【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~ 作:風花
鏡華は起きると、イスに腰掛ける
大きく欠伸して響を見る
「さて、立花。今日来てもらったのは少し訊きたいことがあるからなんだ」
「訊きたいこと、ですか……?」
首を傾げて未来を見る
未来は「私にも分かんないよ」と当然の言葉を返す
翼はベッドに腰掛けて黙っている
「以前立花のプロフィールを見たんだけどな? 趣味が人助けって書いてあったんだけど、あってるか?」
「え。あ、はい」
「それは何故? 何故人助けなんて“何の得にもならない”ことをしているんだ? ノイズに襲われている奴相手でもそれができるのか?」
わずかに険しい表情で訊ねる鏡華
それがノイズとの戦う理由を聞かせてくれと暗に告げているように響には思えた
翼に視線を送ると肯定するように頷かれた
しかし、響は真剣な面持ちで「……よく分かりません」と答えた
「勉強やスポーツは誰かと競合わなきゃいけないけど、人助けって誰かと競わなくていいじゃないですか。私には特技とか誇れるものが無いから、せめて自分に出来ることでみんなの役に立てればいいかなぁって」
照れるように笑うが、今回は鏡華も表情を変えることはない
響も笑みを消すと思い出すように窓から空を見上げた
「きっかけはやっぱりあのライブからだったかもしれません。あの日、奏さんを含めてたくさんの人が亡くなりました。でも、私は生き残って今日も笑ってご飯食べたりしています。だからせめて、誰かの役に立ちたいんです。明日もまた笑ったり、ご飯食べたりしたいから」
―――人助けがしたいんですっ
そう言って響は笑う
響の後ろで未来はわずかに気圧された気分でいた
少し前まで彼女の人助けは本当にただの“趣味”でしかなかった
だけど―――何故だろうか
今の雰囲気で聞くと―――すごく違う
まるで別人みたいだった
鏡華は一瞬だけ笑うと、ぱん! と手を打つ
「なら立花。お前がもしノイズすらも倒せる力を手に入れ、その時思っていることは?」
「一秒でも早く助けに行きたいです! 最速でっ。最短で! 真っ直ぐにっ! 一直線に駆けつけたい!!」
「なら敵が同じ人間だったならっ?」
「どうして戦わなくちゃいけないのかっていう胸の疑問を―――私の想いを届けたいと思いますっ!」
「ならその胸に秘めたる思いをできるだけ、強く、はっきりと抱き続けろ。そうすればお前の力になってくれるはずだ」
その言葉を受け、響は「はいっ!」と頷く
「そして小日向」
「は、はいっ」
「前にも言ったけど、小日向はどんな時も立花を信じろ。たとえ嘘をつかれていたとしても許してあげてほしい。お前達の絆は互いを支えあえる大切なものなんだからっ」
突然振られた未来も響と同じように返す
よし、と鏡華は頷くと、
「じゃあ早速―――二人でふらわーのお好み焼き買ってきて」
―ずるぅ
その台詞を聞いた瞬間、翼も響も未来も一様に、派手に滑った
――格好良い台詞が台無しっ!! ――
直後、三人からツッコミを入れられたのは最早言うまでもないだろう
~♪~♪~♪~♪~
響と未来を見送った鏡華は翼を伴い屋上へ来た
既に点滴も終了していたので補助の杖を突いて歩く翼
「やっぱりあの二人ってどこか俺達に似てるんだよね。翼もそう思わない?」
「そう? そこまで似てないと思うけど……」
「あそこまで仲がいいとこ。片方が嘘をつかなければならない秘密を抱えていること―――」
指折り数えていく
挙げられるだけ挙げた鏡華は折った指を広げる
「ほら、いっぱい」
「……まあ、そうかもしれない」
座りなよ、と鏡華
お気遣い結構です、と翼
「それより……鏡華」
「うん?」
「鏡華の覚悟って、何? 鏡華はどうして―――戦うの?」
「……………」
ふっと鏡華は笑う
まるでそれが当たり前のように答える
「俺は翼と奏のために戦っているんだ」
「――――――」
「翼と奏のためにならどんなこともできるし、どんなこともする。相手が誰であろうと二人のためになら戦う。世界だって相手にしてやる」
これが俺の覚悟―――戦う理由だよ
表情をまるで変えず―――いや、心の底から笑って答える
その答えに嬉しさがこみ上げてくる
その時、鏡華のケータイが鳴る
またか、と思いながら鏡華は取り出し耳に当てる
「はい、遠見です」
『鏡華、ネフシュタンが現れた! 響君のすぐ近くだっ! 響君にも連絡した!』
「なっ……! すぐ行くっ!」
ケータイをしまうと、「くそっ!」と悪態を吐く
「ノイズか?」
「いや、ネフシュタンだ。しかも……立花の近くだ」
「ッ、もしかして……」
「そのもしかしてだ。―――行ってくるっ」
背を向けると駆け出し、柵を飛び越える鏡華
下から生徒の叫び声が聞こえ、その後に「おっと、驚かせて悪いな!」と鏡華の声が聞こえた
くすっと翼は忍び笑うと、
「私もうかうかしてられないな」
そう言って柵に背を向けた
~♪~♪~♪~♪~
不幸だった
やっぱり私って呪われてるのかなぁ、と思わずにはいられない響
鏡華の頼みでふらわーに行く途中弦十郎から連絡が入り、ネフシュタンのあの子がこちらに向かってきているという知らせを受けた
だから響はごめん、と謝って駆け出したのだが
二人の間をあの子が攻撃したのだ
どちらも攻撃を受けることはなかった
なかったが―――攻撃を受けた車両が宙を舞い、未来に落下していたのだ
このままでは見殺しだ
だから―――響は歌った
歌い―――防護服を纏い
―撃ッ!
落ちてきた車両を拳で受け止め、殴り飛ばした
その姿を―――見られた
「ひび、き……?」
「ッ……ごめん、未来」
もう一度謝った響は巻き込まないように森へ消える
クリスも当然のこと、それを追いかける
呆然と見ているしかない未来
そんな未来に、誰かが手を差し伸べる
「大丈夫か」
「えっ……」
見上げると、そこには鎧に身を包んだ少年が立っていた
大体自分と同じ位か一個上
黒髪赤瞳の無表情な少年だった
「悪かったな、戦闘に巻き込んで。あいつもやりたくてこんな
少年は未来の手を掴むと立ち上がらせる
そこでふと眼が彼の手に握られたモノにいく
黄金の剣だ
その時、
「―――おい、ナンパか。夜宙ヴァン」
声が聞こえた
後ろからだったので振り向く
そこには息を切らした鏡華がこちらを睨んでいる
初めて見る表情にわずかに恐怖する未来
「ナンパなら好きにしろと言いたいが、生憎とそいつは俺の生徒だ。手出しするな」
「ふん。この恰好でナンパなどできるものか。それとも―――この場でやるか?」
ちゃき、と剣を―――エクスカリバーの切っ先を鏡華に向けるヴァン
その行為に驚く未来
だが、鏡華は驚くことなく諸手を挙げる
「やるか、馬鹿。小日向が怪我したらどう責任取るつもりだ」
「……ま、そうだろうな。俺も無意味な殺傷はやりたくない」
かすかに笑うと切っ先を地面に落とす
一息ついた鏡華は小走りで未来に近付く
「大丈夫か小日向」
「は、はい。でも……響は」
「……そうか。知っちゃったんだな」
鏡華の言葉に未来は頷く
そして、鏡華が響と同じ隠しごとをしていることを
直感で感じてしまう
頭の中がぐちゃぐちゃだ
何が何だか訳が分からない
「ネフシュタン少女はどうした」
「立花響の挑発に乗って場所を変えている。居場所は“お前達”の方が把握しているんじゃないか。ああ、それと安心しろ。ノイズは今回は操れない。小日向、だったか? ここに残しても大丈夫だ」
「……そうか。―――旦那、そう云うわけだから一応スタッフを何人か寄越して小日向の保護をお願い」
通話中にしていたケータイを取り出し言う
スピーカーにしていたのか、未来の耳にも男性の声が聞こえた
ケータイをしまうと、鏡華は未来に向き直る
「小日向。そういうわけだからここにいてくれ。すぐに黒服の怪しい人達が来るけど、保護してくれるから」
「……はい……」
「……ごめんな。また後で俺から説明する」
そう言うと歌を口ずさむ
すると、一瞬の内に鏡華の服装が変わった
まるで現代に蘇った騎士
―――来い、夜宙ヴァン、と
声を掛けると短い助走で跳躍し森の中へ入っていく
続いてヴァンも「やれやれ」と呟きながら入った
残った未来は呆然と近くの柵へ近付く
そこからなら歌と衝撃音が聞こえ、見えた
それらを聞いていると、自分の頬に冷たい何かが一筋伝うのを感じた
感情がぐちゃぐちゃになるのを心の奥底から感じながら
未来はただ、涙を流し続けていた