151話 異界
「ものすごく! いい歯ごたえがあるとおもんだ! ここの魔物たち! 最高だね! あっはははは!」
「トウカのテンションが何もしてないのに上がっていく……!」
「何もしてない? やだなあエルト、血沸き肉躍る戦いをしてるじゃないか! ねえそうでしょククール!」
「ああ、楽しそうだな。きっとトウカにいいことがあったんだろう……いいことだ。笑顔がまぶしい……俺の疲れが解けていく……」
「だめだ、スカラとベホマの唱えすぎで疲れ切ってる」
だってここの魔物たちすっごく強いんだもの! それに「夢」というあいまいかつ不可解なものに導かれてここにきてる、つまり明確に「ラプソーンを倒す」とか「ドルマゲスを倒す」みたいな目標だってないんだよ?
つまり、この先にあるなにかがわからない間は楽しんだっていいじゃないか! 人生なんて楽しんだもの勝ちさ!
斬っても斬っても押し寄せる魔物たち! ちゃんと避けないと腕を持ってかれそうな攻撃! すさまじい反射神経で打ち合ってくるやつら! 気を抜いたらククールのザオリクのお世話になっちゃいそうだけど、こんなに楽しいのに一瞬だって意識を吹っ飛ばしてる場合じゃないよね!ならやることは決まってる!
生き残って一匹でも多く倒すのさ!
こんなに剣士トウカとして喜びまで感じる戦いはいつぶりだろう! 役目に追われて戦うのは仕方のないことだけど、いっさいの遠慮もなく戦うってのもいいものだね! 向こうは向こうでいっさいの躊躇もなく殺意百パーセントで殺しにかかってきてるんだもの! なら通りすがりの私たちも全力で応えないと失礼だよね!
大剣を横一文字に振る! すると避けられるやつがたまにいるんだ! こんなに全力で振ってるのに! ラプソーンだって避けられなかったさ、この速度は! だから嬉しくなって私は勢いのまま剣を投げるのさ! 大丈夫、味方のところには間違っても飛んでいかないようには気を付けてるからね!
私の特別製の剣は私の腕力でぶん投げて壁にぶち当たっても刃こぼれを起こさないからね! オリハルコン製じゃないのがびっくりだね! 正直なところは自己修復機能がついてるかなんかだと思うけど!
なんにせよ不意を打たれた魔物たちは腰につけてる双剣を抜刀する動きについてこれないわけ! 抜刀で斬りかかり、斬った敵を蹴り飛ばしながら脳天に一撃、踏み砕きながら背中からサイコロステーキにしてやる!
返り血を浴びて! 洞窟の中を揺らめく炎の下ならあんまり目立たないし、いいよね! ククールからもらったバイキルトのおかげですっごく調子もいいし! ゼシカなんてさらにピオリムをくれるんだよ? 嬉しくって! 思う存分暴れて!
どこまでも駆けていきたい! この不思議な空間がどこまでも続いていればいいのに!
「光だ! あっちにいくよ、トウカ!」
「了解エルト! 外の魔物をぶっ倒せばいいんだね!」
「ああもう、なんでもいいから! いつにもまして元気がいいなあ!」
「あっはははは! 覚悟しろ! 死にたい奴だけかかってこい! 臆病者はあっちにいけ! 逃げるやつまで殺しはしない! あっはははは!」
ヤンガスが頭をかちわった魔物の死体を踏み台に大きくジャンプする。魔物の上に降り立って、踏み抜きながらぶん投げた大剣のもとへ。拾って持ち上げざまに背後の魔物をぶった切って、そいつを踏み台に外の光が見えるほうへジャンプ! ジャンプ! ジャンプ!
大丈夫、あとからくる仲間たちが魔物に足止めされないように好戦的な面構えのやつらは勢いそのままにぶった切っておく。落ちた速度は壁を蹴って補充する。ああ、体が軽い!
なんだかんだ言っても私は戦うのが好きなんだなあ! ああ! ここで生きてるんだって!
そんで、外に出て、邪魔をするやつらを片付けて、落ち着いて、そして私は存分にびっくりすることにした。
「ここって何!?」
「今!?」
「いや確かにさ、夢に出てきた詳細不明の場所の、謎の紋章のパワーでここに来たよ? でもあり得ない場所だったとは……こんな風に支えのない、特別丈夫なわけでもなさそうな地面を支える魔力! 向こうでもできなくはないだろうけど、誰がこんなことをしたんだろう! 不思議だね!」
「さあ……でも洞窟にも明らかに『だれか』の痕跡があるし、……これを作った相手と戦いたいとか言い出さないでよ?」
「私の最も苦手な相手は魔法使いだよ」
「マホカンタでほぼ克服したようなものじゃないの?」
「そしたらククールから回復もらえなくなっちゃうよ!」
「確かに……」
空中に浮いた土の道。洞窟の中の松明や壁画。光の世界では見かけたことのない強い魔物たち。だけど闇の世界から来たってわけでもなさそう。色がついてるし。
ああ、世界は不思議がいっぱい。まだまだ戦える相手もいっぱいってことかな?
もちろん、ここを踏破したらとっととラプソーンをぶっ倒して、平和な世界になるんだけど! 戦いは減るでしょう、魔物たちもいなくはならないだろうけど、大人しくなるってなんとなくわかるんだ。
だからこんなに楽しいのは最後なのさ! そうあるべきなんだ! そうあるべきだから、そうなったらもちろん歓迎するけど! それはそれさ!
こことラプソーンが関係ないのなら。暗黒神をぶっ倒した後でも来ることができて、ここの魔物たちに変わりは……ないよね! だってここは明らかな異世界! 闇の神が死んだからなんだっていうのさ! 異世界なんだから、きっと関係ない!
ここに来れば戦えるんじゃないの?
それはなんて……幸せなんだろう!
「だいたい考えてることがわかるような気がする……」
「さっすが親友!」
「トウカの思う通りだとして、胃薬の飲みすぎで寝込みそうな君の『ハニー』のことも考えてあげたらどうなの?」
「だれが『ハニー』だ。男にいわれても嬉しくないね。
ともかくトウカ……ちょっと落ち着こう、な? はしゃいでいる君もその、とても魅力……的で……」
「うん、ありがとう!」
「俺よ、太陽の笑顔に負けるな……。いいか、トウカが楽しいくらいには強い相手なんだ。そしてわけのわからない空間と来た。慎重に行こう。な?」
「わかったよ!」
「返事は良好、だけど行動はどうなることやらわかったもんじゃないわ。ちゃんと見ててねククール」
大丈夫、大丈夫、落ち着いたから。何度も来れるかもしれないんだし、一度で楽しみつくすのももったいないじゃないか。知らないことがあるほうがわくわくすることだってあるでしょ! 未知なることにひとは惹かれるのさ!
「じゃあ堅実に! ゆっくり! いこう!」
エルトがあきれたように槍をぶんと振り回した。べったりついた血糊を吹き飛ばし、ククールをちらっと見てからリーダーらしく命じた。
「トウカは僕の横か、ククールの横か。どっちかから離れないで。という作戦で行こう」