【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

22 / 37
D.C.ⅩⅩⅡ

響のデート発言から数日後―――

鏡華は一人で、とある自然公園の時計の下で立っていた

約束の時間は十時

にも関わらず、真上の時計は十時三十分を差している

 

「はぁ、よかったよ。奏が寛大で」

 

そうでなければ今頃、鏡華は遅刻どころか欠席していたかもしれないのだ

―――デート? おう、行ってこいよ。あたしは今度、翼とダブルデートの時まで待ってるからさ

そんな約束をして送り出されたのだが、

 

「絶対裏がありそうだな」

 

そう思わずにはいられない鏡華だった

まあ、概ねその通りであって、奏は現在、プライウェンを使って、人が認識できない高さから鏡華を見ていた

そんな所から見れるのか、と思わずにはいられないが、奏の手には小型の望遠鏡が握られており用意は万端だった

閑話休題

 

溜め息を吐いて、“包帯の巻いてない左手”を見る。早速回復が始まった証拠である左腕

一面を覆っていた傷は、肘までだが綺麗さっぱり無くなり元の綺麗な腕に戻って―――などいない

わずかに引っ掻いたような傷が残っていた

 

「まあ、いいんだけど」

 

完治したのは、左腕だけ。その他の部分は未だに傷が残っている

それに、元の女の子みたいな腕よりこちらの方がまだマシだ。むしろ良かったと思っていた

 

と、そんな風に左腕を見ながら忘我に浸ること暫し

公園の一角から、男のどよめきが聞こえてきた

鏡華はふぅ、と息を吐き(決して溜め息ではない)、ようやく来たことを確信して振り向いた

振り向いて―――固まった

 

「ま、待った……かな?」

 

「お、お待たせしました……」

 

目の前には天使の姉妹が二人、自分に声を掛けていた

姉の方は長い蒼髪を靡かせ、モデルも肌足で逃げる印象を与えた。透き通った湖を連想させる水色のワンピースに白を基調としたボレロを羽織った姿は美しい以外褒め言葉はない。目元を隠すように深く被った小さめの麦わら帽子がまた可愛らしさを引き出している

一方、姉ばかり評価していたが、妹の方も引けは取らない。黒を基調とし白で装飾されたゴシックロリータ調の服を着ている。普通は膨らんでいるスカートは膨らんでないが、それが逆に清楚さを漂わせていた。胸元にはオレンジ色のリボンが可愛く結ばれている

 

「ッ……、ッ……!」

 

鏡華は鼻血を出さなかった自分を褒めたかった

二人の歩く前が、聖書に登場した先導者よろしく分かれていたのだ

ついでに声を掛けられた鏡華にかなりの視線が集まった

主に敵意と嫉妬が九割。一割は面白がるような気配

特に女性からの視線が多かった

自分の恋人の視線を奪う彼女達に声を掛けられるあんたは何様よっ、的な感じで

 

「鏡華?」

 

「どうしたんですか?」

 

「ッ……い、いや、何でもない。全然何でもない」

 

文法が間違っていることに気付けないまま、鏡華は我に返る

 

「翼と小日向が可愛過ぎて見蕩れて我を失っていたわけじゃないからなっ!」

 

我に返りすぎて、墓穴を掘っているのは気にしてはいけない

と云うか、鏡華の「可愛過ぎて見蕩れた」宣言は天使姉妹―――翼と未来の顔を沸騰させてしまい、気にする事はできなかった

 

 

―――そんな三人を見ている人影が、いや、三人を見ている人間など自然公園には山ほどいるが、その中でも二人が見ていた

 

「ぬふふ……未来と翼さんの服を、了子さんと一緒に三日三晩協議していた甲斐がありましたっ」

「確かに。周りまでもが見蕩れてしまうのは計算外でしたが……それも誤差の内ですよ響さん」

 

サングラスを掛けた男女―――と云うか、響と緒川だったが―――が物陰からじっくりとねっとりと、楽しそうに悪そうに三人を見ている

とてもノリノリな二人だ

 

「あ、移動するみたいですね」

「追い掛けましょう。隠密なら得意です」

「おおっ。期待してます、緒川さん!」

 

普段はストッパー役である翼や未来がいないことをいいことに、止まる事を知らない残念な二人

緒川なんて、この日のこの役のためだけに、有給を使っていた

しかも―――、

 

『こちら二課の藤尭。三人はこのままショッピングモールに向かう模様です』

『ネット上には未だ反応無し。―――ついでにノイズの反応もありません』

 

オペレーターまでもがノリノリでサポートしていた!

もし鏡華が知ったら、「どんだけ暇な組織なんだ二課はっ!」と叫んでいただろう

実際、二課はノイズと情報操作専門の組織。それ以外の時間は、とても暇なのだ

そこに舞い降りたのが、ダブルデートという娯ら……否、スキャンダル間違い無しの行動

 

「こんな面しろ……もとい危険(報道的な意味)を見逃す事などできるわけないっ!」

 

それがオペレーター二人の考えであり行動理由だった

当然、彼らの顔がにやけていることは言うまでもないだろう

残念ながら(?)、弦十郎と了子は参加しなかったが

この作戦は過去稀にみる大規模(笑)のものだった

 

「じゃあ、行きましょう! 私の指示通り動いて下さいね」

「ラジャー!」

 

そして、二人はギクシャクとした三人を追い掛けるのだった

 

 

そんな二人の遥か後方

約数十メートル後ろには、一人の男が“誰にも見られることなく”、白昼堂々盗撮をしていた

一眼レフのカメラにはかなりの距離の撮影も可能な望遠レンズが装着されている

赤いワイシャツにスラックス。言わずもがな―――弦十郎だった

 

「ふっ……姪っ子と息子の初デート。現場で見なくてどうするか」

 

正確には鏡華とは養子縁組をしたわけではないので息子ではないのだが、引き取ってから育ててきたので息子同然と弦十郎の中では解釈されていた

ちなみに、だが。弦十郎の姿は誰にも見られていない。隠れている訳でもないのに

理由は一つ。《圏境》もどきを使って気配を消しているからだ

こんなことに体術の秘奥儀使ってんなよ、とツッコミたくもなるが、ツッコむ人がいないので誰もツッコミを入れることはなかった

 

「さて、ショッピングモールなら……あそこがベストだな」

 

そして、弦十郎は《瞬動》で姿を消した

盗撮と云う名の記念写真を撮るために

 

まあ、結局の所―――

鏡華、翼、未来にとって初デートは、三人だけで行えないのだった

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

「いやぁ、最初はマジでビクッたわ。俺に声掛けてくるこの二人は一体どこの天使様だってな」

 

「そ、そうか……?」

 

「き、鏡華さんも、その服、よく似合ってますよ。格好良いです」

 

「ん、あんがと」

 

一先ずは予定していたショッピングモールに行くことになった鏡華達

公園での人垣が割れるような出来事は起きなかったが、大抵の人々は何事かと振り返っては鏡華を取り巻く二人に見蕩れていた

 

「さて、と。どこ行きますか?」

 

「すまない。私はこういう場合、どこへ行ったらいいか……」

 

「だよねぇ。俺も同じくだし……小日向、どうしたらいい?」

 

「えっと……響と出掛ける時は大体適当でしたから……」

 

きょろきょろと辺りを見渡し、興味が生まれた店を指差す

そこはインテリアを扱うお店

 

「まずは、あのお店に行きませんか?」

 

「ん、了解。……つーか、こう云う時、立花がいてくれると助かるんだけどなぁ」

 

「昨日、急に行けなくなったって言ってましたけど―――どこで何をしているのやら」

 

「そうなのか? 私の方も緒川さんが急に有給を取ったみたいなんだが……」

 

「……あのさ、二人共」

 

何となく思いついた鏡華は二人を呼ぶ

未来と翼は立ち止まって振り返る

 

「立花響プラス緒川さんイコール?」

 

「……?」

 

「……彼らには面白い、第三者は傍迷惑な行動」

 

「翼、正解」

 

―――つまりは

がばりと辺りを三人で見渡す

そして―――見つけた

サングラスを掛けて、不自然なくらい明後日の方を向いている響と緒川の姿が

 

「……いたね」

 

「いたな」

 

「響が残念で本当にごめんなさい」

 

「小日向が謝る必要はない。緒川さんも残念だから」

 

「……よしっ」

 

鏡華は一息つき、決心すると、

 

「逃げるぞっ!」

 

二人の腕を掴んで走り出した

どちらもヒールなど、踵の高い靴は履いてないので転ぶ事なく鏡華の速度に合わせられた

響と緒川もそれに気付き、

 

「あっ」

「追い掛けましょう」

 

鏡華達が逃げた先を慌てて追い掛けた

曲がり角を曲がった瞬間、

 

「ほらね」

 

溜め息混じりに頭を掻いていた鏡華がいた

 

「緒川さん……」

 

「響……」

 

翼と未来も呆れた様子で響と緒川を見ている

瞳にはジットリとした気持ちが浮かんでいた

そんな瞳を突きつけられた響と緒川は、観念したように、

 

「ご、ごめんなさ〜い」「すみません」

 

平謝りに徹するのだった

 

「た〜くっ、仕方ねぇ二人だな」

 

「仕方ない二人だ」

 

「残念な二人です」

 

無論、三人の言葉に言葉を返せない二人。

デートが始まって、約数分。

響と緒川は三人に見つかり、デートから遊びになるのだった。

なお―――、

 

「響君と緒川君があっさり見つかったか。せっかくのデートを……。これは、給料を下げるしか無いな……」

 

パシャパシャとシャッターを切っていた弦十郎がそう呟いていた。

当然、誰にも気付かれる事は無かったが。

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

三人のデートは、響の参入によって、ただのガールズ何とかになっていた。

鏡華は緒川と共に、一歩引いた場所からガールズトークに花を咲かせている三人を眺めていた。

 

「どうぞ、鏡華君」

 

緒川が買ってきた紙コップを、どうも、と受け取り喉を潤す。

 

「すっかり蚊帳の外ですね」

 

「別にいいっスよ。見ているだけでも楽しいから」

 

「そうですか」

 

「はい」

 

そう言って三人を、恐らくは翼を見つめる鏡華。

緒川には、その瞳がとても穏やかに見えた。

 

「本当に好きなんですね、翼さんのことが」

 

「好きですよ。……奏と同じくらい、ですけど」

 

「どっちかを選ぶ……なんて、鏡華君には無理でしたね」

 

鏡華は、間違ってるとはわかっているんですけど、とやるせない笑みを浮かべる。

そんな鏡華に、緒川はフォローできる言葉が見つからなかった。

 

「大変かもしれませんが、頑張ってください」

 

だから、それぐらいしか言えなかった。

鏡華もそれを理解しつつ、お礼を言うだけに留め、翼達に視線を戻した。

―――と、視線を戻しても翼達三人の姿はない。

よく見ると、数人の人垣が三人を―――というか、翼を囲んでいた。

 

「人気者は辛いね。―――ちょっち行ってきますわ」

 

「場所は確保しておきます。あまり目立つことは駄目ですよ。ついでにサングラスをどうぞ」

 

「はいはい」

 

そう言って、二人は立ち上がり、人垣の方へ向かい、

鏡華はサングラスを掛けながら人垣と翼の間に割り込み、緒川は響と未来の救助に入るのだった。

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

数人のファンをどうにか撒き、安全地帯で少し休憩した四人は(緒川はいつの間にかいなくなっていた)、新しい服を調達しつつファッションショーを始めた。

もちろん、着替えたのは女子だけで、鏡華はずっと観客だ。

普通の服から始まり、可愛らしい服、格好良い服、時には大胆な服を着ては鏡華と翼の反応を楽しんでいた。

そんな四人や恥ずかしがる翼を弦十郎はシャッターをパシャリ。

昼食は喫茶店やフードコートに入らず、出店で食べ歩きをした。食べ歩きの経験のなかった鏡華と翼にとってそれは新鮮だった。色々と食べたが、鏡華が翼の頬に付いたソフトクリームを舐めとって、翼の顔が沸騰寸前だった時は、色々と大変だった。

翼が照れ、未来は羨ましそうに、恨めしそうに翼を見つめ、響は悪そうな笑みを浮かべていた。

弦十郎は、鏡華が翼の頬を舐めた瞬間を逃さず、パシャリ。

そして―――

 

「翼さん! 遠見先生! 記念にプリクラ取りましょう!」

 

「ぷりくら?」

 

プリクラを知らない翼と鏡華は揃って鸚鵡返しに聞いた。

簡単に説明すると、二人の背を押してプリクラの中へ入る。同時に未来に耳打ちを忘れない。

耳打ちの内容に赤面する未来だったが、決意の籠もった表情で頷く。

 

「じゃあ、いきますよー」

 

合図と共にシャッターが切られる瞬間、

 

「えいっ」

 

「へっ?」

 

「なっ」

 

未来が鏡華の頬にキスをするのだった。

当然、その後、負けじと翼も頬にキスをする写真を撮ったり、二人いっぺんでキスするのを撮ったり―――

ほとほと鏡華を困らせるのだったが。

まあ、そんなことを説明しなくともいいだろう。

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

デートと云う遊びは、陽が傾くまで続いた。

初めての所、おすすめの所、とにかく様々な場所を遊び倒した四人は、最後に響と未来の案内で街外れ、高台に足を運んだ

 

「大丈夫? 翼」

 

「大丈夫。……だけど、二人の体力には驚いた」

 

息を切らして、鏡華に手を引かれている翼。鏡華は翼の速度に合わせて階段を昇っていく

階段の上では響と未来が二人を見下ろしている

年下の女の子に体力で負けている事に、少なからずへこみそうになりながら、鏡華は翼と共に階段を昇りきる

階上で二人を待っていたのは、小さな公園だった

 

「ふぅ……。それにしても、今日は知らない世界に迷い込んだような気分だった」

 

「そんな事ありませんよ」

 

響は翼の手を取り、高台の端へ連れて行く。鏡華と未来は一歩後ろで二人を見守る

 

「見てください。コンサート会場、あそこが待ち合わせの公園。で、ショッピングモール。あっちには未来と一緒によく行くふらわー。私達が戦って、戦ったからこそ、今日行った場所があるんです」

 

だから、と

だから―――知らないなんて言わないでください

 

「――――――」

 

もう一度、翼は眼前に広がる街を見つめる

何を思っているのか、鏡華には分からない。しかし、きっと奏との事なんだろうな、とは分かっていた

―――戦いの裏側、か

以前、奏が言っていたのをふと思い出した

命の価値と同じくらい奏でが考えていた事で、確か奏はこんな風に言っていた気がする

 

―――戦いの裏側とか、その向こう側には、また違ったものが見れるんじゃないか

 

それはきっと、今、目の前に広がる世界の事なのではないか

もしかしたら、奏は知っていたのかもしれない

 

「(―――奏)」

 

「(うん? どうした鏡華)」

 

「(やっぱり奏は凄いな)」

 

「(何だよ藪から棒に)」

 

「(気にすんな。思っただけだから)」

 

鏡華の念話に、奏は深く聞かず、そっか、とだけ返した

鏡華はそれきり黙り、一つの事を考えているのだった


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。