【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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44話 再会

・・・・

 

 恥ずかしながらメダパニで自分を見失っちゃっていて、随分とみんなに心配をかけたようだ。

 

 ……私もまさかあのタイミングでメダパニで錯乱して、記憶を吹っ飛ばして、とうの昔に殺してしまったはずの「桃華」が出てくるなんて思ってなかったんだ……。

 

 最悪の事態である、味方を殴るとか、蹴りとばすとかいうことはないのが不幸中の幸いだけどさ。そんで、ダメージを一番受けたのが自分ですっ転んだ私。恥ずかしいにも程がある。二番目は魔物に追いかけられた(と思っていた)ときに噛まれてたらしい。気づかなかった。ってことはみんなは無傷か。嬉しいことだ。

 

 混乱状態でも魔物を撲殺してるし、まぁ結果的には良かった、かな。うん、ということにしておこう……ばっちりあの時の記憶が残ってるから、ククールを殺しかけてた自分を殴りたいんだけど。エルトたちは影すら見えもしなかったし、本当に魔法って怖いね……。

 

 足元でキラキラ輝いていた、水色の宝石を拾い上げる。手のひらに乗せてみれば小さな小さなスライムでも乗せている気分になる。ビーナスの涙という名前のまんま、涙の形をした宝石だった。吸い込まれるように透き通り、心無しか輝いているようにすら見える。確かに世界三代宝石だ。

 

 忌まわしい記憶しかない、最初に見た三代宝石といえば、リーザスの塔のてっぺんの、リーザスの像の目。クラン・スピネルだ。あれと違って何の魔力も感じないけど、確かに美しさは勝るとも劣らないね。最後はサザンビーク王家のアルゴンハートだっけ? どうでもいいけど。

 

 ……これなら、ゲルダは交渉を「考える」じゃなくて「認める」に変えてくれるかな? まぁ、「認める」から、交渉に「頷く」に変えてくれるのが最終目的なんだけどさ。

 

「さて、じゃあ戻ろう」

「急ごう、みんな」

 

 みんなが頷いたのを確認したゼシカが帰還魔法リレミトを早口に唱えた。メダパニとは全然違う種類の黄色い光が私達を包み込んだ。

 

・・・・

 

「あ、ボク、中に入ったら自分でも何やるか分からないから、外にいるね」

 

 ここは敵のアジトだ。ここにいるのは……魔物ほど敵じゃないにしても、少なくとも、味方ではないよね。なら、私は今度こそ陛下や姫様をお守りしないと。

 

 それに、ゲルダが言う内容によっては本当に私が何をしでかすか分からないっていうのは本当だし。あの小奇麗な小屋を傷付けてもいけないだろうし。大人しく危険人物は外で待ってるよ。良い返事を待って、ね。

 

「分かったよ」

「外は任せて」

「正直トウカが外にいるだけで、ここを包囲してるようなもんじゃないのって思うのだけど」

「言っちゃ駄目だ、ゼシカ」

 

 ……うん、ちょっと意味合いが違うみたいだけど信頼されているようで何より。魔法が無いなら私は簡単にやられたりしないんだから。初級魔法ぐらいなら剣で斬れる、と思うし。多分できる、かな。

 

 私はそっとビーナスの涙をエルトに手渡した。

 

 ……さり気なく今は夜明けなんだよね。迷惑かなとは微塵にも思わない。白んだ空で真っ赤に燃える朝日に輝くビーナスの涙は、室内で見た時よりもずっと美しいね。

 

 ゆらゆらと揺れる、かがり火に照らされたビーナスの涙はさながら囚われの姫。朝日に照られ青と赤の不思議な煌めきを醸し出すそれは、どちらかというと自由を謳歌する旅人の魂のようだ。囚われの姫は今すぐにでも開放してもらうんだけどね。

 

 なんて、臭すぎる事を考えつつ。あれだ、前世でいう「厨二病」かな。今私、十八何だけどなぁ……いいのかな、それで。

 

「トウカや」

「はい、何でしょう」

 

 ぼんやりと考えつつ勝手に傷ついていると、陛下が私に話しかけられた。いけないいけない、もっと護衛に集中しないと。考えこむのは悪い癖だ。

 

「お主、剣士像の洞窟でメダパニをかけられたそうじゃな?いや、責めているのではないぞ。そう、頭を下げずとも良い」

 

 ……私が護衛中じゃ無かったら土下座してたんだけど、流石にそれをしてしまうと周囲への警戒が充分じゃなくなるよね。だからしなかった。出来なかった。私の力量不足が全てを招いたのに。

 

 なのに寛大でお優しい陛下はそんな不出来で注意散漫な私に温情を下さる。何と言うご慈悲か。まさに陛下は全てを超越なさる名君であられ、……。

 

「トウカ、口から全て出ておるぞ」

「申し訳御座いません、陛下」

 

 なんてこった。私の、この矮小な存在が、陛下を賛美するだけで罪かもしれぬというのに、それが陛下のお耳汚しとなっていた、だって……?

 

「よくぞ魔術に囚われながらも魔物を倒したの」

「……、いえ。倒したのは本意では御座いませんでした」

「しかし、エルトはそう言っていたのじゃが」

「私は、魔法によって恐怖に取り憑かれ、無我夢中で目の前にいた化物……に見えた魔物を排除したに過ぎません。化物に見えていたのが味方だったら、……ゾッとします」

 

 化物に見えていたのが、エルトだったら。ヤンガスだったら。ゼシカだったら。きっと、目を覆いたくなる最悪の事態になっていただろうね。あの場は、魔物が倒され、床石を砕かれただけだったけど……人が巻き込まれてたらミンチだ。そう、思うよ。

 

 ククールは何故かあの場の人間の中で唯一いると認知出来ていたけど、私はそれでも敵意しかなかったし……。

 

 偶然なんだ。全てが。私が味方を排除しにかかっていたら両方共怪我じゃすまないだろうし、その隙に魔物にやられてかもしれない。

 

「そうかの」

「はい」

 

 ちょうどその時、ゲルダの家の見張り役の荒くれが、姫様をそっとこちらに連れてきた。エルトたちはまだ出て来ていないのにないのに……。

  

 まぁ、何はともあれ、陛下と姫様の感動の再会だ。

 

 この男もゲルダも姫様を丁重に扱ってくれる人で良かった。そこは感謝しているね。攫われて心細くあられた姫様が手荒く扱われていたら……ああ、ぞっとする。最近は予測できないことや怖いことばっかりだ。

 




なのに寛大で~あられ、 までがトウカの口から出ていた範囲です。

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