【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.ⅩⅩⅩ

「……フィーネ……」

 

「待たせたな、了子さん。いや、あたし達が待った方か?」

 

ネフシュタンの鎧によってフィーネの完全修復が完了すると同時に、翼と奏が話し掛けた

蒼と紅。この一対を再び見る事になるとは―――

 

「二年前の仕返しと云うべきか」

 

「んな事ァどうでもいいよ。今は了子さんを止めるのが槍と剣を携えたあたし達の役目だ」

 

とか真面目な事を言いながら、その場に座りだす奏

流石の翼も咎める

 

「奏―――言ってる事とやってる事が違う」

 

「いいからいいから。―――どうしても聞いときたい事があるからな」

 

「聞きたい事?」

 

「そ、聞きたい事。了子さん―――いや、今はフィーネって呼ぶよ。あんたの目的は世界を支配、なんかじゃないよな」

 

突然の質問に翼は眼を丸くする

 

「あんたの目的は更にその先―――創造主とやらに想いを伝えたい、ただそれだけだろ?」

 

「……は?」

 

「……それも鞘の記憶、か?」

 

「おう。騎士王に仕えていた? 魔術師がフィーネと話した後に騎士王に暴露してた」

 

奏の説明を聞き、フィーネは珍しくこめかみを手で抑えていた

そんなフィーネを、奏はからからと笑う

 

「あの不愉快な魔術師め……数百年経た今になっても嫌がらせをするか」

 

「まあ、あの騎士王も苦手な対象だったみたいだし? 諦めた方がいいぜ」

 

「……えと……」

 

話が付いて行けない翼は置いてけぼりだ

奏としては置いてく気はなかったが、話している内容が鞘の記憶を見た自分と、過去のフィーネになった人物の記憶を引き継いでいる今代のフィーネしか知らないものだ。教えようにも時間が足りない

そうこうしていると、フィーネも近くの瓦礫に腰掛け、欠けた月を仰いだ

 

「もう、ずっと遠い昔になるか。あのお方にお仕えする巫女であった私は、いつしかあの方を、創造主を愛するようになっていた」

 

フィーネの口から語られ始めた物語は、フィーネ自身の恋の話だった

それはきっと、以前響に話してしまいそうになった恋バナ

 

「だが、この胸の内の気持ちを伝える事は叶わなかった。伝える前に失われたからだ。創造主と話す事の出来る唯一の言語―――統一言語が、バラルの呪詛によって奪われたからだ」

 

月を仰ぐフィーネの表情に翼は思わず、え、と疑問の声をあげそうになった

冷めた眼、見下す顔。自分達を見る時は冷徹な表情しか見せていなかったフィーネが

切なそうな、しかし、熱の籠った表情を浮かべているのだ

―――何だ、それは。それではまるで

恋する少女の顔ではないか、と翼は思った

 

「お前達なら理解できるだろう。想いを伝えられぬ胸の痛みは」

 

「ああ……嫌と云うほどすごく……」

 

胸に手を当て、同情はせず、同意する翼

昔は、今の三人の関係を壊したくなくて言葉に出来なかった。募る想いは、胸を締め付けるばかりだった

 

「だけど、あなたの行動は防人として看過出来ない」

 

「ふっ……たった一つの、幾星霜経ても色褪せぬ、ささやかな願いも叶えさせてはくれぬのか?」

 

「叶えさせたい、つーか、恋する乙女を応援したいのは山々なんだけどな? その結果で地球が大変な事になるのは勘弁、御免被りたいわな」

 

やれやれと首を振りながら、奏は立ち上がる

その手にガングニールを具現させて

 

「つーわけで、世界をまもるために、フィーネのささやかな願いを踏みにじらせてもらいますわ、うん」

 

カ・ディンギルが再充填を始めた光を背に、奏は言った

 

「その世界が不老不死の化物と剣を受け入れない世界だと知っていても?」

 

「その時は、その時だっ」

 

「そうさ! そん時はあたしと翼、鏡華だけで生きるだけさっ!」

 

互いに背を合わせ、得物を構える翼と奏

 

「飛ぶぞ翼! この場に剣と槍はあたし達だけだ」

 

「二年前と―――同じ言葉だ」

 

「でも、中身は違うだろ?」

 

「ああ! 風鳴翼の歌が戦うためだけでない事を彼女だけでなく、奏、君にも知ってもらうぞ―――!」

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

言われるが早く、奏はその場で跳躍

槍を投擲の姿勢に構え、

 

  ――STARDUST∞FOTON――

 

  ―煌ッ!

 

  ―疾ッ!

 

  ―撃ッ!

 

大量複製した槍と共に投げる

座っていたフィーネは爆風から跳びあがり、着地と同時にソロモンの杖を起動させた

周囲にノイズが現れ―――翼に両断された

片っ端からノイズを斬り捨て、フィーネに迫る

脚部のアームも展開して剣舞を舞う

鞭で防いだフィーネは鞭の軌道を変え、

 

  ―撃ッ!

 

翼の剣を押し返す

反動で胴が、がら空きになった翼。その脇を搔い潜るかのように奏が二人の間に入った

 

  ―撃ッ!

 

  ―戟ッ!

 

二槍を存分に振るい、フィーネの鞭に対抗する

徐々に押されていくフィーネは自ら後ろへ跳び、距離を取った

だが、距離を取ったつもりが―――

 

  ――千ノ落涙――

 

今度は翼の数十本もの剣が降り注ぐ!

しかもそれだけで終わらない

 

  ――LUFT∞DOLCH――

 

地上からは奏が放った真空の刃がフィーネを襲う

舌打ちを盛大にかまし、フィーネは二本の鞭を一本ずつ向け、

 

  ――ASGARD――

 

同時障壁を形成

 

  ―撃ッ!

 

  ―爆ッ!

 

  ―轟ッ!

 

だが、鞭一本で編んだ障壁の防御力などたかが知れている

数本で、数刃で、その障壁はヒビが入り、二桁目で完全に砕け散った

 

「ちぃっ……!」

 

悪態をつくフィーネ

その懐に同時に攻め入る翼と奏

 

「せぇ―――」

 

「―――のっ!」

 

  ―撃ッ!

 

野球のバッティングよろしく

翼が右打者で奏が左打者。バットは天ノ羽々斬とガングニール

フィーネをボールに見立てて―――二人は全力で聖遺物(バット)を振るった

ゴキッ、と骨が折れた盛大な音を立てて、フィーネは吹き飛んだ

カ・ディンギルにその身を埋めて、停止する

その距離、その速度―――奏は思わず、

 

「場外ホームランっ!」

 

ガングニールを肩に担ぎ、ピース

この二年間、翼と奏はまったく別の生き方をしていた

翼は孤独に戦場に身を置き、自身を剣として生きていた

奏は眠り姫と化し、戦場とは程遠い場所で眠って生きていた

奏が眠りから覚めた後も、道場で軽い模擬戦はしたものの共に戦ってはいなかった

にも関わらず―――二人が見せた美しき連携技の数々

まるで、本当に一対の双翼のように―――

 

「奏、行こう!」

 

「おう!」

 

翼の掛け声に、奏は応じ、身体を屈め、低い姿勢で地を駆けた

その場で膝を屈め、跳躍する翼

フィーネが気付いた時には、翼は《天ノ逆鱗》を発動させ、奏は《ASSAULT∞ANGRIFF》で地を駆けていた

 

「ッ……!」

 

忌々しそうに顔を歪め、フィーネは《ASGARD》を再度展開

今度は更に二重、三重、四重と強固なものにする

 

  ―撃ッ!

 

その障壁に、《天ノ逆鱗》が激突する

火花が散る。だが、障壁はびくともしない

それで―――よかった

翼は器用に巨大剣を動かし、巨大剣の柄部を上に向け―――障壁ごと向きを変えた

二刀を両手に持ち、更にそこから翼は翔ぶ

刃は蒼の炎を宿し、翔ぶ姿は―――

 

  ――炎鳥極翔斬――

 

「まさか、始めから狙いはカ・ディンギルかっ!?」

 

「その通りだぜっ!」

 

フィーネの足下まで来ていた奏が言った

 

  ――ASSAULT∞ANGRIFF――

 

奏もガングニールの穂先を天に向け、空を翔んだ

すぐに翼に追いつき、隣り合わせで翔ぶ

 

「ッ、させるかァッ!!」

 

鞭を伸ばし、翼と奏を止める

加速させ、逃げる奏。翼は速度が上がらず、

 

  ―斬ッ!

 

「か……っ!」

 

鞭が翼を仕留めた

上昇が終わり、落下を始める

奏は引き返す事なく上昇を続ける

―――やはり、私は……私では、奏のいる場所に辿り着けないのか

弱音を吐きそうになった

だけど、上昇を続ける奏を見て、思い出した

風鳴翼と天羽奏。二人揃って双翼―――ツヴァイウィング

片翼では出来ない事も、両翼揃えば出来ない事はない

両翼揃えば―――どこまでも飛んで行ける

奏は翼を助ける事も引き返す事もしない

だがそれは、翼を信じているからだ

自分の半身である―――自分の片翼である翼を信じているからだ!

 

瞼を開け、刃に再び炎を宿す

カ・ディンギルの壁からわずかに突き出た突起に着地し、もう一度翔ぶ

絶句したフィーネが再び鞭を振るう

だが、届かない。翼の速度に、鞭は二度とその刃で彼女を裂く事は叶わなかった

奏の所まで辿り着く。奏は―――笑っていた

 

「おっせーぞ翼」

 

「ごめん、奏」

 

翼も微笑んだ

その瞳を空へ向ける

二人の眼前には、空を翔ぶのに邪魔な馬鹿でかい塔が

 

「邪魔だあっ―――!!」

 

二人の声が、炎が交わり、重なり―――二人を包み、鳥となる

蒼炎の翼、紅炎の嘴―――その名は

 

  ――双翼ノ唱―― ――Zwei∞Wing――

 

今、高らかに天を双翼が舞い歌を奏でる―――!

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

鏡華が地上に戻り、モニターに映し出された光景は

一人を除き、誰も立っていなかった

 

天ノ羽々斬―――反応消失

ガングニール・天羽奏―――反応消失

イチイバル―――反応消失

エクスカリバー―――反応有り。所有者のバイタルは不明

アヴァロン―――反応有り。所有者のバイタルは微弱

ガングニール・立花響―――反応有り。ただし精神状態に問題

ネフシュタンの鎧―――健在

 

凄惨な状況に、友里あおいは口を覆い、眼を背ける

何も出来ない自分に、血が滲む程拳を握りしめる弦十郎

モニター内でネフシュタンの鎧を纏ったフィーネが吠える

手当たり次第に瓦礫を崩す。その眼からは一筋の涙が流れていた

何かを叫んでいるようだが、音は届かなかった

弓美は泣いていた。弓美だけではない。創世も、詩織も泣いていた

当然、未来も。泣いて―――信じていた

諦めない。諦めてたまるか、と

ただ、すがりつかないと崩れてしまいそうで―――

その時だった

仰向けに倒れている鏡華に、フィーネが近付き

 

  ―突ッ!

 

無造作に鏡華の胸を手で貫いた

 

「鏡華さん!」

 

引き抜いた手に握られていたのはーーー未だに鼓動を続ける肉塊

未来には肉塊が心臓だと簡単に判断出来た

 

「あ―――ぁ……いや、やめて……!」

 

だが、未来の呟きは誰にも聞こえなかった

だから、フィーネは何かを呟いた後、それを、いとも簡単に握り潰した

初めて、未来が悲鳴をあげた

 

直後、データが送られてきた

藤尭は震える声で、データを伝えた

アヴァロン所有者バイタル―――完全停止、と

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

 

「……やはり、予想通りか」

 

握り潰した鏡華の心臓を見下ろし、冷静になったフィーネが興味深そうに呟いた

人間の駆動源とも云うべき心臓は潰した。データもバイタル完全停止のサインを出している

“しかし、鏡華の呼吸は止まっていない”。間近で確認しないと分からないが、鏡華は生きていた

 

これが鞘の力の一部なのだろうか?

鞘は、所有者に不老不死を与えるとされているのが存在する諸説の中で共通する点だ。騎士王に不死と永遠の刻を与え、盗まれるまで決して血を流させなかった魔法の鞘

だが、ここで疑問が生じる

不死と不老を与える点は問題ない。これまで見たものが証拠になる。しかし、鏡華はこれまで、特に今日の戦いで無尽蔵とも云うべき血を流してきた。今も流れている

可能性としては―――三つ

第一に、鏡華が鞘に認められていないと云えば、それだけで解決する―――他の力も使われてなければの話だが

第二に、鞘に認められているが力が限定されている。鞘が認める相応しい行動をしたのなら解除されていく―――そんな条件があるなど、数百年前の記憶を遡っても聞いた事がない

第三に、新たな主に合わせて能力を変えた―――別の能力を隠しているのかもしれないが、この可能性は限りなく低い

 

「……いや、考えても詮無き事か」

 

今大事なのは考える事ではない。長い思考を終えたフィーネはそう言った

この疑問を解消する時間は、これから無限に存在する

フィーネはそう決め、鏡華から離れた

向かう先は黒化から抜け出し、防護服も解除され―――心が砕けた響がいた

あれから、まるっきり動く気配を見せない

―――まあ、当然か

友達になれたと思った雪音クリスは絶唱を唱い消え

風鳴翼と天羽奏はその身を犠牲にしてカ・ディンギルを破壊した

先生と慕っていた遠見鏡華に関しては、己でトドメを刺したようなものだ

心が砕けなくて―――何が砕けると云うのか

 

「だが―――お前には感謝している」

 

唯一初めての融合症例、立花響

彼女の実験例があったから、今、フィーネはネフシュタンの鎧と自分を融合させる事が出来た

ヴァンとの一戦も、米国政府の奇襲の際にも融合のおかげで対処する事が出来た

しかし、自らが融合症例となった今、立花響の存在は不要だった

 

「新霊長は私一人いれば十分だ。私と並ぶ存在は―――全て絶やしてくれる」

 

鞭を響にかざす

新霊長となる事が出来た礼に、苦しまず逝かせてやろうと近づけた瞬間

 

歌が聞こえてきた

まだ生きていたスピーカーから小さく、だがはっきりと

未来達の声が聞こえてきた

 

「ちっ……耳障りな。どこから……」

 

フィーネは鬱陶しそうに辺りを見やる

だから気付かなかった。響が、心の折れた響が反応を見せた事に

最後の力が解放される事に―――


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