【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.Ⅲ

 歓迎会並びにメディカルチェックが済んだ響を返し職員は元の仕事に戻っていった。

 しかし、翼、鏡華、弦十郎、了子、緒川はとある一室にいた。

 

「……話して下さい鏡華、司令……全て」

 

 翼の一言に弦十郎は鏡華を見る。

 元は鏡華自身が言った“わがまま”だ。鏡華が話さなければ弦十郎も口を開く事は出来ない。

 もちろん鏡華は“ある程度”は話す気を持ってこの場所に帰ってきたのだ。翼を見ながら頷く。

 

「うん……だけど、話せることはまだ少ないから」

「何で……!」

「俺も目的を持ってこの場にいるんだ。ごめん……、だけど、時が来たら必ず話す。絶対にだ」

「……絶対だから」

 

 引いてくれた翼に鏡華は微笑みながら「ありがとう」と返す。

 弦十郎達は何も言わない。これは二人の問題なのだから。

 

「まずは……あれからのこと、聞かせて」

 

 あれから――つまり二年前のライブ襲撃から。

 詳しく云えば鏡華が翼を気絶した後。

 静かに鏡華は話し出す。

 

「あれから……俺は奏を連れてライブ会場から出た――いや、逃げた。俺の聖遺物を知られたくなかったし、奏を治すことができるのは俺だけだったから一人で治療したかったんだ」

「でも、鏡華は医療に詳しいわけじゃない。奏を治療するなんて……」

「いいや。あの状態にしたのは他ならぬ俺なんだ。それに、あの(、、)奏を医者もしくは科学者に見せたら――どうなると思う? 翼」

「どうなる……?」

 

 翼は鏡華の問いに首を傾げる。要領を得ない、かつこちらに意味が伝わらない質問だった。

 医者なら分かるが、ここで何故科学者が出てくるのだろうか。一先ず科学者を置いておいて医者だけの答えだけでも考える。

 眠っていたのだから、当然起こす処方を与える。

 それを鏡華に伝えると、

 

「まあ、当然の答えかな。普通だったら正解」

 

 そう言った。

 でも、「今回は五十点」とも言う。何故、と問うと、

 

「じゃあ今度は櫻井教授に聞きます。――あなたはもし、未知の研究物質を見つけたらどうしますか? 例えば未知の完全聖遺物とか」

「うん? あたし? そうねェ、一先ず厳重に保管して、ゆっくりじィっくり、隅から隅まで調べるわァ」

 

 了子らしい返答に弦十郎と緒川は苦笑を浮かべる。

 だが、鏡華は笑ってもすぐに真面目な顔に戻り翼に向き直った。

 

「つまりはそういうこと」

「え……? よく分からないんだが……」

「あの時の奏の状態はまさにそんなだったんだ。検査されれば最後、目覚めないのをいいことに医療発展だとか何とかぬかされて、実験体《モルモット》にされるはずだ」

「ッ――!?」

 

 息を呑む翼。そんな状態だったのか、と今になって驚く。

 でも何故そんな状態になったのか。翼の表情で分かったのだろう、鏡華は片手を突き出した。

 

「そんな状態になった――否、したのが俺の聖遺物」

 

 そう呟いた途端、

 

  ―輝ッ!

 

 光が手の中に集まり輝きだした。

 それは少しずつカタチを成していき、最終的には、黄金に輝く逆二等辺三角形のようなカタチを成した。

 

「鞘――?」

「そう。これが俺の聖遺物。正式名称不明、彼の騎士王が所持した鞘。俺はこれを伝承を捩って《アヴァロン》って呼んでいる」

「まさかこれって……完全聖遺物!?」

 

 了子は眼を見開き、慌ててモニターを操作する。

 さっき言ったとおり調べるつもりだろう。だが、鏡華はそんなこと許さない。

 腕を下ろし、鞘を光の粒子に変え霧散させた。それによりモニターには何の反応がでなかった。

 

「ちょ、ちょっとォ! 何で消しちゃうのよ~! 現時点で唯一の覚醒した完全聖遺物なのよ、調査させなさァいッ!!」

「嫌ですよ。こういう人がいるからずっと隠していたんです。別に外国に売り渡す気なんかこれっぽっちもないんですから放って置いてください」

 

 ——まあ確かに。

 緒川は内心でそう思いながら苦笑を浮かべる。ついでに、次のスケジュールはいつだったかなぁ、と思い出している。

 完全に空気扱いだ。

 了子は完全聖遺物、それも騎士王に不老と不死を与えていた鞘の有効性を懇切丁寧に説明して渋っていたが、終始鏡華は首を縦に振ることも譲歩することもなかった。

 そして、夜も遅いことで今日は解散だ、と弦十郎は告げた。立ち上がり出て行こうとする鏡華に翼は最後に訊ねる。

 一番聞きたかったことを。

 

「鏡華。奏は今、どうしてるの?」

 

 鏡華は振り向き、やるせないような笑みを浮かべて、

 

「二年前と変わらず、だよ」

 

そう、嘘を吐いたのだった。

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~

 

 

一方、こちらはリディアン音楽院の学生寮

バレないように学生寮の近くまで送ってもらった響はやっとのことで自分の部屋に辿り着いた

 

「ただいまぁ~」

 

疲労感六割、申し訳なさ四割の声で声を出す

すると、部屋の奥からルームメイトが姿を現した

彼女は小日向未来(みく)

幼い頃からの付き合いで共に互いの一番の親友と自負している

時々度が過ぎる場合もあるが、ここでは置いておこう

 

「響……? もう、こんな時間までどこに行ってたの?」

 

「ごめ~ん。ちょっとCDで色々あって……」

 

もちろんこれは嘘である

帰り際に鏡華から打ち合わせられた提案だった

響はのろのろと畳みの場所まで来るとそこでべちょーと寝そべる

 

「色々?」

 

「うん~。CDショップに行ったんだけどねぇ、お店の手違いで初回特典が一個しかなかったんだぁ。そこでちょうど遠見先生も予約してたらしくてね、譲って譲らないの問答があったの~」

 

「へぇ……って、響、鏡華先生とお話したの!?」

 

突然の豹変に響は身体を起こしながら「ああそっか」と思い出した

彼女、未来は以前から鏡華の大ファンなのだ

響が翼の大ファンなのと同じか、それ以上

親友としてはそれが恋慕か憧れなのかはっきりしているので応援している

 

「未来、遠見先生の大ファンだったよね。……あれ? ソングライターにファンって言葉あってるっけ?」

 

「う、うん……。鏡華先生が作る歌はどれも凄いから……、そ、それで鏡華先生と結局何してたの!?」

 

「えっとねぇ……最初はジャンケンで決めようってなったんだけど百回あいこが続いて、飽きたから長距離走で勝負した」

 

結局負けちゃったけどね、と響は「たはは」と笑う

 

「い、いいなぁ……」

 

何がいいのかはまったくの不明だが、未来はそう呟く

そうして、響はシャワーを浴びると未来と共に就寝するのだった

ただ―――

仲が良いからと云って同じベットで眠るのは度が過ぎているとツッコミを入れられても

仕方のない光景だった

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

翌日―――

今日は前日と同じ響や未来がいるクラスで授業を行うことになった

ただし、昨日は説教で終わってしまったので実質的に今日が初日同様である

 

「改めまして初めまして。昨日は説教喰らって落ち込んでいた遠見鏡華です」

 

ぺこりと頭を下げる鏡華に口々に失笑や苦笑、言葉を返す生徒達

やはり、作詞作曲家《ソングライター》と云う裏方で有名なだけあってあまり騒がれることがない

大いに助かることなどだが

 

「えー、そうですね。私の授業は基本的に楽譜関係ですが、今日は初日なので私の自己紹介で時間を潰すとしましょう」

 

つまり授業をサボっているのと同じことだ

生徒達は大いに喜ぶ

鏡華は「はいはい、騒がない。節度を持ってねぇ」と嗜める

 

「先生! 先生のプロフィールを教えてください!」

 

「直球な質問ありがとう。でも、これ以後は私が許可してから手を挙げてくださいね。―――名前は遠見鏡華。遠くを見ると書いて遠見、鏡華は鏡の華と書いて鏡華です。歳は十九歳。血液型はB型。好きなものはジャンクフード、嫌いなものはちまちましたフルコース系。特技は音楽全般の歌詞の創作。趣味は……あんまりないな。―――一先ずプロフィールは以上です。はい、質問コーナーに移ります」

 

言うが早く生徒達から挙手が一斉にあがる

空気を切らんばかりだ

よく見れると、響だけ場の空気を読むようにゆっくりと挙げている

それに苦笑しながらも一人当てる

ちなみに、鏡華は仕事柄で人気はなくとも、顔で人気があった

奏曰く、「顔と声で女みたい」とかなんとか

さらに余談ではあるが、昔奏と了子に女装させられた過去を持っていた

あくまで余談である

 

「先生って彼女いるんですかっ?」

 

やっぱきた……

予想はしていたので対処は可能だ

だが、敢えて―――

 

「立花響が彼女です」

 

ふざけてみちゃったり!

当然の如く教室は騒然となり、

 

「ちょっとーーーーーっ!!?」

 

いきなり彼女にされた響は叫び(シャウト)しながら立ち上がる

 

「と、とと遠見先生!? 何て嘘をつくんですか!? 凄く視線が痛いんですけどっ!? 未来もそんな眼をしないでー!」

 

「たはは……場に馴染もうとしたけど、やっぱ駄目か。―――えー、もちろん冗談です。彼女はいませんし立花とは別に何の関係もありません。精々風鳴翼のCDを奪い合う仲なだけですからご安心を」

 

「奪い合う仲って言われても私が安心できませんよ!」

 

鏡華の言葉に響は再びシャウト

周りから笑いが漏れる

 

「ほら、立花座れ。おかげで距離が縮まったから。―――はい、次の質問に移るよ。それじゃあ……君」

 

「好きな女の子のタイプを教えてくださ~い!」

 

「またかよ……」

 

呟く鏡華は「ちょっと待ってね」と考えに入る

これだけは答えが出ていたのだが、どう言えばいいのか分からないのだ

一先ず、

 

「好きなタイプは……、そうだな、歌が好きな子かな」

 

そう答えておいた

 

「はーい、先生は何で手袋まで嵌めているんですか~?」

 

「色々とわけありでね。想像にお任せするよ。あ、間違っても外さないでね。先生怒っちゃうから」

 

と、まあ

こんな感じで質問コーナーは楽しくすぎていき

もうそろそろチャイムが鳴る時間となった

 

「さて、時間も迫っているようだし、次を最後にしようか。それじゃあ……」

 

そこでふと眼にとまった生徒がいた

もしも当たらなかったら泣いてしまいそうな雰囲気を出している少女

小日向未来

確か響のルームメイトで

それから―――

 

「―――小日向」

 

未だ憶えきれてない生徒の中で二人だけ憶えている名字を呟く

未来は名字を憶えてくれていたことに驚きながら席から立つ

 

「鏡華先生は、二年前に行方不明になったってニュースで聞きました。あれからどうしてたんですか?」

 

「……………」

 

これがくるとは思わなかった

鏡華は頬をぽりぽりと掻き、全ての教室に置いてあるピアノに凭れる

真実を伝えることはできない、当たり前だが

 

「……色々と理由があってね、ずっと療養に専念していたんだ。おかげで今ここで皆と授業をしてられる」

 

説明が終わると、ちょうどチャイムが鳴り響く

 

「はい、今日はこれでおしまい。次からは教科書が必要だから忘れないこと。次の授業に遅れないようにするんだぞー」

 

はーい、や、ありがとうございましたー、と口々に挨拶を返す

鏡華はカバンを肩にかけるとドアではなく響のところに向かう

 

「おーい、立花ー」

 

「は、はいっ!?」

 

鏡華が声をかけると響は警戒するような視線を送る

そこまでさっきの発言が警戒させるのか、と鏡華は思うが、構わず近付く

 

「そんな警戒しないでよ。さっきのはジョークなんだから」

 

「ジョークでクラスのほとんどを敵に回させないで下さいよぉ。未来にまで恐い顔されたんだから~」

 

「あはは、悪い悪い。小日向も信じないでくれよ?」

 

鏡華はそう言って笑いながら未来に話しかける

未来はやや紅潮した顔で「は、はいっ!」と返す

頷いた鏡華はカバンから何かを取り出し響の前に置いた

それは打ち合わせていた話題であった翼のCDだった。初回特典も付いている

 

「これって……」

 

「昨日奪い合ったCD。さっきのお詫びってことで。ああ、開封はしてないからね」

 

「い、いいんですかっ!?」

 

驚いたように訊く響に鏡華は頷く

響は喜び、大切そうにカバンの中にしまいこんだ

鏡華は忍び笑うと、未来に視線を向ける

 

「さて、と……何で自分を知ってたのか、聞きたいよね?」

 

「は、はい……!」

 

「答えは簡単。面接官をしていた先生から聞いたんだ。『今年の新入生に君に憧れている生徒がいる』ってね」

 

そう、それはまだ入学式が始まる前の日

顔合わせに来ていた鏡華に面接官をしていた教師が話したのだ

それを話すと未来は顔を真っ赤に染め、俯く

 

「す、すみません……」

 

「謝る必要なんかないよ。俺なんかに憧れてくれる人がいてくれて嬉しかったし。―――いつか小日向のピアノ、聞かせてね」

 

そう言うと教室から出て行く鏡華

未来はしばし呆然としていたが、

 

「ひ、響……これって夢、かな……?」

 

「夢じゃないよ。やったじゃん未来っ!」

 

親友からそう言われて

彼女には珍しい大声で喜んでいた

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

「ふぅ……」

 

静かに、悟られないように息を吐く

弦十郎から表の世界へ戻る時にもらったこの仕事はかなり疲れるな、と思った

アイドルである翼や奏と違い、ソングライターの鏡華は大勢の人の前に立つのに慣れていない

できる限り自然体を装っていたが、実はかなり緊張していたのだ

それにしても、と鏡華はさっきの二人を思い出す

立花響と小日向未来

まるで昔の自分達を見ているかのようだった

カバンから昨日借り受けていた響の書類を取り出しある一項目を見る

―――大好きな~~

そこに響は《小日向未来》と書いていた

未来の方には自分の名前が書かれていたのだが

 

まるで―――

まるで二人のこれからが

自分達みたいな気がしてならないのだ

シンフォギアは最重要機密事項

それに関わってしまった響はどんなに大事な親友であろうと彼女に嘘をつかなくてはならない

嘘をつく痛み、そしてそれが発覚し崩れる悲しみ

 

「それに……」

 

未来は感受性が人一倍高い子だ

さっきの冗談を誰よりも本気に信じ込んでいるような瞳をしていた

もしそれが隠し事に反応して連鎖して云ったら―――

絶対に関係は崩れ去ってしまう

どんなに強固な絆を築こうと、壊れるのは何倍も簡単なのだから

 

「俺達の二の舞だけには絶対にさせない。させて―――たまるかっ」

 

新しい目標を胸に

鏡華は一人、歩き出す

全てを取りこぼさないために


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