【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.ⅩⅥ

「―――いい加減落ち着いたか? クリス」

 

「……落ち着けるかよ。何でだよ、フィーネ……!」

 

ヴァンとクリスはあれから人気のない夜の公園を彷徨っていた

海へと消えたフィーネを探したのだが、見つからなかった

だから一先ず、ヴァンの提案で陸までは戻ってきていた

混乱し、暴れかねないクリスを眺めながらヴァンはため息を吐き、荒事(ライオット)、と呟く

その胸に掛けられた純銀とも云い難い光沢を放つ十字架が静かに揺れる

同時に昔と変わらんな、と苦笑を浮かべる

昔はもう少し柔らかい性格をしていたのだが、それでもヴァンはいつも嗜める役割だった

 

「……何だよヴァン。いきなり笑うなんて気色悪い」

 

「何、昔を思い出していただけだ。しかし、気色はないだろ気色は。せめて気味悪いにしてくれ」

 

こちらに対して軽口を言える程度には立ち直ったのだろう

喉の奥でくくくと笑うヴァン

クリスは「うっせー。気色悪いでいいだろ」と口を尖らせていた

何にせよ、こう暗くてはまともな行動は不可能だ

適当な寝場所を隠して―――、と

そう考えてふと視線を逸らすと、

 

「泣くなよ、泣いたってどうしようも無いんだから」

 

「だって、だってぇ……!」

 

年端もいかない子供がいた

この時間帯ではもう家に帰っているはずの子供

恐らく兄妹だろうか

迷子か、と考えているとクリスがそちらに近寄っていった

 

「おいこら、弱い者をイジメるなっ」

 

「イジメてなんかいないよ! 妹が……」

 

いきなり声を掛けてきたクリスに驚きながら少年は呟く

その途中で少女はさらに泣きだす

 

「苛めるなって―――」

 

「だから落ち着けクリス」

 

  ―ぽかり

 

腕を振り上げたクリスの頭をヴァンが小突く

何で自分が叩かれたのか困惑するクリスにヴァンは肩を竦める

 

「まったく……荒事(ライオット)じゃないが、面倒臭いことに変わりないな」

 

そう言うと、ヴァンは泣いている少女の前にしゃがむと握り締めた拳を突き出す

 

「ふぇ……」

 

「ジャンに習っておいて正解だったな。―――(ワン)(ツー)(スリー)

 

  ―ぽん

 

軽快な音を立てながら拳を開く

拳から出てきたのは一羽のハト

無論純白ではなくそこら辺にいる普通のハトだ

少女は最初驚いていたが、「お兄ちゃん凄いっ!」と喜び泣きやんでいた

隣で立っていた少年も同じように驚いている

 

「……で? 何で泣いていたんだ?」

 

「……お父さんがいなくなっちゃったの……」

 

「それで探してたんだけど、もう歩けないって言って……」

 

それで、こんなところで泣いていたのだろう

クリスは「はっ、迷子かよ。だったら最初からそう言えよ」とぼやいていたが

―――勝手に決め付けたのはクリスだろうが

だが、こんな二人を見ているとまた自分達の昔を思い出す

やれやれ、とヴァンはため息と共にこぼすと、少女を持ち上げ自分の後ろ首に乗っけた

ようするに肩車だ

 

「ヴァ、ヴァン? 何してたんだよ」

 

「出会ってしまったものはしょうがないだろう。小僧、一緒にお前達の父親を探してやるから、まずは人がいる場所へ行くぞ」

 

「う、うん!」

 

ヴァンは自分を見上げる少年に言うと「しっかり掴まっていろ」と少女にも声を掛け歩き始めた

クリスは「このお節介」と呟きながら少年の手を掴みヴァンの後を追った

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

こんな時間帯―――とは云っても、大体九時を回った頃にはヴァン達ぐらいの子供の姿は皆無に等しかった

もっとも、ヴァンは現在身長が170以上あるので学生とは思われないだろう

 

人工の灯りで照らされた商店街をヴァン達は当てもなくさ迷う

ヴァンは無言だったが、クリスは知らない内に歌を口ずさんでいた

そんなクリスをヴァンの肩の上から少女が見ていた

そのことにクリスが気付くと「何だよ」と見上げる

 

「おねーちゃん、歌、好きなの?」

 

「……歌なんて大っ嫌いだ。特に壊すことしかできないあたしの歌はな」

 

え? と少女は聞き返すが、クリスは無言を貫く

これ以上何も答えてくれないと悟ったのか、今度はヴァンに話し掛ける

 

「ハトのおにーちゃん」

 

「…………何だ」

 

かなり間があったが、ハトでショックを受けたわけではないだろう

きっと。多分

 

「ハトのおにーちゃんとおねーちゃんって、こいびと?」

 

「「ぶっ!」」

 

同時に吹いた

これが同年代ならば死刑判決なのだが、相手は十くらい違う少女

手は出せない

 

「……生憎とそんな関係じゃないな。だいたい、お前らガキにはそんな話はまだ十年早い」

 

「え~、そんなことないよ。友達のむっちゃんはみっちゃんともうキスまでしたって言ってたよ」

 

「今時のガキって奴は……。何で、そう変なとこの成長速度は異様に早いんだ。ゆとり世代かよ」

 

ゆとり世代だからと云ってもそんなとこは至極関係ない

強いて云うならば、ヴァンが言った「今時」の方が近いと思われる

まあ、数年“表側”の世界にいなかった二人にとっては本当に今時なのだろう

 

「じゃあ~……家族? それともきょうだい?」

 

少女の追求はまだ続く

 

「そんな感じだ。だからこの話はやめろ」

 

「そうなんだ。じゃあおにーちゃんとおねーちゃん、“結婚”してるんだね」

 

「「だから聞けよっ。つーか何でだよっ!」」

 

見事にハモり、お互いを見て、慌てて視線を逸らす

頬が赤く、熱くなっているのがはっきりと感じられた

―――何でこんなガキに翻弄されなければならないんだ

荒事《ライオット》などではないが、本当に面倒

さっき呟いた通りだった

 

「家族なのに結婚してないの? どーせーしてるの?」

 

「本当に今時のガキは……もう、勝手に決めろ」

 

「お、おいっ、ヴァン!?」

 

「諦めろクリス。なんつーか……諦めろ」

 

「……おう」

 

遠い眼をされて言われてしまうと、もう何も言えない

ヴァンとクリスは少年少女の質問をテキトーに、本当にテキトーに答えていくのだった

 

しばらくその精神攻撃を受けていると、突然少女があ、と声をあげた

少年も見つけたのか、「父ちゃんっ」と嬉しそうに、こちらに向かってきた男性に駆け寄った

ヴァンが少女を下ろすと、少女も一目散に走り寄る

 

「お前達っ。どこ行ってたんだ。心配したんだぞっ」

 

「ハトのおにーちゃんとおねーちゃんが一緒に迷子になってくれたのっ」

 

「違うだろ、一緒に父ちゃんを探してくれたんだ」

 

「そうだったのか……。すみません、ご迷惑をお掛けしました」

 

父親は少女の手を握るとヴァンとクリスに頭を下げる

父親が促すと兄妹も揃って頭を下げた

 

「いや、成り行きだったし、その……」

 

「頭を上げて下さい。こちらもなかなか楽しい時間でしたから。見つかってよかったなお前達」

 

クリスは照れて、そっぽを向き、ヴァンは珍しい敬語で応対する

ヴァンの言葉に妹はうん! と頷く

仲良いんだな、とクリスが呟くのが聞こえる

確かにすごく仲が良い兄妹だ

 

「なあ、どうしたらそんな風に仲良くできるのか教えてくれよ」

 

思いついたようにクリスが兄妹に向かって聞いた

二人は顔を見合わせると、少年が「そんなの分かんないよ」と答えた

 

「仲良くても、いつも喧嘩してるし……」

 

「喧嘩しちゃうけど、何時も仲直りして仲良しなのっ」

 

兄の腕に抱き着きながら答える少女にクリスは「……そっか」と呟く

ヴァンはそんなクリスを横目で見てから、父親に会釈する

 

「それでは俺達はこれで。―――行こうクリス」

 

「……ああ」

 

行く宛などないので、二人は元来た道を戻る

後ろから声が聞こえたが、応えることはしなかった

しばらく歩き、再び公園に着いてしまった

 

「さて、これからどうする? クリス」

 

「フィーネの屋敷に戻る」

 

即答だった

最初混乱していたのが嘘のようだ

 

「今だって頭ん中ぐちゃぐちゃで何が正しいか分かんーよ。だけど……フィーネに問い詰めなくちゃならねーんだ」

 

「……………。ああ、そうだな」

 

頷くと歌を紡ぎ防護服を纏う

クリスもイチイバルを

誰もいない公園を飛び出すヴァンとクリス

目的は違えど、ただ一つ


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