【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.ⅩⅩⅢ

「復帰ステージ? 何だよそれ」

 

「翼……蒼いシンフォギアの奴がアーティストフェスに無理矢理自分をねじ込んでもらってな。倒れて中止になったステージの代わりって奴だ」

 

「……あたしには関係無いね」

 

そりゃそうだけどな、と鏡華は苦笑を浮かべ切り分けたお好み焼きをクリスに渡す

奏は既に頬張っている。ちなみにもう三皿目

 

「まあな。だけどさ、コミュニケーションって大事だろ? どんな些細な事でも人と会話すんのは大事だと思うよ、俺は」

 

「…………」

 

「ふぁあ、ふぃいひゃん。ふぉれより、くふぁねぇんふぁっふぁらもふぁうふぉ?」

 

「駄目に決まってるだろ、一人で三つ食ってんだから」

 

「……よく分かるな」

 

素で驚くクリス

長年の付き合いって奴だ、と鏡華は返す

 

「そこでだ、奏。そのアーティストフェス、俺達も出るぞ」

 

「はい?」

 

「会場は二年前に全てが始まったあの場所。そこで過去を終わらせるんだ。ツヴァイウィングの復活でな」

 

ツヴァイウィングの解散

遠見鏡華の聖遺物覚醒

天羽奏の休眠

風鳴翼のソロ活動

立花響の運命

それら全てが始まったあの会場で終わらせる

 

「なるほどねぇ。いいじゃん! 乗るぜ、その案」

 

「決まりだな。―――雪音」

 

「あん?」

 

「おそらくだが、このプランが成功したら俺達はこの家を出て行く事になる。そうした―――雪音はどうする?」

 

「どうするって……」

 

何をするか、なんて決まってなどいない。結局の所、あれからずっと逃げ続けて、隠れ続けているだけだ

だけど―――

 

「ヴァンを探しにフィーネの屋敷に戻る」

 

それだけは決めていた

無事ならばすぐにでも連絡をしてくれるはずなのに、あれから一度もない

と云う事はヴァンの身に何かあったと云う事だ

鏡華は、

 

「そうか。頑張れよ」

 

そう言って自分のお好み焼きを頬張った

クリスもそれまでに力を蓄える為に渡されたお好み焼きを口に入れた

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

明かりの点いていないフィーネの屋敷

常世の闇にうっすらとフィーネの輪郭が浮かぶ

彼女が見ている先、そこにはクリスも縛り付けられていた器具が、明かりもないのにはっきりと見えていた

今度はクリスではなく―――“左手のない”ヴァンが縛られているのもはっきりと見えた

強情ねェ、とフィーネは嫌そうに言う

ヴァンに答える気力は残っていない。それでも瞳は力強くフィーネを睨みつける

その瞳にフィーネは溜め息を吐き、部屋を後にした

後に残ったのは―――ヴァンの絶叫

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

昼休み。翼は鏡華がクリスに話した事を響と未来に話し、チケットを渡していた

鏡華は翼の隣で楽譜を書いている

 

「立花にとっても、辛い会場だな」

 

「……ありがとうございます」

 

申し訳なそうに言った翼に、響は逆に明るい声でお礼を言った

思わず響の顔を見上げる

 

「いくら辛い過去でも、いつかきっと乗り越えられます。そうですよね、翼さん」

 

「……そうありたいと、私も思っている」

 

そんな二人を微笑ましく思いながら、鏡華は仕上げた楽譜を翼に渡した

 

「ご要望通り、出来たぜ翼」

 

「ありがとう鏡華。……ソロになってから作っているソングライターの方には申し訳ないが……」

 

「ああ、それ、俺だぞ」

 

「は?」

 

突然の暴露に翼は素っ頓狂な声を上げてしまった

別にもう隠さなくてもいいのだ

 

「翼、ソングライターの名前は知ってるか?」

 

「えっと……確か、ミハナ・トーキョウだったような」

 

「ミハナ・トーキョウ。トーキョウ・ミハナーーこれを感じに直すと」

 

携帯端末に「遠鏡見華」と打ち込む

それで翼は、あっと声を上げた

 

「そう、名字と名前の順序を変えてカタカナにしただけ。気付くかなって思ってたんだけどな」

 

くくく、と笑う鏡華に頬を膨らませる翼

響はちらりと未来を見た。未来は少し不満そうな表情を浮かべていた

少し寂しいような羨ましいような気持ちだった

 

「ま、頑張んな」

 

そう言って鏡華は紙とペンを鞄にしまい、立ち上がる

 

「小日向、立花。そろそろ教室戻るぞー」

 

「あ、はい」

 

「それじゃあ翼さん、ステージ頑張って下さいね!」

 

「ああ」

 

鏡華の先導で三人は教室へ戻ろうとする

その途中、鏡華は振り返り、

 

「ああ、そうだ。翼、フェスの時、入念に喉の調子を整えておきなよ」

 

「……? うん」

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

「奏、着替えたか?」

 

「おう。だけど、あたしにはちょっと可愛すぎないか?」

 

「そう? 格好良い服の翼と対照的な感じで良いと思うけど」

 

着替え終わり、くるりと一回転した奏を見て、鏡華は思ったままを口にする

今の奏の服装は二年前の衣装を少し変えたものだ。フワフワしていたフリルのスカートがロングスカートになり、露出度は控えめになっている

 

「ま、いいや。それじゃあ、行こうぜ鏡華」

 

「うん」

 

共に全身を覆い隠すコートを身に纏って部屋を出た

その時だった

鏡華の携帯が鳴ったのは

 

「…………」

 

「最悪な展開だな」

 

奏の悪態に同意の頷きを返しつつ電話に出る

予想通り、電話の相手は弦十郎で、ノイズの出現を知らせるものだった

溜め息を吐いて、鏡華はプライウェンを出現させその上に乗る。奏も鏡華の腰に手を回して乗った

そして、スケボー感覚―――ただし速度はかなりの速度―――で走り出した

 

『今から響君と翼に連絡を……』

 

「あー、旦那。翼には連絡しないでくれ。今日のあいつの戦いはもう始まろうとしてんだ」

 

『……ふっ、響君と同じ事を言ってるぞ』

 

「あ、そう。……見つけた。んじゃな旦那。後で会おうぜ」

 

一方的に電話を切る

速度を上げ、走っている防護服姿の響の隣まで追いつく

 

「立花!」

 

「へ? ……遠見先生!?」

 

「乗れ、急ぐぞ!」

 

「は、はい!」

 

後ろに乗っている人物の事を聞く間もないまま、響は狭いプライウェンに飛び乗った

 

「遠見先生! この人は誰ですかー?」

 

「よっ、久し振りだな響」

 

答えたのは奏。フードを少しズラして顔を見せた

当然の事ながら驚く響

 

「え? ええっ!? か、奏さん!? な、なんでどうして?」

 

「話は後だ。ノイズが見えたぞ」

 

「悪いな響。ちゃんと後で話すからさ、ノイズの事、頼むぜ」

 

「……はい!」

 

奏にそう言われたら、頷くしかない

精一杯首を縦に振り、鏡華と共にプライウェンから飛び立つ

 

「今回はマジでガチで時間がないんだ。速攻で終わらせるぞ立花!」

 

「はい!」

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

「風鳴翼の夢を―――よろしくお願いしますっ」

 

万感の想いを籠めてグレイザーに頭を下げる緒川

グレイザーは微笑みながら手を挙げ、踵を返す

だが、彼の前には人が歩いてきていた

全身をコートで覆い隠した二人組

二人がグレイザーの前に立つと、一人が頭を下げた

 

「ミスター・グレイザー、ですね」

 

「……君は?」

 

「忙しいのは存じています。ですが、帰るのは少しだけ待ってもらえませんか」

 

グレイザーの言葉を無視して、お願いする青年らしきコートの人間

声を知っている緒川は、グレイザーの後ろでわずかに驚いていた

 

「何故かね?」

 

「これからステージで“起こす”奇跡が、あなたに対する返答になるかと」

 

お願いします

そう言ってもう一度頭を下げる

 

「起こす、ときたか。起こる、のではなく」

 

「Yes」

 

グレイザーは少し考える仕草を取り、頭を下げた青年を見つめる

視線を移して隣にいるコートの人間を見て

コートからわずかに飛び出ていた赤毛を見て、

 

「……まさか」

 

そう、呟いて、

 

「面白い。もし、それが本当なら、まさしく奇跡だ」

 

踵を返した足で―――踵を返した

青年は足音で「ありがとうございます」と判断し謝辞を述べた

グレイザーが戻り、二人組も歩みを再開する

途中、緒川の隣を過ぎる時、

 

「お待たせ、緒川さん」

 

そう、一言だけ告げた

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

私は歌が好きだった

こんなにも大好きだったんだ

これまで、みんなの為にずっと歌ってきた私だけど、今度はそのみんなの中に私を入れてほしい

もっとたくさんの人に私の歌を聴いてほしい

たった一つの我が儘

 

「だからどうか―――許してほしい」

 

言葉は少ないが、それでもその一言、一字一句に自らの想いを籠めて翼は観客の前でそう言った

観客は拍手と歓声で、その答えとした

答えなど、初めから決まっていた

―――ありがとう

その言葉の代わりに、翼は、つぅと一筋の涙をこぼした

そして―――

 

『許すさ―――当たり前だろ』

 

その声が聞こえてきた

初めは幻聴だと思った。だけど、その声を翼だけでなく観客も聞いていたようなので幻聴ではなかった

全員が戸惑う中、中央の扉が開かれた

そこに立っていたのはコートを纏った二人組だった

 

『だけどさ、翼一人で行くことはないんじゃないかな、ってあたしは思うんだよな』

 

ゆっくりとした足取りで二人組は真っ直ぐステージに向かってくる

迷う事なくステージに昇る

二人組は翼の二メートルぐらい離れた場所で立ち止まり、

 

『行くなら三人で行こうぜ』

 

同時にパサリとフードから頭を出した

現れたのは鏡華と―――

 

「――――――」

 

紅の髪を払い、自分を真正面から見詰める瞳

全ての音がなくなった気がした

だけど、はっきりと目の前の少女の声だけは伝わってくる

 

「待たせたな翼。天羽奏、ここに完全復帰だぜ」

 

「かな、で……奏ッ!!」

 

翼は溢れる涙を拭う事なく奏に抱きついた

胸に飛び込んで来た翼を奏は強く抱きしめる

 

「奏……奏、奏―――ワァァッ!!」

 

「ごめんな翼。二年も一人ぼっちにさせて。片翼でよく頑張った」

 

涙は流さなかったが、それでも瞳に目一杯溜め込み、奏は優しく翼の髪を梳く

抱き合った二人を観客は見て、ざわめきだす

鏡華は翼が落としたマイクを拾うと、一礼して口を開いた

 

「ご来場の紳士淑女の皆様。私は遠見鏡華。ツヴァイウィングの作詞作曲家(ソングライター)を生業としています」

 

ざわめきは更に大きくなる

 

「突然の登場で混乱しているでしょうが、要点だけ言わせてもらいます。―――天羽奏と遠見鏡華は生きていました」

 

どんどん大きくなっていく

それはまるで、クレッシェンドしてくように

 

「二年間、どこで何をしていたか。そんな質問は必要ないでしょう。今必要なのはこの一言だけだと私は確信を持って言えます」

 

百を、千を、万を超える観客を前に

一を、十を、百を、千を、万を超えるテレビの前の視聴者に

人前で喋るのが苦手だった青年が今―――宣言する

 

「ツヴァイウィングは今宵この時を以て―――活動を再開するッ!!」

 

爆発するような歓声

連鎖するように会場全体に声と云う波紋は広がっていく

奏は抱きしめていた翼を離すと、立ち上がるように手を差し伸べ、促す

 

「疑問や質問は後だ! 紳士淑女の皆様、ツヴァイウィングの歌が聴きたいかっ!?」

 

口々に肯定の叫びを挙げていく

 

「分かりました! そんな皆様のご要望にお応えして、メドレー形式でいきますっ!」

 

鏡華が観客を相手にしている間にコートを脱いだ奏が、

 

「翼、飛ぶぞ。あたしと翼で!」

 

「ッ……うん! どこまでも、行こうっ!」

 

二人、手を繋いでステージ中央に立つ

スポットライトが二人に当たる

 

「それじゃあ飛び立ちましょう! メドレーは全三曲。『Zwei Wing』、『ORBITAL BEAT』、『逆光のフリューゲル』!!」

 

全てのボルテージが最高潮のまま、ツヴァイウィングの歌が始まる

それは三人が退場するまで続いた

そして―――

翌日、全ての新聞の一面は全てツヴァイウィングの記事が

ニュースやネットでは、アーティストフェスの最高視聴率は五十パーセント以上と云う快挙を成し遂げた事が報道されるのだった


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