【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.ⅩⅩⅦ

「まさか了子さんと戦う日が来るなんて―――二年前から時々思ってたよ」

 

フィーネと化した了子を前に、背後に未来と緒川、意識のないヴァンを庇いガングニールの防護服を纏った奏がガングニールを構える

エレベーターで二課本部へ降りつつあった奏達を襲ったフィーネ

到着すると同時に奏がアヴァロンを解放(パージ)して意表を突き、今に至る

 

「ほぉ……私の正体に気付いてた、と?」

 

「アヴァロンの記憶にあったからな。了子さん、騎士王に一回会ってるよな?」

 

「まさか、そこから知られているとは……あの時、姿を見せるべきではなかったか」

 

―――まあ、いい

フィーネは鞭を両手に構える

守る対象がいる奏は攻勢に出る事は出来ない

もう一度、アヴァロンを纏って、守りながら撤退を考えた時、

 

「待ちな、了子」

 

そんな声と共に

 

  ―撃ッ

 

奏とフィーネの間の床が吹き飛んだ

そこから飛び出してきた―――弦十郎

 

「えー……」

 

眼が点になりながら呆れたような、嫌そうな声を上げてしまう奏

どんな時も思ってたが―――彼、弦十郎

 

「まだ、私をその名で呼ぶか」

 

(あたしが言うのもなんだけど―――人間、やめてね?)

 

相も変わらずの超人っぷりだった

だけど、これでどうにかなった

奏は三人の腕を掴むと、後ろに跳び、“巻き込まれないように距離を置いた”

弦十郎のサポートをしたかったが、正直に云って、今の奏は力を制限している。バレないように振る舞っているが、実はノイズでも結構精一杯なのだ。故に足手まといにしかならなかった

だから、奏は弦十郎のサポートよりも鏡華に呼びかける事に専念した

だが、念話に鏡華は応答しない

 

(どうしたんだよ鏡華! まさかノイズにやられちゃったり?)

 

奏以外誰も知らないが、今の鏡華もアヴァロンを奏に半分渡しているので十全に実力を発揮出来ないでいた

ノイズぐらいには負けはしないだろうが、“もしも”という場合もある

鏡華に気を取られていた奏は、

 

「司令!」

 

緒川の声と未来の息を呑む音に引き戻された

弦十郎とフィーネの戦いは、既に決着がついていた

フィーネの勝利によって

 

「旦那ァッ!」

 

鏡華の事を頭の片隅に捨て置き、奏は特攻した

跳び上がり、ガングニールとロン、二槍を両手に握り、

 

「うぉぉおおおッ!」

 

  ――SPIRALE∞ORKAN――

 

  ―閃ッ!

 

  ―裂ッ!

 

「無駄な事を……!」

 

  ――ASGARD――

 

だが、鞭が陣を組み、バリアのようなものを形成させたフィーネには届かない

届かない事に歯嚙みした奏は一槍でバリアを攻撃しながら、もう一槍を、

 

  ――LAST∞METEOR――

 

  ―撃ッ!

 

  ―爆ッ!

 

真下に叩き付ける!

当然、床は砕け散り、爆風が二人を襲う

即席の煙幕はフィーネの視界を一時的にだが閉ざす

 

「小細工をっ」

 

  ―閃ッ

 

鞭を一閃し、煙幕を掻き消す

煙の晴れた廊下には―――誰もいなかった

 

「逃げた、か……?」

 

ふと、辺りを見回していたフィーネが眼を下ろすと、ケータイが落ちていた

拾い上げて、見ればそれは弦十郎の物

自分のケータイは先程の弦十郎の一撃の衝撃で壊れてしまっていた

 

「ふふ、何たる幸運か」

 

三日月に歪める唇

ケータイを端末に通し、デュランダルの保管場所の扉を解錠する

ここまで来れば、全てを掌握するのは容易い

フィーネは踵を返し、二課のシステムに侵入しながら地上へと戻る

戦士達が戻って来る間に、“仕込みを済ませるために”

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

崩壊したリディアン

そこで翼達に聴かせたフィーネの真実

十二年前のアウフヴァッヘン波形検査の時、覚醒した遥か太古の巫女の亡霊、それがフィーネ

彼女が騙し続け築いた二課本部へ通ずるエレベーターシャフトこそが天を穿つ荷電粒子砲、カ・ディンギル

それで月を、“世界を分けたバラルの呪詛の源である月を撃ち砕き”

重力崩壊による天変地異を恐れるだろう人類を完全聖遺物によって統一・統制する事こそ

太古より続くフィーネの野望であり―――宿願だった

 

「それは、お前が世界を支配するって事だろう!」

 

クリスはそれを安いと笑った

安さが爆発しすぎてる―――と

少し意味が分からなかったが、気持ちは分からない訳ではない

翼はシンフォギアを纏い、剣を、天羽々斬を構える

両隣では響とクリスも纏い、戦闘態勢を取っていた

 

「ふむ……」

 

フィーネも鞭を構えようとして―――ふと、動きを止めた

その視線は三人にではなく、どこか別の場所に向けられていた

 

「いや、それも一興というものか」

 

「おい! 余裕ぶっこいてんじゃねぇよ!」

 

クリスが叫ぶ

鬱陶しいように見下すフィーネは、その瞳のまま笑みを浮かべ、指をパチンと鳴らした

途端、隣の瓦礫が崩れた

何が起こるのか、固唾を呑んで警戒する翼達に届いたのは、

 

「ぁぁああああああああアアアアアアアアアアア―――フィィィィィネェェェェッッ!!」

 

天地に轟く、獣のような咆哮

 

  ―ズバン

 

斬というはずの音が鈍く響く

巨大な瓦礫を崩して現れたのは―――鏡華

 

「鏡華―――!?」

 

「ひ、ひどい……!」

 

白と黒のコントラストが美しかった防護服は全てが漆黒に染まり、所々砕け

黄金の剣だったカリバーンも今は聖なる剣から魔剣へと堕ちている

それよりも惨いのが、鏡華の傷だ

腕、足、胸―――肉体のほとんどにノイズが槍となって突き刺さっている

突き刺さった箇所からはとめどめ無く、黒く濁った血が溢れ出て止まる事を知らない

壮絶な痛みを味わっているはずなのに、鏡華は歩みを止めない

一歩進むごとに血がごぽりと水溜りを作っていく

 

「フィィィネェェェーーー!!」

 

それしか言葉を知らないかのように、叫び、跳躍する鏡華

フィーネはその場を動かず、指だけをクイっと動かした

瞬間、鏡華の手がいきなり逆に曲がり、

 

  ―突ッ

 

「ぐぶ……っ」

 

鏡華の胸をカリバーンが貫いた

落下を始める鏡華。更に、四肢を貫いていたノイズが四肢から飛び出し、再び鏡華を狙い、

 

  ―突ッ

 

  ―突突突突突ッ!

 

急降下し、鏡華を地面へと縫い付けた

煙が舞う。フィーネには届かない

 

「鏡華―――!!」

 

翼が叫び、駆ける。爆風の中に飛び込む

反応はない。焦るばかりだった翼に、天が味方した

否―――天は敵に回ったと云うべきか

一陣の風が吹いたのだ。爆風は徐々に散っていき

煙の切れ端に、鏡華の手が見えた

 

「きょ―――う、か……」

 

慌てて駆け寄ろうとした翼だったが、その足は最後まで進む事が出来なかった

足が言う事をきいてくれない

完全に煙が消えた翼の目の前には

胴体に全てのノイズが突き刺さり、宙に浮かされていた鏡華がいた

手足はだらりと投げ出されて―――されど剣だけはしっかりと握り締めていた

ノイズが炭化し、鏡華は地面に倒れる

 

「鏡、華……鏡華?」

 

ふらふらと千鳥足のように翼は鏡華に近付く

その間に鏡華に身に纏っていた鎧が砕け散り、元の服装に戻る

剣も砂のように手からこぼれ落ち消えた

翼の声に鏡華は―――反応しない

一応、胸は上下している。それでも反応がないのだ

 

「いや……いや―――」

 

頭を振り、鏡華の頬に触れる

触れた感触は―――ぬるりとしていた

恐る恐る自分の掌を見る翼

掌はーーーべったりと黒く染まっていた

 

「いやぁぁあぁぁあああぁああああ―――!!」

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

時刻は少し遡る

二課のシステムを掌握された奏達は徒歩で避難区画まで来ていた

奏と未来がヴァンを、緒川と藤尭が弦十郎を支えていた

一番近くの、落石で閉じ込められた部屋の前に奏が立つ

“ズキズキと痛む身体”を隠し、ガングニールを構え、

 

  ――LAST∞METEOR――

 

  ―突ッ

 

  ―塵ッ!

 

突き刺し、出力を抑えて放った一撃で落石を周りに跳弾しないように破壊する

入った部屋には、偶然か必然か、弓美達が身を寄せ合っていた

 

「奏さん!? 小日向さん!?」

 

「よかった……! 皆よかった!」

 

三人が無事で安堵する未来

奏は未来に預けていたヴァンと弦十郎を椅子に座らせる

その間に藤尭は無事だったシステムに干渉し、緒川は他の場所を探しに部屋を出て行った

その時、

 

「う……うぅっ……」

 

椅子に座らせていたヴァンが呻き声をあげた

その声に聞き覚えのあった弓美達は、恐怖でわずかに離れた

うっすらと瞼を開ける

 

「こ、ここは……?」

 

「安全地帯、と云った所かな」

 

「天羽、奏か……」

 

徐々に覚醒する意識の中、ヴァンは静かに左腕を挙げた

 

「天羽奏……左腕を斬れ」

 

「はぁ?」

 

「この手は、フィーネが俺を従わせるために付けた義肢(パスティシャス)だ……。これがある限り、俺は、いつお前達を襲うか分からん。機能が一時的に停止(ストップ)している内に……早く」

 

よく見れば、わずかに震えている

奏は少し眼を閉じる。鏡華を通して見た夜宙ヴァンはクリスの時以外は必ず最善の手を打ってきていた

ならば、今回のコレも最善策なのだろう

 

「分かった。痛くても、我慢しろよな。男の子」

 

「はっ。女の貴様に言われんでも、承知の上だ」

 

嫌みを言い合って、

奏はカリバーンで、

 

  ―斬ッ

 

ヴァンの義手を斬った

 

「ッ!! が、ぁぁあああ!?」

 

ヴァンは予想外の痛みだったのか、眼を見開き、椅子から転がり落ちた

だが、それ以上は叫ばなかった。呻き声を喉で殺し、切断箇所を思い切り握り締めて痛みに耐える

弓美達は身を寄せ合って彼を怖がる

数十秒間続き、荒い息を吐いたヴァンは震える足で立ち上がった

 

「どこ行く気だ?」

 

「はぁっ……クリスの元に、決まっている、だろうが……」

 

「そんな身体で行かせると思ってんのか? それに行った所で足手まといだ」

 

「知った、ような口を利くな、天羽奏……あいつを守るのは、俺の役目だ」

 

「はっ、役目ね。あたしにはあんたが我が儘言ってるようにしか聞こえないけどね」

 

ヴァンの前に立ち塞がり、行く手を阻む奏

一触即発の雰囲気になりかけた時、

 

「モニターの再接続完了。こちらから操作出来そうです!」

 

藤尭の声が二人の意識をモニターへと移した

全員がモニターを凝視する

回復した回線が映したのは、ちょうど、

 

『フィィィネェェェーーー!!』

 

鏡華が叫び、跳躍した時だった

 

「鏡華君!」

 

「ひ、ひどい……!」

 

オペレーターも絶句する鏡華の傷

弓美達には耐えられるはずもなく、何度目か分からない悲鳴をあげた

そして、自身の剣で自身を刺し、ノイズに貫かれると同時に、

 

「がっ!」

 

奏もまた、“痛みを受けて片膝をついた”

ごほっ、と咳き込む。咳には血が混じっていた

 

「奏!?」

 

「奏さん!?」

 

弦十郎と未来が驚き、未来が駆け寄る。間近で奏を見て、眼を疑った。

奏の腹部に傷が出来ているのだ。それはまるで鏡華が受けた傷のようで―――

 

「っ―――今のあたしと鏡華は、痛み系を共有(リンク)してんだ。まぁ、気にすんな」

 

「リンクって……」

 

「早い話が一心同体って奴。―――っと、行かせないぜヴァン」

 

抜け出そうとしたヴァンを支えにしていたガングニールで入り口を塞ぐ

 

「ちっ、痛みに悶えていればいいものを」

 

「我が儘なガキんちょ一人ぐらい、止めるなんて訳ないさ」

 

「ッ、いい加減にしろ! 何故そこまで俺を止める!」

 

「ヴァンが、あたしより子供だからさ」

 

「ッ―――! っざけんな!」

 

ヴァンの琴線に触れたのか、今までにない形相で叫ぶ

 

「子供だからだと!? ああそうさ! 俺はガキなんだろう! だがな! 大人が勝手で無能だからガキが動くしかないんじゃねぇかっ! 大人が俺達に何をしてくれた!奪い(プランダー)殺し(マーダー)貪り(クレイブ)従わせる(コンフォーム)! 俺達を守ってくれるどころかこき使うだけだ!」

 

怒気を纏ったまま聖詠を歌い、シンフォギアを纏う

色は元に戻っていたが、回復が済んでおらずボロボロのままだった

 

「こき使うだけ、か。じゃあさ、ヴァンの両親はどうだったんだよ。ヴァンをこき使ったのか?」

 

「……いいや。父や母は良くしてくれた。彼らだけは例外だ」

 

「じゃあ―――」

 

「だが殺された。俺とクリスの前で」

 

奏の言葉を遮り、言い切る

少しでも思い返せば、鮮明に蘇る地獄

 

「天羽奏。貴様は幸運(ラッキー)だ。家族が“ノイズに殺されて”」

 

「何だと……!」

 

「俺達の両親は、“同じ人間に殺されたんだ”。ノイズならすぐに死体は消えるが、人間に殺されれば死体は残るんだ」

 

「ッ……!」

 

「父達は即座に殺された。母達は俺とクリスを守るために何度も身体を売った。だが、クリスに手を出そうとした奴に殺された! だから俺は決めた! もう大人は頼らない。クリスが信じたもの、自分が信じるもの、信用に値する奴だけを俺は信じてきた!」

 

フィーネは信用ならなかった

だが、力を与えられた。クリスが信頼していた

だからヴァンは言う事を聞いていたのだ

奏は、少し夜宙ヴァンの事を甘く見ていた、と思っていた

クリス以外の人間の事は信用してないと考えていたが、どうやらそれは間違いらしい

何故なら、ヴァンは今こう言った

―――信用に値する奴だけを俺は信じてきた

その言葉が本当ならば、

 

「最後だ。そこをどけ、天羽奏」

 

「嫌だ」

 

「この……っ」

 

「だって、あたしはこれを渡してないからな」

 

そう言うと、奏はアヴァロンを具現すると、更に中から何かを取り出した

 

「よっ……と。便利だねぇ、やっぱ」

 

アヴァロンを消し、奏は取り出した何か―――アタッシュケースをヴァンに渡す

怪訝そうな表情のヴァンに、奏は、

 

「ヴァンが信用してた奴からの預かり物さ」

 

「…………」

 

ぴくっと片眉を上げ、一先ず剣を消し、アタッシュケースを開ける

片手で開けたので、中身がこぼれ落ちる

軽い音と共に中身が床に突き刺さった

 

「これは……!」

 

ヴァンが、いや、ヴァンだけではない

弦十郎、藤尭、二課のメンバー、リディアン全員が中身に驚いた

 

「あっ! ハトのおにーちゃんだ!」

 

その時、背後から明るい声が響く

振り向けばそこには、以前一緒に父親を探した女の子がいた


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