【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.ⅩⅨ

翼との約束。奏と会わせる約束

どうやら、その願いは早く叶う事になりそうだ

そう思いながら、鏡華は蹲っていた身体を更に縮めるように丸くした

 

「はぁっ―――ぐぅ……!」

 

胸を抑える。だがそんな事ではこの痛みは抑え切れない

そもそも抑える方法など、今の鏡華には持ち得てなどいなかった

 

「はぁはぁ……ぐぅっ! ごほっ、ごほっ―――ごぼっ」

 

額に玉のような汗を浮かべ、嗚咽を漏らす

途中からはそれが吐くような音に変わり、余計身を縮ませた

汗のように身体全部から流れ出る液体

びり、びり―――と何かを破くような音。それに合わせて痙攣する手足

 

「かはっ! ……はぁ、はぁ―――耐えろ。耐えろ耐えろ耐えろっ」

 

一心不乱に、うわごとのように、耐えろ、と呟き続ける鏡華

真っ暗な部屋の中で、瞼はあらん限りに開かれ、瞳は猫のように凝縮している

カチカチと噛み合ない歯の音だけが鏡華に聞こえる唯一の音

だから聞こえなかった

後ろから足を潜めて自分に接近してくる人影に

人影は足音を立てているにも関わらず、気付いていない

そして、人影が鏡華に覆い被さると

真っ暗な部屋は静かになった

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

見つけたのは、ただの偶然だった

先日響との関係を経ってしまった未来は響が起きる前に部屋を出ていた

こんな気分では誰にも会いたくなく、学校には向かわずに商店街の方に足が向いていた

雨の中を彷徨っていると、突然雨音以外の音が聞こえた

ちらりと見ると、路地裏に少女が倒れていたのだ

放っておくわけにもいかず、未来は少女を背負うとふらわーに運び込んだ

最初はおばちゃんも驚いたが、理由は何も聞かず優しく受け入れてくれた

一先ず少女の服を脱がせて自分が持っていた体操服を着せた

それからは何もする事が無く、店内で座っていた

 

「未来ちゃん」

 

おばちゃんが呼ぶ

 

「はい」

「学校はいいの?」

「……はい、今日は学校、サボっちゃいました」

「そうかい」

 

笑顔で言う

否定も肯定もしない。だけどそれが今の未来にはありがたかった

 

「朝ご飯は食べた?」

「いえ……お腹空いてなくて」

「そりゃ駄目だ。朝ご飯は一日を始める食事だよ。美容にもよくなってテレビでもやってたからね」

「あはは……すみません」

「じゃあ、あの子が目を覚ましたらおばちゃんが作ってあげるよ」

 

おばちゃんの提案に驚く未来

慌ててパタパタと両手を振る

 

「そんな! そこまでは、悪いです!」

「いいんだよ。あたしが作ってあげたいんだから。その代わり、今度お友達と来た時はたらふく食べていってちょうだい」

「――――――はい」

 

おばちゃんには叶わない

そう思いながら未来は嘘の笑みを張り付けて言うのだった

その時、ガラリと開く店の扉

未来とおばちゃんが振り向くとそこには―――

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

響は一人で授業を受けていた

朝、未来が一人で出掛けた事は気付いていた。しかし授業を無断欠席するとは思っていなかったのだ

鏡華に何と言おうか迷いながら学園へ登校すると、ホームルームに担任が、

 

「それと、遠見先生は所用でお休みだそうです。授業は代わりの先生が担当しますから、皆さんは普通に授業を受けて下さい」

 

そう告げたのだ

驚いた響は昼休み、弓美達の誘いを断って、入院している翼の元を訪れた

翼なら鏡華が休んだ理由を知っているかもしれないからと考えたからだ

だが―――

 

「いや? 私も鏡花が休んだのは初耳だ」

 

翼の返答も真逆の答えだった

どうしたの、と翼に問われ、響は自分と未来の事を話した

 

「私、自分なりに覚悟を決めたつもりでした。守りたいものを守るため、シンフォギアの戦士になるんだって。……でも駄目ですね。小さな事に気が乱されて何も手がつきません。私、もっと強くならなきゃいけないのに、変わりたいのに……」

 

「その小さなものが、立花の本当に守りたいものだとしたら、今のままでいいんじゃないかな? 私は、立花は今のままで良いと思う」

 

翼の言葉に響は苦笑した

前に未来に同じような事を言われました、も

やはり奏のように人を励ますと云うのは難しいな

素直にそう思う翼

 

「翼さん、杖を使ってますけど、まだ傷が痛むんですか?」

 

「大事を取っているだけ、気にする程でもない。―――絶唱は肉体への負荷が極大の奏者の秘奥……まさに他者も己も全てを滅ぼす、滅びの歌。その代償と思えば安いものだ」

 

自重気味に言う翼

そんな翼を見て響きは「でも……」と、

 

「でもですね翼さんっ。二年前……私が辛いリハビリを乗り越えられたのは翼さんの歌に励まされたからです! 翼さんの歌が滅びの歌だけじゃないってこと、聞く人に元気を与えてくれる歌だってことを、私は知っていますっ」

 

「――――――」

 

時々ハガキや手紙で見る応援のメッセージみたいな台詞

文面なら嬉しいのだが、面と向かって言われるのは恥ずかしかった

と二人で微笑んでいると、

 

「ここにいたか、翼」

 

声を掛けられた

振り向けば、いつも通りのワイシャツ姿の弦十郎がエレベーターから現れていた

 

「司令……?」

「師匠?」

「ああ、響君も一緒だったか」

「どうしたんですか? こんな時間に」

 

問い掛けると、神妙な顔で二人の前に立った

 

「少し―――いや、とても大事な話を二人きりでしようと思ってな」

「あ、じゃあ私は」

「いや、響君がいるのも何かの縁だ。聞いていってほしい」

「は、はい」

 

響は何かな、と首を傾げつつ翼の隣に腰を下ろす

弦十郎は立ったまま、前置きをすることなく、

 

「話と云うのは―――鏡華の今の身体のことだ」

 

そう、告げた

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

ガラリと入り口に立っていたのは鏡華ともう一人

白いローブで身を包んでおり体型はおろか性別も分からなかった

一方、鏡華はいつものコートに身を包んでいるがわずかに覗くコートの中は包帯らしき白い布が巻かれている。それは今まで隠していなかった首にもしっかりと。それも所々が赤く染まって

 

「き―――鏡華先生!?」

 

ガタッと椅子を倒しながら未来が驚愕する

おばちゃんも驚いた様子で鏡華を見ている

 

「よっ、小日向。奇遇だな、こんな時間にこんな場所で会うなんて。……つか、学校サボった?」

 

「そんなことより! どうしたんですか、その包帯はっ!」

 

「ちょっとした持病みたいなもんだよ。気にすんな」

 

「ちょっとしたって……」

 

鏡華の言いように絶句しながら、未来はもう一度じっくりと鏡華の姿を見た

長ズボンを穿いているので下半身は分からない、腕や胸辺りはコートから覗く包帯の白さと血であろう赤さ、顔なんて青ざめている上にやつれている

とても、ちょっと、と云える状態ではないことは明らかだった

 

「それよりおばちゃん。いきなりで悪いんだけど、こいつに何か作ってくれないかな? こいつ、昨日から何も食べてないんですよ」

 

自分の事を棚に上げ、鏡華はカウンター席に座らせた白ローブを指差しておばちゃんに頼み込む

 

「そりゃあ構わないけど……何があったんだい?」

「持病が出てから、こいつ、俺の事を必死に看病してくれたんです。それで何も食ってなくて……」

 

  ―くぅ~

 

可愛らしい音が鳴った

見れば、白ローブがカウンターにべっちょりと俯せになっている

 

「お腹減った~」

 

綺麗な声

その声で白ローブが少女だと初めて分かった

 

「ふふっ、仕方ないね。未来ちゃん達にも作ろうと思ってたけど、まずはこの子からだね」

 

「すみません。お金は払いますんで」

 

「じゃあ未来ちゃんたちの分もお願いするよ」

 

それぐらいなら、と鏡華はポケットから財布を取り出すと、万札を数枚取り出してレジに置いた

おばちゃんは苦笑を浮かべると、鉄板に火をつけ、慣れた手つきで準備を始める

鉄板が温まると油を引き、具材を焼いていく

 

「お~、う~ま~そ~」

 

「本当にすみません。突然押し掛けた挙げ句作ってもらって」

 

「いいんだよ。鏡華くんは未来ちゃん達と並んでうちの大事な常連なんだから。......それより、その子は誰だい? もしかして鏡華くんの彼女さんかい?」

 

「さあ、どうでしょう」

 

笑みを浮かべて、追求を誤摩化す

それよりも、と鏡華は未来の方を向いた

ビクッと身体を震わせる未来。別に怒られたわけじゃない。だけど身体が無意識に反応してしまったのだ

 

「今日はどうして欠席したんだ? 小日向」

 

「…………」

 

「……質問を変える。前の一件が原因だな」

 

「ッ―――」

 

断言されて、また身体が反応する

鏡華は優しく、「イエスかノーで」とより簡単にした

 

「……イエスです」

 

「そうか。……じゃあ、俺が言える事はあんまないな」

 

あっさりした口調で質問を終えた鏡華は少女の隣に座る

すると、少女が急に声を殺して笑い出した

 

「くくく……」

 

「いきなりどったの?」

 

「いやー、鏡華が先生らしい所を初めて見たからな。つい、おかしくって」

 

「どうせ俺には教職員なんて似合ってませんよーだ」

 

「そういう意味じゃないよ。ただ……そう、新鮮だなって」

 

「……そうかい」

 

言い合いを始める二人

その姿に、未来は胸がわずかに締め付けられる感じがして、

 

「おばちゃん、私、あの子の様子を見てくるね」

 

逃げるようにして、奥の部屋に向かうのだった

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

「鏡華の身体のこと……?」

 

首を傾げ、鸚鵡返しに聞き返す翼

響も頭の上にハテナマークを浮かべている

 

「ああ。翼は鏡華の身体を見た事はあるか?」

 

「私が目覚めた時に一度だけ……でもあれは……」

 

「……? 遠見先生の身体……?」

 

知らない響に、翼が誰にも言わない事を約束させて鏡花の事を話した

完全聖遺物であるアヴァロンを使う代償として不老不死に近い身体と消えないであろう傷痕の事を

 

「そ、そんな……!」

 

「もちろんそれもある。だが、これから話すのはもう一つ……鏡華本人から教えられた、第三者に貸し与えた代償だ」

 

「貸し与えたって……」

 

相手はもちろん奏

だが、響は奏が生存している事を知らない

だから翼と弦十郎はその事は隠して話を続けた

 

「貸し与えた代償は―――定期的に訪れる痛みらしい」

 

「痛み……」

 

「具体的に云えば、その時は“身体中が激しい痛みに襲われ、傷痕から大量の血が流れ、裂傷が身体中に広がるそうだ”」

 

「ッ―――!?」

 

驚きに目を見張る翼

 

「じゃあ―――じゃあ、あの傷は! フォニックゲインが低いだけじゃなかったんですか!?」

 

「ああ。だが、鏡華はこうも言っていた」

 

―――多分、次で最後だから。そしたら、今度はこの傷が癒される番だ

鏡華の声を真似て―――実際はまったく似てなかったが―――弦十郎はそのまま告げた

 

「鏡華……」

 

「……何で遠見先生は、一人で背負えるんですか?」

 

会話が途切れた頃を見計らい、響がポツリと独り言のように訊ねた

視線が自分に向けられているのを、俯いていても分かった響は言葉を連ねる

 

「そんな重過ぎる事を、一人で背負うなんておかしいですよ。私だったら、重さに耐え切れなくなって潰れてしまいます……!」

 

「そうだな、響君の言う通りだ。だが、それが鏡華が決めた道であり鏡華の覚悟の表れなんだ」

 

「遠見先生の覚悟……」

 

「鏡華の覚悟は大人である俺から見ても、かなりのモノだ。多分、世界中を敵に回しても貫き通せるぐらいの、な」

 

それを聞いて、響は疑問が浮かんだ

―――遠見先生の覚悟って何なんだろう

どうしたら、そこまでの覚悟を貫けるのだろうか

考えたが、響にはこれっぽっちも理解できなかった

そして、警報が鳴り響いたのは

そんな時だった

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

少し時間を遡る

場所はふらわーのカウンター

そこには開店前にも関わらず四人の客が席に腰を下ろしていた

 

「あの……鏡華先生」

 

「ん? どした?」

 

「隣の人は一体……」

 

未来の隣に座る鏡華を挟んで向こう側の席には白いフード付きのコートを羽織ったいかにも怪しい人物が、超特盛のお好み焼きにがっついていた

人の三倍は食べる響も驚く量だ

目覚めて、反対側に座ったクリスは視線だけ三人に向けてフォークでお好み焼きを食べている

 

「ああ、こいつ? こいつはえーと…………かなでもん」

 

「ぶふっ」

 

お好み焼きを口に含んでいた奏は少し吹いた

 

「かなでもん? ……先生、いくらなんでも下手すぎます。後、かなでもんさん吹き出してますよ」

 

ジトッとした視線を浮かべる未来

クリスも「下手だな」と言わんばかりの眼で見ながらフォークを口に運ぶ

 

「(うぉい鏡華ッ。何だよかなでもんって。あたしは別に最近生誕五十周年を迎える狸じゃねぇぞ)」

 

「いやいや、この子はかなでもんだよ? ドクター・コン=サートが発明した今世紀最高傑作のアイドル型ヒューマノイド。型式番号KANADE=MON―――通称かなでもんさっ」

 

「(無視かよっ)」

 

「(当たり前です)」

 

語尾に音符が付きそうな言い方の念話で返された少女―――というか、奏

何か言い返そうかとも思ったが、お好み焼きが冷めるといけないのでぐっとこらえ、お好み焼きを食べた

未来は少しの間、鏡華と奏を見ていたが、すぐに諦めたように自分の前に置かれたお好み焼きに視線を落とした

 

「……つーかよ、お前ら何にも聞かないんだな」

 

静寂が嫌いなのか、クリスが無言になって数秒後にそう訊いた

 

「……そう云うのは苦手みたい。今までの関係を壊したくなくて、なのに一番大切なものを壊しちゃったから……」

 

「喧嘩か……あたしにはよく分かんねぇな」

 

「友達と喧嘩したことないの?」

 

「友達いないんだ……。地球の裏側でパパとママを殺されたあたしは、あたしはずっと幼馴染みと二人で生きてきたからな。友達どころじゃなかった。家族同然で接してきた奴はいたけど、ちょっと前にあたしを守るために姿を消して……。理解してくれると思った人も私を道具のように扱うばかりだった」

 

それは未来が経験したこともないこと

深入りしすぎたと思った未来は「ごめんなさい……」と謝った

鏡華と奏は黙って食べながら二人を見ている

おばちゃんもお好み焼きを焼きながら耳を澄ませている

 

「なあ、お前その喧嘩の相手ぶっ飛ばしちまいな」

 

「へっ……?」

 

「どっちが強いのかはっきりさせたらそこで終了。とっとと仲直り―――そうだろ?」

 

「そう、だけど……。やっぱり、できないよ」

 

頷きはしたものの結果として首を横に振る未来

どうして首を振るのか分からないクリスは「分かんねぇ」とそのまま疑問を口にする

 

「ま、雪音の提案も悪かないけどさ。やっぱり、女の子が殴り合うってどうかと思うんだよな、俺は」

 

でも、考えは正しい

と、鏡華は言葉を続ける

 

「殴り合いってさ、うまく言葉にできない時カッとなってやっちゃう、相手に自分の気持ちを伝える会話の一種なんだよね。『どうして分かってくれないんだ』、『何でそれをするんだ』―――って。小日向は話すことができないわけじゃないから、ちゃんと面と向かって話せばいいよ。自分が立花

あいつ

のために何ができるのか、あいつのために何をしたいのか。思い描いたことをはっきりとね」

 

笑みを浮かべながら言う鏡華

未来は鏡華の言う何かを思い描いたのか、「はいっ!」と暗かった表情が一変、綻ばせて微笑んだ

 

「よしっ、じゃあ食え。たっぷり食って栄養とっとけ」

 

「おー」

 

「はいっ」

 

「あ、あたしは……」

 

「食べてるもんね。えっと……」

 

「クリスでいい」

 

「じゃあ、クリス」

 

そんな―――

敵も味方も

表も裏も

子供も大人も関係ない平和な日常

しかし―――

 

突然、街全体に高く重い音が響き渡った

それはクリス以外にとって聞き慣れた音であり

しかし、絶対に聞き慣れたくはない音だった

つまりは、避難警報

ノイズが現れたことを報せるそれが、鳴り響き続けた

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

ガタッと立ち上がった鏡華はそのまま椅子を倒さんばかりに立ち上がる。警報に耳を澄ました

 

「近いな……おばちゃん、火を消して。小日向、雪音。おばちゃんの確認終わったら外行くぞ。かなでもんは急いで完食しとけ」

 

てきぱきと指示をする鏡華を呆気に取られた様子で見つめる女性陣

だが、耳に響く警報で我に返ると急いで指示に従う

全てが完了するとドアを開け、外に出た

街ではすでに住民が一目散に避難場所へ逃げていた

 

「なあ、一体何の騒ぎだ」

 

唯一事情を知らないクリスは逃げ惑う人々とうるさい警報に疑問を抱く

 

「何って……ノイズが現れたのよっ。警戒警報知らないの?」

 

「なっ……」

 

絶句する

ノイズが現れたと云うことはフィーネが差し向けたのだ

他ならぬ自分を捕まえるないし処分するために

そして、その過程に“別の犠牲”があっても関係ないのだろう

―――あたし、大馬鹿だっ

未来がおばちゃんに話し掛けている間に、クリスは駆け出していた

人々が逃げるのとは逆方向へ

 

「あ、クリスッ!?」

 

未来が呼ぶがクリスは応えず人混みの中に消えた

 

それと同時に―――泣き叫ぶ声と身を切るような叫び声

意識は嫌でもそちらへ向けられる

そこには、泣き叫ぶ女性と後ろから羽交い締めする男性。そして―――“ノイズに囲まれて身動きができない幼い少女がいた”

 

「――――――ッ!!」

 

「お願いします! 離してっ!」

 

「無茶言うな! あんたまで死んじまうっ!」

 

「いやっ! 嫌ァ! ともぉっっ!!!」

 

羽交い締めから逃れようと女性がもがくが、男性の方が体格的に圧倒的に有利だ

ノイズの間から「ママッ! ママァッ!!」と呼ぶ声が女性をさらにもがかせる

 

「そんな……」

 

「ちっ……!」

 

基本的に奏は短気だ

特に“こういうこと”に関しては異常なほど

だから、奏は一歩踏み出した

ガングニールを起動させるまでもない

虚空に“騎士王の槍”を具現しようとして、

 

「●~ン―――パ~~ンチ」

 

ひどく間抜けに近い言葉が鏡華から漏れた直後、

 

  ―撃ッ!

 

一体のノイズが盛大に、そう盛大に雨のあがった綺麗な空に舞った

ジャスト二メートル程舞い、灰となって還った

 

「「「「…………え?」」」」

 

男性も、女性も、おばちゃんも、未来ですらポカンとしてしまった

まあ、“あの”ノイズが空を舞えば誰だって驚くだろう

 

「……なんだよ、かなでもん出番ないじゃんか」

 

唯一奏だけが唇を尖らせ、しかし嬉しそうに呟いた

いきなり引き起きた驚愕な出来事に、一同無言

驚きが過ぎて、反応出来てないのだ

一方、全く固まらない存在がいた

殴り飛ばした張本人、つまりは遠見鏡華が

 

「大丈夫? ともちゃんだったかな? 知らない奴に囲まれて怖かっただろうねぇ」

 

「う、うん……?」

 

鏡華はとても良い笑顔を浮かべてともと呼んだ少女に向かい歩く

その間、何故かノイズが襲ってこない

思わず頷くともを抱き上げて立たせ、服に付いた砂を払う

その後はともを抱き上げ、自分も立ち上がった

 

「ねぇ、ともちゃん。ともちゃんだったら、アン●ンマンかドラ●もん。どっちに助けてもらいたい?」

 

「え? え〜っと……アン●ンマン!」

 

「そっか♪ それじゃあ―――」

 

一体今がどう云った状況なのかまったくもって分かっていない(はずのない)鏡華

そして、本当に何でか分からないが、ともが選んだ有名すぎるキャラクターのお決まりの台詞を吐いた

 

「やめるんだノイズマン。ともちゃんを苛めるなら俺が相手だー。……さてと」

 

とっても棒読みすぎる台詞を吐き、もう一度にっこり

そして、“唯一纏わず発動できる裏業、《凶り汚れ果てる理想》を発動”

 

「カモーン、ノイズマン。人の眼もあるし“武装しない”程度には手加減してやるよ。お前らが死なないわけじゃないけどな」


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