【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪(ryure)

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119話 対価

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 いやあ、歯ごたえがあるって言ったらいいのかな、今までとは全然「格」が違うって感じの魔物たちだね! 腹をかっさばいてもまだ攻撃してくる生命力とかさあ、見てるだけでどんどんテンション上がっちゃうし、そんなやつの首切り落としたときの機嫌も上々だよ! 強いけどこう、踊るように楽しく勝てるぐらいだしさ! うん、たまに腕をねじ切られそうになるくらいね!

 

 この状況のデメリットといえばね、怒涛の戦闘は私たちが負う傷も残念ながら多くなってさ、ククールのベホマをそりゃあもういつにもまして浴びまくる事になったんだけど。その負担については毎度のことながら申し訳ないなって……。私、常に緑の光を纏ってるみたいだよ。

 

 ねぇねぇ、魔法の聖水足りてる? エルフの飲み薬にするかい? あ、そんなことよりもっと攻撃を回避してくれって?了解したよ! ところでククールの後ろにワニバーンがいるからぶつ切りにしておくね! 君がいないと私も死んじゃうからね!

 

 ……うーん、この会話めいたのを目を見るだけで何を言っているのかわかるレベルになったのってすごいよね、今までエルトとしかできなかったのになあ。これが以心伝心ってやつなの?

 

 ちなみに今の私たち、もちろん単に魔物をふっ飛ばして鍛錬に励んでいるわけじゃなくてね。こんな土地に人間が住んでるか、なんて一切予想がつかないけど、まあ探さなきゃいけないでしょ? このままじゃ情報収集もできないし。あの巨大な影の姿が探してたレティスだったとしても会う方法があるなら話は別でしょ?

 

 やっぱりこういった話は現地の人に聞かなきゃなかなかわからない部分もあるだろうってことでさ。人探しと集落探しを兼ねてるんだ。流石にこんなに魔物が凶暴なここで一軒家の一人暮らしなんてないと思うけどなあ。

 

 うーん、この世界の()()()じゃあこの場所にほいほい到達するのは無理だろうってたしかに分かるけどさ、ルーラがあるなら魔法を改良するなり改造するなりして飛んできて捜索してる先人がいてもいいと思わないかい?文献にはそういう例があったみたいだし……。トベルーラってやつ。今の魔法使いたちももっと頑張ってほしいな。それか、飛べるそこそこ大型の魔物を調教したりしてここに来るとか。

 

 あ、なんか遠目に明らかに人工のアーチらしきものが見える……! あれって人が住んでるってことだよね?行ってみようよ!

 

 何さエルト、後ろからまた魔物? 大丈夫だよ、そういう時はこうやって蹴り抜けば……よいしょっとぉ! 鈍い音を立てて私の、すでに草の汁や魔物の体液やらでどろどろのブーツが血で真っ赤に染まる。あとでしっかり洗わないとね。靴下まで染みてこないのが不思議なくらいさ。でもって、警戒は忘れずにしっかり振り返る。するとびっくりな光景が。

 

「……わーお」

 

 うーん、本当にここってすごい世界だなぁ。鉄板入りのブーツで蹴り抜いて体にどでかく風穴開けても普通に暴れるなんて生物としてまともじゃないよね! これは一層精進して慢心するなってことかな? それともそろそろ私もククールのザオリクのお世話になる時期ってこと? そうなんだよ、私って前衛なのに「死亡」になったことがなくてさ! 怪我が原因で死んだらどうなるんだろうね、また別の世界に生まれ変わっちゃうかも?

 

 そうそう、戦闘での死って厳密に言えばまだ魂と体のリンクが切れてないから……そうだね、呪文で生き返るうちは本当は瀕死と呼ぶのが正しいのかもしれないけど! 死亡っていうのは老衰や、七賢者の人のような死、だと思うね。とりあえず放っておいたら起き上がれずに死ぬような瀕死を戦闘上での「死」と定義しているってだけ!

 

 安静にして教会に運んで神父様に祈ってもらえれば治るってやつさ。ザオリクって「御霊」を呼び戻しているけど厳密には……魂がなくなってたらもうおしまいだし。うん、それが私の解釈違いで口からはみ出てたりそこら辺を漂ってるぐらいの離れ方をしている魂を体に押し込める作業が必要っていう話なら私の間違いになっちゃうね。魔法はわからないからそこの辺りはあまり信じないでほしいな。

 

 殺してもなおビチビチしているワニバーンの生命力にびっくりしながら首筋に剣を突き立てトドメを刺し、先に進みつつあるエルトたちの方へ跳躍して距離を詰める。すっかり生息している魔物たちは私たちに怯えちゃってかなりの遠巻きにしてるからそろそろ休憩だね!

 

 そうだ、ねえヤンガス、あそこに住んでいるのはどんな人たちだと思うかい? ドワーフみたいなって? ドワーフか……本当にいるのかな? エルフはいるみたいだけど。いたら話してみたいな!

 

 よーし、じゃあ血にべたべたに濡れているという点を覗いてはもう大丈夫だよね? あ、やっぱりちょっとまって、あっちの方にある湖でだいたい落としてからにしようよ。ほらほら、向こうの方に小さく見えるあれでさ。なにせファーストコンタクトって大事じゃないか! ね、そうしよう?

 

 なんで今さら気遣うのかって言われたって困るんだけど! 本当はいつだって気遣いたかったけど、周りに水があるときばかりじゃなかったじゃないか! 私、こんななりでも綺麗な方がいいと思ってるからね? 別に血を浴びて喜ぶ方の戦闘狂じゃないからさあ! 視線をくぐるのに心が踊りだすって方で!

 

 ……ワニ肉が食べたい!

 

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 こんなトウカのテンションが、喋り方こそ普段と変わらないけど目が煌々と光り輝いて限界突破、振り切れるほど強い魔物がそこらを闊歩しているところに住んでる人間なんて絶対に……失礼だけど、まともじゃない、なんて考えていたのを本当に反省したい。

 

 「レティシア」というなんとも聞いたことがある様な名前の村の人々は今まで見てきたどこの人よりも素朴でのどかで温かい人たちばかりだったから。

 

 というのもね、一応「外」からの人は僕たちを除いて二人ほどいるけれど、まぁめったに来訪者なんてこないし、こんなに大人数でくるなんてめったにないこと。そもそも人が来ることを前提にしていないから宿屋がない。都会の町並みみたいに空き家があるわけでもない。

 

 早々に困り果てた僕たちに村長宅の親切な方が一晩泊めてくれたんだよ。海より深く反省しないと……しかも、お金を受け取ってくれない。というか、ここの人たちは商人の困り果てた顔を見るにお金を使っていないんだね。

 

 普段は物々交換しているのかな? ともかく僕たちは一夜のお礼のために薪割り……しようと思ったら温暖な気候では不要みたいだし、料理を手伝うにも相手がプロ(お母さん)だったからむしろ邪魔になりかねなくて。

 

 小間使いだったし、芋の皮むきぐらいできるんだけどな……。家には家の料理ルールがあるみたいで。なにか手伝えること、なにかお返しになること。なんか無いかなぁ? って考えてたら突然トウカが村人にそこらで見た牛は飼っている牛なのか、もしそうじゃないなら生け捕りでもなんでもできるし鳥だって捕まえてくるとか剣士にあるまじきことを提案し始めて。

 

 ……うん、僕らのお返しは結局狩りだったよ。

 

「はーいどうどう、私に従ってねぇ」

 

 外で魔物を警戒している状況だっていうのに優しく牛を撫でているように見えるトウカ。牧歌的で麦わら帽子とワンピースが似合って、そのままバスケットでも持ってピクニックしそうな雰囲気が漂う。

 

 だけど僕は知っているさ。あれ、魔法的な能力が一切関わっていないことが嘘みたいな力で押さえ込んで恐怖で暴れるのも押さえ込んで野生の本能から従えてるだけじゃないの……? すごく牛、服従してるし。

 

 あ、蚊帳の外の僕らは牛の追い込みとかを担当したんだよ。

 

 なにはともあれ、レティスのことをよくよく知っている、というか伝承している村「レティシア」での一日目は夜に村長さんの話を聞いて次の日の指針を決めたぐらいで……最近ではなかなかなかった平和な一日になったんだ。朝から昼にかけては血なまぐさかったはずって?そんなのもう今更だよ。僕、普通の兵士に戻ったら確実に体鈍ると思ってるし……。


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