【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.ⅩⅡ

「だって……だって、俺はもう―――俺と奏は翼と同じ時間を生きられないんだ」

 

鏡華の言葉は翼にとって意味が分からなかった

言葉の意味だけは判別できる

だけど、その理由が見つからない

 

鏡華は絡めた手を離し元のイスに座る

 

「俺は十五年前、両親と旦那の四人でとある遺跡見物に出掛けたんだ。そこでノイズの襲撃を受けて、俺と旦那以外助からず遺跡も全壊した……ってのは以前話したことがあったよね?」

 

「うん」

 

「その時は話さなかったけど……その時、俺は腕が炭化したんだ」

 

「え……っ!?」

 

「お父さんとお母さんの機転でその遺跡で偶然見つけたアヴァロン―――騎士王の鞘を埋め込んだおかげで腕も再生、怪我も擦り傷程度になったんだ。でも、二人はその埋め込んでいる最中に炭化」

 

「そう、だったんだ……」

 

翼はまさかそんなことがあったなんて知らなかった

教えてもいないのだから知らなくて当然だが

 

「そして俺は旦那に引き取られ、極秘に体内の鞘を調査。それで正式に聖遺物って分かってアヴァロンになったんだ。当時は発動せずにいたから反応を検知されずにいた」

 

「あ、だから鏡華は研究施設にいけたんだね。叔父様といるのはてっきり寂しいのかと……」

 

翼の言葉に鏡華は苦笑する

―――まあ、確かに良い隠れ蓑にはなったね

 

「で、奏にも会って、二人といたいから必死に音楽の勉強して、どうにかソングライターの座を手に入れて―――あの事件が起きた」

 

「ノイズのライブ襲撃……」

 

「うん。あの時、俺は奏を死なせないためにアヴァロンを無理矢理発動させた。奏を助けられたから後悔とかはまったくないんだけど……アヴァロンの代償に少し落ち込んだかな」

 

「……代償」

 

「そう、代償。そもそも絶唱は奏者に対する負担を完全に無視した自爆技。奏みたいに身体がぼろぼろだと身体が消滅するらしいし、翼みたいに適合率が高くとも瀕死まで追いつめる」

 

身に染みたでしょ?

そう訊く鏡華に翼はこくりと頷く

今思い出せば、どんなに危険なものか怖くなってくる

あの時の痛みは忘れようもない

 

「でも、鏡華は少ししか血を吐かなかったよね? 私はてっきりアヴァロンの治癒能力が高いんだと……」

 

「まあ、その予想は概ね間違ってないけど……代償はもっと別のモノだったんだ」

 

鏡華は手袋をはめた手を見つめ、胸に当てる

 

「代償は二つあってね、一つは―――不老不死。一度発動すれば、殺されても死なないし、死にたくても死ねない。老いもしないし、成長もしない。伝承通りの能力だよ」

 

だけど、と

こんなもの奇跡でもなんでもない

ただの―――呪いだ

 

「ッ―――、そんな……」

 

「これは一度身に埋め込むと解除が不可能だ。そして―――俺は知らずに奏に“埋め込んだ”」

 

「あ……」

 

「これは後で気付いたんだけど、アヴァロンを分割して埋め込むと不老不死はなくなるみたいなんだ。だけど、成長速度はかなり遅くて、怪我をしてもすぐに治る。寿命まで生きて―――死ぬだけ」

 

それに、と鏡華は言うと

手袋を外した

露わになった手を見た翼は眼を見開き絶句し息を呑む

昔は華奢で白く、女の子みたいだと思っていた手は―――

ほとんどの面積を裂いたような傷が占拠していた

それもただ裂いたような傷跡でない

ただ裂いた箇所を無理矢理広げたような傷

肉が見えているわけではないが、血がまるで肉のように傷の中で固まっている

 

「ッ―――!?」

 

「どうやら俺は櫻井教授曰くのフォニックゲインって奴が高いわけじゃないみたいだ。だからこんな風に身体に付加が掛かっている。もし、これが普通の完全聖遺物だったら発動しないだけ。だけど―――ネフシュタン以上の治癒能力が仇になったのかな?」

 

「そん、な……」

 

手を裏返し、手の平を上に向ける

手の平にも傷跡はびっしりと刻み込まれている

鏡華は自身の手を数秒見つめると、手袋をはめなおす

 

「分かった? これが俺が翼といられない理由。もちろんこれから十年ぐらいは一緒にいれる。だけど、俺は翼が生きている間は絶対に年を取ることができないんだよ」

 

「…………だから、なに」

 

「え……」

 

「だから、それが何だって言うの!?」

 

ぐいっと鏡華の胸ぐらを掴むと自分の方へ引き寄せる

ああ、殴られるかな、と思った鏡華はされるがままを受け入れ、眼を瞑る

そして、次の瞬間に感じたのは、

 

「んっ……」

 

「むっ……」

 

唇に感じる柔らかい感触

何が何だか分からず眼を見開く鏡華は、超近距離に迫った翼の顔を見遣る

唇はわずかに逸れていたが、だいたいが重なっている

それでも、本当に柔らかく、抗えないであろう感触

それを認識した瞬間、顔が離れる

 

「な、なななんで……!」

 

「鏡華ッ!」

 

「は、はいっ!」

 

「私のこと、好き!?」

 

「はいぃっ!?」

 

「好きか嫌いかっ。はっきり言いなさい!」

 

「だっ、大好きですっ!!」

 

翼の迫力があまりにも恐く

直立(のような感じ)で答えてしまう鏡華

翼はだったら、と続ける

 

「私のことが好きならっ―――ッ」

 

「えっ、ん……!」

 

翼は漏らしそうになる嗚咽を隠そうと、もう一度鏡華の唇を自分の唇に重ねる

今度は初めから一番深く重なった

鏡華は困惑していたが、重なった唇に新たに加わる感触を感じると

一度唇を離し、お互いの呼吸を整えてから

再三、しかし今度は鏡華から唇を重ねた

 

誰かがこんなことを言っていた気がする

初めてのキスはとても甘いモノだと

―――んなの、真っ赤な嘘じゃねぇか

鏡華はキスに没頭しながら内心で吐く

一度目は驚きで柔らかいって云うぐらいしか分からなかった

二度目、三度目は―――

少ししょっぱくて―――すごく切なかった

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

「ねぇ、鏡華」

 

「うん?」

 

「私も……私にもアヴァロンを埋め込んでくれない?」

 

「……………」

 

「成長速度は遅くても少しは早くなったんだよね? だったら私も埋め込めば、もっと早くなるんじゃないかな。そうすればある程度元に戻れるし、何より私達三人とも最後まで一緒にいられる」

 

「…………確かにそうかもね」

 

「じゃあ―――」

 

「―――でも、今は駄目」

 

「ッ―――、どうして?」

 

「たとえ本気だとしてもこんな大切なことをこんな風に考えるのはよくないから。少なくとも翼には考える時間があるんだ。だから、考えて欲しい。俺達が考えられなかった分まで」

 

鏡華はしゃがむとベッドの端に腕を交差して置き、その上に頭を乗せる

その時、ケータイが鳴る

翼は自分のを見るが、自分のは鳴っていなかった

鏡華は「俺か」と呟くとそのままの姿勢で耳に当てる

 

「はい、遠見です。ああ、緒川さん、どうしたんですか? ええ、まあはい。……あ~、じゃあ俺からの頼まれごとっつーことで立花にも連絡しといて下さい。ああ、お友達もいいよとも。ええ、了解です、お気を付けて」

 

ケータイをしまった鏡華は視線だけを上げる

翼が少し膨れっ面をしていた

 

「……鏡華けーわい」

 

「はい、そこ逃げない。立花だってあれから色々悩んでたんだ。たぶん小日向も来るからシンフォギア関係は話せないけど―――そろそろ向き合ってみようよ」

 

「……………」

 

「ちなみに俺はちょっと睡眠不足だからこのまま寝させてもらいます。俺の助けはないと思ってね」

 

「……分かった」

 

「素直でよろしい」

 

鏡華は微笑むともぞもぞと身体を動かし

最適な姿勢になると―――数十秒後、すぐに寝息を立てて寝入ってしまった

本当に寝不足だったようだ

翼は鏡華の髪を梳くと仕方ないように微笑み、こちら側の手の下に自分の手を差し入れた

 

戦士(つばさ)は楔は解き、新たな絆を紡ぐ

そして―――待つ

自分が否定した少女がどんな覚悟を持ち、ドアをくぐるのを


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