【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.ⅩⅩⅩⅣ

あれから三週間後

一月近い時間をかけて、響は未来の前に姿を現した

響としては、本当はもっと早く駆けつけるつもりだった

だが、そうさせてくれない問題がいくつか

まず、国内と云うか政府―――つまりは大人の問題で

次に、国外、米国政府からの声明による攻撃―――つまりは機密漏洩の問題で

最後に、怪我を治す事に専念していたため―――つまりは生命の問題で

むしろ絶唱を放ったのに三週間で完治した事の方が驚きだ

翼とクリスも完全復活している所を見れば、新生シンフォギア―――後にエクスドライブと呼ばれるあの形態が奏者の身体に掛かる負担を大幅に軽減してくれたのだろう

 

置いてかれた鏡華とヴァン、奏は、決闘の後しばらく人前に出なかったが、目立った傷もなく元気な姿を未来に見せていた

特にあれほど血を流し致命傷を負っていた鏡華も全てが完治していた

―――しばらくは無茶出来ないけどな

そう言って髪を切りながら鏡華は笑っていた

 

そして、鏡華とヴァンの決闘

決闘の勝者は―――鏡華

勝者が受け取った報酬とは―――今代の王

そう、後から未来は聞いた。だけど、王とは何をするのか、それは答えてくれなかった

だけど、それでもよかった。自分の前に彼はいる。誰一人欠ける事なく帰ってきてくれたんだ

これ以上欲せば、罰が当たると云うもの

 

全壊とも云ってよいリディアン音楽院は移転する事が決定した。それまでの間、生徒には教師が急ピッチで作成した問題集を渡し、帰省させる事になった。奏者である響、翼は当然ながら、居残る事を決めた生徒―――と云っても未来や弓美達ぐらいだが―――には宿舎が提供された

再開には、最低でも後半月ぐらいは掛かるそうだ。まあ、政府も非公式に協力しているので再開は時間の問題だった

ふらわーのお好み焼きが大好きだった響と鏡華と奏。響の豪快な食べっぷりを見るのが好きだった詩織は移転の話を聞いた時、少し残念そうだったらしい

 

弓美は移転を好機と考え、新リディアンでアニソン同好会を発足させようとしていた

多分、響や未来、創世や詩織、籍だけなら翼も入るだろう。元々アニソンは好きな方だった鏡華が顧問を務めるだろうし、きっと弓美の同好会設立は上手くいくだろう―――きっと

 

これで、後日“ルナアタック”と云われるようになる月の欠片の破壊から一月程の話は終わりだ

これから語るのは、ノイズの驚異が尽きなくとも人の闘争が終わらない未来を

未だ危機はそこら中に潜み、悲しみの連鎖はどこかで必ず生まれる世界を

明日へ向かい、歩いていく少年少女の一先ずの決着の物語

遥か彼方を目指し―――辿り着きし理想郷での物語だ

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

様々な重低音が響く工事現場

ここは新たなリディアン音楽院となる場所

作業員がせっせと機械を駆使して建築してくれていた

そんな作業を、すでに出来上がった校舎の屋上で鏡華は長い後ろ髪を靡かせて見ていた

相変わらず暑そうなコートを着て、肌を隠している

完全聖遺物に戻そうと王になろうと結局の所、鏡華の身体に刻み込まれた傷痕が消える事はなかった

まあ、それでもよかった。この傷は呪いなのだ。定期治癒によってなくなるまで残っていて欲しかった

 

「―――ここにいたんだ」

 

後ろからの声に鏡華は作業員から視線を外し、振り向いた

振り向いた先には、制服を着た翼と奏がこちらに来ていた

ちなみに、奏が着ている制服は翼のではなく最近届いた奏用の制服だ

だからと云って、奏がリディアンに通えるかどうかは微妙だったが

 

「翼。奏も」

 

「ああ」

 

「にしても鬱陶しそうですな、その髪。切らないの?」

 

「切っても切れないんだよこの髪。切ったらすぐに伸びるし―――この長さになったらこれ以上長くなる事もないし……諦めた」

 

カリバーンを具現し首根っこでバサリと無造作に斬り捨てる。斬り捨てられた髪が風に乗る前に―――短くなった髪が元の長さまで伸び、斬り捨てられた髪が粒子のように消えてなくなった

 

「……ね?」

 

「そのよう、だな。奏はどう?」

 

「あー、あたしはこのぐらいが好きだから切ってないけど、多分、あたしもそうなんじゃないか?」

 

「どうやら鞘は記録した俺達の最も万全の状態に戻すようなんだよ。《辿り着きし永久の理想郷》発動した時、切らなかったからなぁ。この長さをデフォルトにしちまったみたいだ」

 

「……不老不死も、存外面倒なんだよな。悪くないけどさ」

 

肩を落とす鏡華と奏

そんな二人に苦笑を浮かべる翼

それより、と言葉を連ねた

 

「用があって私達を呼んだのだろう? 鏡華」

 

「まあね。正直に言ってしまえば、今回は翼と奏は観客だ。メインは別だ」

 

「それって……」

 

そこまで言った時

出入り口の方から音が聞こえた

三人が振り向けば、そこには―――

 

「お、お待たせしました……!」

 

「あれ? 翼さんと奏さんも……?」

 

未来と響が

二人も制服を着て、鏡華が指定した約束の時間通りに来てくれた

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

「〜〜♪」

 

鼻歌を歌い、クリスは一人でなだらかな山を昇っていた

その手にはバスケットボックスが握られていた

昇り切ると―――眼の前には半壊したフィーネの屋敷が姿を現した

屋敷の前には進入禁止のテープが貼られ、黒服が数名見張りをしていた

クリスは立ち止まる事なく進み、黒服の前に立つ。すると、

 

「お話は窺っています。どうぞ」

 

「どーも」

 

テープを持ち上げてくれた

ぶっきらぼうに言葉を返し、持ち上げられた箇所から屋敷の敷地へ足を踏み入れる

奏者であるクリスは弦十郎の計らいによって屋敷に入る事を特別に許可されていた。開け放たれた大扉から屋敷内へ入り、大広間に向かいながら声をあげた

 

「ヴァーン」

 

屋敷内にはクリスを除けばヴァン以外いない事は知っていた

声が屋敷に三度反響する頃に、

 

「クリスか」

 

ヴァンが姿を現した

泥だらけの姿にクリスは何してたんだ、と聞いた

 

「ちょっと……(グレイブ)をな」

 

「墓?」

 

ヴァンの先導にクリスは付いて行く

裏口から出た先、一目につかない場所に、ヴァンが言った墓があった

盛って固めただけの土に太い枝と紐で固定した十字架を刺しただけの簡素な墓。それが七つ

 

「これって……」

 

「四つは俺達の両親の墓。二つはジャンとエドの墓。一つは―――フィーネの墓だ」

 

「フィーネの? でも……ヴァン、フィーネの事が」

 

「ああ。大嫌いだ。根底は変わらない」

 

だが、とヴァンは言葉を続けた

フィーネがあの地獄から救ってくれたのも事実だ

八年前、戦火に巻き込まれた団体は半分以上が捕虜になった

助かったのは―――ヴァンとクリスだけ

皆殺しの憂き目に遭った―――どちらも

脱走の計画を立てたヴァンが自分達を捉え、家族を、仲間を殺した奴らを皆殺しにしたのだ

護身術として教わっていた短剣一本で

それから三年間、弦十郎の部下が発見するまで、雑草を食べ、泥水を啜り、盗みを働いて生きてきた

その部下も怪しかったから殺したのだが

それを見てフィーネに憑依されていた了子が自分達を拾ったのだ

甘い言葉をクリスに囁いて

 

「あいつは利用するためだったとは云え、俺達に着るものを与えてくれた。腹一杯の食料を与えてくれた。戦う術や力を与えてくれた」

 

「そうだよな。それに、何だかんだ言ってこれを奪う事もしなかった」

 

胸にぶら下がるギアのペンダントにそっと触れる

頷くヴァンも触れようとして、手を止めた

自分のペンダントはもうなかった。完全聖遺物を所有した時からどこかへ云ってしまったのだ

 

ヴァンとクリスは少し間黙祷を捧げ、その場を後にした

土で汚れた手を洗い、二人は景色の良い小高い丘にやってきた

黒服は来ていない。彼らの仕事は屋敷の見張りだからだ

クリスがバスケットボックスを開け、サンドイッチを取り出してヴァンに渡す

 

「ん」

 

「サンキュ」

 

厳重に布で封したエクスカリバーを脇に置いて受け取り、頬張るヴァン

無表情で食べるヴァンを横目で見て、クリスも自分のを取り出して食べ始めた

 

「なぁヴァン」

 

「何だ?」

 

「これから、どうすんだ?」

 

「これから?」

 

飲み込んで鸚鵡返しに聞く

 

「あいつらはあたし達に良くしてくれるけど……そのまま受け入れていいのかな……?」

 

「……そうだな」

 

もう一個取り出して頬張ったヴァンは地平線の彼方に眼を向ける

食べ切ると、自分なりの答えを口にした

 

「いいんじゃないか。一先ずは」

 

「一先ず?」

 

「風鳴弦十郎に聞いたが、奏者として働けば少なからず給金が出るらしい。しばらく溜めれば夢の足掛かりになる」

 

「まあ、そうだな」

 

「ついでにクリスに友人も出来て一石二鳥だ」

 

「ばっ……! と、友達じゃねぇよ! あいつらは、その……利害が一致してる仲間と云うか……」

 

顔を真っ赤にして語尾がしぼんでいくクリスにヴァンは笑う

クリスは正直じゃないだけで根は優しい少女だ

否定はするが、全否定だけは出来なかった

―――こう云う性格の女の事をなんて呼ぶんだっけな

 

「そ、そういうヴァンはどうなんだよ! 遠見鏡華や天羽奏と仲が良いじゃねぇか!」

 

「あいつらは下手な大人より信頼するに値する奴らだからな。もっとも、風鳴弦十郎や緒川慎次は信用程度だが」

 

「信頼と信用って一緒だろ」

 

違うな(ノー)。信用は“信じて用いる”。信頼は“信じて頼る”なんだ」

 

「…………?」

 

首を傾げるクリスを、ヴァンは優しく撫でる

 

「いつかクリスにも分かる時が来る」

 

「そ、そっか……。って、いつまで撫でてんだよ!」

 

「いつまでも」

 

「ッ……好きにしろっ」

 

頬を赤く染めそっぽを向いてサンドイッチを齧るクリス

ヴァンは、「好きにさせてもらう」と言って撫で続けた

恥ずかしがっていたクリスだが、その表情は気持ち良さそうに変化していた

 

「そう云えば」

 

「ん?」

 

「今日だったな。答えを出す日」

 

「答え?」

 

「遠見が小日向未来の告白に答える日」

 

「へぇ。どんな事になるのやら」

 

「実は昨日、偶然小日向未来に会ったから聞いてみた」

 

「何て?」

 

「フラれたらどうするんだ、と」

 

「何て返ってきたんだ」

 

ヴァンは未来の言葉遣いで返答を紡いだ

クリスは驚いたが、すぐににやっと笑うと、

 

「流石はあの変人(スクリューボール)の親友を名乗るだけあるぜ」

 

「まったくだ」

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

風が靡く屋上

そこで三人と二人が対面していた

鏡華を先頭にした翼と奏

未来が前の響

 

「おはようございます。鏡華さん」

 

「ああ、おはよう小日向。それに立花」

 

響は頭を下げるだけにしておいた

 

「髪、長くなりましたね」

 

「まあな。これからはこれが俺のデフォルトだ」

 

「似合ってますよ」

 

「はは、サンキュ」

 

他愛のない話

だが、いつまでも話を逸らしてはいられない

 

「いつかの返事、考えてきた」

 

「そう、ですか」

 

鏡華が真剣な顔で言う

それに小日向も表情を改めた

 

「それじゃあ、聞かせてください。ちょっと、恥ずかしいけど」

 

「ああ。悪いな。普通は二人っきりで言うもんなんだろうけど、俺達は結構歪んでいるからな」

 

「構いません」

 

最後の戦いが終わって、鏡華は一人で考えていた

鏡華は一度息を吸い、ゆっくりと吐くと、未来に向き直った

 

「小日向の事は、多分、好きだと思うよ。この三か月で色々魅力的な所も見つけた。このままいけば本当に異性として好きになっていたと思う。けど―――やっぱり小日向と付き合う事は出来ない」

 

「……理由を聞いても、いいですか?」

 

震えるのを精一杯抑えた声で、未来は訊ねた

 

「小日向と付き合う以前に―――俺は翼と奏が好きなんだ。翼と奏と付き合いたい。多分、俺達の関係は歪な、世間じゃ認められない関係だと思う。けれど俺はそれで良いと思っている。歪でもいい、偽物でもいい。俺達が真剣ならそれでいい―――とね。だから、小日向とだけ、一対一の恋人にはなれない」

 

最後まで、言い切った。否定の言葉を

響には努力はする、と言った。だけど、やはりこれしか答えが出なかった

 

「……分かりました」

 

未来は震えていなかった。落ち着いた声で呟く

だけど、次の瞬間、

 

「あーあ、やっぱりフラれちゃった。予想はしてたけど、やっぱり胸が痛いです」

 

そんな風に笑った

てっきり落ち込むのかと思っていた鏡華は驚く

それは翼と奏も、そして響も同じだった

 

「あ、あの、小日向さん?」

 

「鏡華さん。私が何て翼さんに宣戦布告したと思います?」

 

「え? えっと……翼?」

 

「ええと―――勝てなくても負けません、だった」

 

戸惑う鏡華に、翼も戸惑いながら答える

 

「はい。勝てなくても負けません。だから―――妥協案ならぬ修正案を提案します!」

 

「し、修正案? 妥協案? どっち?」

 

「鏡華さんの話を聞く限り、鏡華さんは私の事を異性として見てくれてたようですね。思った以上の言葉が聞けて、嬉しいです」

 

「や、あの……」

 

マズい―――マズいマズいマズい!

鏡華の直感が警報を鳴らしている。警鐘なんかガンガン打ち響いている

前門の狼、後門の虎(間違っている? 今はそんな事言ってる場合じゃない!)以上にマズい!

前門の暴走響、後門の弦十郎、左門のネフシュタン纏ったフィーネ、右門になんておばさんて呼ばれ青筋立てた了子おばさん、天空には黙示録の紅い竜!

簡単に云ってしまえば―――逃げ場など、どこにもなし!

 

「鏡華さんは私の事、好きだと言いましたよね? 魅力的な所もあったと。本当に異性として好きになっていたとも。しっかり、この耳で聞きました。そして、私と付き合えないのは一対一とだけ。つまり! 私は翼さんと奏さんと同じ恋人関係にはなれると云う事です!」

 

「…………!!」

 

―――し、しまったぁぁっ!

そういう抜け道があったのか! 見落とした! つーか気付かなかった!

勝たなくても負けませんとはそう云う事だったのか!

どうだこの作戦! とか言いそうな未来の笑顔に本気で頭を抱えそうになった

 

(なにこの子! 了子おばさん以上の策士じゃん! ラスボス? いや、裏のラスボスクラスだよね!?)

 

「どうですか?」

 

「い、いや、それは―――ほら、翼と奏が……」

 

「先着順とか云ったら、世界中で同じ恋をしている人達を否定する事になりますよ」

 

「世界中の歪な恋人達人質に取られた!?」

 

「それに、翼さんと奏さん、両方を好きになっている時点で一番とか二番とかなくなってます。なら、私が入っても問題はないはずです!」

 

「それは、まあ、そうなんだけど―――」

 

言葉に詰まってしまう

未来を言葉で言い返せないでいると、

 

「くっ―――くはははは! あはははは!」

 

奏が笑い出した

腹を抱えて床をごろごろ転げ回っている

 

「す、すげぇ! あの未来が、内気だった未来が、ここまで鏡華を言い負かすなんて! あはははは!」

 

「か、奏……」

 

「はぁー、笑った笑った。―――あたしに異存はないぜ。鏡華、据え膳食わぬは男の恥だ。未来も入れちゃえよ」

 

「だ―――駄目に決まっているでしょっ!」

 

反論したのは翼だった

 

「こ、こういうのは先着順だ! うん、早い者勝ちなんだ。恋人の枠には私と奏がいるんだから、もう無理だろう!」

 

「翼さん、常識的に云えば、恋人の枠は一つです。よって、枠組みは翼さんと奏さんの二人がいる時点で壊れちゃってます。それで先着順を主張するのは無理があります!」

 

「くっ……ならば、鏡華が付き合えないと言ったのはどう説明するんだ!?」

 

「鏡華さんが付き合えないと言ったのは、一対一だけです。それ以外は否定してないので、良いと云う事です」

 

「ッ……!」

 

「もう、やめようぜ翼」

 

横から止めに入る奏

翼は情けない声で「奏ぇ」と呼んだ

 

「まあまあ、落ち着きなよ翼。それに、あたしだってタダで交際を認めようなんて言ってないさ」

 

「え……?」

 

「未来。そこまで言うからにはあたし達と勝負する気はあるんだろうね」

 

「当然です。証明なくして認められはしませんから!」

 

「その意気や良し。んじゃ、勝負方法はどうしますかね……」

 

うんうん唸り、天を仰いで考える奏

しばらくして、ポンと手を打った

 

「じゃあ、修業期間を設けた後、翼との家事三戦勝負とするか」

 

「望む所です!」

 

「ちょっと待って奏! それでは明らかに小日向が有利だろう! それに奏はしないのか!?」

 

「あたしは認めてんだもん。やっても意味ないさ。翼もこれを機を家事レベルひいては乙女レベルを上げようぜ」

 

「無理だっ! 奏も知ってるだろう、小学校から私の家庭科の成績は一なんだ!」

 

「未来ー、恋人の仲間入りを果たしたら鏡華の昔の頃の写真を見せてやるよ」

 

「本当ですか? 嬉しいです! 奏さん」

 

「ノンノン。これからは奏お姉様って呼ぶように」

 

「はい! 奏お姉様!」

 

「話を聞いてくれーーっ!!」

 

女子だけで盛り上がる中、置いてけぼりにされた鏡華は呆然とそれを見ているしかなかった

ハッと我に返ると、止められない三人ではなく、同じく呆然としていた響に詰め寄った

 

「立花! どうにかしてくれ! お前の親友だろ!?」

 

「……そうですね。私、未来の親友ですもんね」

 

「だろ! なら―――」

 

「遠見先生」

 

「は、はひっ!?」

 

「未来を泣かせたら―――暴走しちゃうぞ」

 

「――――――」

 

味方が一人もいなくなった

脅されて、鏡華は掠れた声で、「はい」と呟くしかなかった

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

ノイズの驚異は尽きる事なく、人と人とが争う事もまた尽きる事はない

それでも―――

少年少女は欲しかった理想郷を一時であれ、手に入れた

以前より想い描いていたような幻想郷ではなかったのかもしれない

 

絆を取り戻したかった少年は、人を辞め、新たに歪な絆を手に入れた

 

一振りの剣は、過去から解き放たれ、剣でありながら人に戻った

 

瞼の開かなかった眠り姫は、人を捨てる事を強制されて目覚めの時を迎えた

 

一先ずの終焉を迎えた彼らに与えられたものは、十全たる幸福ではなかったのかもしれない

だけど、嘆き、悲しむような絶望でもなかった

結果だけを見て、述べてしまえば―――これでよかったのだろう

きっと、十全―――完璧な幸福など、誰にも与えられない泡沫の空想なのだ

決して届かぬ空想を夢見て、もがき、足掻き続け、その時点で最善で最良の幸福を手に入れる

それが人の人生。それが―――遥か彼方の理想郷へ歩む人の生き方

 

―――これにて、彼らの物語の幕を閉じる

だが、忘れる事なきように

この物語は、彼らの長く、されど短い人生を鮮烈に彩る人生の一ページ、第一楽章にしか過ぎない

遠見鏡華の―――風鳴翼の―――天羽奏の―――

立花響の―――小日向未来の―――

夜宙ヴァンの―――雪音クリスの―――

風鳴弦十郎の―――緒川慎次の―――その他大勢の―――

第一楽章が終わったのなら、第二楽章が始まる

 

そう、彼らの人生(うた)の終わりは、理想郷よりも遥か彼方なのだから―――

 

 




これにて、本編は完結です
長い間、応援ありがとうございました
二期に関しては未だ未定ですが、書く事だけは確実です

それでは、これで失礼します

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