【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

20 / 37
執筆する時のパソコンを変更しましたので、文に多少の変化はあります
ですが中身は変わりませんので気になさらないでくれると嬉しいです


D.C.ⅩⅩ

天羽奏は一度、確実に死んだ

“死んだ―――はずだった”

不老不死たる騎士王の鞘によって死ぬはずだった魂は鞘と云う鎖で無理矢理繋ぎ止められ

朽ち果てるはずだった肉体は、直前に最良の状態で“保存された”

絶唱によって受けるはずだったダメージはなかったことになった

全て、鏡華が引き継ぐことになったが

人の生死を、神に与えられし生の(とき)を捩じ曲げた代償は

当然の如く、鏡華に下された

奏の身を蝕んでいた薬の副作用。奏が受けるはずだった絶唱の反動。“塵と化す痛み”

その全てが鏡花の身体を襲ったのだ

一度ではなく、ゆっくりと―――定期的に

凄惨で惨い仕打ち

この罰が神が下したものなのなら、あまりにも非情すぎる

しかし鏡華は―――

 

「いいんだ。奏が死ぬことに比べたら、何十倍何百倍とマシだ」

 

己の身に課せられた代償を受け止めた

笑顔で―――身体中から鮮血を流しながら

嬉しかった。同じくらい悲しかった

だから、天羽奏は

最後の罰を受け止め、己を目覚めさせてくれた鏡華を、永遠に等しい命で鏡華を、寂しい思いをさせてしまった翼のために使うと決めた

喩え世界中から化物と罵られ、蔑まれ、疎まれたとしても

それが、天羽奏の“生きる覚悟”だった

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

「お、おい……あの小僧命が惜しくねぇのか? ノイズに近付くなんて……。って云うか―――今、あいつ……ノイズ殴らなかったか?」

 

ようやく固まっていた思考が戻り、男性が力を緩めてぽつりと呟く

それは女性も同じようで、今なら突貫できるはずなのにぺたりと地面に尻餅を着いていた

そしてまた未来もおばちゃんも同じだった

 

「ねぇ、未来ちゃん。あの子は一体……」

 

だが、未来だって答えられない

説明を受けていたとしても、それは精々最重要機密事項故の制限についてだ

シンフォギアなどしる由もない

だから―――

 

「私の先生だよ、おばちゃん。私の憧れで、私の目標で、私の―――」

 

そう、答えた

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

鏡華は踊る

軽やかに、穏やかに

ノイズの槍を避けて舞い、歌う

 

「空と自由だけが♪ と~もだちさ~♪ はい、ヘリコプタ~」

 

……先程挙げた二種類の有名すぎる歌の合作だった

まったく違う内容なのに、最初からこれが正当な歌だと言わんばかりのマッチングである

流石はソングライターと云うべきか

最後のヘリコプターはいらないと思うが

だが、ともには人気らしく、ノイズのど真ん中にいるのに楽しげに笑っていた

 

「それじゃあ、ともちゃん。ちょっとだけお勉強しようか」

 

「おべんきょ~?」

 

変わらずノイズのど真ん中にいて、その攻撃をかわし続けている鏡華は突然そんなことを言った

 

「今日の授業は“ノイズの倒し方について”。ノイズにはね、俺達を炭に変えちゃう能力の他に、位階差障壁って云うとっても厄介な能力を持ってるんだ」

 

「いかい、さしょうへき~? ノイズって嘘吐くの?」

 

「それは詐称」

 

何でそんなこと知ってるの、と鏡華は苦笑する

その際、ちらりと奏や未来、以下三名をちらりと見る

ノイズに襲われてはいない

ならば、

 

「位階差障壁ってのはね、簡単に言っちゃえばオバケみたいなものかな?」

 

「オバケ? じゃあじゃあ、ノイズってオバケなの?」

 

「まあ似たようなもの。オバケも壁すり抜けたりするけど、脅かした人を舐めたりもするでしょ? ……これがあるから俺達人類はノイズと戦っても攻撃が当たらず、逆にノイズの攻撃は当たっちゃう。でもね―――そここそノイズの弱点でもあるんだ」

 

カリバーンを形成するはずのエネルギーを球体に変え、見られずに足下へ設置

間髪入れずに踏み抜き、エネルギーを炸裂させる

結果として、弦十郎がしたような《震脚》のようになり、鏡華は空高く舞い、ノイズの密集から離れた

ノイズは身体を槍と変え、鏡華へ迫る

 

「俺達人間を槍で攻撃する時、ノイズは絶対に身体を“こちら側へ”出すんだ。出しておかないとすり抜けちゃうからね。で、その中で一瞬、本当に一瞬だけ存在が一番濃くなるんだ。俺達は刹那……一瞬よりも疾くそこを狙い―――」

 

槍を避けた鏡華は、片足を後ろへ下げ、

 

  ―撃ッ!

 

ノイズの真ん中辺りをまるでボールを蹴るかのように蹴り抜いた

 

「―――ぶち抜くっ」

 

蹴り飛ばされたノイズは自壊し、灰となる

 

「とまあ、こんな感じ。ただし、確率的には自分が死ぬ確率の方が高いから、絶対真似しちゃ駄目だからね」

 

と―――、

鏡華はさも自分は簡単にできると言わんばかりに言うが

実際は鏡華はそれだけでノイズを倒したわけじゃない

無論今の説明は了子の提唱した『櫻井理論』から抜粋したので間違いはない

鏡華の場合、アヴァロンをその身に埋め込んでいるので、“生身でも倒すことができてしまうのだ”

響も状態としては同じだが、一度の発動以降常時発動している完全聖遺物ではないので生身では不可能だ

 

「はーい」

 

「いい返事だ。―――それじゃあ、お母さんのとこに行きな。ノイズは俺が通さないから」

 

抱っこしていた鏡華は、ともをおろした

地面に立つと、鏡華の言い付け通り一目散の所に駆けていく

女性はともが飛び込んでくると、また涙を流してその華奢な身体を強く抱き締めた

 

「おーい、かなでも~ん」

 

「んあ? 何だー?」

 

暇そうに、しかし身体だけはいつでも動ける状態であった奏

鏡華はちょいちょいと招く様に手を動かす

ちょこちょこと鏡華に近付く

 

「俺がノイズを引きつける。奏は小日向とおばちゃんを連れて逃げて。ついでに途中で隠れ家に帰って」

 

「おう。鏡華はその後どうすんだ?」

 

「ある程度片付けたら包帯と食い物買って帰るよ」

 

「分かった。まあ、あれだ。死ぬことはないだろうけど、死ぬなよ」

 

「あいあい」

 

背を向け、鏡華はノイズと未来達の中間に位置取る

奏は抱擁を続ける母娘に駆け寄った

白いコートに顔にマスクを付けている奇妙な姿の奏を見て、母娘は警戒するように見上げた

 

「感動の抱擁は後でも出来るからさ、今は早く逃げようぜ奥さん」

 

「は……はい」

 

女性を立ち上がらせると、さっき羽交い締めにして止めていた男性の方を向く

 

「おっちゃん、この親子避難シェルターまで連れてってくれ」

 

「あ、ああ……。だけど、あいつはいいのか? その、足止めなら俺も―――」

 

鏡華(あいつ)の邪魔になるだけだ。それにおっちゃんじゃあ逆に組み敷かれて炭化する(終わる)だけだぜ?」

 

「だが……いや、わかった。この親子のことは任せろ」

 

まだ言いたげだったが、しかし、頭を振ると何も聞かないで承諾してくれた

男性はともを抱き上げ、女性と共に最寄りの避難シェルターへ向かった

 

「未来、おばちゃん。二人も早く行くよ」

 

「でも、かなでもんちゃん。鏡華君は……」

 

「おばちゃん」

 

遮ったのは奏ではなく未来

振り返れば、未来は胸に手を当てていた

 

大丈夫だよおばちゃん。鏡華先生は大丈夫」

 

「…………。……分かったよ。そこまで言われちゃあ信じるしかないね」

 

うん、と未来は頷く

そしてもう一度鏡花を見ると、

 

「鏡華先生ーーッ!」

 

「あい〜? な―――」

 

「私ィ、先生のことー、異性として大好きですーーっ!!」

 

「に…………はいぃ?」

 

背中に受けた言葉に思わず鏡華は振り返る

一瞬、何を言われたか分からなかったが、すぐに頭の中でリフレインする

 

「いつか、答えを聞かせて下さいねっ」

 

極上の笑みで言い切った未来

明るくそう言った未来は奏の方を向いた

 

「翼さんにも言いましたけど、私、諦めも負けもしませんからね―――“奏さん”」

 

奏だけに聞こえる声でそう言うと、身を翻しておばちゃんの手を引っ張って駆けていく

一方、鏡華は真っ白になった脳内を必死に再起動して情報処理に明け暮れていた

―――え……あ? はい?

鏡華は決して鈍感ではない

未来の好意にまったく気付いていなかったわけではなかった

しかし、それはあくまで“教師として”好意を向けているのだろう―――と思っていた

だが、鏡華は一つ自分のことで勘違いをしていた

確かに鏡華は鈍感でも愚鈍でもない

人からの好意を感じることはできる

しかし―――それを愛「LOVE」と感じることができない

人からの好意は―――翼と奏を除いて―――全て好き「LIKE」と考えてしまうのだ

それが鏡華にある唯一の人間としての欠点

 

奏も少なからず驚いていた

正体がバレていたことは別に構わないのだが(と云うかバレてない方がおかしい)、今まで鏡花の視点から見てきた未来では考えられない程ストレートな告白だったからだ

鏡華の方は―――未だ混乱しているのか、あうあうしている

子犬を連想させて可愛かったが、そうも云ってられず奏はロンを具現化して一息に投擲する

びゅん、と風を切って一直線に駆け抜けた槍は鏡花の顔の真横を横切り―――襲いかかろうとしていたノイズを貫いた

 

「…………あう?」

 

今頃気付いたのか、後ろを振り向く鏡花

頬がわずかに裂け、血が流れ落ちる

 

「(きょ〜う〜か〜?)」

 

流石にそろそろ駆け出さないと未来達に追いつけないので、駆け出しながら念話を送る奏

 

「(は、はいっ)」

 

「(告白されたくらいであうあうしてんじゃねぇよ。初心な子供か)」

 

「(うぅっ……)」

 

ヘコむような声に奏は吹き出しそうになる

そこでふと思い立った

 

「(鏡華ー、好きだぞー)」

 

「(うん。俺も奏が好きだよ)」

 

「(…………)」

 

「(奏?)」

 

―――なんでやねんっ

本気でそうツッコミを入れたくなった

長年家族やら仲間やらで傍にいたからかもしれないが、何故か自分の告白には素面で反応する鏡華

―――何でかなぁ

まぁ、その追求は後でもできるので

まずは未来とおばちゃんに追いつくのが先だった

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

「こ、困った……。本当に困ったぞ」

 

ノイズの攻撃をプライウェン使用の《護れと謳え聖母の加護》で防ぎ、炭化させていく鏡華は本気で悩んでいた

―――私、先生のこと、大好きですっ

今なお省略されたその言葉が頭の中でダ・カーポされ、鳴り響いている

 

「ちょ、誰かマジでヘルプミー!」

 

泣き言を漏らしながらノイズを殲滅していく

と、そこで気付いた。自分を狙っていないノイズが一定の方向に向かっていることに

疑問に思っていると、

 

「遠見先生!?」

 

響の声が聞こえた

振り返れば響が走り寄ってきていた

 

「よぉ、立花」

「よぉ、じゃありませんよ! 身体は大丈夫なんですか!?」

「身体?」

「師匠が言ってたんです。遠見先生のシンフォギアは遠見先生の身体を定期的に傷つけているって」

 

かなり端折ってあったが、鏡華には伝わった様で「勝手に話すなや」と頭を抱えていた

その時、鏡華の頭の中で声が響く

 

「(鏡華っ!)」

 

「(どうしたの?)」

 

「(悪い、未来とおばちゃんとはぐれた。ノイズに襲われて離ればなれになっちまったんだ!)」

 

「(ッ、すぐ行く!)」

 

念話を受けた鏡華は響に向き直る

 

「立花、小日向がノイズに襲われてるらしい」

 

「未来が!?」

 

「ああ。行くぞ」

 

「はいっ!」

 

そして、鏡華は思った

立花に任せるか、と

 

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

「―――これはまあ、万事上手く云ったのかな?」

 

高く狭い道に設置され歪な形に変形したガードレールの上に座り、真下の光景を眺めながら鏡華はぽつりと呟いた

隣にはガングニールの防護服を纏った奏が同じように座っている

 

結果として、鏡華の考えは上手く云った

彼らの真下には小川が流れていて、鳥が気持ち良さそうに浮かんでいて

近くの土手で響と未来が泥だらけの顔で最近一番の笑みを浮かべて笑い合っていた

 

「もう、心配はいらないな」

 

「だな」

 

防護服を解除し元のコートを羽織る奏

仮面も付けて不審者に逆戻りだ

 

「さて、じゃあ予定とは少し違うけど、飯と包帯買って帰りますか」

 

「おう。飯はあたしの好きなもんな」

 

「出来合いのものだけね」

 

鏡華も防護服を解除し、包帯だらけのコート男に戻る

夕焼けに染まる町を見て、そして一言

 

「そういや―――開いてる店ってあるのか?」

 

「―――あ」

 

その一言で、この日の夕食は無しとなるのだった


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。