【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.ⅩⅩⅣ

リディアンでは、朝から昨夜のアーティストフェスの話で持ち切りだった

その話をしていないクラスなどない

当然、響と未来が在籍するクラスも然りだった

 

「いやー、本当に凄かったよね! ツヴァイウィングの復活なんて」

 

「うんうん。まるでアニメみたいだったわ!」

 

「でも、この二年間、天羽奏さんは何をしていたのでしょうね」

 

三人組も響と未来の周りでその話題を話している

響と未来は本当の事が言えず、同意するように頷くだけ

そうして時間が過ぎると、

 

「ホームルーム始めるぞー。席に着いた着いた」

 

鐘の音と共に鏡華が入ってきた

それに生徒は驚いた

てっきり教師は辞めたのかと思っていたのだ

 

「せんせー! ツヴァイウィングが再開したのに、どうして教師を続けているんですか?」

 

「ツヴァイウィングが復活したからと云って、辞めるなんて勝手な性格はしていませんよ先生は。少なくとも一年はいるから、そのつもりで」

 

お喋りはここまでー、と手を叩きながら場を鎮める鏡華

全員が黙って、今日の予定を話していき、滞りなくホームルームを終わらせた

終わると、響と未来が近寄ってくる

 

「遠見先生! 昨日は凄かったですね!」

 

「おう。立花と雪音のおかげだよ。二人のおかげで簡単に始末出来たんだからな」

 

「えへへ、奏さんに応援されたら、頑張らないわけにはいきません!」

 

互いに親指を天に突き立てる鏡華と響

それを見て未来は苦笑を浮かべる

 

「そういえば、今日は翼さんと奏さんは?」

 

「翼は普通に学校。奏は検査を受けて家で待機、かな。なんだったら下で落ち合う事も出来るけど」

 

「いやー、それは悪いですよ。奏さんだって、きっと本調子じゃないと思いますし……」

 

「何言ってんだ響。あたしはいつでもテンションマックスだぜ」

 

「あ、そうなんだ。よかっ―――」

 

言いかけて、はたと止まった

てっきり鏡華が言ったのかと思って返答したが、それにしては砕けた言い方だった

未来も首を傾げていた

そして、声の主が、

 

「やっ、響。昨日ぶり。未来は数日ぶりだな」

 

鏡華の背後からにょっきりと顔を出した

 

「か、奏さん!?」 「奏っ!?」

 

驚いた声を上げる響

何故か鏡華も

二人の声は当然クラスにいた全員に聞こえ、全員が奏の存在に気付いた

 

「お、おまっ、何でいんだよ! 検査はどうした!」

 

「こんな朝早くにするわけないだろ。鏡華の教師っぷりを見に来たんだ。どう、似合うか?」

 

くるりと回って自分の服装を見せつける奏

奏の今の服装は、リディアンの制服だった。ただ、ちょっと小さめだったが

 

「……どこからパクってきた」

 

「翼の部屋の椅子の上から。やー、一度制服着て来てみたかったんだよなぁ」

 

「早く脱いで翼に返せ。じゃねぇと伸びるぞ絶対」

 

「え? 身長が?」

 

「制服が、だ!」

 

「やん。ここで脱げだなんて、鏡華のえっち」

 

悪ノリした奏は随分と楽しそうだった

とってもノリノリである

もちろん、鏡華からすれば、相乗りするわけにいかず、

 

「誰かこいつ追い出せぇっ!」

 

頭を抱えて叫ぶのだった

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

「本当に驚いた。奏が校内にいるのを見かけた時は眼を疑ったよ」

 

放課後、いつもの屋上で翼が奏を見ながら呟いた

足元のベンチではぐったりした様子で鏡華が寝そべっていた

授業以外の休み時間、ずっと奏の相手をしていたのだ。ストッパー役に徹していたのでかなり疲労していたのだ

 

「お疲れ様、鏡華」

 

「まったくだよ。しかもこれから立花達とふらわーで食うだろ? 体力持つかな……」

 

「食って回復すればいいじゃん」

 

「回復した途端削られるのはかなり参るんだよ。……はぁ」

 

勢いをつけて立ち上がると、鞄を肩にかける

 

「そんじゃ、ま。行きますか」

 

「うん」

 

「おう」

 

特に反論のなかった翼と奏は頷き鏡華の後に続く

今日は柵から飛び降りる事なく、歩きで校門に向かう

だから、そこに行くまで気付かなかった

かなりの人垣が出来ている事に

 

「おいおい、マジかよ」

 

「あれを抜けるのは……骨が折れそうだ」

 

鏡華と翼が嫌そうに呟く

一応予想はしていたのだが、放課後を狙ってくる辺りがいやらしいと云うか面倒と云うか

はっきり云って迷惑だった

 

「はぁ……翼。立花にメールしといて」

 

「分かった」

 

「奏は俺と対処」

 

「はは、鏡華、不機嫌ですな」

 

「不機嫌っつーか、迷惑」

 

営業スマイルが出来る事を確認し、鏡華と奏は、翼を後ろに守るように先に歩いて、人垣に向かっていく

少しすると、人垣から「あ、来たっ」と声が上がったのが聞こえた

一斉に敷地に入ろうとする取材陣を警備員が防いでいる

 

「敷地内には入らないで下さい! 下校する生徒の邪魔になってます!!」

 

声を張り上げる鏡華

取材陣は入ろうとするのをやめ、今か今かとレコーダーやマイクを握りしめて鏡華達が来るのを待っていた

内心で溜め息をこぼし、鏡華は変わらぬペースで校門を過ぎる

そして、営業スマイルを浮かべようとして―――鏡華は表情を凍らせた

人垣にいたのは取材陣だけではなかった

下校中の生徒だけではなかった

野次馬であろう一般人だけではなかった

鏡華の眼の前にいたのは―――

 

「ああ、そうです。間違い無く鏡華君です!」

 

「感動の対面です。約二年ぶりの再会!」

 

「―――さんの眼には涙が浮かんでいます」

 

一番会いたくなかった―――遠見家親戚の、とある一家だった

顔を手で抑え、天を仰ぐ

 

「(鏡華……)」

 

「(大丈夫。大丈夫さ、奏。ただ……口が汚くなるかも)」

 

「(それこそ大丈夫だ。鏡華が何て言ったって、あたしと翼はずっと味方だ)」

 

「(……ありがとう)」

 

奏の暖かい言葉に、鏡華は自分の心を落ち着かせ、暴走しないように冷たく縛る

“仮面の笑み”を浮かべてこちらに駆け寄ってくる親戚一家を、鏡華は“微笑み”で一礼し、

 

「誰ですか?」

 

そう、嘘を吐き捨てた

しん、と静まり返る人垣。それは一家も同じだった

家長だろう男が冗談だと笑い飛ばす前に、鏡華自身が、

 

「ああ……思い出しました。確か、親戚の中で最初に僕に説教を垂れて、金をせびった方ですね」

 

さも今思い出したように、この場の全員に聞こえるよう通った声で言った

ざわり、と波紋が広がる

 

「おいおい鏡華君、冗談は―――」

 

「いやぁ、懐かしいですね。あの頃はよく家に来ては説教に来てましたけど、今日も説教ですか? 精神的に疲れてるんで勘弁してほしいんですけど。あ、もしかして遺産代わりの交通費ですか? 困ったなぁ、今、金ないんですけどねぇ……」

 

困った表情で頤に手を当てる鏡華

わなわな、と震え青褪める男は鏡華を睨む

すると、驚きで固まっていた報道陣の一人が鏡華にレコーダーを向けた

 

「そ、その話は本当でしょうか?」

 

「本当です」

 

答えたのは、意外にも翼だった

 

「翼」

 

「叔父が引き取らなかったら、彼は間違いなく狂っていました。それだけ彼の家には毎日といっていいくらい親戚が来ていたんです」

 

「翼、もう言わなくていいよ」

 

鏡華は優しく囁き、翼の説明に区切りをつけさせる

まあ、その通りなんですけど、とも言って、親戚に視線を向ける

 

「すみません。名前も覚えていない親戚の皆様。もう帰ってもらえないでしょうか。そして、どうか、私にこれ以上関わる事も吹聴する事もしないでください」

 

―――お願いします

そう、必要のない頭を誠意の言葉と共に下げる

そして―――

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

「―――それから、親戚の人はどうしたんですか?」

 

ふらわーの座敷で、未来が聞いた

 

「何も言わず帰ってくれたよ。まあ、報道陣がいたおかげだけど。いなかったら、どんな罵詈荘厳だったか」

 

「鏡華さん。罵詈雑言(ばりぞうごん)です」

 

「あり?」

 

「威厳がある悪口は新鮮だな……」

 

間違った熟語を訂正する未来

知らない熟語を使うから、と呆れる翼

奏と響は笑いながらお好み焼きを頬張る

 

「おばちゃん、おかわりだっ」

 

「なんですと!?」

 

「響より早い……」

 

ペロリと平らげた奏に、おばちゃんは、

 

「あいよ。それにしても豪快な食べっぷりだねぇ。作るこっちもやる気が出て来たよ」

 

嬉しそうに焼いていく

響も負けじと食べ切ると、おかわり、と宣言した

 

「ねぇ、鏡華」

 

そんな二人を見て、翼は鏡華の耳に顔を寄せて囁いた

 

「奏ってあんなに食べる方だったっけ?」

 

「昔は普通だったけどな……。多分、だけど。二年間、強制的に眠らせた事が原因かも」

 

「どういう事?」

 

「俺と奏は飲み食いしなくても、生きる事は出来る。逆に、いくらでも食べる事もできる。奏は二年間、食べる事も飲む事もしなかった。別に死ぬ事は無かったけど、突然そんな体質になって、身体がついていけなかったんだと思う。だから眼が覚めてからの奏の胃袋は」

 

「食べなかった分も食べたいと反応するわけか……」

 

ようやっと納得した翼は奏を見る

既に奏は二枚目を食べ終え、おかわりを要求していた

響は「なんとっ」と驚いている

 

「……鏡華」

 

「ん?」

 

「食費は大丈夫?」

 

「…………寂しいかも」

 

「そっか」

 

しょんぼりする鏡華

そんな鏡華に翼は自分のお好み焼きを一口サイズに切り取り、

 

「鏡華、口あけて」

 

「あーん」

 

躊躇いも無くあけた口に翼はお好み焼きを食べさせる

俗に云う「はい、あーん」―――というヤツだ

もちろん、鏡華にも翼にもその気はない。昔から誰かが病気にかかれば、代わりに誰かが食べさせていたし、相手の料理をもらう時は大抵こんな感じだ

 

「…………」

 

そんな様子を未来はバッチリと目撃してしまい、

 

「鏡華さん、鏡華さん」

 

「ん?」

 

「あ、あーん……です」

 

即座に実行に移した

その大胆な行動に、

 

「ぶふっ」

 

響はお好み焼きを噴き出しそうになり、

 

「やっぱ、変わったよなぁ」

 

奏はしみじみと呟き、

 

「あーん」

 

鏡華は特に何の意味も持たず、口を開いた

パクリと咥える

 

「お、美味しいですか?」

 

「うん、美味い。相変わらずおばちゃんのお好み焼きは美味いなぁ」

 

「…………」

 

鏡華のあまりにいつも過ぎる姿に、声が出ない未来

―――ゆ、勇気を出したのに……

そんな未来に翼が声をかける

 

「小日向、私達の間では、日常茶飯事なんだ」

 

「えー……」

 

「恥ずかしがってたら、身が持たないと思う」

 

よく見ると、翼もわずかだが頬を染めていた

翼も恥ずかしかったのか、と思うと、仕方ない、という思考が生まれた

 

「んじゃ、次はあたしの番だな。はい、あーん」

 

「じゃあ、私もします!」

 

そして、何故か奏と響もノッてくる始末

鏡華は嫌そうな顔をする事無く、次々と放り込まれるお好み焼きを食べていく

そんな五人を見て、

 

「まるで雛鳥に餌をあげてるようだねぇ」

 

おばちゃんは面白そうに、そう言った

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

風鳴家に帰ってきた鏡華と奏は、リビングに入るとベタッと畳に突っ伏した

 

「二人とも、床に寝るのは行儀が悪いぞ」

 

唯一、突っ伏さ無かった翼が鏡華と奏を嗜める

 

「食い過ぎた……」

 

鏡華は少し張った腹に触れて、苦しそうに訴え、

 

「満腹満腹。やー、食った食った!」

 

奏は楽しそうに、食べる前と変わらない腹をさすりながら言った

そんな二人に苦笑した翼は、「お茶を入れるよ」と台所へ向かった

 

「奏」

 

「あいよー。台所の片付けだな」

 

「私はそこまで信用が無いのか」

 

自覚がある分、あまり反論ができない翼

急須に茶葉とお湯を入れ、先にお湯を入れて温めておいた湯呑みと共にお盆に乗せ、リビングに戻る

その頃には、鏡華と奏も消えていた

首を傾げていると、二人が戻ってきた。着替えたのか、鏡華は包帯を巻いたまま甚平を。奏もきっと伸びたであろう制服から、何故か鏡華(つまり男用の)の甚平を着ていた

 

「うーん―――久しぶりに軽装になった気分だ」

 

「そう云えば、鏡華っていつも完全着装だったよね」

 

「外では、傷を見せるわけにはいかないからな。包帯も大袈裟過ぎるし」

 

だからと云って、中でも包帯を取るわけにはいかないのだが

 

「はい、鏡華。奏」

 

「ありがと」

 

「サンキュ、翼」

 

湯呑みを受け取り、苦さと甘さが程よく混ざったお茶で喉を潤す

ふぅ、と息を吐いて、もう一度畳に倒れる鏡華

 

「長かったな。この二年間。俺と奏にとってもーーー翼にとっても」

 

「おう」

 

「うん」

 

天井を仰いでいた瞳を静かに閉じる

聖遺物の呪いによって、十全ではないにしろ、欲しかった日常を取り戻す事は出来た

だからと云って、今日が自分達の物語の終わりではない。まだ、やっていない事は山程残っている

その全てを終えるまで、自分達の物語を終わらす事など出来ない

だけどーーーだけどもだ

今日ばかりは

二年もの間、張り詰めて、張り裂けそうで、張り巡らせた心と身体を、

 

「やっと......終わったんだ......」

 

そっと、休ませよう


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