【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.ⅩⅩⅥ

静かな山中に存在するフィーネの屋敷

その屋敷を取り囲む黒い服の男達。―――合わせて八人

中には、以前、夜宙ヴァンと同行していたジャン・テイラーとエドワード・レイエスの姿もあった

彼らが今回標的とするのは、取り囲む屋敷の主にして、自分達の飼い主と契約を“結んでいた”フィーネの抹殺

そして、ジャンとエドワードは同時にヴァンの救出と―――

 

「――――――」

 

リーダー格が突入を命ずる

ジャンとエドワードは玄関から突入する。そのまま大広間まで辿り着くと、フィーネがようやっと気付く

だが、二人はあくまで囮だ。本命は窓から突入する六人

フィーネが胸元から拳銃を抜く。が、遅い

リーダーの発砲がフィーネの腹部を捉え、フィーネは倒れ、拳銃を取り落とした

その隙に、ジャンとエドワードは別の部屋へ突入する。大広間にはヴァンの姿が見えなかった。ならば別の部屋にいるはず

だが、入れそうな部屋にヴァンの姿はない

どこだ、と声を上げようとした時だった

大広間の方角から仲間の叫び声と連射される銃撃の音がしたのは

ジャンとエドワードは互いに頷き、“背中にかけていたアタッシュケースを隠すように置き”、大広間に戻った

そこに広がっていたのは、

 

「あらァ、まだ残っていたのね」

 

黄金の鎧に身を包んだフィーネと、

 

「…………」

 

全身を黒く染まった鎧で覆ったヴァンと、

 

身体の一部を無くした、事切れた仲間の姿だった

 

「Van!」

 

ジャンが叫ぶ

瞳に光を灯していないヴァンは、

 

Get away(逃げろ)……ハ、リー……!」

 

そう言って―――剣を構えた

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

「俺がフィーネの事を知ってたのは、アヴァロンの記憶にあったからなんだ」

 

弦十郎が運転する車両の助手席に座りながら、鏡華が話す

内容はフィーネが初めて姿を見せ、鏡華が暴走したような行動を見せた時の理由だ

 

「記憶、だと?」

 

「記録と云ってもいいな。アヴァロンにはその場の状況を記録出来る能力がある。だから、カリバーンやロン、プライウェンを使えるんだと思う」

 

「そうか……。その記録に、フィーネが?」

 

「ああ。記録だと、彼の騎士王の前にも姿を現していたようなんだ。その時の顔がはっきりしていて、だから俺はフィーネを知っていたんだ。奴がノイズの原因かもしれないって」

 

「……そうか」

 

二人を乗せた車両。その他にも二台の車両がタイヤを止めたのは、フィーネの屋敷だった

十分に警戒させた上で、先に鏡華と弦十郎が中に入る

大広間には先客がいた。物言わぬ骸と成り果てた八人の死体と

 

「あっ……あたしじゃない!」

 

雪音クリスの計九人

分かっている事だ。死体は全て斬り捨てられている。銃撃戦を主とするクリスには到底出来ない殺し方だ

 

「分かっている。旦那」

 

「うむ」

 

弦十郎は手を挙げる

次々と黒服のスタッフが大広間に入り、機能しなくなった機械や死体を調べ始めた

鏡華はクリスに近付く

 

「お前に人殺しなんて出来ないって分かってるよ。誰も疑っちゃいない」

 

「だったら……」

 

「司令!」

 

クリスの言葉を遮るようにスタッフの一人が弦十郎を呼んだ

全員の視線が声を上げたスタッフに向けられる

 

「こんなものが……」

 

スタッフの足元に横たわる一つの死体

その腹に紙が貼ってあった。血で書いてあったそれは―――

 

「ソレニ触ルナ!」

 

スタッフが剥がそうと手を伸ばした時、片言の、だがはっきりとした日本語が飛んできた

全員が警戒する中、声を上げた人物が隣の部屋から出てきた

 

「ソレハ(トラップ)ダ! 剥ガスト設置サレタ爆弾ガ爆発スルゾ!」

 

「エド!」

 

名前を呼んだのはクリスだ

慌てて駆け寄り、倒れそうになるエドワードを支える

だが、体重差によろけそうになるクリス。それを支えた鏡華

ゆっくりとエドワードの身体を横たえる

 

「エド! しっかりしろよ! なぁ、何があったんだよ!」

 

懸命にクリスが叫ぶ

鏡華は冷静にエドワードの身体を調べる。肩から腹部にかけての袈裟斬りの傷跡

一目で分かる―――もう、助からない

そして、この傷を与えたのは恐らく―――

 

「ハハ……情ケナイ姿ヲ見セチマッタナ。クリス嬢。ジャンモ死ンダヨ」

 

「ッ……んな事はどうでもいい! は、早く医者に……」

 

「致命傷ダ。助カラン」

 

理解しているのか、エドワードは淡々と自分は死ぬと言った

クリスから、今度は鏡華へ視線を移す

 

「オ前ハ……?」

 

「夜宙ヴァンが欲した騎士王の鞘の保有者、遠見鏡華」

 

「ソウカ。オ前ガ……」

 

エドワードは呟くと、握っていたアタッシュケースを震える手で鏡華へ差し出してきた

 

「これは?」

 

「ヴァンニ、渡シテクレ」

 

「……了解した。必ず、奴に渡す」

 

「Thank you」

 

鏡華の敬礼に、エドワードは微笑んだ

そして、クリスに顔を向けると、

 

「クリス。オ前ハ大人ガ嫌イダト言ッテイタガ、キット、クリスノ両親ハ愛シテイタト思ウ、ゾ」

 

「な、何を……」

 

「夢ヲ諦メルナ。キット……両親モ、ソウ、願ッテイ……ル……」

 

そう言って、瞼を閉じた

その瞳は永遠に開かれる事はなかった

フィーネの屋敷に、クリスの泣き叫ぶ声が響くのだった

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

大型飛行ノイズが出現し、翼や響が出撃した時

鏡華は学校に戻ってきていた屋上から空を見上げるだけで、他に何もしてない

 

「な~にやってんだ? 鏡華」

 

ひょっこりと覗き込むように鏡華と空の間に入る奏

 

「胸騒ぎがするんだよ」

 

「胸騒ぎ?」

 

「第六感っつーか。言葉じゃ説明できない」

 

「それで出撃しなかったんだな」

 

翼達が出撃した事は知っていた

だが、鏡華は出撃しなかった―――否、出撃できなかった

嫌な予感が頭から離れないのだ

 

「奏」

 

「何だ?」

 

「学校にノイズが現れた時は―――」

 

「おう。出来る限りギアは使わない」

 

「頼む。バレるのは俺だけでいい」

 

その予感は正しかった

何故なら―――

告げた瞬間に警報が鳴り響いたのだから

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

翼達が交戦すると同時刻

リディアンにノイズが襲来した

一課が“囮となって”ノイズを引きつけている間に、教師達が生徒達をシェルターに避難させていく

鏡華は、

 

  ――貫き穿つ螺旋棘――

 

「ッ……キリがねぇな! 一課はシェルターに撤退しつつ避難を急がせてください! ノイズはこちらが引きつける!」

 

私服のままノイズを斬り捨てながら弦十郎の代わりに指示をとばす

シンフォギアを纏った鏡華の言葉を、隊員達は疑わずに行動に移していく

鏡華の脇をすり抜けて隊員に向かうノイズをカリバーンで串刺しにする

 

「(奏、まだ避難は済まないのか!?)」

 

「(無茶言うなよ! 全校生徒の数は鏡華が一番知ってるじゃないか! 後、数分はかかる!)」

 

「くそったれ!」

 

悪態を吐き捨て、空中に具現させたロンで大型ノイズを塵芥にかえる

それでも、ノイズの数が尽きる事は無い

無尽蔵とはまさにこの事だ

 

「やってられっかーっ!」

 

誰もいなくなったグラウンドで鏡華は吠えた

吠えて、プライウェンも使い空を高く跳ぶ

 

「どんだけいるんだよオイ! 正直飽きてきたんですけど」

 

そろそろ避難も終了している頃だろう

奏と合流しようと視線を奏のいる場所に向けると

奏は未来や詩織達と一緒にいたのが見えた

それを狙うノイズの姿も

 

「―――って、やらせるかよっ!!」

 

プライウェンを蹴り跳ばし、その勢いで空を駆ける

途中で更にプライウェンを蹴り、速度をどんどん上げていく

そして、鏡華の蹴りは、ノイズごと窓ガラスを蹴り破った

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

ノイズごと窓ガラスを蹴り破った鏡華は、廊下の壁を蹴って壁に刺さるのを防いで廊下に着地した

左右には、左にはノイズが本来狙っていた一課の隊員が、右には奏と未来、詩織達三人がいた

 

「鏡華……何やってんだ」

 

「き、鏡華さん」

 

慣れていた奏と未来は鏡華の名前を呟いたが、

 

「……」

 

三人は驚きで声を上げる事が出来なかった

鏡華は立ち上がると、

 

「ふはは、ザマァみろ! 奏を狙うからだばーか!」

 

敵役みたいな笑みで炭化したノイズを馬鹿にしていた

―――子供かっ

心の中でツッコミを入れたのは奏と未来だけではないはずだ

 

「と、トミー先生……?」

 

「い、今どこから……」

 

「んなこたぁどうでもいい。全員、シェルターへ向かえ!」

 

疑問を一蹴し、鏡華は命令する

こんな状況のため、従う他ない

 

「あ、私、まだ逃げ後れた人がいないか探してきますっ」

 

「……奏、付いて行って」

 

「あいよ」

 

「一課の方、そこの生徒三人をシェルターに」

 

「あ、ああ」

 

テキパキと指示を出していく鏡華

だが、急げ、と言おうとした瞬間、言葉を失った

全員が首を傾げた。奏が口を開きかけ、

 

「そうか……お前の方から来たのか」

 

先に鏡華が言葉を連ねた

そして、後ろを振り向いた

奏達の後ろ、隊員の前に、一人の騎士がいた

全身を黒ずくめの鎧で隠した―――奴

 

「な、なにあれ……?」

 

「ふぅ……奏、別ルートで要救助者の救出を。一課は避難を急げ」

 

一歩、前に踏み出す鏡華

奏は頷き、未来の手を引いて背後の道を走った

 

「せ、せんせ―――」

 

創世の声よりも疾く

漆黒の騎士が手に剣を具現させ走り出した

 

「Agios,avalon eleison imas―――」

 

鏡華も聖詠を、そして軽鎧を身に纏う

その手に具現せしはカリバーン

同時に駆け、距離がゼロになる直前に、刃を交える

 

「……ぐっ!?」

 

重い。

何度も交えた刃だと云うのに、剣から伝わる重さは桁違いだった

今まで手を抜いていたと云うのか―――否、恐らく違う

兜の下にあるであろう感情が感じられない

喜びも怒りも哀しみも楽しみも

感情そのものをシャットアウトしているのだろう

つまり、恐怖さえ今のヴァンは感じていない―――のだろう

 

「よ、せ……。そこの女生徒(ガール)共を連れて、逃げろ……」

 

兜の下から聞こえる声

だが、その声とは裏腹に、剣にかかる重みは変わらない

 

「意識が残っているのか」

 

「ジャンとエドが(ライフ)を賭してくれたおかげ、でな。だが、身体の自由だけは戻らん。だから―――」

 

「だから、逃げろってか? はっ、随分と上から目線なのな」

 

剣を押し返し、腹を蹴り飛ばす

さほどダメージを受けていないヴァンは空中で身体を捻ると、難なく着地した

突撃せずにエクスカリバーを構える

その構えは―――振り下ろす構え

 

「早く……逃げろぉ!!」

 

「んな時間があるかよっ!!」

 

鏡華も後ろに跳び、創世達の前に立つと歌を奏でる

 

 慣れている 悲しむことはない

 いつだって 眼をあけたら 私しかいない

 友も 家族も なくなって

 最後は一人

 

鏡華の前に盾が具現化する

わずかに光を灯し、歌うごとに光は強さを増していく

 

 迷いはない 考えたこともない

 いつだって 結果は決まっている

 敵も 味方も 倒れて

 最後は一人

 

ヴァンも奏でる

似ている様で異なる歌を

歌うごとに剣に光が集まる

幻想のような美しさ。だが、その威力は現実のもの

 

「な、何よ……こんなの、こんなのまるでアニメじゃない……!!」

 

あまりにも現実離れした光景に弓美が叫ぶ

鏡華は落ち着かせる言葉を知らない

だから、

 

「お前らっ、早く行けっ! 完全に防ぐなんて出来ねぇぞ!」

 

怒鳴り散らす勢いで叫んだ

それでやっと我に返った一課の隊員が創世達を無理矢理引っぱり奥へ連れて行く

二人だけとなった廊下に鏡華とヴァンの歌声だけが朗々と響き渡る

 

「どうなっても知らんぞ―――!!」

 

  ――想聖なる星刃(ヴォーティガー)――

 

本来は黄金の輝きは黒く染まり、本当の一撃ではない光の彗星

しかし、それでも凄まじい光量の閃光がエクスカリバーから放たれた

 

「ッ、耐えろよ。俺の身体―――!!」

 

  ――護れと謳え聖母の加護―――

 

黄金の輝きがドーム状に広がり鏡華を覆うように発生する

二つの閃光は、邪魔な光を排除しようと鬩ぎ合う

閃光が拮抗し、辺りを黄金と漆黒で染め上げ

そして―――

 

「ぉぉ―――ォォオオオアアアアアーーーーッ!!!」

 

黄金と漆黒は混ざり合い、混沌と化し

全ては―――白く生まれ変わった

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

未来は奏でと共に校内で逃げ後れた人がいないか、まだ探していた

呼びかけに応える生徒はいない

全員が避難したのか―――塵と化したか

知る事は出来ないが、校内には誰もいない事はわかった

 

「未来、もうそろそろあたし達も避難するぞ」

 

「あ、はい! ……奏さん!」

 

偶然、未来は奏を襲おうとするノイズを見つけ叫ぶ

奏が振り向いた時にはノイズは槍となって襲いかかっていた

 

「ちっ……! Agios,avalon eleison imas」

 

唱う聖詠はガングニールのものではない

鏡華と同じ、アヴァロンの聖詠

騎士装飾を身に纏った奏はロンを具現化、ノイズを切り裂く

舌打ちと共に未来に向き直る。そこで今度は奏が気づいた

未来の後ろにノイズがいる事を

 

「逃げろ未来ッ!」

 

「ッ―――!」

 

叫び駆け出す奏

間に合うか―――ギリギリだ

ノイズが未来に圧し掛かろうとした瞬間、

 

「未来さんっ!」

 

横から黒服の男が自分ごと未来を突き飛ばした

圧し掛かりに失敗はノイズは、

 

  ――ASSAULT∞ANGRIFF――

 

奏の突進撃の前に炭と消えた

 

「未来! 緒川さん?」

 

「ははっ……もう一回同じ事ができるかは分かりませんが、間に合ってよかったです」

 

いつもの笑みを浮かべ、緒川は未来の手を取り起き上がらせる

 

「さあ、逃げますよ! 奏さん、勝手ですみませんがしんがりをお願いできますか?」

 

「この場で戦えるのはあたしだけだからな。当然だ」

 

「ありがとうございます」

 

走り出し、エレベーターまで一直線に駆ける

エレベーター前にはノイズがいたが、

 

  ――LUFT∞DOLCH――

 

奏の一閃が放った真空の刃があっさりと塵と化す

三人が入り、緒川が端末にケータイを翳そうとした瞬間、

 

「待て! こいつも、頼むっ!!」

 

叫ぶ声と共に、何かがエレベーターに投げ込まれた

思わず抱きとめる奏

抱きとめて、気付いた

身体を覆う鎧は半分以上砕け、瀕死の状態のーーーヴァン

ハッとして顔を上げると、

 

「はっーーーはぁっ......間に合った、みたいで何よりだ......」

 

廊下の先に、鏡華がいた

ヴァンと同じく鎧は砕け、満身創痍の状態でーーー

ノイズが何体も圧し掛かっていた

 

「鏡華ッ!」

 

「鏡華さんっ!?」

 

「鏡華君!?」

 

全員が叫ぶ

だが、鏡華は行け、と声を張り上げる

未来が飛び出そうとする

それを奏が掴まえ阻止する

ノイズが奏達に気付き、緒川が断腸の思いでエレベーターを起動させた

閉じられる扉の隙間から最後に見えたのは

鞭のような何かが、鏡華を貫いている光景だった

 

「鏡華さんーーーッ!!」


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