【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.ⅩⅩⅩⅢ

―――櫻井了子は遠見鏡華にとって、何だったのか

 

幼い頃、両親は様々な遺跡を巡っていたので、何日も家を空ける事が多かった

別に寂しい思いをした、と云う記憶はなかった。幼いからなのか寂しくないからなのか、今となってはどうでもいいことだ。両親が家へ帰ると必ず鏡華に付きっ切りで傍にいてくれたのも原因の一つだろう

それと、了子の存在もあった

理由は不明だが、鏡華は了子に両親が不在の時によく預けられていた

研究で忙しかったはずなのに、了子は鏡華の傍にいて、色々と話をしてくれた

自我がようやく芽生えたばかりで何一つ理解できない鏡華に

 

それから数年後。確か―――中学か高校の頃

鏡華は「了子おばさん」から「櫻井教授」と呼び方を変えた

何で変えたのかも覚えていない。了子おばさんと呼びトラウマを覚えたのか、単に気恥ずかしくなっただけなのか

心境に変化は―――変化しすぎていた

鞘を体内へ埋め込んでから鏡華は変わったと云ってもいい

ただ、少なくとも初恋ではない事は確かだ。鏡華の初恋は翼と奏なのだから

 

だけど、もしかしたら鏡華にとって了子は恋に似た感情を抱く女性だったのかもしれない

例えるなら―――母親に対する感情

それが呼び方を変える起因になったとも言えなくもない

 

実際、櫻井了子は遠見鏡華にとって母親のような存在だったのかもしれない

だから―――

あの閃光の中、鏡華は響と共に櫻井了子(フィーネ)に手を差し伸べたのかもしれない

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

始まりから実に一日が経とうとしていた

落ちていく太陽を背に、欠けた月へ向かって進む鏡華と響

二人の間には、黄金の輝きは失われボロボロのネフシュタンの鎧を纏ったフィーネが二人に肩を貸されていた

 

「たーっく、相変わらず了子さんに甘いな鏡華は。初恋の相手だからか?」

 

「え!? そうなのか!?」

 

奏の指摘に翼が驚く

まるで変わらない二人に苦笑し、

 

「ばっか、んなわけあるかっ! 俺の初恋はお前らだっつーの」

 

疲れたような笑みを浮かべて、二人が赤面する台詞を言い返した

心臓は未だ回復しきってない。正直、自分でもフィーネを背負ってこれたのが不思議だった

響にフィーネを下ろすのを任せ、鏡華はその場に座り込む

 

「もう終わりにしましょう了子さん」

 

「私は……フィーネだ」

 

「どっちでも一緒です。了子さんは了子さんなんだから」

 

きっと、分かり合えます

自信たっぷりに言い切る響

今の響は怒りに流されるばかりではない

皆の想いを背負い、自分の想いを貫いているのだろう

だから、黒幕だったフィーネに対しても自分の心情がブレる事はない

 

「ノイズを作り出したのは先史文明期の人間」

 

立ち上がり、背を向けて語り始めるフィーネ

 

「統一言語を失った我々は手を繋ぐことよりも相手を殺すことを求めた。そんな人間がわかり得るものかっ。だから、私はこの道しか選べなかったのだッ!」

 

「人が言葉よりも強く繋がれる事。分からない私達じゃありません」

 

それがきっかけだったのか

フィーネはキッと響を見据えると

 

  ―迅ッ!

 

鞭を振るった

響は簡単に避け、フィーネ懐に迫り拳を放った

だが、その一撃がフィーネに届く事はなった。響が寸止めにしたのだ

 

「私の勝ちだァッ!」

 

それでもフィーネは吼えた

鞭はどこまで伸び続け―――それは月にまで到達した

 

「え? ちょ、ちょっと……嘘、まさか?」

 

思わず鏡華も立ち上がり、月を仰ぐ

フィーネは全ての力で引っ張り―――月を動かした

 

「はああああ!? 月動かしたぁぁああああっ!? 何してんのこのおばさん―――!!」

 

恐らく、今日一番の光景に鏡華は驚愕して絶叫した

翼達も絶句しているが、そんな中、奏だけは、

 

「あはははは! マジか!? 了子さんマジすげーっ!!」

 

大爆笑しながら腹を抱えていた

笑いすぎて笑い声が「あひゃひゃひゃひゃ!」と聞こえるのも気のせいではないだろう

 

「私の邪魔をする禍根はここで叩いておくっ!」

 

「あんたまで死ぬでしょうがっ! そこ、考えて動かしたの!?」

 

「私は永遠に存在し続ける巫女、フィーネ! 聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形がある限り、私は何度だって蘇り続けるのだっ!!」

 

「無理矢理心中! 月の欠片人力で牽引するわ、壮大な無理心中するわ! やっぱ了子おばさんの頭おかしい!!」

 

ネフシュタンが負荷によって崩れていく。恐らくネフシュタンと融合したフィーネの肉体も―――

それでもなおフィーネの不敵な笑みは変わらない

誰もが臍を噬んだ時、

 

  ―こつん

 

乾いた、とても小さな音が響いた

それは、フィーネの胸に拳を“当てた”音だった

殴ったのでも、打ったのでもなく―――当てた。ただ、当てただけ

 

「うん―――そうですね。それじゃあ、いつか、蘇る度にその時の皆に伝えてください」

 

―――世界を一つにするのに力なんていらない事を

―――言葉を越えて私達は繋がれる事を

―――私達は未来に繋げていける事を

 

「私には伝えられないから。了子さんにしか出来ない事だから―――」

 

「お前、まさか―――」

 

響の真意を悟ったのか、フィーネは呟く

今度は響が不敵な、だけど強気な笑みを見せた

 

「了子さんに未来を託すために―――私が現在(いま)を守ってみせますね!」

 

きっとフィーネの読みは正しいだろう

この子は間違い無く―――

そう考えると、何とも呆れる話である

敵だった自分に未来を託す、なんて、過去に敵対した誰一人も考えた事がない希望だ

 

「本当に―――もう」

 

気付けば、“了子”は呟いていた

 

「放っておけない子ね。あの子にそっくりだわ……」

 

「ぁ……」

 

鏡華は思わず呟く

それに気付かず、了子は響の胸を突つくように触れた

 

「胸の(うた)を、信じなさい」

 

最後に了子は、ゆっくりとした足取りで鏡華に歩み寄る。一歩踏み出すごとに了子の身体は塵と消えていく

胸に迫るナニかに鏡華は背を向けてしまった

それでも了子は微笑んでしまう

 

「本当に恥ずかしがり屋な子。いろんな所が華夜にそっくりね」

 

「……るっさい。つか、どうして俺の世話してたんスか」

 

「華夜……あなたのママと大学まで同期ーーーって言っても華夜は何回も浪人で年上だったけど、まァとにかく同期だったのよォ。だから、華夜の子供は私の子供でもあるわけ」

 

「あ、そうっスか。通りで―――」

 

何だ、と鏡華は心の中で毒突いた

了子さんに対するこの感情はそう云う事だったのか―――恋でもない、愛でもない、この感情は

気付くのに二十年も掛かったが、鏡華は了子に向き直り、

 

「二十年間、ありがとうございました―――義母さん」

 

そう言って、頭を下げた

了子は驚き、だけど「ガラじゃないんだけどねェ」と言いながら鏡華の頬に触れ、

 

「どんな事があっても、前を向きなさい。後ろなんか振り向いちゃ駄目よ。前を向いて自分が信じた道を歩みなさい」

 

―――私の、たった一人の息子(かぞく)

一言、伝えた

それが最後の言葉だった

了子の全身は塵と化し、風に乗って空に消えていった

鏡華は肩を震わせる。しかし涙だけは流さなかった

震えを止め、空を仰いだ鏡華は、

 

「立花。後を頼んで良いか?」

 

膝から崩れ落ちながら背を向けた響に聞いた

心臓の修復は半分ぐらい。この身体で月まで行くのは出来なかった

 

「はい! 何とかします!」

 

「頼む。……その代わり」

 

「はい?」

 

「帰ってきたら、小日向との事、ちゃんとはっきりさせるから」

 

「っ……はい! 良い答え、期待してますからね!」

 

努力はするさ、と苦笑いで答える鏡華

響は未来に向き直ると、

 

「それじゃ、ちょーと行ってくるから―――生きるのを諦めないで」

 

笑顔で言って―――飛び出した

飛翔を続ける響から唱が響き渡る。命を燃やす―――絶唱を

 

「鏡華」

 

響き渡る中、翼が鏡華に近付く

顔を上げ、何? と聞き返す

 

「私も行ってくる。雪音もだ」

 

「そうか」

 

「ああ、そうだ。ちなみに奏と夜宙は置いていく。全員、過去に私や雪音を置いていったからな」

 

「……今度は俺達が待つ番、ってわけか」

 

不思議と否定する言葉は見つからなかった

立ち上がり、翼を見下ろそうとした瞬間―――

 

「ん―――」

 

「ッ―――!」

 

唇が重なっていた。翼が飛びつくようにキスをしたのだ

当然、全員の視線はバッチリこちらに向けられていた

それが分かっていて、翼は不敵な笑みを浮かべている

 

「―――行ってくる」

 

「……ったく。ああ、行ってらっしゃい」

 

不貞腐れたように送り出す鏡華

あちらではクリスもヴァンと言葉を交わし、飛び立っていく

翼とクリスが豆粒程大きさまで遠ざかった頃、ヴァンが近付いてきた

 

「よお」

 

「おお。別れのキスは済ませたのか?」

 

「貴様らみたいに人前でするか。―――それより、そろそろ決着(ケリ)を付けよう。遠見鏡華」

 

「だな。決着を付けないと俺達も始まらないし―――それに、王は二人も存在出来ない」

 

その通り(イエス)。どちらかが王となり―――どちらかが騎士に戻る」

 

「奏、見届け、頼むな」

 

「委細承知、って奴だ」

 

共に黄金の剣を顕現させ、交差させる

二度三度、軽く打ち合い剣を触れ合わせる

その音に響達を見ていた未来達の視線が鏡華達に注がれる

歩き出しながら、鏡華とヴァンは歌いだす

 

 迷いはない 考えたこともない

 いつだって 結果は決まっている

 敵も 味方も 倒れて

 最後は一人

 

 慣れている 悲しむことはない

 いつだって 眼をあけたら 私しかいない

 友も 家族も なくなって

 最後は一人

 

同じ歌を、同じ速度で紡ぐ

同じ速度で歩き、同じ速度で剣を掲げる

 

「―――でも」

 

 でも 忘れたわけじゃない

 いつだって 傍には 君がいた

 差し伸ばされる手 温かいから

 どうか このままで

 最後には私は一人 だから

 どうか もう少しだけ このままで―――

 

風に乗せて歌い上げる

余韻を乗せて風はどこまでも吹きすさぶ

辺りは闇に染まり、星々が輝き―――月が閃光に包まれた

ハッとして月を見上げる。だけど、鏡華とヴァンと奏だけは見ない。見ようともしない

 

「流れ星……」

 

降り注ぐ流れ星を見て、未来は泣き崩れる

流れ星、墜ちて燃えて尽きて、そして―――

 

「いざ尋常に―――始めっ!!」

 

奏の声が響いた

同時に二人は《己が栄光を祖国の為に》を発動

かなりの距離をあけた鏡華とヴァンが走り出す

だんだんと速度は増していき、

未来達がもう一度見た時には、

 

「雄雄雄雄雄ォーーーッ!!!」

 

声を張り上げ、互いに剣を振るわんとしている鏡華とヴァンが見えた

剣が交差し、衝撃と閃光が鏡華とヴァン、奏を包み込む

二人の王、命賭して交えて、そして―――黄昏が終わりを迎える


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