【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.ⅩⅩⅠ

夕食がなくなり意気消沈した鏡華と奏は、どうしたものかと目の前に座る存在を見つめた

身体を可能な限り縮ませて毛布を被っている姿は、小さな子供に見える

 

「(つーか、可愛いんですけど! 鏡華鏡華、抱きしめちゃっていいか!?)」

 

「(やめなさい。すぐに嫌われ―――)」

 

「うりゃー。うりうりー」

 

「ぎゃー! や、やめろーっ!」

 

「言ってる傍から頬擦りすんなよ……」

 

溜め息を吐いて、奏を無理矢理引き剥がす

ついでに胸も揉んでおいた

 

「うひゃあっ!?」

 

「どした?」

 

「な、なにいきなり胸を揉んでんだよっ」

 

「いやー、マシュマロみたいだったから」

 

「そんな、そこにあるから的な感覚でも乙女の身体を揉むな!」

 

鏡華から慌てて離れると自分の身を搔き抱く奏

面白いものが見れたなー、と思いつつ鏡華は再び向き直った

よく見れば、少し顔を赤らめている

 

「で? 何で俺達の隠れ家にいるのかな? ―――雪音」

 

「……たまたまちょうど良い隠れ家みたいだったから居候させてもらおうとしただけだ」

 

「まあ良いんだけどさ。……一つだけ答えてもらっていいか?」

 

「なんだよ」

 

「夜宙は?」

 

「ッ……」

 

途端、クリスの顔が強張る

 

「ヴァンは……分からねぇ」

 

「……そうか」

 

それだけで理解したのか、鏡華はそれ以上追求してこなかった。

不審に感じたクリスは鏡華に訊ねた。

 

「……あたしを追い出さないのか?」

 

「何故? 云っとくが、俺は無一文の野郎を追い出す程鬼畜な人間じゃない」

 

「じゃなくて―――あたしとお前らは敵だろ? 味方に突き出すとか……」

 

「俺はそんな面倒な事する気はない。―――奏は?」

 

「鏡華に同じく」

 

「…………」

 

「俺達は隠し事が多いからな。今更隠し事が一つ増えたって変わりゃしないんだ」

 

―――お前がここにいようといまいと関係無いってこと

常備してたらしきポテチの袋をクリスに放ると、自分は棒状のクッキーを食べる。奏も鏡華の手元からクッキーを一本引き抜き口に咥える

呆気に取られていたクリスだったが、吹っ切れたのか、袋を開けてポテチを食べ始めた

 

「もぐもぐ……鏡華、クッキーゲームしようぜ」

 

「別にいいけど」

 

自分のを食べ終え、新たなクッキーの端を奏に咥えさせる。手を離して鏡華も反対の端を咥えた

ぽりぽりと部屋に音が響く

 

「ぽりぽり……」

 

「…………」

 

「もぐもぐ……」

 

「…………」

 

「ぽり……」

 

「…………」

 

「もぐ……」

 

「…………」

 

「って、恥ずかしすぎるわーーっっ!!」

 

耐えられなくなった鏡華が残り数ミリとなったクッキーを噛み砕いた。パキッと小気味良い音が聞こえた

残ったクッキーは奏がもぐもぐと食べ切る。

 

「勝負は私の勝ちだな、鏡華」

 

「その前に羞恥ってのを覚えようよ、奏は! 人前でやるゲームじゃねぇだろ!? これじゃあ罰ゲームじゃねぇかっ!」

 

「それに気付くことなく誘いを受けた鏡華が悪いぞ」

 

「悪いぞ、じゃねー!」

 

絶叫する鏡華

アホらし、とばかりに背を向けポテチを頬張るクリス

しかし―――、

 

「よしっ、次はクリス、やろうぜっ!」

 

「ッ―――!?」

 

魔の手はクリスに伸びんとしていた

咳き込みながら、クリスは吠えた

 

「やるかぁぁーーーっ!!」

 

その日の隠れ家は、とても賑やかだった

とても―――賑やかすぎる程

次の日、鏡華が学校に遅刻したのは云うまでもなかった

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

翌日は残念な事に天候は雨だった

だから外を行き交う人は少ない

出なければならない社会人は大勢いるが、基本、弦十郎配下の人間は歩く必要はない

 

「ビデオを返却するぅ? こんな雨にかよ」

 

呆れたように言う鏡華

相手は出掛ける準備をしている弦十郎

 

「期限が今日までなんだ、仕方ないだろう」

 

「まあ、旦那ならよほどのことがない限り大丈夫だけどさ。―――ウチには来んなよ」

 

先に釘を刺しておく

弦十郎の魂胆など、最初から分かっていた

ビデオを返却は方便ではなく、本気なのだが

 

「―――バレてたか」

 

「ったりまえだ。現時点でのアヴァロンの結界領域は半径数百メートル。見張りたかったら超遠距離の望遠鏡でも使ってくれ」

 

「……そこまで広げていると云うことは、目覚めたのか?」

 

「さぁてね。昨日、自動自傷行為に励んでたから、注意深くなってるだけじゃね?」

 

自分のことなのに他人事のように話す鏡華

だが、弦十郎にはそれが演技だとはっきりと分かった

 

「そうか。―――それじゃあ、話に行くのはまた今度にしよう。せっかくの宿から追い出したくは無いからな」

 

「おう。会話は俺と奏に任せとけ」

 

外に出掛けるのを見届けた鏡華は自分の飲み物を飲み干すと、部屋を出た

今日は響が未来をここに連れてくるそうだ

ただ、鏡華にとってそれはあまり歓迎するべきではない出来事だった

何故なら―――昨日、告白されたばかりなのに、何を話したらいいか分からないからだ

やれやれ、といつもなら奏の溜め息が聞こえるのだが、生憎と奏は昨日の晩に目覚めたので幽霊もどきは出来なくなってしまっている

今、奏が鏡華を通じて出来ることと云えば、念話と相手がダメージを負ったか分かるぐらい

―――やれやれ

声に出さず、代弁する鏡華

代弁、とは云うが、実際のところ自分に対してなので代弁でも何でもないのだが

休憩所の所に向かうと、そこには緒川を含めた翼、響、未来、了子の五人がガールズトーク(?)に花を咲かせていた

 

「ふん―――っ!」

 

直後、目の前に現れたのは赤い何か

それは真っ直ぐ鏡華の顔面を、もっと云えば眼を直撃した

 

「ぎゃーーすっ!?」

 

突然の攻撃に反撃も回避も出来ぬまま、モロに喰らった鏡華は床をゴロゴロと転がり眼を押さえる

 

「ま、まァ私も忙しいから、後はそこの不死身君の恋バナにでも、花を咲かせて頂戴」

「こ、このおばさん、サトリ―――うおぁっ!!」

 

言い切る前に落ちてくる赤い尖ったもの

と云うか、了子のヒールだった

その奥に見えるモノは刹那に意識と視界から除外する

 

「じゃあねェ。バッハハ〜イ」

 

了子はまるで気付いていないかのようにそのまま歩くと、自分の研究室がある方へ消えていった

と云うか、二歩目が鏡華の腹を踏ん付けていた

 

「聞きそびれちゃったね」

 

「むぅ、やはりガードは硬いかぁ。だけど、いつか絶対了子さんのロマンスを聞き出してみせる! その為に―――」

 

響が向き直ったのは、いや、見下ろしたのは痛みに悶える鏡華

その瞳はとても、とってもきらきらしていた

 

「遠見先生の恋バナを聞かせて下さい!」

 

「えー」

 

「色々! 特に翼さんか奏さん、どっちを取るかで!」

 

「……その前にさー。どうしても立花に言いたいことがあるんだけど」

 

鏡華は寝たままの姿勢で、面倒臭いような表情で

諦めたように、言った

 

「派手な紫パンツが見えてるぞ」

 

無論―――

直後に響が素っ頓狂な声で叫び

翼と未来が鏡華を踏ん付けて蹴飛ばしたのは、当然のことながら云うまでもなかった

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

時間を少しだが遡りたい

響と未来が翼に会い、もう一度自己紹介を交わした直後まで

 

「ああ、それと。“教師である”鏡華とも仲良くしてやってほしい。鏡華も立花同様、面倒な性格だからな」

 

「いいえ。“教師じゃなくても”鏡華せん―――鏡華さんとは仲良くしたいと思ってますから。翼さんの分まで支えてみせます」

 

「ほう。鏡華と何かあったのか? すまないな、迷惑を掛けてしまって」

 

「ふふ、迷惑だなんてとんでもない。むしろ、もっと甘えてもらいたいです」

 

「そうか。ふふふ……」

 

「そうなんです。ふふふ……」

 

二人にしか伝わらない意味で離し、笑う翼と未来

顔と声は笑っているのだが、眼だけはまったく笑っていない

立場的には蛇と蛙なのに

蛇と蛇の睨み合いだ

響と緒川が蛙の立場に立っているような気分になっていた

 

「お、緒川さぁん! 何だかものすっごい修羅場になっているんですがぁ!? これは一体何事ですか!?」

 

「は、はは。恐らく鏡華君を介して宣戦布告をしているんだと思います、よ? ……確証はありませんが」

 

「あー。一昨日……あれ、もう昨日かな? 未来、先生に告白したって……」

 

「何ですって?」

 

聞こえたのか、翼が眼を見開き響に詰め寄る

 

「どう云うことだ立花! 誰が告白したと……」

 

「だ、えっと、あの。み、未来が……」

 

「告白しました。私」

 

はっきりと言い放つ未来

きっ、と睨む翼を前にしても微動だにしない

 

「小日向……」

 

「翼さん、言いましたよね? 欲しかったら―――力ずくで私達から奪ってみなさいと」

 

「…………ああ」

 

「私、喧嘩とかそう云うことは得意じゃないんです。人から奪うことなんてできません。だから、力ずくは無理でも……それでも、せめて翼さんと奏さんの場所まで辿り着きます」

 

「――――――」

 

「勝てなくても、負けません」

 

宣言に近い言葉に翼は声を失い、じっと未来を見詰める

未来は表情を変えず、見詰め返す

そして、息を吐くと「そうか」と呟いた

元々、自分から挑発した言葉だ

挑戦されては―――受けるしかない

それを見ていた緒川は、

 

(変わったのか、変えられたのか―――どっちなんでしょうね?)

 

そう考えていた

その後、了子が輪に入り、恋バナに話題が変わり

鏡華が蹴り飛ばされるまで―――時間は元に戻る

 

 

蹴り飛ばされた頬を押さえながら鏡華は、自分の隣に座っている翼と未来が徐々に自分に、じりじりと寄ってくるのを感じつつ視線をコーヒーに移した

―――あれ、恋バナってガールズトークだよね? 何で男の俺が詰め寄られてるの?

 

「じゃあ、遠見先生の一目惚れってどっちが先だったんですか?」

 

「ねぇ、立花。話が繋がってないのに、じゃあって、間違ってると中学中退の俺でも思うんだよね」

 

「それ、私も聞きたい。鏡華は私と奏、どっちから好きになったんだ?」

 

「もしもし? 皆さん、聞いてます?」

 

しかも翼は明らかに無理をしている

恋バナなんて乙女全開の話題など、翼は経験した事もなく耐性もないはず。なのに自分から積極的に聞いてくる

変に未来を意識しているのか、それとも―――

助け舟なんて出す気ない笑顔の緒川を見て、溜め息を吐きながら、鏡華は口を開いた

 

「同時だと思うよ。今だからぶっちゃけるけど、俺、出会った時は翼も奏も―――嫌いだったもん」

 

「……え……?」

 

「翼は俺のこと、女の子だと勘違いしてたし。奏は握手しようと差し出した手を噛み付いてきたし。初対面の印象は、それはそれは最悪だったよ」

 

懐かしむように眼を細める鏡華

その反面、翼は顔を俯かせていた。心なし、背後にずーんと縦線が見えなくもない

だけど、と鏡華は続ける

その手を翼の頭に乗せながら

 

「何年も家族みたいに接して、まあ、色々あって、俺はこの二人が好きだなって思ったんだ。どっちが、じゃなくて―――両方が同じくらいに」

 

「はぅ……」

 

「なんて云うか……ごちそうさまです」

 

「むぅ……」

 

翼は顔が沸騰し、響はぺたりと合掌した

一方、面白くないと云った様子の未来は頬を膨らませていた

 

「ところで、小日向さんや」

 

「何ですか?」

 

「いい加減、俺の太腿をつねるのはやめてもらえませんか?」

 

「そんなことしてませんよ?」

 

―――してますよねっ

ツッコミたかったが、仕方なく黙っておいた

今はつねるのではなく、突いていたので、本当に仕方なく黙っておいた

 

「それより! 今まで好き勝手聞いてきた立花はどうなの!? 恋バナの一つぐらいあるんでしょ?」

 

「翼さん。察してあげて下さい。響の残念な恋愛経験なんて面白いと思いますか?」

 

「翼、立花の皆無な恋愛話なんて聞いてやるな。残念な事になるぞ」

 

「未来と遠見先生酷いっ!」

 

代わりに響をイジることで我慢しておくことにした

 

「じゃ、じゃあ! 未来はどうなの!? いつ遠見先生のことが好きになったの?」

 

「え!? えっと……」

 

今度は未来が躊躇う番だった

翼もそれに悪そうな笑みで便乗する

 

「それは確かに聞きたいな。会ってもない鏡華のことを、一体いつ好きになったのか」

 

「……会いました」

 

「ん?」

 

「私、鏡華さんと会ったこと、あります」

 

へ? と翼と響の驚きが重なる

鏡華もハテナ顔になりながら、思い出そうと頭をひねっている

 

「覚えていませんか? ツヴァイウィングの二曲目のことを」

 

「……? …………あっ」

 

そのキーワードで鏡華の頭の中で思い出が鮮明に蘇った

あの頃、二曲目で少し悩んでいた時期があった

 

「曲はできてたけど、タイトルが思い浮かばなかったんだよな」

 

「それで人気のない公園のベンチで寝てましたよね」

 

「そうそう。ああ、そうだ。そん時、俺に話しかけてきた女の子がいたわ」

 

「色々話しましたよね。曲のことで悩んでいることも」

 

「ああ、うん。愚痴っぽく話したら、曲のタイトルを考えてくれたんだよな」

 

―――んで、そのアイデアをそのままタイトルにつけた

その言葉に、翼はようやっと疑問が解けた気がした

二曲目のタイトルを聞いた時、鏡華っぽくないと思っていたのだ

まさか他人の考えをそのままタイトルにするなんて、当時は思っていなかったが

―――なるほど、そういうことか

 

「……あの、翼さんや」

 

「なに? 鏡華」

 

「横腹をつねらないでくれません?」

 

「つねってなどいない」

 

「…………」

 

はあ、と溜め息をもう一度吐く

つまりは、あれか

未来は自分のアイデアを名前に付けられたり、その時のことで惚れられたということだ

 

「ところで翼さん」

 

緒川が話しかける

横眼で見ながら、鏡華はコーヒーに口をつける

 

「そろそろ次のスケジュールが迫ってきてる時間だと」

 

「あ、もうそんな時間か」

 

「え? もうお仕事してるんですか!?」

 

響は驚く

苦笑しながら「まだ慣らしと云った感じだがな」と翼は言った

 

「お忙しくなりそうですね」

 

「そうだな。休んだ分のスケジュール合わせをしないといけないし」

 

「で、でも! まだ慣らしなんですよね? 以前みたいな過密スケジュールじゃないんですよね!?」

 

「え、ええ……」

 

緒川を見て、頷くのを見てから答える

 

「だったら翼さん! デートしましょっ!」

 

「で、デート!?」

 

「ぶふっ」

 

いきなりの発言に、鏡華は吹き出した

翼は困惑し、未来は困ったような笑みを浮かべているのだった


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