【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.ⅩⅩⅤ

ミュージックフェスから数日後

響は久し振りに風鳴家にお邪魔していた。今日は未来も一緒だ

向かった先は、修行に使っていた―――わけでもない道場

 

「え? 使ってないの?」

 

未来にも驚かれる

弦十郎が響に教えたのは、アクション映画を見て、その俳優になりきり、ランニング、サンドバッグ、スパーリングぐらいだ。

―――にも関わらず、響が習得しているのは弦十郎と同じ中国拳法なのだから、どんな修行すればそうなるのか、未来には皆目見当もつかなかった

 

「にしても珍しいね。未来が師匠の家に来るなんて。遠見先生がいるか分かんないよ?」

 

「うん。今日は、響の修行を見ておこうかなって」

 

「ほえ? 私の修行?」

 

うん、と頷く未来

自分は響と一緒にノイズと戦う事は出来ない。でも、親友の助けになりたかった

だから、自分にも出来る事があるんじゃないかと思い、今日は修行を見に来たのだ

道場に着くと、待っていたのは、

 

「ほら、腕が下がってるぞ鏡華。まだ後十回はあるんだから根性見せろよ」

 

「か、奏……流石にこれは……。き、鏡華、重くない?」

 

「重くないっ……と言いたいけど―――人間は男女関係無く肉の塊なんだ、二人分なんて重いに決まってるだろう、がっ!」

 

背中に奏と翼を乗せて腕立てをしている鏡華だった

かなり汗を掻いており、かなりの時間を費やしているのが感じられる

唖然と見詰めていると、奏が響と未来を見つける

 

「おっ、いらっしゃい! 響、未来」

 

「よ、よく来たな。立花、小日向」

 

いつも通り、元気一杯な奏と少し作ったような声の翼

響と未来はそれぞれ挨拶を返す

 

「あの、遠見先生は何をしてるんですか?」

 

「ん? ご覧の通り、筋トレさ。あたしと翼はその手伝い」

 

「頼んだ覚えは、ねぇ……けど、なっ!」

 

どうにか唸りながら残りの十回を終える鏡華

べたりと床に倒れると、荒い息を吐きながら、胡坐を掻く

身体は上半身裸のようで、包帯が巻かれているのがはっきりと分かった

 

「だ、大丈夫ですか? 鏡華さん」

 

「大丈夫なもんか。軽くストレッチ気味に考えていたのに奏のせいで重労働並みの運動になっちまったわ」

 

じっとりとした眼付きで奏を睨む鏡華

どうやら翼は二人に巻き込まれたようだ、と響と未来は思った

 

「ところで立花。ちょっと、俺と一戦しないか?」

 

「はい? 遠見先生と勝負、ですか?」

 

「ああ。ここまで運動したからには最後までしたいし。何より、立花。お前とはいっぺん一対一(サシ)でやってみたかったんだよ」

 

「ッ……はい! 遠見先生の期待に沿える様、この立花響。全力でお相手しますっ!」

 

やたら意気込む響

苦笑を浮かべる鏡華は、手をプラプラさせて、

 

「まぁ、とにかく―――ジャージに着替えてこい」

 

制服のまま戦おうとする響に至極真っ当な言葉を投げたのだった

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

響のジャージ(どこにでもあるジャージだ)は何故か風鳴家で保管されているので、着替えにはそう時間はかからなかった

鏡華も包帯を左腕だけほどき、黒の肌着にジャージのズボンという恰好をしていた

互いに少し距離を置き、道場の中央で構える

どちらも徒手空拳。弦十郎に師事を仰いだので扱う武術は中国拳法だが、構えはやはり人それぞれ

鏡華は身体を横にして、左手を腰に、右手は握り締めた掌を上に向け突き出す構え。鏡華自身は八極拳だと思っている

響はボクシングのように両腕を胸と頭の中間辺りで構えるスタイル。響自身もこれが中国拳法の構えだと考えている

どちらも―――間違っている事には気付いていない

気付いているのは、観戦している奏だけ。もちろん間違っている、なんて言わない

言わずに、手を高く挙げ、

 

「んじゃま、いざ尋常に―――始めっ」

 

勢いよく振り下ろす

先手を取ろうと動き出したのは響。鏡華は響の動きに合わせて突き出した手を動かす

距離を詰め、最後の一歩で力強く踏み込むと突く様に拳を放った

突き出した手で払い、鏡華が攻めに転じる。

本格的に弦十郎に師事した響と違い、鏡華のスタイルは型こそ中国拳法だが実際は適当だ

響は払ったりせず身体をズラし拳や蹴りを受けないように躱す

再生能力を有している鏡華と違い、響は本番ではノイズの攻撃を受けずに倒すスタイル。自然と全ての攻撃を躱すようにしているのだ

 

「すげーな。一月(ひとつき)でここまで成長するのか。俺も真面目に習っとけばよかったよ」

 

「目標がありましたから!」

 

「だろうね。目標があれば、人間はいくらでも頑張れる」

 

俺も頑張れた、とフェイントを掛けて掌底を放つ

下から上に、斜めに抉り込む様打たれた一撃を上体を反らす事で躱す響。元に戻らず反った勢いでバク転で距離を取った

シンフォギアを身に纏っていないのに、大した実力だ

 

「ふぅ……いきますっ!」

 

ドクンと鼓動が響の心に響いた。同時に宣言して踏み込む

そこで鏡華は眼を見張った

いつの間にか、響が懐に入っていた

 

「ッ……!?」

 

「疾い……!」

 

翼と奏、未来も驚く

既に響は拳を打ち込むモーションを取っている

ぞくり、と背中に悪寒が盛大に奔った鏡華は両腕をクロスした

 

  ―撃ッ!

 

それは―――その一撃は、今までとは比べ物にならないものだった

拳を打ち込み、ガードしていた腕が出してはいけない音を道場全体に響かせた

そして、鏡華が壁際まで吹き飛んだ

全員が絶句し、まともに動くことができなかった。それは響も同じだ

唯一、吹き飛ばされた鏡華だけが壁にぶつかった拍子に肺の中の空気を全て吐き出し、呻き声をあげた

その声でようやく我に返る

慌てて駆け寄る翼達

 

「鏡華! 大丈夫!?」

 

「がはっ、ごほっ……大丈夫。身体に問題はないよ」

 

「ご、ごめんなさい遠見先生! 私……」

 

「ああ、立花が謝る必要はない。これは俺の方で予測しとくべき事だった」

 

楽な体勢で座り、息を整える鏡華

 

「大丈夫か鏡華? 骨がイッた音が聞こえたけど」

 

「まあ、盛大にイッたね。多分複雑骨折くらいにはイッたんじゃね?」

 

「ええっ!?」

 

「すぐに治ったけど」

 

自分の腕を見回し、あっけんからんと言ってのける

鏡華の身体は重い傷ほど治癒が早くなる。鏡華が予想した複雑骨折なら一瞬で治るのだ

 

「本当にごめんなさい遠見先生。でも、どうしてだろう。私、人の骨を折る力なんてないのに……」

 

「本当だったらな。だけど、今の立花の身体にはシンフォギアが―――ガングニールが融合しちまってるだろ?」

 

“似ているようで異なる体質”である鏡華と響

恐らく、響の身体の変化を一番理解しているのは鏡華だろう

 

「全力で立花が行動すると、それに呼応するようにガングニールが立花の身体能力を上げるんだと思う。殴る前、身体で何か感じなかったか?」

 

「えっと……凄く曖昧なんですけど、身体中に力が巡るような、そんな感覚なら……でも、私、歌ってませんよ?」

 

「そこが俺でも分かんないんだよな。完全聖遺物でもないのに立花の力になる……ま、俺の専門分野は作詞作曲と戦闘だから分かるわけないんだけど」

 

あっさり思考を停止させる鏡華。腕を回しながら立ち上がる

その様子を見て、完全に大丈夫だと確信した翼と響、未来

奏は大丈夫か、と声をかけていたが、初めから心配などしていなかった

 

「立花、これから全力出す時は気を付けてくれ。もしかしたら最悪のケースもありうるかもしれないし」

 

「り、了解です」

 

「んじゃ、手加減も考え、覚えながら、もう一回やりますか」

 

「はい!」

 

視界の端でやれやれと言いたげな翼と奏を捉えながら、鏡華はもう一度構えを取った

既に、自分なんかよりも強くなっているだろう少女を見据えて

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

数時間後。陽は既に傾き、世界を緋色に染め上げていた

ぶっ倒れるまで続けた鏡華と響はシャワーを浴び、元の服装に戻っていた

 

「凄いな立花は」

 

ポツリと翼が呟いた

 

「はえ? 何がですか?」

 

「いや、鏡華も言っていたが、一月(ひとつき)足らずで本当に強くなったものだ、と思ってな。それもアームドギアを使わずに」

 

「あー、……私、考えてたんです。どうして、私はアームドギアが出せないんだろうって。半人前はやだなぁって」

 

「…………」

 

「でも、今はそう思いません」

 

そう言うと、そっと翼の手を取った

 

「アームドギアがあると、翼さんや遠見先生、奏さん、そして、クリスちゃんとこうして手が繋げませんから―――仲良くなれませんから」

 

「立花……」

 

アームドギアが無いのを逆に考え、無い方が良いと言い切る響

多分、昔の翼であれば否定していた考えだ

だが、今は違った

砕いて壊し、束ねて繋ぐ―――

誰もが繋がる手を持っている。響の戦いはきっと、誰かと繋がる事

それが―――

 

「実に―――立花らしいアームドギアだ」

 

「へ?」

 

「いや、何でも無い」

 

この様子だと響は気付いてないようだ

教えるべきか、教えないべきか

翼は少し考えて、教えない事にした

教えなくとも、響ならば自分で知ると思ったのだ

 

「じゃあ、行きましょう! 今日もふらわーでたくさん食べますよー」

 

「おいおい、またか? ほとんど毎日行って、おばちゃんに迷惑が掛からないか?」

 

「大丈夫ですよ。おばちゃんだって、『常連が出来てぼろ儲け。ウッヒッヒ』とか笑ってるはずです!」

 

いや、それはない、と翼は苦笑を浮かべて即答した

あのおばちゃんがそんな黒い笑みを浮かべるはずがない

 

「とにかく、早く行きましょう翼さん! 未来達が待ってます」

 

「……そうだな」

 

鏡華達は既に外で待っている

翼も響に急かされながら外へ出ると―――

鏡華が門に(かんぬき)を掛けているところだった

 

「鏡華?」

 

「やべぇ……」

 

鏡華が呟く

耳を澄ますと、外がにわかに騒がしかった

 

「どうしたんですか?」

 

「パパラッチっつーか、報道陣っつーか」

 

「ッ……!」

 

それだけで翼は理解し、驚き、頭を抱えそうになった

きっと、今、外に出れば質問攻めに遭うだろう。当然、ふらわーにもついて来るはず

 

「仕方ない。立花、小日向。ふらわーは無しだ」

 

やれやれ、と頭を振る鏡華は屋内に戻る。奏と翼もため息をこぼしてついて行く

響と未来はこういった事に慣れていないので、素直に鏡華の指示に従った

 

「さて、と。どうしますか」

 

「あたしがありあわせで何か作ろうか?」

 

居間に戻った鏡華に奏が提案する

 

「夕食もそうだけど、どっちかってーと立花と小日向だよ。多分、今日は帰れそうにねぇしな」

 

机に置いていたケータイを手に取ると、どこかへ電話する

数秒待って、

 

「あ、寮監ですか? 非常勤の遠見鏡華です」

 

作った声で話しかける

恐らく、リディアンの学生寮の寮監にかけているのだろう

簡単に挨拶を交わし、本題を話す

 

「―――ですので、立花響と小日向未来の外泊を許可して欲しいんですが……。ええ、彼女達に関してなら心配いりません。……いや、夜這いとか言わんでくださいよ。私にそんな度胸なんかないんですから。それに、二人には風鳴翼と天羽奏が付いていますんで。……はい、はい。分かりました。ありがとうございました」

 

それでは、と鏡華は通信を切った

 

「二人共、外泊許可を貰ったから、今日はここに泊まってきな」

 

「え、でも……」

 

「いいんですか?」

 

「ああ。あ、パジャマとかいるか……翼、奏。後で適当なパジャマを貸したげて」

 

居間を出ながら、翼と奏に指示を出していく

頷いた奏は自分のパジャマを持ってこようと立ち上がろうとした翼を止めた

 

「翼……響と未来にはあたしのパジャマを貸すから」

 

「え? 何で?」

 

「……翼は、散らかしている自分のパジャマを貸す気なのか?」

 

「…………あう」

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

「ふぅ……」

 

シャワーを浴び直した鏡華は自室へ戻り布団に倒れ込んだ

今頃、翼達女子メンバーは布団の中に潜り込みながら女子バナに花を咲かせているだろう

 

「しっかし、久し振りに食った翼の料理と、立花の料理―――とんでもなかったな」

 

しみじみと色々凄かった夕食の事を思い出す

凄過ぎて―――何と表現すればいいか分からないのだ

だから、心の底にそっと仕舞い込むのだった

 

布団から起き上がった鏡華は、電気を消してカーテンの隙間から外を見る。二階に自室を構えているのは鏡華と弦十郎の男組だけなので、盗撮されても何ら問題は無い

静かだが、微かに人の気配を感じる。まだ粘っていると云う事だ

―――ご苦労なこって

音も無くカーテンから離れ、部屋を出た

向かう先は当然、女子達が寝床にしている和室―――ではなく、地下にある音楽室

防音加工の施された部屋にある唯一の楽器、グランドピアノ

椅子に腰掛けた鏡華は思いのままに弾き始める

時に優しく、時に激しく

外に音が飛び出していかないのをいい事に好き放題奏でる

 

「あれ? 遠見先生……?」

 

なのに、響が部屋に入ってきた

この部屋は教えていないはず。なのに何故―――

 

「お前、どうしてここに?」

 

「トイレから戻る時、凄く微かに音が聞こえたんです。思わずその音を探してたら、ここに」

 

「…………」

 

呆気に取られるしかなかった

歌が大好きなのか、それともただ凄いだけなのか

鏡華にはまったく分からなかった

 

「それにしても遠見先生。ピアノ弾けたんですね」

 

「ん、まあな。小日向ほどじゃねぇけど」

 

「そんな事ないですよ。未来と同じくらい凄かったです!」

 

力一杯に言ってくる響に苦笑してしまう鏡華

ポーンと最後に高い音でピアノを閉じる

 

「さて、明日はちょっと早いからな。部屋まで送ってやるから早く寝ろよ」

 

「はい。よかったぁ、道に迷ってたんですよね」

 

「あー、この屋敷、無駄にでかいからな」

 

ぎしぎしと木造にありがちな音を立てて鏡華は和室を歩を進める

その横を付いて行く響

その横顔をちらりと見る

立花響―――二ヶ月前まではどこにでもいる元気娘だったのに、今では立派な世界を守る戦士

彼女には後悔や面倒という感情はなかった

いつも前向きで、初めの頃は奏の代わりになると言った

途中からは奏の代わりではなく“立花響”として戦う事を決めた

今では想いを持ち、誰からも認められる戦士になった

 

「ん? 私をジッと見て、どうしたんですか?」

 

「いや、何でもないよ」

 

誤魔化す様にぽんと頭に手を置く

ハテナを浮かべていた響だったが、突然ハッとすると、

 

「だ、駄目ですよ! 私に惚れたら! 遠見先生には翼さんや奏さん、それに未来がいるんだからっ」

 

「くっ……ばーか。誰が惚れっかよ」

 

そう、遠見鏡華が立花響に向ける感情は恋慕などではない

あるはずがない

だから、即答されヘコむ響を笑いながら、鏡華は自分意思か聞こえない声で呟いた

 

「俺は―――立花響(おまえ)に憧れてんだよ」

 

まるで英雄みたいな響に

鏡華は憧れていた。自分も翼と奏の英雄になりたいから―――


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