【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.ⅩⅩⅧ

「ァァアアアッ!」

 

翼が剣を振り下ろす。刃の先にはフィーネ

怒りを向けているが、その剣筋に乱れはない

フィーネがどうやって鏡華を追い込んだのか、翼は知らない

鏡華の実力は一つの事で劣っていても、武器を使い分ければ自分を追い込むぐらいの実力は持っている

その鏡華があそこまで傷を負い、また、話にだけ聴いてた《凶り汚れ果てる理想》の反転直後まで戦っていた

それほどの実力なのだろう―――か?

フィーネ―――櫻井了子は研究者だ。自分と違い、戦闘技術は編み出す事は出来ても使用に移す事は難しいはず

 

「ッ……!」

 

鍔迫り合っていた剣を鞭で奪われ、一歩だけバク転で下がる

手と足を入れ替え、脚部のアームで鞭を防ぎ、攻める

 

  ――逆羅刹――

 

フィーネも鞭を回転させ、《逆羅刹》を防ぐ

だが、翼は一人ではない

 

「たぁぁああああっ!」

 

足りない部分は補ってくれる“仲間”がいる

響が横から攻める

不意を突かれたフィーネは鞭でなく篭手で防ぐ

 

  ―爆ッ!

 

  ―轟ッ!

 

衝撃に身を任せて距離を取る

フィーネもその場からではこちらに攻撃出来ない位置まで下がった

それでいい。翼と響は囮

本命は―――

 

「こっちだ―――!」

 

クリスだ!

 

  ――MEGA DETH QUARTET――

 

極限までチャージしたギアを固定砲形式に変形(コンバート)させ、大型ミサイルを放つ

フィーネを狙ったミサイル―――それも囮

もう一基の狙いはカ・ディンギル

 

「させるかァッ!」

 

  ―斬ッ!

 

伸ばした鞭でミサイルを両断する

空中に停滞しながら、自分に襲いかかっていたもう一基のミサイルを探す

だが、どこにも見えない

三百六十度を見渡し―――見つけた

もう一基は、天へと向かっていた―――クリスを乗せて

フィーネは気付かなかったが、これには翼と響も驚いていた

見ているだけしか出来ないでいる中、それは聞こえてきた

今までとは打って変わった透き通る静謐な歌声が

誰もが瞳を見開いた

クリスは奏でているのだ―――絶唱を

誰も手出しも―――口出しも出来ない

(そら)に蝶の文様が浮かび上がる

カ・ディンギルから放たれる粒子砲

クリスからもこれまで以上の砲撃が放たれる

そして―――地面から飛び出す彗星

黄金の尾を引くそれは止める間もなく宙へと―――クリスの元へと一直線へと向かっていく

拮抗が破られ、粒子砲がクリスを呑み込もうとした瞬間、黄金の光が弾け

数十秒続いたそれが消えて見えたのは、

 

「なっ……! 馬鹿な! 軌道を逸らした、だと!?」

 

わずかに欠けた月

 

「雪音……」

 

落下するクリス

 

「ヴァン、さん……?」

 

そして、クリスを守るように抱きしめて落下する―――ヴァンだった

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

再び時は遡る

 

「あっ! ハトのおにーちゃんだ!」

 

奏達がいた部屋に現れたのは、以前、ヴァンがクリスと一緒に父親を捜してあげた女の子

すると、後から女の子の兄も、そして緒川も戻ってきた。その後ろには兄妹の両親らしき人物が

わずかにヴァンは驚いた。男の子が怪我をしていたのだ。深くはないが、かすり傷では済まないレベルだった

 

「お前達……それに小僧、その怪我は」

 

「ああ、これ? 妹を助けたら瓦礫の下敷きになっちゃって」

 

「私がお兄ちゃんを助けたの!」

 

「違うよ! おあいこだろ」

 

こんな状況でさえ、変わらぬ兄妹

それを見て、ヴァンは笑みを止められなかった

目の前の純粋な兄妹愛。それはヴァンが取り戻したかった過去の一つ

叶えたい理想の一つ

それが今ではどうだ。互いに相手を想っても、純粋さは忘れてしまっていた

 

「くっ、くはは、はははは!」

 

一頻り笑うと、ヴァンは兄妹に背を向けた

 

「礼を言おう、お前達。まさか年下に大事な事を思い出させられるなんてな」

 

「……? どーいたしましてっ!」

 

にぱっと、訳が分からないまま笑みを浮かべる女の子

ヴァンはまた笑みを浮かべると、アタッシュケースから落ちたモノ―――剣を見据える

ジャンとエドワードが残した剣。予想が正しいのならこの剣の銘は―――

 

「―――エクスカリバー」

 

銘を呼び、剣の柄を掴む

途端、掴んだ腕のあちこちが裂けた

 

「おにーちゃん!?」

 

「ぐっ!? ――ッ―――!」

 

驚いたヴァンだが、掴んだ柄は決して離さない

離せば恐らく―――“資格を無くすだろう”

痛みは既に左腕で麻痺しかけている

 

「It can be heard--a Excalibur.It is weak to me like a king.Also greatly,there is nothing.Also strongly,there is nothing.But, preparedness is above a king.Therefore,it heralds.Your Lord is me from today.As it is, it rusts, and decays,the glory which was the king's sword is held, or it can choose, and my name is Van.Van Yozora Ainsworth」

(聞け、エクスカリバー。俺には王のように力は無い。偉くも無い。強くも無い。だが、覚悟は王より上だ。故に告げる。貴様の主は今日より俺だ。このまま錆びて朽ちるか、王の剣であった栄光を抱くか、選べ。我が名はヴァン。ヴァン・ヨゾラ・エインズワース」

 

ズズ、ズズッ、と少しずつエクスカリバーを持ち上げる

鉛のように重いエクスカリバーにヴァンは焦る事無く言葉を連ねていく

 

「To my origin,as for your fate,my fate is your origin.I will stand an oath here! Respond, if it follows! A star trains and carries out Excalibur!」

(貴様の命運は我が元に、我が命運は貴様の元に。誓いを此処に立てよう! 従うならば応えよ! 星が鍛えし聖剣よ―――!)

 

微弱に点滅を始めるエクスカリバー

それがだんだんと強まっていく

胸のペンダントもそれに呼応するように輝きを増していく

遂に輝きが視認限界に来ると、奏以外は眼を背けたり瞑った

奏は網膜が焼けようと、焼けた端から回復していくので、しかとこの光景を焼き付けた

そして―――

 

  ―輝ッ!

 

世界が白く塗り潰された

染め上げられた世界が次第に元の色を取り戻していく

視界が戻っていく感覚に、眼を閉じていた未来達はゆっくりと眼を開き―――目の前の光景に眼を奪われた

 

「夜宙ヴァンWith完全聖遺物・エクスカリバー」

 

ヴァンの鎧は完全に修復されていた。それだけではない

かつて見せた黄金の剣が、より美しく―――神々しく輝いている

そして―――失われたはずの左腕が元に戻っていたのだ

 

(お前が力を貸したのか? ―――アヴァロン)

 

胸に手を当て、奏は体内に宿る鞘に語りかける

 

「おにーちゃんがヒーローみたいに変身した……」

 

ポツリと男のが呟く

それはシンフォギアを知らない者から見たら真っ当な答えだろう

振り返ったヴァンは優しく微笑み、

 

「変身して当然だ」

 

「え?」

 

「俺は、特定の人間限定のヒーローだからな」

 

ポンと頭を叩くヴァン

そのままヴァンは部屋を出る

部屋を覗いていた緒川と両親が無意識に後ろへ下がり道を作る

ヴァンは無言で進み、途中で全力で駆けた

 

「俺達は……無力だな」

 

ヴァンがいなくなって、初めて弦十郎が呟いた

ヴァンの言葉は確かにその通りだ。言い返すことは出来ても、彼の信念や覚悟を曲げさせる事は出来ない

 

「んなわけないでしょ、弦十郎の旦那」

 

「奏……」

 

「無力かどうかは、これからのあいつに対するあたし達の行動で決まってくると、あたしは思うな」

 

「……ふっ、子供に教えられるとはな」

 

「旦那に育てられたからねー」

 

にしし、と笑う奏はもう一度モニターを見る

翼と響、クリスが戦っている間、その場をまったく動かない鏡華

―――そろそろ起こしに行きますかね

胴体が痛むのも飽きてきた頃だ

未来と眼が合い、笑いかけ、アヴァロンの能力を使い

未来以外に気付かれる事なく―――その場から消えた

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

避難地区から十分離れたヴァンはエクスカリバーの一撃を以て、天井を砕き、地上へと出た

その勢いで天に昇り、(そら)の向こう―――クリスの元へ向かった

既にカ・ディンギルの粒子砲は放たれている。クリスが呑み込まれるのも時間の問題だ

呑み込まれる瞬間にヴァンはクリスの真後ろに到着し、唱壁を張った

 

「ッ……! これ、は……?」

 

「唱壁―――ギリギリ間に合って良かった」

 

「ッ!? ヴ、ヴァン―――!」

 

「済まないなクリス。遅れてしまった」

 

優しくクリスに囁く

振り向いたクリスは、絶唱の痛みの中でも泣き笑いを浮かべた

 

「ああ、おっせーよ。馬鹿ヴァン」

 

「許せ―――と言っても許してくれそうにないな」

 

「当たり前だろ。勝手にいなくなって……」

 

「じゃあ、今度は先に約束するよ」

 

片手でエクスカリバーを構え、もう片方の腕でクリスを抱きしめる

唱壁に亀裂が入り始める

 

「俺は、ヴァン・ヨゾラ・エインズワースは、もう二度と雪音クリスの傍を離れない。一生、傍にいて、雪音クリスの夢を叶えるために生きると誓う」

 

「――――――」

 

「どうした?」

 

「あ、いや……なんか、告白みたいだなって思って……」

 

「くく、案外、そうかもな」

 

「え?」

 

クリスは聞き返そうとしたが、ヴァンの「ほら来るぞ」と云う言葉に意識を粒子砲へ戻す

唱壁は今に破れそうなほどヒビが入っていた

 

「ヴァン、防ぐ事は出来るか?」

 

「流石に残りの(パワー)では無理だな。逸らすのが精一杯だ」

 

「じゃあ、逸らすか」

 

「ああ」

 

互いに笑い合う

クリスも小型の拳銃を構える

 

  ―パリン

 

乾いた音と共に唱壁が砕け散る

ヴァンとクリス、二人の最後の一撃が粒子砲を迎え撃つ

だが、数秒もしない内に二人は呑み込まれた

最後まで微笑みを浮かべて―――

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

落ちて、落ちて、墜ちて―――

動けなかった。翼も、響も、フィーネも

翼と響はクリスとヴァンの姿に眼を奪われて

フィーネはカ・ディンギルの粒子砲が逸らされた事に驚いて

奏は、

 

「おーい、いつまで寝てるんだ鏡華? ヘイ、スタンドア〜ップ」

 

空気を読んでなかった

ガングニールの柄先で、ツンツン鏡華の頭を突つく

いや、ゴツ、ゴツと物騒な音が出ているのでツンツンではないだろうが

 

「か、奏……?」

 

「たーくっ、アヴァロン返すからさっさと起きろよ」

 

胸に手を当て、アヴァロンを具現化する

そのまま、アヴァロンを鏡華の胸に埋め込んだ

瞬間、

 

「がはっ! ごほっ、ごほっ……! いでぇな畜生……!」

 

鏡華が覚醒した

咳き込み、痛む胸を抑え、ふらつく手足で、生まれた子鹿の様に立ち上がる

 

「はぁあっ……ぐそっ、身体全部が痛ぇな……戦況は」

 

「クリスとヴァンが月の破壊を防いで“ダウン”ってところかな」

 

「……そっか」

 

ふらふらと歩き、翼と響の元へ二人で向かう

最後の一歩のところで瓦礫に足を奪われ、倒れそうになるのを響に受け止められる

 

「無茶しないでください! 遠見先生。まだ身体が……」

 

「血が足んねぇだけだ。それより……」

 

響に支えられながら、鏡華の視線はフィーネへと注がれる

フィーネは冷ややかな眼で森の中へと消えたクリスとヴァンを見ていた

 

「自分を犠牲にして月への一撃を防いだか……はっ! 無駄な事を」

 

「ッ―――!」

 

「見た夢も叶えられず、惚れた女一人守る事すら出来ず死ぬとは―――とんだ愚図の駒だったな」

 

ズグン―――と

響の心をフィーネの言葉が抉った

それが小さいか大きいかは分からない

しかし、その穴を埋めようと、響の身体の中でガングニールが脈動した

ズグン、ズグンと

どんなに修復しても“埋める事の出来ない”穴に、ガングニールは、

 

「それが―――」

 

「た、立花……?」

 

真横でその言葉を聞いた鏡華は

いや、鏡華だけではない。翼も、奏も

今の響の言葉に戦慄を憶えた

 

「命を握リ潰した奴ガ言ウコトカァァァァアアアアアアアア―――!!!??」

 

ガングニールは―――“侵食を以ってして修復を試みた”

全てが黒く染まった響が吼える

それだけで、地面から砂利が、小石が宙を舞う!

 

「立花? しっかりしろ立花!」

 

腕を肩に回している鏡華は叫ぶように声を掛けるが、響は反応すらしない

むしろ、回した腕を無意識に握り締めており、鏡華の腕が悲鳴を上げ始めていた

 

「ぐぅっ!?」

 

「融合したガングニールの欠片が暴走しているのだ。制御できない力に、やがて意識は浸食され―――破壊衝動だけに塗り潰されるだろう」

 

「ッ、まさか、お前……!」

 

翼は以前目の前で櫻井了子が言っていた言葉を思い出した

響の身体とガングニールは以前にも増して体組織と融合している事を

身体能力と回復速度はそのせいであると―――!

 

「響の身体で実験してやがったのか? 了子さん―――!」

 

「■■、■■■■―――!!」

 

「たちば―――がっ!」

 

支えていた鏡華を地面に叩きつけ、響は驚異的な速度でフィーネに迫る

薄ら笑いを浮かべ、フィーネは鞭の障壁でガード。そのまま一撃を与える

後ろへ吹き飛んだ響。だが、地面に着地した瞬間、その姿を消した

中国拳法・闊歩―――にギアを加えての縮地

その勢いのままフィーネの懐に迫り

 

  ―撃ッ!

 

  ―轟ッ!

 

  ―爆ッ!

 

余波に鏡華達は眼を背ける

爆風が晴れると、フィーネが瓦礫の上に倒れていた―――上半身と下半身が半分以上千切れて

息を呑む翼は更に眼を見開いた

死んでいるはずの状況に関わらずフィーネが―――こちらを見て微笑んだのだ

 

「ッ、もうやめろ立花! ガングニールを抑えろっ!」

 

鏡華が叫ぶ

荒い息を吐いて振り向いた響は―――敵意を鏡華へと向けていた

 

「鏡華ぁっ!」

 

「来るな!」

 

  ―撃ッ!

 

  ―煌ッ!

 

  ―轟ッ!

 

プライウェンで防ぐ

獣のようにがむしゃらに連打する響

 

「ッ……翼! 奏! お前らはフィーネを倒せ!」

 

「でも! 鏡華が―――」

 

「獣相手に負けるかよっ! ぜってー、意識を引っ張りあげてやらぁ!!」

 

「鏡華! 無茶すんじゃねぇぞ!? 今の鏡華は―――!」

 

「言わずもがな! 奏も“ガングニールに引き込まれるんじゃねぇぞ!”」

 

互いに相手を心配し、自分の戦いに集中する

鏡華は盾の軸をズラし、響を自分の速度で吹き飛んでもらう

よろけたが、響は倒れる事なく、敵意を剥き出しにして鏡華を睨む

 

「■■■―――■■■■、■■、■■■■■―――!」

 

「立花……暴れたいなら、暴れよう。だけどな」

 

鏡華は構えを解いて、無形の構え―――立ったまま、もう一度《凶り汚れ果てる理想》を発動

心底が徐々に黒く染まるのを感じつつ響を見据えた

 

「やるからには、俺も本気だ。人格が反転しても―――お前を心の底から掬ってやる」


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