【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.ⅩⅩⅩⅠ

叫んだ未来はその場でしゃがみ込み、自分の身体を搔き抱いた

心臓の音がうるさい。自分を心配してくれる弓美達の声さえも聞こえない

アヴァロンとは鏡華の聖遺物だとは聞いていた。その所有者のバイタルが停止したと云う事は―――

 

「ッ、認めないっ。私が認めちゃいけない!」

 

声に出して頭の中で認めてしまいそうだった事実を振り払う

それだけでドッと汗が噴き出た

 

「小日向さん……?」

 

「信じるんだ。響を。鏡華さんを……皆を!」

 

身体を搔き抱いたまま、立ち上がる未来

弓美はおかしい、と頭を振る

 

「どうして? どうしてそこまで信じられるのよっ! 遠見先生死んじゃったんだよ!? 響も壊れちゃって……何で信じようとするのよっ!?」

 

「私達が信じなかったら、誰が響達を信じるの!?」

 

初めて、未来が叫んで言い返した

滂沱の涙を流して、しかし諦めないという意思を宿して

未来の意思に、息を呑む弓美

その時だった

廊下からドタドタと足音が聞こえてきた

振り返ると、緒川が一般人や同じ生徒を連れて戻ってきていた。一緒に探してくれてたのか、先程の兄妹家族もいた

 

「司令! 周辺シェルターにて生存者を発見しました!」

 

「そうか! よかった……」

 

安堵の息を漏らす弦十郎

と、緒川の近くにいた女の子がモニターを見て、あっと声をあげた

 

「お母さん。恰好良いお姉ちゃんだよ!」

 

母親の制止も聞かず、女の子はモニターの前までやってくる

創世が母親にビッキーの事を知っているのか訊く

母親が少し言葉を濁し、多くは語らなかったが、響が女の子を助けてくれた、と言った

 

「響の人助け……」

 

「ねえ、恰好良いお姉ちゃん、助けられないの?」

 

女の子の言葉に、未来達は揃って顔を俯かせた

助けたくても、どうしようもない―――詩織は自分に言うように女の子に言った

だが、女の子は、

 

「じゃあ、一緒に応援しよっ」

 

純粋にそんな事を言った

その言葉に未来はハッとした。助けられなくても、声を聞かせられれば―――

自分達が無事だと知らせれば―――

 

「司令! ここから響達に声を、無事を知らせるにはどうすればいいんですか?」

 

答えたのは、藤尭だった

学校の施設がまだ生きていれば、リンクしてここから声が送れるかもしれない―――と

方法がある事に、未来は笑顔を浮かべると、涙を拭い、その場所を訊いた

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

緒川が案内した場所は小さな抜け穴だけの頑丈な壁だった

壁の向こうに切り替えるためのレバーがあるという

だが、大人である緒川には通る事は出来ない

覚悟を決め、未来が口を開こうとした瞬間、

 

「あっ、あたしが行くよ!」

 

先に弓美が口を開いた

アニメに喩え、その役割が体格の小さい自分にあるからと

 

「でも! それはアニメの中で―――」

 

「アニメを真に受けて何が悪い! もしここで行かなかったらあたしはアニメ以下だよ! 非実在青少年にも成れやしない! 響の友達だって―――胸を張れない!」

 

嬉しかった

あれほど絶望していた弓美が響のために頑張ろうとしてくれる

それは創世と詩織も同じだった

響が頑張っている。なら、その友達も頑張らないとね

 

小さな抜け穴を抜けた先に四人を待っていたのは、理解出来ない装置

それと、かなり高い位置に設置してある切り替えのレバー

―――何であんな高い場所にあるのよ!

弓美が愚痴るが、時間が勿体なかったのですぐに行動に移した

一番体力のある未来と創世が一番下に

四つん這いになった二人のその上に詩織が四つん這いで乗り

一番上に一番小柄な弓美が背中に乗った

 

「お、重い……」

 

とは言わなかった。云って傷付くのは自分だと分かっているからだ

弓美が背伸びして手を伸ばす。それでもレバーには後少しだけ届かない

台になってくれている三人のために急ぐが、急げば急ぐ程、指はレバーをかするだけ

 

「こん、っのぉっ!」

 

気合い一発、膝を曲げて跳躍する

思い切り体重を掛けられ、崩れる未来と創世と詩織

弓美も着地出来ず、三人の上に落ちる

だが―――レバーは切り替わった。装置が起動し周りが明るくなっていく

未来達は痛みも忘れて笑い合った

 

戻ってきた未来達

藤尭とあおいのおかげで既に準備は出来ている

未来は頷くと、その場にいた他のリディアン生と共に―――歌を歌った

歌はリディアン校歌

この戦いの前、響が落ち着くと云った歌だ

歌い、響達に知らせる

自分達は無事だと。皆が帰ってきてくれるのを待っているから。だから

だから―――負けないで

 

  ―煌ッ!

 

その時だった

モニターから煌めきが見えたのは

フィーネも慌ててそちらを見た

そこには、バイタルが停止したはずの鏡華が片腕を天に突き出して立っていた

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

倦怠感が身体中を支配して、正直立っているのもやっとだった

しかも胸の辺りが空洞になっている気がして、ちょっと苦しかった

だが、目覚めの時は今しかなかった。未来が、弓美が、創世が、詩織が、皆が歌ってくれた今しか

 

「お前……どうして動ける!? 心臓は握り潰した! 回復するにしてもまだ時間が掛かるはずなのに、何故!?」

 

「あー……だから、空っぽな気がしたんだ」

 

フィーネの言葉で納得出来た

まあ、今は“放っておいても大丈夫だろう”

むしろ、今から解放する能力の余波で、腰まで伸びた髪が鬱陶しかった

未来達が奏でてくれる調べに、鏡華も乗っかるように口を動かした

 

「―――It's not made to finish with a dream」

(―――夢は夢で終わらない)

 

されどそれは校歌に非ず

天上へ捧げる唱でも、透き通る唱でも、静謐な唱でもない―――訴えの絶唱を

 

――a knight unification we are nobly valuable a king――

(騎士統べる我らが気高く貴き王よ)

――Please do not choose not a sheath but a sword――

(鞘でなく剣を選ばないでください)

――A sheath is a proof of protection.A proof which protects all――

(鞘は守護の証。総てを護る証)

――If People is protected as long as you choose a sheath, as long as an oath will be taken――

(貴方が鞘を選ぶ限り、民草を護ると誓う限り)

――Let's change with our sword of yours――

(我らが貴方の剣と成りましょう)

――As long as it is with our noble valuable king――

(我らが気高く貴き王と共に在る限り)

 

「An Utopia is on my breast―――!」

(理想郷は―――この胸に)

 

刹那、世界が変わった―――錯覚を覚えた

鏡華の頭上に黄金の鞘が具現化し、光を放つ

光は決して強くもなく―――ましてや弱くもない

スピーカーから聞こえる歌に呼応するかのように点滅を繰り返す

すると、どうだろう。響の身体が同じように光を発しているではないか!

否―――光は響だけではない。森から、カ・ディンギルの残骸からも発していた!

 

「な、なんだ―――!」

 

「騎士王の―――否! “俺の鞘”の最後の能力―――! “代償の無い味方の治癒”! それがこの―――」

 

  ――辿り着きし永久の理想郷――

 

「馬鹿なっ! 代償なしで致命傷クラスの傷をも癒すと云うのか!?」

 

「誰かが俺達を支えてくれている! それがどんなに些細な応援でも構わない! それだけで俺達はっ!!」

 

鏡華が叫ぶ

鏡華だけでない。鏡華の言葉に連ねるように全ての人の頭の中で叫ぶ

 

『まだ、歌えるっ!!』

 

風鳴翼が!

 

『頑張れるっ!!』

 

立花響が!

 

『護れるっ!!』

 

夜宙ヴァンが!

 

『羽ばたけるっ!!』

 

天羽奏が!

 

『戦えるっ!!』

 

雪音クリスが!

 

  ―煌ッ!

 

光が、柱と化す

緋色、蒼色、赤色―――三色の光が、空へ飛ぶ

緋と黄金の螺旋、黄金一色は鏡華の元へ集う

 

  ―輝ッ!

 

光が弾けた時、フィーネは己が眼を疑った

何だ、アレは。アレは私が作ったモノだと云うのか

 

「お前達が纏っているモノは何なのだ!!」

 

「決まってるだろ」

 

鏡華も防護服を纏い、代表して叫ぶ

この身に宿しているのは聖遺物

ノイズに対抗するための世界の切り札

他ならぬアナタが創り上げた兵器

知る人はこう呼ぶ―――

 

―――シンフォギア、と


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