【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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76話 紅玉2

・・・・

 

 トウカの姉貴がいらっしゃるからか、その後の戦闘はすぐに終わったんでがす。しかし、ただでさえエキスとやらで臭いのに、さらにトカゲどもの好物の果物を割って誘き寄せるのは少々鼻が曲がりやしたが。

 

 にしても流石は姉貴、兄貴だと勘違いしていた頃と同様、容赦のない素晴らしい動きでがす。あの腑抜け王子が攻撃しようとしまいとぎらぎら光るその剣でトカゲどもを切り裂き、重い蹴りでやっつけてしまう様子は憧れるしかないでがすね!

 

 しかも今回姉貴はそのあっしには真似のできない素早い動きでアルゴリザードの攻撃を全て躱すばかりか、こっちに突進してくる攻撃も打ち返してくださるから誰も怪我をしないんでがす。ククールはあがったりでがすが、怪我しないに越した事はないから流石はトウカの姉貴でがすね!

 

「うーん……あんまり個体差はないね」

「そうでがすね」

「体の大きさの差をあまり感じられないから、宝石の大きさと比例してるのかいまいち分からないけど……ボスみたいなのがいたらわかりやすいよね」

「ボス、でがすか?」

 

 きらきらとした好奇心いっぱいの姉貴は、大きく頷いて、楽しそうに言葉を続けやした。

 

「だってこの辺りにしか住んでないんでしょ? 群れで行動してるようには思えないけど、やっぱり秩序っていうかさ! 縄張りのボスがいたっておかしくないよね!」

「大物狙いでがすか!」

「そう! ヤンガス、分かってるじゃないか!」

「えっ」

「どうしたのエルト、そんなに嬉しい?」

 

 た、多分エルトの兄貴は嬉しいとは思ってないでがすが……トウカの姉貴が嬉しそうなのはなりよりでがすね。まぁ、ククールとゼシカの嬢ちゃんは空を指さして苦言を呈したんでがすが。

 

「でももう日が落ちたぜ?」

「お腹も減ったわね」

「……加勢をありがとう、二人とも。ということでそれは……明日にしない?」

 

 えー、とつまらなそうにしつつも言い返さない姉貴の視線の先には夜になるにつれ忍び寄ってくる魔物の影に怯えるチャゴス王子がいたんでがすが……姉貴はずいぶん楽しんでやすね? 同時に背後に忍び寄ってきたメイジキメラを見もせずに斬り倒すと、姉貴は仕方なく、といったように頷いたんでがした。

 

 アルゴリザード以外にもバトルレックスやマッスルアニマルといった魔物が出るこの場所で野宿……というのはあまり嬉しくはないでがす。でも姉貴と聖水があるなら少しも怖くも、不安もないのはなんでげしょう?

 

 いつの間にか闇に紛れてあっしたちを取り囲んでいた魔物に向けて斧を構えながらあっしは、十四も年下の姉貴の背を頼もしく見守っていたんでやした。

 

・・・・

 

 聖水まきまき、そして今夜は寝ずの番でもしようと思ってつけた焚き火の前で武装をひとつも解かずに晩ご飯をみんなで食べる。保存食にわがままを言っているチャゴス王子には昼間猛威を振るったエルトの槍を引き寄せてみせたら静かになったけど。

 

 エルトは本当に槍の名手だよ。最初の一匹のアルゴリザードこそ出番が少なめだったエルトだけど、二匹目、三匹目では薙ぎ払いに雷光一閃突きが素晴らしくって、思わず見とれそうになったんだ。薙ぎ払いはともかく魔力のない私には雷光一閃突きなんて真似出来ないから、なおさら。

 

 私も対抗して、エルトが「動かずの槍」なんて名前を付けた槍で戦おうかなってちょっとは考えたんだけど、……残念ながら槍二人っていうのはちょっとバランスが悪くてね、断念した。

 

 だってそこそこ場所を食うんだよ、槍は。広いとはいえ相手は一匹、ぶつかっちゃうよ。まぁ、王家の山には他の魔物も出るから困るってほどでもないけどね……武器の被りは避けるべきだよ。

 

 そうそう、ククールはレイピアだけど、彼はまぁ、私みたいに最前線で戦うより後衛が多めだし気にすることはないけどさ、エルトと私は戦闘スタイルが似てるし。

 

 あー……バトルレックスって美味しいのかな、落ち着いたら気になってきたよ。

 

「ちょっと行ってくる」

「……もう真っ暗よ?」

「野暮用だよ」

「鍛錬とかバトルレックスの肉目当てだったら野暮用じゃないけど」

「何でわかるの?!」

「むしろなんで分からないと思ったの?!」

 

 こっそり一欠片ほど焼くために狩ってこようと思ったらエルトにバレちゃった。本当になんで分かったんだろう……付き合いが長いから?それが理由じゃなかったら不思議すぎる。座り直してエルトを盗み見ればお見通しだよとジト目で見られてしまった。うん、流石は親友。私のこと良くわかってるね……。

 

「だって、アルゴリザードは細切れにしちゃ駄目だから、バトルレックスはしただろ? サイコロステーキにちょうどいいサイズでさ……」

「トウカが野生に返っても驚かないことにするけど、そういうのはまた今度にして、頼むから」

「おい、今度ならいいとか問題の先延ばしにするのはやめろ。キアリーをするのは俺だぞ?」

「ボクの腹は強いから心配しないでよ、ククールってば」

 

 そこでみんなで笑えば、仲間の団欒で居心地が悪くなってしまったのかチャゴス王子は馬車に入っていった。寝るのかな?まぁ、護衛任務は私のプライドをかけて守るから安心して欲しい、ちゃんと完遂するさ。

 

 さてと、ご飯も食べ終わったし、でも鍛錬でどっか行っちゃいけないみたいだから追加で聖水をまいてっと。姫様や陛下は一番奥の、狙われないところでお休みになるにしても私達はこの焚き火を前にして見張りをひとりはしなきゃいけないだろうね。

 

 ……これも本来なら、王子一人でやるはずだったのにさっさと安全なところに行っちゃって……こんなのが王となってサザンビークは大丈夫なのかな?大きなお世話か。

 

 いざとなったら私は……モノトリアはヴェーヴィットをアスカンタに移して切り捨てるかもしれないね。たった一つの貴族ごときが切り捨てたところで変わらないだろうし。

 

 みんなも食べ終わって片付けをしてるから、さっそくじゃんけんだ。流石に……完徹ってのはしんどいからね、しない。たまにはしてもいいと思うけどね、なんだかエルトやククールがそうは言わせないぞみたいな雰囲気だったし。……やるつもりだけどね?

 

 二人か三人で交代にやればましでしょう。一番人気がないのは真ん中。中途半端に寝るからね。逆にしんどいってやつ?分かんないけど!

 

「さぁ、見張りのじゃんけんでもしようよ!」

 

 明日に備えて、という訳で私たちは神妙な顔でじゃんけん大会をして、見事勝ち抜いたククールとエルトは微妙な笑顔で勝ちを喜んでいた。レディーファースト? そんなの考えてたら野生では死ぬから! ほら、それこんな状況でも同じこと言えんのって……。

 

 さてさて、私は真ん中だし、早速おやすみなさい! エルトとククールの寝床の真ん中、ヤンガスが焚き火の前に座る中で私はそこで剣をしっかと抱えて眠りに落ちた。ゼシカが隣の……エルト側に寝転んだのが、眠る寸前の私の視界にちらりと見えた。


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