【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪(ryure)

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86話 小屋

 ここ、鬱蒼とした、というのには若干人の手が加わって道があるって感じだ。もちろんサザンビークとベルガラックを繋ぐ道よりは細いし木もいっぱいだけど。陰気って程でもないけどね!

 

 魔物は相変わらず飽きもせずに私たちに襲いかかっていて、そろそろ奇襲に対応出来てきてるんだけど。というか奇襲というのにはあまりにもひっきりなしなもんだから奇襲みたく襲いかかられても成立してないんだけどね! 残念! 死角から襲ってるつもりでもさ、もはや反射的に見のせずに切り裂けちゃうね、ここんところ戦いっぱなしだし、レベル上がったのかな!

 

 今なら真空波を物理的に起こせる気がする……あ、出来た。ほとんどやらないけどエルトも出来たっけ。え、魔力いるの? こうやって、こう! これで物理的にできるから次から節約できるんじゃない?え、無理?

 

 ま、サイコロステーキにするためには真空波なんかより二回スライスしなきゃいけないものだから確実にとどめを刺すんならともあれ、数をこなすのには向いてない。だから私は縦切り……にしてら肩が痛くなってくるから横切りスライス連発! と首狩り! で済ませることにしたよ。やっぱり剣が一番だね!

 

 首を狩るとすごい勢いで血が噴出するから服が若干汚れてしまったなぁ……前みたいに完全に避け切るなんてほぼ無理だし、避ける暇があったらもう三体ぐらい殺っちゃう方がいいから、白い服に転々といろんな魔物の体液が付いちゃって気分はあんまりよろしくないね! 漂白剤を買わなくっちゃ、それともこれは諦めて予備に変えるべきかな、やっぱり騎士たるもの白い服で正義っぽくなきゃね!

 

 私が正義だなんて下手な冗談よりおかしいけど!

 

「エルト、あとどれぐらいかいっ?」

 

 単騎で突撃! って出来るほど広くないから私はみんなと一緒に戦ってるんだ。エルトは地図から大体の距離を割り出し、片手で魔物を蹴散らし薙ぎ払いつつ答えてくれる。パルチザンにしてから薙ぎ払いの威力が目に見えて大きくなっててすごいなぁ。片手間にベギラゴンしてるし!

 

「もう少しだから耐えて!」

「了解ッ!」

 

 横切り連打で魔物は蹴散らせるんだから道をさっさと切り開けば良いよね! 後衛前衛中衛も関係なしに一緒くたに戦ってる現状は全然よくないもんだから早く着きたいもんだし! ゼシカの援護のメラゾーマは絶好調で木まで燃やしそうなのに燃やさない絶妙な焼き加減ですっばらしい!

 

「斬られたいのはどいつからぁ?」

 

 跳びかかって騒いでたら明らかにエルトとククールにドン引きされたっていうね! 常識コンビはもう少し耐性つけてもいいと思うんだ、特にエルト! 慣れてるってとか口だけじゃないか! 君だって充分わけわかんない戦い方してるんだから!

 

 ゼシカの慣れたようなヒャダルコ、すっごく冴え渡ってるよ!

 

・・・・

 

 えっと。小屋があるね。ここに住んでいらっしゃるってことかな、ご隠居さんは。まだ森の奥に行けそうな感じだけど、ここより向こうにまだ人が住んでるとは思えないし……。

 

「トウカ、軽く片付けたら入るから!」

「おー」

 

 まぁ考えれないほど魔物が来てるから考えなんて後なんだけどね! 建物の周りにこんだけ魔物が沸いてるのにこの家、よく無事だなぁ……家の中に街とかみたいに魔物避けはしてるんだろうけど……私なら海辺の教会みたいに家の周りに柵をつけるね。これじゃあメダル王……メダル王女の城みたいにセキュリティに疑いがあるみたいだ。

 

 あ、元王宮魔術師ってことで撃退できるぐらい強いから要らないってことなのかも。ならそりゃこんなのだよ。納得納得!

 

「そーら吹っ飛べ!」

 

 大剣片手に横斬り一閃! よしよし蹴散らしたね! では、ノックしてゴー?

 

「……じゃあ行くよ」

 

 まだかなまだかなって待ってたら結構私も攻撃されて足とかから血がだらだら出てたんだけど、物凄い勢いでベホマが飛んできて治してもらった。すごい連携。そして血濡れの服はどうかと思ったから適当な上着を羽織っておく。

 

 ご隠居さん……つまりお年寄りにショッキングな光景を見せるのはちょっとどうかと思って。

 

「……ん?」

 

 ノック三回、それから家の中にお邪魔したけど、「人の」気配は感じられないんだけど。気配自体はあるけど……人のじゃないね。邪悪じゃないから魔物がいても特に気にすることはないんだけど。うんうん、スライスし慣れたスライムも邪悪な気配を感じなかったらそこそこ可愛いね。

 

「……ご留守かな?」

「そうみたいだね」

「そこのスライムくんに話を聞いたら分かるかな……?」

「トウカ、今すごく怯えられてるからここは別の人の方が」

「えっ。怯えられてる? なんで?」

「隠してるけど魔物には魔物の血の匂いが分かるんじゃない?」

「……なるほどね」

 

 ちょっとがっかり。でも言われてみれば確かに後ずさりされてるように思うからそうなんだろうな。怖がらせてもいい結果なんて生まないし、話してくれないかもしれないもんね。だから代表してエルトが話をしてるけど、スライムくん……ほかのみんなは見るのに私を頑として見ないんだけど……。

 

「どうやらこの先に泉があるみたいでそこにいるって」

「……エルトが話しても怯えられているぞ?脅してなかったか?」

「やだなぁククール。トウカじゃあるまいし」

「あははは、エルトォ……面白い冗談だねぇ」

「ごめん。……なんか天邪鬼みたいで反対のことを言うから本当のことを言って欲しかったから『お願い』しただけだよ」

 

 ククールはやれやれと首を振って、どっちもどっちだなと零してた。結果的にはそうなっちゃったってのがね。ククールの方が良かったかな?

 

 再び外に出てまた魔物に囲まれた私たちは魔物をとりあえず一掃すべく武器をとる。なんかほんと、戦ってばっかりなんだけど! 流石に嬉しくない! あ、でも楽しいから!

 

・・・・

 

『……』

『……』

 

 一行が去った小屋の中、魔物達は黙り込む。にこにこ笑いながら嘘を許さなかった青年も恐ろしかったが血濡れの少女の正体は、魔の身からすれば痛いほど感じ取れ、彼女がもしこちらに話しかけたのなら自我まで奪われたかもしれない、と恐怖する。

 

 ……それはただの考えすぎで、やろうと思えば『魔物の半分は支配下における』のだが知りえない上に戦闘狂である以上起こりえなかったのだが。

 

『……実在スル、トハ』

 

 ぼそりと、一つ震える声が静まり返った小屋に響き、消えた。

 


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