【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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今夜より戦姫絶唱シンフォギアGの放送が開始されますね
新たなキャラに聖遺物。実に楽しみです


D.C.ⅩⅩⅨ

疾る

疾る疾る疾る疾る―――!

 

交わる黒と黒の拳が

地を砕く震なる脚が

限界を超えて、堕ち逝く王と破壊の獣の血闘は繰り広げられる

 

  ――硬気・崩撃――

 

  ――■■・■■■――

 

  ―撃ッ!

 

  ―砕ッ!

 

  ―裂ッ!

 

互いの一撃がぶつかり合い、周りの瓦礫が衝撃で砕け散る

本能のまま響は懐に入り込む。鏡華は後ろに下がらない。超接近戦ならぬ超接触戦に鏡華は応えた

ギアを纏った響の拳に、鏡華は何も纏わず、ただ《凶り汚れ果てる理想》を発動した肉体で挑む

軋む。空気が、地面が、鏡華の拳が

軋む端から拳の修復は始まっていく。完全聖遺物としての本来の力を取り戻したアヴァロンを以てすれば、治癒はこれまでより格段に早い

ならば何故、鏡華は鎧を纏わないのか

それは鏡華と奏しか知らない

 

「うぉぉおおおおっ!」

 

「■■■■―――!!」

 

血を流すのは鏡華だけ

だが、響も流すものはある

それは心だ―――鏡華はそう考えている

考えているから―――響を早く助けるために拳を振るう

 

  ―撃ッ!

 

  ―轟ッ!

 

  ―爆ッ!

 

  ―裂ッ!

 

「ッ、―――ッ―――!」

 

血に足を取られ、衝撃を逃がしきれず鏡華は吹き飛ぶ

背中から地面に倒れた鏡華の視界に入る―――空を跳ぶ響の姿が

 

「ッ―――!」

 

この距離からでは回避は出来ない

鏡華は腕をクロスさせ防御の構えを取った

しかし、今の響に、そんな防御など紙に等しい

響のアームドギアは、束ねて繋ぎ―――砕いて壊すものなのだから

 

  ―撃ッ!

 

  ―撃撃撃撃撃撃撃ッ!!

 

殴る

殴る殴る殴る殴る―――!

鏡華を砕くために、壊すために、ひたすら殴り続ける

腕が砕けようと、胸から砕ける音が聞こえようと、鏡華の身体が地面に埋もれようと

響はただ殴り続ける!

 

「■■■■ーーー!! ■■■ッ!!」

 

最後の一撃

響の意思だけで腕部のパーツをオーバースライドさせ、

 

  ―撃ッ!

 

それを遠慮も、容赦も、情けも

全てを無用で鏡華に全力で打ち込んだ!

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

響がおかしくなった事はモニターからも確認出来た

弦十郎でさえ、今の響には絶句し言葉を紡ぐ事は出来なかった

 

「響……?」

 

「あれ、本当にビッキーなの……?」

 

創世は信じられないと云った様子で呟く

モニターで鏡華と戦い始める

 

「もう、終わりだよ……」

 

消え入れそうな声で呟いたのは弓美

 

「学園もメチャクチャになって、響もおかしくなって……」

 

「まだ終わりじゃない! 響だって―――」

 

「あれが私達を守る姿なの!?」

 

絶叫。モニターに映る響が唸る声が届く

 

「分かんないよ。どうして皆戦うの!? 痛い思いして、怖い思いして!! どうして戦うのよっ!?」

 

そう、誰に分からず弓美が問い掛けた時だった

 

  ―壊ッ!

 

部屋の天井から何かが突き破って、簡易ベッドに飛び込んできた

全員が見る先には―――

 

「どうして……皆戦う、か……」

 

ボロボロになって、血だらけになって

それでも立ち上がろうとする鏡華がいた

 

「鏡華さん!?」

 

「地上から殴り飛ばされてきたのかっ!?」

 

あまりの威力に藤尭は唖然とする

いや、威力もそうだが、それでもまだ立ち上がる鏡華にも驚きだ

壊れ、役目を果たせなくなったベッドに掴まりながら、鏡華は弓美を見つめる

 

「そんな単純な事も分からないか? 板場。アニメが大好きな君が……」

 

「ッ……!」

 

「守りたいからだよ。世界を、この街を、友達を、好きな奴を―――全部、守りたいんだよ」

 

地球を、街を、響を、未来を、弓美達を、何もかもを守りたい

アニメだってそうだ。大抵の正義の味方は守るために戦っている

 

「お前だってそうだろ? なあ―――立花」

 

そう言った瞬間

鏡華が落ちてきた穴から、響が降りてきた

 

「響ぃッ!」

 

「響君!」

 

「立花さん!」

 

「ビッキー……!」

 

「響……」

 

弦十郎や友人達の呼びかけに

 

「■■ゥ―――」

 

響は応えなかった

唸り声をあげて、鏡華だけを睨む

 

「なあ立花。やっぱお前凄いよ」

 

鏡華だけはいつもの調子で話しかけた

 

「前、話してくれたよな? 助けたい人がいたら、一秒でも早く助けに行きたいって。最速、最短で。真っ直ぐに、一直線に駆けつけたいって」

 

響が開けた穴を指差す

 

「その言葉通り、お前は、一番助けたい人の元へ一直線に着いたな。凄いよ。―――だけどな」

 

「■■ッ!」

 

鏡華に飛び掛かる響

振るわれる拳を身体半身をズラして躱し、クロスカウンターで響を殴る

 

「今のお前に、人助けをする資格はない。聖遺物に呑み込まれてるお前には」

 

吹き飛んだ響は身体を捻り、壁を蹴り、愚直に鏡華に突撃する

周りに未来や弦十郎がいる以上、鏡華にクロスカウンターや軸をズラす以外の回避は許されない

 

  ―蹴ッ!

 

その場で上半身を捻り、全身を回す勢いで側頭部へ蹴りを放つ

だが、響も吹き飛ぶ際に、鏡華の顔面に後ろ蹴りの要領で蹴りを見舞った

 

「ぶっ……腐っても弟弟子って事かよ……いや、妹弟子か」

 

血が混じった唾液をペッと吐き、口元を拭う

ガァッと吠え、縮地を発動。その速度に鏡華は反応出来ない

《凶り汚れ果てる理想》を発動していなかったら、の場合だが

 

  ―轟ッ!

 

拳と拳が激突し、衝撃が広がる。非常食や棚が衝撃でヒビが入る

右で打ち、左で殴り、蹴りで火花のように血飛沫が舞う

《崩拳》、《転身胯打》、《鉄山靠》、《裡門頂肘》、《外門頂肘》、《浸透震脚》―――!

同等の技と技の応酬。ぶつけ、ぶつかり、殴り、殴られ、蹴って蹴られ―――

 

見ている側からしたら、もう見ていられなかった

鏡華は血を流し続けている。流せる血など残っていないだろうに

響は何も流さない。だけどきっと、ナニかを流してしまっている。心のどこかで

 

響が何度目か知らない壁に激突し、鏡華がその場に膝をつく

荒い息を吐き、鏡華は震え血で紅く染まった瞳で、立ち上がろうとする響を見つめる

 

「なぁ、立花……前、風鳴の屋敷で言った事を覚えてるか?」

 

そんな状態でありながら、鏡華は唐突に話す

聞こえてなくてもいい。ただ、どうしても言っておきたかった

 

「俺は、お前に惚れてなんかない。あの時は聞こえなかったかもしれないけど、俺は―――お前に憧れているんだ」

 

独り言のように言葉を続けていく

 

「二か月前まで、何も知らない、ただの、人助けが趣味な少女だった。それが、幸か不幸かノイズを倒す力を手に入れた。最初は覚悟もなく、奏の代わりで戦場に立った。途中からは代わりではなく立花響として戦場に立った。覚悟を決め、親友と袂を分け、その後より強固な絆を手に入れた」

 

「…………」

 

「その姿に、自分がなりたかった姿に、俺は羨み憧れ―――“嫉妬した”」

 

最後の言葉に、未来は思わず鏡華を見て―――言葉を失った

鏡華の身体が黒く染まってきているのだ―――響のように

自分の身体の事だ。鏡華が気付いていないはずがない。なのに鏡華は放置して響に話し掛ける

 

「何で俺はお前みたいに上手く出来ないんだ。何で翼の心を開かせたのが出会ってたかが二か月の立花なんだ! 何でお前はそこまで強くなる! 俺が届かない高みにお前はいて、どうしてお前は堕ちるんだよっ!!」

 

  ―蹴ッ!

 

床を蹴り、黒化した拳を振りかざす

響はその攻撃に反応して、拳を―――振りかぶらなかった

動かなかった。立ったまま、鏡華を睨んでいた

動いたのは―――響の瞳からこぼれ落ちる雫

 

「……わ……私ダッテ、センセーガ羨マシくて……嫉妬して、た……!」

 

「ッ―――!?」

 

  ―撃ッ!

 

止められない拳

だが、軌道だけは変えた

鏡華の拳は、紙一重でズレ、響の顔の真横を通過して壁を粉砕した

拳から血が流れる。黒く染まるのは止まっていた

 

「―――響……?」

 

未来が呟く

響の黒化は治まっていない。未だ黒く染まり続けている

 

「未来は遠見先生の話をするたび、嬉しそうな顔をしてた……いつも、先生の話をしていた……。このままじゃ、未来が私の前から消えちゃう……前みたいになっちゃう……そんなの嫌だよォ」

 

「たち、ばな……」

 

「先生が羨ましいって思っていた。先生に嫉妬していたっ。先生がいなければ未来がいなくなることはないって思った! 先生がいなくなればいいと思ったっ!!」

 

  ―撃ッ!

 

その音は何だろうか?

―――ボキッ

すごく硬いもので―――何かを圧し折ったような音

―――バシャ

そこから液体がこぼれるような音

―――ブシュッ

落ちるのではなく、霧を吹き出すような音

鏡華は自分の身体を見下ろして、ああ、とやっと気付いた

響の貫手が自分の胸を貫いていた。きっと、ブシュッは後ろに血が吹き飛んだ音だろうな、と思った

その割には、痛みがない。もう、痛過ぎて、感覚が麻痺しているのだろう

不思議な事に、身体を動かすには支障がなかった。ただちょっと息がし辛かったが

鏡華は静かに自分の胸を貫いている響の腕をズルリと抜いて見た

自分の血で黒く染まった手―――いや、元からか―――を見て、鏡華は苦笑した

 

「こら、立花。お前の拳は壊すためじゃないだろ。お前の拳は―――束ねて繋ぐものだろ?」

 

もう片方の腕を持ち上げ、響の背中に回し、そっと自分の方へ抱き寄せる

 

「そうだよな。そうだったな。人間辞めた俺でも負の感情があるんだ、“まだ人間の”立花が負の感情を溜め込んでもおかしくはないよな」

 

無意識に、あるいは無自覚に涙を流す響に、

 

「ごめんな、立花」

 

鏡華は、謝った

何になのか、何で、なのかなんて弓美達には知り様がない

唯一、理由を知っていた未来だけは胸が締め付けられそうだった

どんなに話しても響は嫌な顔をせず話に相槌を打ってくれていた。だが、その裏では響自身も気付かない感情が渦巻いていたのだろう

 

 

「ごふっ!」

 

血を吐く

瞼が重い。今にも閉じてしまいそうだった

だけど、それを行うのはもう少しだけ後だ

片腕だけで響を逃がさない様抱きしめ、もう片腕でプライウェンを具現化。船とし把っ手を掴む

 

「戻ろう立花。全てに片をつけるために、な」

 

「響! 鏡華さん!」

 

「鏡華! 響君!」

 

未来と弦十郎が叫ぶが、鏡華は応える事なくプライウェンで駆けた

ゆっくりと向きを穴へ変え、高速で穴に突っ込んだ

 

「ぶべっ……耐えろ、耐えろ……」

 

一心不乱に唱える

今、意識を飛ばしたらプライウェンも消え、二人共真っ逆さまだ

そして、数秒の短い高速飛行は終わりを見せ、プライウェンは空中へ飛び出た

限界を迎え、プライウェンは消え、鏡華と響は空に投げ出された

そして、空を舞う二人が見た

 

  ―翔ッ!

 

  ―轟ッ!

 

空を舞う、蒼炎の翼と紅炎の嘴を持つ鳥が

天を穿つカ・ディンギルに向かい、

 

  ―煌ッ!

 

  ―爆ッ!

 

  ―裂ッ!

 

煌めきに消えるその姿を

眼に焼き付いたその炎鳥に鏡華は、

 

「……どこまでも翔べ―――ツヴァイウィング」

 

静かに微笑み、その瞼を閉じた


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