【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.ⅩⅩⅩⅡ

一新された翼、響、クリスの防護服。四肢に生えているような翼で空に浮かび、制止している

鏡華とヴァンは先代が同じ聖遺物を纏いながら、その騎士装飾は同一であり―――真逆のものだった

鏡華は戦闘服とは思えない荘厳な鎧を身に纏い、鎧ごと身体を覆っているマントは細部まで装飾が行き届いている絢爛な代物。長くなった髪は首筋の辺りで紐で結ばれていた

逆にヴァンは、戦闘に特化した鋼色の鎧。マントは汚れる事も厭わない漆黒の色。しかし、手に握る星の剣だけは変わらぬ美しさを放ち、黄金に輝いていた

一番変化があると云えば奏だろう。奏の防護服は鏡華の元の騎士装飾をベースにして、各部にガングニールの防護服を付けた“二つの聖遺物が交わった防護服になっていたのだ”

 

「高レベルのフォニックゲイン……これは二年前の意趣返しか」

 

二年前、ツヴァイウィングのライブ

あれは観客を利用してフォニックゲインを高め、ネフシュタンの起動実験を行っていた

今回は未来達の合唱によってフォニックゲインを高め、ギアのロックを外した

過去にフィーネはこれを利用してネフシュタンを起動・強奪した

それが、今度は野望を妨げる要素として立ち塞がったのだ

 

『んなこたぁどうでもいいんだよ!』

 

「念話までも……! 限定解除されたギアを纏ってすっかりその気か!」

 

「言葉を慎め、フィーネ。俺と遠見鏡華は今や“王”だ。巫女如きが吠えるな」

 

ヴァンが一歩、前に出る

 

「どこまでも私を邪魔をするかっ! 王だと!? 刹那すら生きていない餓鬼が王? はっ、笑わせてくれる!」

 

再びソロモンの杖を取り出すと、自分を囲むようにノイズを生み出す

―――ノイズの災禍は、全てお前の仕業か?

翼も念話で訊ねる

 

『ノイズとは、バラルの呪詛にて相互理解を失った人類が同じ人類“のみ”を殺戮するために作り上げた自立兵器』

 

『人が、人を殺すためにっ?』

 

『バビロニアの宝物庫は開け放たれたままでな? そこからまろびいずる十年一度の偶然を私は必然に変え、純粋に使役しているだけの事』

 

初めて聞く情報に翼達はわずかに驚く

しかし、ほとんど理解出来ていない

クリスも「また訳の分からない事を!」と叫ぶ

唯一ヴァンだけは、

 

「遠見」

 

一番詳しそうな鏡華に訊いた

 

『……バビロニアの宝物庫ってのは、天地開闢、原初の王が蒐集した宝を納めるために築き上げたとされる無尽蔵の宝物庫の事だ。王の死後、蒐集された宝は各地へ渡り、担い手を選び、伝説を作ったらしい。この場なら―――ガングニール、イチイバル、カリバーンがそれだ』

 

知っている事を素直に答える鏡華

尤も、蒐集された宝は、今各地で伝えられている聖遺物の原典……最初の形を成していたものだ

響やクリスが持っている聖遺物が宝物庫に入っていたわけではない

閑話休題

 

  ―疾ッ

 

ノイズが一斉に槍となって襲いかかってくる

翼、響、クリスは空中で躱し、鏡華と奏はプライウェンを駆り、空へとあがる。唯一飛翔能力を持たないヴァンは鏡華がプライウェンを貸し与え、同様に空に浮かび上がる

 

「今更ノイズかよっ。了子さんも戦闘になると芸が乏しいんだな」

 

奏が馬鹿にしたように言う

フィーネは微笑を浮かべ、ソロモンの杖を天高く掲げ、

 

「―――墜ちろォッ!!」

 

  ―煌ッ!

 

  ―発ッ!

 

  ―輝ッ!

 

  ―散ッ!

 

閃光を空へ放った

一直線に天空へと向かった翠の閃光は途中で弾け、街中へ散布される

散布された光は瞬く間にノイズと形を変え、街を―――否、大地を埋め尽くした

大地だけでない。空中にもノイズが現れる

 

「あちこちからノイズが……!」

 

「おっしゃあっ! どいつも纏めてぶちのめしてくれる!」

 

威勢良く飛び出すクリス

だが、それをヴァンが止めた

 

「待てクリス。フィーネが……」

 

そこまで言った時だった

フィーネが天高く掲げたソロモンの杖を

 

  ―突ッ

 

自分の腹へ、突き刺した

全員が絶句する

刹那、街中へ散布したノイズがフィーネの元へ集まっていく

 

「ノイズに取り込まれて……?」

 

「自爆……? いやっ! 違うっ!! ヴァンッ!!」

 

了解した(オーライ)!」

 

何かに気付いた鏡華がプライウェンを蹴り、空へと躍る

ヴァンも同様に跳び、同時に槍群と剣群を生み出す

 

  ――真・貫き穿つ螺旋棘――

 

  ――天降る(シュテル・)星光の煌めき(ザ・シューティングスター)――

 

次々と放たれる。その数は数秒で既に計り知れない

しかしソロモンの杖を刺すと同時にフィーネを覆ったドロドロのナニかがそれを妨げる

ならば、と―――共に聖剣を振りかざす!

 

「これなら!」

 

鏡華がカリバーンを構え、

 

「どうだっ!」

 

ヴァンがエクスカリバーを振るう

 

  ――想い選定す煌めきの閃光――

 

  ――今際に抱く貴き夢(ヴァルアブル・ファンタズム)――

 

  ―輝ッ!

 

  ―閃ッ!

 

  ―裂ッ!

 

  ―波ッ!

 

黄金の刃が輝き、光が刃と化した

閃き、空を切り裂きながらドロドロとしたものに包まれたフィーネを焼き尽くす

ジュッと干上がるような音が聞こえたが、焼き尽くすには至らない

寧ろ―――

 

『来れ―――デュランダルッ!!』

 

カ・ディンギルの動力源としていたデュランダルをも呑み込み、逆に閃光を放ってきた

鏡華はプライウェンで防ぎ、ヴァンはエクスカリバーで斬り裂いた

地上へ降りると、ドロドロとしたものは徐々に巨大化していき、カタチを成した

そのカタチに絶句する鏡華

 

「黙示録の紅き竜……緋色の女―――大淫婦、ベイバロン……! そうまでして勝ちたいかあんたはっ!」

 

「どう云う事だ鏡華」

 

「あの紅い塊は黙示録に記されている悪魔の化身、またはその悪魔が竜となった姿。ベイバロンは“悪魔の住む所”であり“汚れた霊の巣窟”と比喩(アレゴリー)された聖母。どちらも滅びの力であり……堕ちた事を証明する化け物だ」

 

それも今回の場合、ネフシュタンの鎧、ソロモンの杖、デュランダルを共に取り込んでいる。伝承通り―――それ以上の力を有している事もはっきりしている

五人に対して一人。されど完全が二、欠片が三、融合が一に対して完全が三

人数ならばこちらの方が上だが―――聖遺物の純度では圧倒的にフィーネが有利だ

 

『逆さ鱗に触れたのだ。それ相応の覚悟は出来ておろうな』

 

「それがっ!」

 

どうしたと言わんばかりに、クリスがギアを変形、外部ユニットのようなものを駆使し、

 

  ――MEGA DETH PARTY――

 

弾幕を一斉射出

全てが命中した―――かに思われた

弾幕は全て命中した。だが、ネフシュタンの防御力を継承しているのか、擦り傷さえ与えられていない

 

「ならばっ!」

 

  ――蒼ノ一閃――

 

  ―閃ッ!

 

「でぇぇっ!」

 

  ―撃ッ!

 

「せい、やっ!」

 

  ――SPEERA∞ALSBALD――

 

  ―閃ッ!

 

  ―貫ッ!

 

翼の《蒼の一閃》、響の一撃、奏の槍投擲が直撃する

今度は紅き竜の表面を斬り裂き、貫通させる事が出来た。しかし―――そこまでだった

驚異的なスピードで瞬時に回復していってしまう

 

『いくら限定解除されたと云っても所詮は玩具。完全聖遺物に対抗出来ると思うてくれるな』

 

「だったら俺達がっ!」

 

(ロード)を切り開くまでっ!」

 

限定解除された欠片のシンフォギアが駄目ならば、完全聖遺物である鏡華とヴァンが

地上へ叩き付けられる触手を搔い潜り胴体部分を駆け上がる。フィーネがいる場所まで全力で駆け、飛び上がり、

 

  ――真・貫き穿つ螺旋棘――

 

  ――今際に抱く貴き夢(ヴァルアブル・ファンタズム)――

 

  ―突ッ!

 

  ―輝ッ!

 

  ―突突突突ッ!

 

  ―閃ッ!

 

技を同時に放つ

フィーネはデュランダルを持つ手を払うように動かす。途端、周りの黄金の逆さ鱗がカーテンのように間に割って入った

爆風にフィーネの姿が見えなくなる

鏡華とヴァンは悪寒が背筋を奔るのを感じ、距離を取り同時に《護れと謳え聖母の加護》と唱壁を発動する

刹那に爆煙を切り裂いて閃光と触手が二人を襲った

 

「ぐっ……!」

 

「ッ……乗れ!」

 

衝撃に弾き飛ばされ、鏡華はプライウェンを具現させて着地する。ヴァンも鏡華の具現したもう一つのプライウェンに上手く着地した

 

『いくら完全聖遺物であろうと、数はこちらの方が上。不老不死の鞘と星が鍛えた剣が相手だろうと、攻撃、防御、制御、全てのステータスを上回る私の方に分がある』

 

ネフシュタンの防御力と再生能力

デュランダルの攻撃力と無限エネルギー

ソロモンによる制御、肉体となるノイズの精製

最悪の三つが合わさったとも呼べる

しかし―――同時に翼とクリスの脳裏に突破口を見いだす事になった

 

『聞いたか!?』

 

「チャンネルをオフにしろ! 鏡華っ」

 

「分かってるつもりだ。だがそのためには……」

 

鏡華が見据えた先

そこには―――鍵となる響がいた

 

「いけるな? 立花」

 

「えと―――はい! やってみせます!」

 

「上等! ―――奏! 雪音! ヴァン!」

 

鏡華の叫びに、奏とクリス、ヴァンがフィーネの前に躍り出る

阿吽とも呼べる呼吸で三人は一斉に技を放つ

奏が《LOST∞METEOR=SPIRALE》を

クリスが《MEGA DETH PARTY》を

ヴァンが《天降る(シュテル・)星光の煌めき(ザ・シューティングスター)》を

 

フィーネは当然、黄金の逆さ鱗を盾として展開する

三撃と逆さ鱗がぶつかり、爆煙がフィーネの視界を遮る

その瞬間を狙い、力を溜めていた翼の腰に手を回し、鏡華は“跳んだ”

景色がスライドされたように瞬時に入り替わる

 

「なっ……お前達、どこから!?」

 

目の前には驚きに眼を見開くフィーネの姿が

鏡華は腰に回していた手を翼の手と重ねる

 

「―――遥か彼方の理想郷・応用編」

 

「ここならば、防げまい―――!」

 

頭上に掲げ―――天ノ羽々斬を一緒に振り下ろす

その威力は《蒼ノ一閃》に非ず

この一撃は―――

 

  ――蒼ノ一閃・滅破――

 

「ッ―――!!」

 

フィーネに出来たのは、持っていたデュランダルを盾として構えただけ

《滅破》の威力は凄まじく、衝撃波は逆さ鱗を内部から吹き飛ばす程だった

もちろん、鏡華と翼にも反動のように襲ってきたが、鏡華がすぐに翼を抱えて“跳び”外へ回避した

逆さ鱗が破壊されると同時に、内側から吹き飛ばされてくる黄金の剣

それはデュランダル。無限のエネルギーを生み出す完全聖遺物

 

「それが切り札だ、響!」

 

「勝機を零すな! 摑み取れっ!」

 

奏と翼が叫ぶ

だが、響の元へは飛距離が足りない

しかしその分は、

 

  ―タンッ

 

  ―タンッタンッタンッ!

 

クリスの精密射撃が補う

驚異の精密射撃でデュランダルを響の元へ届ける

 

「――――――」

 

覚悟を決め、デュランダルへ手を伸ばし―――掴む

転瞬―――あの時のように空気が反転した。そして、掴んだ箇所から一気に響の身体を浸食し始めた

新装たるシンフォギアの力を以てしても完全聖遺物の浸食を抑える事は出来ない

それでも、響は聖遺物の衝動に抵抗している

ぎりぎりで抑えられているが―――凌駕するには至っていないのだ

 

「ぐぅぅ……■■―――!」

 

今にも呑み込まれてしまいそうな時だった

完全封鎖されていたはずのシェルターが内部から吹き飛んだ

爆風から飛び出してきた―――弦十郎、藤尭、あおい、緒川、弓美、創世、詩織、それと―――未来

モニターを見ていた未来が言ったのだ

 

―――響は、響のままでいてくれるって! 変わらないままでいてくれるって!

―――だから、私は響が闇の呑まれないように応援したいんです!

―――助けられるだけじゃなくて、響の力になるって誓ったんです!

 

だから危険を承知で地上へ出た

 

「って、扉を粉砕(そんな事)出来るの、旦那だけだよな。腹に穴空いてるのに無茶するよ」

 

まったくだ、と鏡華も同意する

現に腹に巻いた包帯に滲んだ血が徐々に広がっている。傷が開いたのだろう

 

「正念場だっ! 踏ん張り所だろうっ!」

 

「強く自分を意識してください!」

 

「昨日までの自分を!」

 

「明日からの自分を!」

 

弦十郎に続き、緒川、藤尭、あおいが叫ぶ

暴走しそうでも響は視線を向ける

そんな響の後ろから、翼とクリスが手を伸ばし、響の手に重ねた

 

「屈するな立花! お前が束ねた覚悟を私にも信じさせてくれっ!」

 

「全員がお前を信じて、一切合切お前に託してんだ! お前が信じなくてどうすんだよ!」

 

翼とクリスも響を支える

それでも暴走は止まらない

徐々に―――徐々に浸食は深まっていく

 

「あなたのお節介を!」

 

「ビッキーの人助けを!」

 

「今度は私達が!」

 

詩織、創世、弓美も声援を送る

鬱陶しそうにフィーネは声援を送る弦十郎達を睨む

 

「黙れっ!」

 

デュランダルを奪われたからなのか、閃光は放たなかった

触手を伸ばし、弦十郎達に振るう

だが、その触手が届く事はなかった

 

「安心しろ立花ァ! お前のダチには指一本―――触手一本たりとも触れさせねぇからよっ! だからお前はデュランダルを信じろ! 制御出来るお前自身を信じろ!」

 

切断には至らなかったが、届く前に触手から弦十郎達を守る鏡華

触手は三本。残り二本はー――

 

「よっ、はっ、ととーーー聖遺物を無理矢理制御しようと思うな響! 信じる奴にこそ聖遺物は力を貸すんだ!」

 

奏が蹴散らしながらアドバイスを与え、

 

「クリスが認めているんだ。暴走(ライオット)している場合じゃないぞ立花響!」

 

ヴァンが剣と唱壁を駆使して近付けさせない

されど、友達を、仲間を攻撃されたからか、逆に暴走は進み―――直前まで呑み込まれた

しかも、翼とクリスの腕にまで浸食を始めている

 

「■■、■■■■―――ッ!!」

 

「響ィィイイイイ―――ッ!!」

 

吼え、デュランダルを振り上げた瞬間だった。

未来の叫びが響き渡る

多くの言葉が投げかけられる中、未来だけはたった一言―――名前を呼ぶだけだった

その叫びに胸の内に消えかけた立花響と云う意思が息を吹き返す

そうだ―――今の私の力は私だけの力じゃないっ

助け助けられ、紡ぎ紡がれ、束ねて繋げた―――皆の力なんだっ!

 

「皆の力が! この衝動に―――塗り潰されてなるものかっ!!」

 

侵食が止まる。振り上げられていたデュランダルが一層輝き、響を覆っていた侵食を掻き消す

 

  ―輝ッ!

 

輝きは響のシンフォギアにも伝わり、翼のようなスラスターが黄金に輝きだした

 

「その力―――何を束ねたっ!?」

 

響が完全聖遺物を凌駕した事に絶句する他ないフィーネは困惑する

 

「きっと、あんたじゃ一生分かんねぇだろうよ」

 

鏡華がぽつりと呟く

数千年も孤独に戦ってきたフィーネには、誰かが教えない限り絶対に

 

「響き合う皆の歌声がくれたシンフォギアで―――ッ!!」

 

叫び、再び振り上げたデュランダルを三位一体で振り下ろす!

 

  ――Synchrogazer――

 

友達や仲間の手を取り合い、心を一つにして初めて使える必殺の一撃

手を繋ぐのではなく心を繋ぐアームドギアを持つ響にしか使えない、響だけの技

煌きと輝きを放ち、光の一撃はフィーネへと向かう

 

「デュランダルの一撃など―――!」

 

『だったら、それにプラスするってのはどうっスか?』

 

わざわざ念話を使って話してくる鏡華に、フィーネは視線を向けて驚愕した

鏡華とヴァンが黄金の剣を構えていた。奏は後方で未来達に被害が及ばないよう《護れと謳え聖母の加護》を展開している

 

「三対二から二対三。形勢逆転って事で―――喰らっとけっ」

 

「星が鍛えた一撃―――得と知れ」

 

  ――信義を糺す金色奇蹟の残照――

 

  ――総て貴き幻想(ラスト・ライト)――

 

  ―輝ッ!

 

  ―閃ッ!

 

  ―裂ッ!

 

これまで以上の光の斬撃が空を裂き、フィーネへと向かう

一閃だけであれば、ネフシュタンでどうにか防ぐ事が出来た。だが、自分に向かってくる閃光の数は三

防ぐ事など出来はしない

視界を真っ白に染めて、フィーネは最後まで瞼を閉じる事はなかった

だから見えた。自分に伸ばしてくる二本の腕を―――


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