いの職員にはいなかった

 

「その点、ヴァンは雪音がいるだろう?」

 

「俺とクリスはそんな関係じゃない」

 

「だけど好きだろ?」

 

「ああ」

 

「ならそれでいい。頼む、アドバイスかなんか、適当でもいいから教えてくれないか?」

 

両手を合わせて頭を下げる鏡華

拝み倒されるのが鬱陶しいヴァンはグラスを置き、

 

「分かったからその姿勢をやめろ。―――だが、俺も貴様らのような関係に詳しい訳じゃない。それでもいいのか(オーケー)?」

 

「ああ、それでいい」

 

「ふむ……一応、海外で貴様らのような一夫多妻家族は見た事があった。俺の父親が率いていたNGO団体のメンバーの中にも、そう云う関係になって海外に残った人はいた」

 

「おお」

 

「だが、海外だけだ。日本国内ではバレる可能性だってあるからな」

 

「つまり、やっぱ海外に籍を作らなきゃ駄目って事か」

 

「国籍を作れるのかは知らん。それに、貴様自身も言ったろう。重婚可能国籍を持つ女を見つけなきゃいけない、と」

 

「それは無理だ」

 

即答する鏡華

これ以上他を作る事は出来ない

ハーレム主義じゃないのだ鏡華は。ただ、選べなくてこうなっただけ

 

「では諦めるんだな。だいたい、婚姻届さえ出さずに式だけ挙げればいいだろう。まあ、尤も―――人気者(アイドル)を嫁にだなんて、大スキャンダルで済めばいいのだが」

 

「……一番の問題はそこなんだよな」

 

ツヴァイウィングは現在、日本国内でナンバーワンに近いユニットになりつつある

一月後かそこらには最近世界中を賑わせている海外のソロシンガーとのコラボも企画されているくらいだ

そんなユニットがスキャンダル―――確実にとんでもない事になりそうだ

 

「はあ―――これじゃあ、結婚とかは当分先になりそうだ」

 

「ま、諦めろ。貴様には無限に近い時間があるのだからな」

 

「…………」

 

「それより―――だ」

 

そう言って真剣な表情を見せるヴァン

自然と鏡華も表情を引き締める

 

「俺も遠見に教えてほしい事がある。相談に乗ったんだ、こちらの話も聞いてくれ」

 

「あ、ああ。俺が知ってる範囲ならいくらでも相談に乗ってやるよ」

 

助かる(サンキュー)。実は―――」

 

重ねた両手に額を乗せ、ヴァンは言った

 

「指輪って、どうやって渡せばいいんだ?」

 

「…………」

 

「いや、本当にどうすればいいんだ? 誕生日を勘違いして渡せばいいのか? それともそれとなく? いや、雰囲気が大事だと聞いた事があったな。どこか景色の良い場所で真剣に告白して渡すのがベストだろうか。ああ、人前で言うのも祝福を貰えていいか。―――なあ、どうすればいい?」

 

「まずは落ち着け」

 

ヴァンも意外と緊張する事があるようだ

珍しい一面を見た鏡華だった

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

何でも、ヴァンはクリスに指輪を渡すつもりらしい。別に結婚指輪と云う訳ではないようだ

俗世間に疎いヴァンにとって、普通の渡し方が分からないようだった

鏡華は一先ず、「良い雰囲気になったら渡せば?」と言っておいた

正直、鏡華も渡し方など知らない。その場になったら自然と渡せるんじゃね? とか思っているのだ

あてもなく、復興が進んでいる街をぶらぶら彷徨う

ツヴァイウィング復活の際、堂々と登場した鏡華だったが、やはり世間の眼はツヴァイウィングに向けられており、鏡華の顔を覚えている人は少ない

こうして変装せず歩いても、声を掛けられる事もない

 

小一時間程、歩いた鏡華が辿り着いたのは―――ふらわーだった

建物も看板もぼろぼろだったが、店内には明かりが灯っていた

 

(そーいや、最近はロクに来てなかったな)

 

ちょうどいいや、と鏡華は開け放たれた扉から店内に入った

中では、包帯を頭に巻いたおばちゃんが皿洗いをしていた

わずかに部屋の奥から物音が聞こえたが―――ま、気のせいだろう

 

「いらっしゃい―――おや、鏡華君じゃないかい」

 

「ちわっす。お久し振りです」

 

「本当に。ここ一か月ぐらい、何してたんだい?」

 

「んー、後片付け……ですかね」

 

本当は、事後処理、と云うのが正しいのだが

ただ、おばちゃんはそれで“家屋の片付けか何か”と勘違いしてくれた様で、そうかい、とだけ返した

鏡華は一番近いカウンター席に座る

おばちゃんは洗い物を変わらぬペースで済ませ、普通のでいいかい? と聞いた

お願いします、と鏡華

無言の時間が続く。しばらくして、肉や生地が焼ける匂いと音がフラワーを包む

 

「なあ、おばちゃん」

 

「何だい?」

 

「おばちゃんって結婚してんの?」

 

唐突に鏡華が訊ねる

おばちゃんにも突然だった様で、腕が止まっていた

 

「何だい薮から棒に。そりゃあしてたよ」

 

「旦那さんは……?」

 

「もうずっと前にあの世であたしを待ってるはずだよ」

 

「すみません」

 

一度も見てない時点で察するべきだった

自分の事ばかり考えていた鏡華は即答する勢いで謝った

 

「何年も前の話さ。気にしなくていいよ」

 

「……はい」

 

「で、それがどうしたんだい?」

 

「…………」

 

ここで鏡華は少し口を閉ざした

自分の交際関係を言うべきか、迷ったのだ

だが、結局は言う事にした

この人なら、自分達を避けたりしないと信じて

 

「実は―――俺、今、三人の女子と付き合ってるんです」

 

「――――――」

 

ピシッと

おばちゃんの身体がさっき以上に硬直した

お好み焼きはちょうど皿に乗せた直後だったので焦げる事もなかった

 

「それは……三股って奴かい?」

 

「あー、いえ、三股は三股で間違ってないんですけど……」

 

一先ず、これまでの事を簡潔に話す

もちろんシンフォギアの事は内密にしたまま

話の途中までは真剣だったおばちゃんだが、未来が告白したくだりになると、途端に吹き出した

 

「あの子がそんな事を言ったのかい! はは、そりゃ凄い」

 

「笑い事じゃないっスよ……」

 

「それで、翼ちゃんと奏ちゃんに加えて、未来ちゃんとも付き合いだした訳かい」

 

「小日―――未来の論理は間違っちゃいませんでしたからね。奏もすっかり乗り気で、立花も付き合わないと俺を()る気満々だったし―――」

 

小日向、と名字で呼びそうになり、頭を振って名前で呼び直す

―――恋人なんだから名前で呼んでやれよ! つか、呼べっ!

と言った未来―――ではなく、奏。未来が言っていたら、きっと翌日は槍が降っていただろう。いや、真面目に

それから、今度は結婚と指輪、プロポーズについて話した

 

「まあ、まず婚姻届は提出出来なさそうだね。結婚式は身内だけならなんとか」

 

「やっぱり……そうっスよね」

 

「指輪については……ま、アクセサリーでいいんじゃないかい」

 

「うーん……」

 

とは言ったものの、翼と奏にはギアのペンダントがあるし、ピアスはちょっと邪魔になる

未来はまだ学業があるので凝った物はあげられない

 

「でも、一番大切なのは、式とか物じゃない。度胸さ」

 

「ど、度胸っスか?」

 

「そうさ、度胸さ」

 

それから、鏡華はおばちゃんの結婚までの道のりを聞くハメになった

どうやらおばちゃんは、お見合いの席で旦那さんと出会った様で、その旦那さんには他にも候補はいたらしい

だけどそこはおばちゃんの云う度胸とやらで旦那さんの愛と隣を手に入れたようだ

それから数十年間、おばちゃんと旦那さんはこの場所でふらわーを切り盛りしていた。ノイズが旦那さんを殺すまでは

 

「辞めたい、とか思わなかったんですか?」

 

「あの人が死んだ直後は思ったさ。けどね、逃げたって後悔だけが後を追い掛けるだけだって教えてくれた人がいてね、むしろこの店を続けていれば、あの人にもう一度会えるんじゃないかって思えたんだよ」

 

「強いんですね」

 

鏡華の言葉に、弱いだけさ、と苦笑を浮かべるおばちゃん

 

「まあ、これくらいかね。あたしが言える事は」

 

「ありがとうございます。あいつらに言う時の参考になりました」

 

「そうかい。そりゃ良かったよ。なら―――早速言っておやり」

 

「…………?」

 

不思議そうに首を傾げ水を飲む鏡華

おばちゃんは部屋の奥に視線を送り、

 

「ほら、出ておいで」

 

そんな事を言った

途端、ぞろぞろと出てくるわ出てくるわ

買い物に出掛けていた翼と奏、響と未来、そしてクリスが―――

 

「ぶーーっ!!」

 

当然、鏡華は飲んでいた水を吹き出した

それはもう、盛大に外に向かって吹き出すのだった

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

「おばちゃん……ひでぇ」

 

「あたしは何も知らないよ。この子達は勝手に隠れただけだし、鏡華君が勝手に喋っただけだからね」

 

ぐぅの言い様もないとはまさにこの事だろう

入った時に聞こえた物音は彼女達の音だったのだ

かなり恥ずかしい気がして、鏡華は思考を停止、机に突っ伏した

 

「つか、何で隠れてた……」

 

「いや、鏡華を脅かそうとして……」

 

「そんなびっくり要素、日常には求めてない」

 

「そっかー。鏡華は自分の部屋に裸のあたしがいるびっくり要素もいらないわけですな?」

 

「うん。いらない」

 

「おろ?」

 

てっきり、それは別腹だ、だとか何とか言ってくるとか思ってた奏は首を傾げる

その代わり、突っ伏した鏡華はとんでもない爆弾発言を投下した

 

「そんな恰好の奏がいたら確実に、にゃんにゃんタイムに直行して次の日まで抱き続けると思うから」

 

「…………」

 

とんでもない爆弾に、全員の思考が停止した

そう云った事に疎い気がしたクリスでさえも顔を真っ赤にしてる

 

「ちょ、ちょっと鏡……」

 

「別に欲求不満って訳じゃないですヨ? ただ、眼の前にそんな恰好の恋人がいれば、誰だってプッツンするはずですヨ」

 

「しっかりしろ、鏡華!」

 

眼の前で手を叩く翼

それでどうやら思考を回復させた鏡華は、顔を上げた

 

「ああ、翼……」

 

「正気に戻ったか?」

 

「翼までそんな事しないでよ? 流石に二人纏めてなんて……歯止めが利かないよ」

 

「いい加減、眼を覚ませーーー!」

 

翼の全力の拳は

 

  ―打ッ!

 

しかと鏡華の脳天に直撃し―――床に叩き付けた

防御もせずモロに喰らった鏡華は、頭を強打し―――暫し、眼を回すのだった

最後に鏡華が言った言葉は、

 

「ヴァンよぉ……やっぱ、その渡し方はないぜ……」

 

と、至極的外れの物だったと云う

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

鏡華が眼を覚ましたのは、風鳴の屋敷だった。それも自分の部屋

酷く頭が痛かった。直後の記憶もトンでいるらしく、翼達が出てきた所までしか覚えがない

 

「何やらかしたんだ俺……?」

 

そう言いつつ、着けたまだった手袋を外し、服を脱ぐ。包帯はどうしようか迷い、仕方なく放置してタンクトップを着た。髪を頂点で結び、ポニーテールに

部屋を出ると、屋敷内はとても静かだった

外を見れば真っ暗になっていたので、少なくとも数時間は眠っていたようだ

廊下を歩き、居間に入った鏡華を待っていたのは―――

 

「か、奏、やっぱり……この恰好は恥ずかしいよ!」

 

「だ、だよな。流石のあたしもそう思う」

 

「奏さんでも恥ずかしい事あるんだ……」

 

翼と奏、未来がバニーガールの恰好をしてた

しかもタイツを穿く前だったのか、剥き出しの足が眩しかった

何故、どうしてそれを着る事になったのか―――

そこで、思い至った。あれ、もしかして消失した記憶が原因?

三人の姿に見蕩れていると、未来が鏡華の存在に気付いた

 

「き、鏡華さんっ!?」

 

「ッ……!」

 

「へぅ!?」

 

奏が珍しく、素っ頓狂な声をあげる

あの奏が恥ずかしがる所なんて始めた見た

まあ、一先ずは―――

 

「何か―――すみませんっ」

 

その場で土下座した

三人も固まる。鏡華も土下座の姿勢で固まる

 

「あ、えっと……鏡華。何で謝る?」

 

「いや、そんな格好してんのって、もしかしたら俺の発言が原因かもしれないなーって思いまして」

 

「ああ、うん。確かに、鏡華の発言が原因だ」

 

「やっぱ俺そんな事を言ったの!?」

 

「……覚えてないのか?」

 

「何か頭が凄く痛いんだよ。そのせいか、翼達が出てきた所までで記憶が終わってんだ」

 

「…………」

 

奏と未来の視線が痛い翼だった

だが、翼は、

 

「そ、そうか! きっと何かとぶつかったんだろう! 鏡華はドジだなぁ!」

 

誤摩化す事にした!

当然、気付かない鏡華は、そうか。ぶつけたのかー、と納得していた

 

「とにかく、部屋から出るから服に着替えたら?」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

「あ、待てよ鏡華」

 

出ていこうとする鏡華を引き止める奏

 

「こ、この姿に何かよからぬ事、考えないか?」

 

「よからぬ事?」

 

「ええと……例えば、よ、欲情する、とかです」

 

「…………」

 

鏡華は無言だったが、部屋を出ていく際、ぽつりと、

 

「するに決まってるじゃん」

 

と、言ったのを三人は聞き逃さなかった

部屋を出てくと、すぐに三人は顔を寄せ合い、密談を始めた

 

「や、やはりさっきの言葉は、無意識で言ったのではないか?」

 

「かもな。大体、だっ……! こほん、にゃんにゃんタイムなんてヘタレの鏡華には無理だぜ」

 

「…………奏さん」

 

「何? 未来」

 

「実は奏さんって―――ピュア?」

 

「ぶっ」

 

「え? そうなの奏?」

 

「今、抱くって台詞をにゃんにゃんタイムって言い直しましたし……」

 

「あ、あうあう……!」

 

「どうやら小日向の指摘はあながち間違いではないようだ。奏が動揺している所なんて私は初めて見たぞ」

 

「昔ってお風呂とか覗かれました?」

 

「ああ、あったな一度だけ。その時は奏が桶を投げて追い払ったが……そう云えばその時も動きが早く、顔が真っ赤だったような……」

 

「も、もういいだろ!? 過去の話ですぜ!? それより、早く着替えようぜ!」

 

話を切り上げ、バニーの服(?)を脱ぎ捨てる

その時だった。扉の向こうから声が聞こえてきたのは

 

『だからちょっと待てって旦那! 居間には入れないんだって!』

 

『何故だ? 別にエロ本があったって咎めはせんぞ。むしろ見せてみろ』

 

『いや、エロ本より過激っつーか―――とにかく入らせん!』

 

『む。そう言うからには入れさせない覚悟はあるんだろうな?』

 

『じ、上等だ! 居間に入りたければこの俺を―――』

 

『ふん!』

 

鏡華の叫び声は最後まで続かなかった

旦那から察するに弦十郎だろうが、彼の気合い一発の声と共に廊下と居間を仕切る襖が外れ、鏡華が吹き飛んできた

ごろごろと転がり、鏡華は火傷する勢いで背中と頭を畳に擦り、眼を開けた先には―――

 

「……へ……?」

 

「ぁ……あ……」

 

裸の奏がおり

詰まる所、裸姿の奏を真下から見上げる恰好になっていた

そして、

 

「きゃぁぁああああーーーっ!!」

 

奏が乙女らしい悲鳴をあげるのを初めて聞いたのだった


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