【修正中】戦姫絶唱シンフォギア ~遥か彼方の理想郷~   作:風花

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D.C.Ⅹ

防衛大臣であった広木が殺害され、数時間が経過した

あれから、二課では上層(うえ)からの命令でサクリストD―――デュランダルを現在保管されている最深部アビスからの移送が決定された

移送先は記憶の遺跡と呼ばれる特別電算室

鏡華も知らない場所

弦十郎は「お上の威光には逆らえんさ」と言っていた

決行時間は05(マルゴ):00(マルマル)―――つまり明朝五時

鏡華と響はそれまで二課内で休息を命じられた

 

「鏡華。奏はどうしておいたんだ」

 

「一応、俺の唱で身体を隠しておいた。記憶の遺跡に移送し終えたらすぐに帰るつもりだよ」

 

「そうか……」

 

弦十郎とはそれきりだった

どちらも広木のことが口に出てしまいそうだったからだ

 

通路を歩いていると響がソファに座っていた

落ち込んでいるように見えるが、

 

「おい立花。その恰好だとパンツ見えるぞ?」

 

「へぅ!?」

 

鏡華が声を掛けると変な悲鳴を上げながら足を下ろす響

遠見先生、と呼ばれ「うん」と返しバックを挟んで隣に座る

 

「どうかしたの?」

 

「いやぁ……未来のことで……」

 

「……そっか。また嘘を吐いてきたんだ」

 

「はい……。未来、きっと怒ってるだろうなぁ」

 

「だろうね。でも、小日向は怒らず困った顔をしそうだ」

 

そうかもしれないです、と響はまた膝を抱えようとする

慌てて止める鏡華はそこで咳き込む

抱えるはずだった手は空振り、代わりに手元のテーブルに置いてあった新聞紙を掴み、捲る

何気ない仕草で捲ったページに眼を落とすと、そこにはグラビアアイドルの扇情的な写真が載っていた

 

「ひっ!?」

 

「ごほっ、けほっ……どうした―――って、ああ、グラビアか」

 

「お、男の人ってこういう写真とかすけべぇな本とか好きですよねぇ!? もしかして遠見先生も好きなんですか?」

 

「いや、俺は嫌いかな。見ていて不快」

 

「そ、そうなんですかぁ……それはよかった……」

 

いや、別に響はどっちでもいいのだが、未来が少しショックを受けそうなので

響は内心ほっとする

新聞紙を元に戻すと、今度は裏面が眼に映る

一面の半分以上を占める翼のアイドル休止情報だった

大文字で過労で入院と書かれている

 

「これ……」

 

「情報操作も僕の役目でして」

 

「緒川さん……」

 

いつの間にか緒川が眼の前に立っていた

相変わらずの黒スーツだ

 

「翼さんのことですが、一番危険の状態を脱しました。ですが、しばらくは二課の医療施設にて安静が必要です。―――月末のライブは中止ですね」

 

ファンの皆さんにどう謝るかお二人も考えてくれませんか、と続ける

鏡華はほっとしながらもフォローを入れておく

 

「緒川さん、俺は構わないけど、その言葉だと響も悪いって言ってるようなものですよ」

 

「あっ……いや、そんなつもりは。すみません響さん」

 

取り繕う緒川に響はくすくすと笑う

緒川も「はは……すみません」と謝る

 

「伝えたかったのは、何事もたくさんの人間が少しずつ色んな所からバックアップしていると云うことです。だから響さんも、もう少し肩の力を抜いても大丈夫じゃないんでしょうか」

 

優しいんですね、と響

恐がりなだけです、と緒川は返す

本当に優しい人は別にいるとも

 

「ありがとうござます、少し楽になりました。私、はりきって休んでおきますね」

 

二人との会話である程度気持ちが晴れたのだろう

響はそう言うと頭を下げ、仮眠室へ走っていった

それを見送る鏡華と緒川

 

「翼さんも響さんくらい素直になってくれたらなぁ」

 

「あいつは立花以上に素直ですよ。ただ、それを面と向かって出せないだけです」

 

「……幼馴染としての意見ですか? それとも……」

 

「その両方ですよ」

 

鏡華は笑うと頭を下げ、自分も与えられた仮眠室へ向かう

一人見送った緒川は、

 

「鏡華君はもっと仲間を頼るべきですよ」

 

一人、そう呟いた

 

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~

 

 

 

天下の往来独り占め作戦

妙なネーミングセンスで付けられた作戦名に若干やる気が削がれながらもそれぞれ持ち場についた

デュランダルは了子の車両に

響も同じくそこに

その自動車を四台の黒塗りの車両に二人で護衛

弦十郎はヘリで上空から監視

鏡華はここに

 

朝早いので一般車両はあまり通らない

それに加えて封鎖も加えているので、誰も通ることはない

響、了子が乗る車両は十字に護衛の車を伴い普段出せない速度で走らせる

上空からは鏡華と弦十郎がヘリから身を乗り出して周り約数十メートルを監視

 

そして―――それは突然に発生する

突然、了子達が乗る車両の通過直前の橋の一部が砕け、落ちた

 

「ッ、了子さん!」

 

「ッ―――!」

 

冷静にハンドルを右に切り、落下を免れる

その代わりなのか、左側を護衛していた車両が避けきれず落下した

 

「ッ―――旦那ッ、乗ってた人達は!?」

 

「全員無事だ! ……下水道だ! 下水道から来ているぞ!」

 

今、響と了子の乗った車両が過ぎた瞬間にマンホールから水が噴き出た

後方を走っていた車両はちょうどその衝撃を受けて吹き飛ぶ

さらにもう一台同様に吹き飛び響と了子の乗る車両に落ちるが、ぎりぎりの所で避けた

 

「わざと当てないようにしている……? やっぱ完全聖遺物(デュランダル)が目的か」

 

「相手がデュランダルの確保なら、敢えて危険な場所に滑り込み攻め手を封じるっていう寸法だ!」

 

鏡華と弦十郎が同時に叫ぶ

この時、護衛の車両は最後の一台もノイズに奇襲され爆散

残りはデュランダルを運ぶ響と了子の車両のみ

故に弦十郎は近くの薬品工場へ行くように指示

 

『勝算は?』

 

「思いつきを数字で語れるかよ!」

 

その叫びを聞き、了子は工場敷地内へ車両を滑り込ませる

だが、運悪く地面に敷かれていたパイプにタイヤを取られ、転倒した

 

「南無三!!」

 

「ッ、旦那! 俺が行くっ!」

 

言うと同時にヘリから飛び降り、騎士甲冑を纏う

さらにプライウェンを具現

その上に飛び乗る

 

  ――空航る聖母の加護――

 

盾にして船

それがプライウェンのもう一つの姿だ

滑るように空を舞い、降りていく

次の瞬間、

 

  ――天降る流れ星(シューティングスター)――

 

天空より黄金の雨が鏡華に降り注ぐ

否―――それは剣

星が鍛えし幻想剣!

 

「ッ―――!」

 

  ――護れと謳え聖母の加護――

 

船としていたプライウェンを盾として掲げ、黄金の剣を防ぐ

だが、空を飛ぶ方法を失った鏡華は黄金の剣が当たれば当たるほど落下の速度は増していく

 

「あんの野郎……薬品工場でなんてモン撃ち放ってんだ」

 

悪態を吐きながら盾を上に掲げながら体勢を整え、地面に着地する

眼の前で車両の爆発で吹っ飛ばされ、倒れている響と

 

「――――――」

 

詳細の不明な障壁でノイズを防いでいる了子の姿

衝撃の影響でか、了子の髪留めと眼鏡が吹き飛ばされ素顔とストレートに戻った髪が露わになる

それを見て、鏡華はわずかに見入ってしまった

その姿、その髪、その謎の障壁―――

 

―――まさか……?

 

「呆けている暇はないぞ遠見鏡華」

 

いつの間に後ろを取っていたヴァンがエクスカリバーを上段から振り下ろす

横っ飛びに避けると、鏡華は手にロンを具現し、投擲

弾くように軌道を逸らすと、鏡華へ向かって突貫

袈裟に振り、次いで振り上げ、蹴りも交ぜた横薙ぎを

避け、ロンで防ぎ、カリバーンで交差させる

一拍呼吸を置くと、わずかに距離を取る

 

「……面倒臭いな、ほんと」

 

「まったくだ。だが、俺はどうしてもお前の聖遺物が必要なんだ。それがあれば……」

 

「やめておけ。アヴァロン(これ)はお前が思っているほど良いものじゃない。人を不幸にする」

 

「……ふん。話は終わりだ。あちらも始めている。こちらも始めよ―――」

 

その刹那

 

  ―輝ッ!

 

ある方向から凄まじい光が発せられる

同時に何らかのエネルギーが風を巻き起こす

弾かれたようにそちらを向けば、響がデュランダルを握り立ち尽くしていた

 

「なに……」

 

「完全聖遺物の覚醒……だと」

 

ありえない、とは云わない

鏡華本人も完全聖遺物を覚醒させているのだから

だが、それでも言いたかった

ありえない―――と

 

「おい遠見鏡華。デュランダルの伝説を簡潔に話せ」

 

鏡華と同様に呆然と眼の前の光景を見詰めているヴァンが呟く

 

「デュランダル―――フランスの叙事詩に登場する聖剣。聖と云う名を冠するだけあり、その柄には聖母マリアの衣服の一部や聖ペテロの歯など数多くの聖遺物が納められている。恐らく伝承にある無限の力と高き切れ味はそこからだ」

 

「ちっ……貴様が最強の守りなら、あれは最強の攻めと云ったところか」

 

分が悪すぎる、とヴァンは吐き捨てる

 

(アレがあれば……どうにかなるのに……!)

 

同時に駆け、クリスの元へ

 

「クリス、撤退だ。相手が悪すぎる」

 

「だ、だけどデュランダルは……あたしは……」

 

「いくら完全聖遺物(ネフシュタン)だろうと―――いや、ネフシュタンだから不味いんだ。まだいくらでも機会はある」

 

「……………」

 

ちらりとクリスは響を見る

鏡華が話しかけているが、まったく反応しない

それどころか、こちらに向けて黄金の光を放つデュランダルを振り下ろしてきた

 

「ッ―――」

 

「退くぞクリス」

 

半ば引っ張られるようにクリスはヴァンと共にその場を後にする

残った鏡華は防ぐことなどできず振り下ろされる範囲から避け、様子を見届けることしかできなかった

 

結局―――

護送計画は何がなにやら分からないまま中止の運びとなった

薬品工場は響が振り下ろしたデュランダルの一撃で中枢塔が両断こそしなかったものの、内部まで切断されていた。さらに敷地内は戦闘により半壊

工場閉鎖は余儀なくされた

 

そして―――

 

「櫻井教授。さっきの障壁(バリア)は一体……」

 

「いいじゃない、別に。みんな助かったんだしィ」

 

「……………」

 

一つだけ確信できた

櫻井教授は。櫻井了子は、“了子おばさん”は―――

ようやく見つけた“目的”の可能性が高いと

確信、してしまったのだった


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