赤城さんが食べる!   作:砂夜†

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第八話 焼肉を食す。

(これは失敗しましたかね……)

 

 赤城は横須賀の飲食店街にある焼肉屋で、やや肩身の狭い思いを味わっていた。

 何しろ赤城は一人での食事。それなのに周囲は三~六人のグループでわいわいと食事をしているという状況。集団の中で一人で食事というのは、中々に精神的な負担になる。

 焼肉を食べたいと思い立ったが、一人で店に入るのは早計だったかもしれない。だれか誘って店に入ればよかった。

 悔やんでも仕方がない。まずは注文だ。

 

「注文お願いします。え~と、この焼肉セットAコースを」

「こちら4人前の量となっておりますが、お一人様分に減らしましょうか?」

「いえ、そのままで。あとご飯大盛りで」

 

 ギロリと店員を睨み、量を減らそうとする店員を射竦める。

 

「ひっ!? は、はい。かしこまりました」

 

 そしてしばらくして、赤城の注文が運ばれてきた。大量の肉と付け合わせの野菜。そして大盛りのご飯。

 四人前だけあって、中々の量だ。カルビ、ロース、ホルモン、タン、より取り見取り。まさに肉のバーゲンセール。

 

「さあ、焼きますよ!」

 

 赤城はトングをカチカチと動かして、第一攻撃目標を考える。

 

(まずはカルビからいきますかね)

 

 机に設置されている網に乗せ、軽く焼く。カルビは決して焼きすぎてはいけない。表面が軽く焼けて少し中に熱が通ったら、網から救出。タレにちょっとだけ浸けて、ほかほかのご飯の上に! そしてご飯とお肉を一緒に口にかっこむ!

 

(んふ~♪ このとろけるような脂! 脂と肉の見事なコンビネーション。生命の神秘ですね! タレと肉にまみれたご飯もこれまた美味しい!)

 

 合間に玉ねぎとピーマンを焼いておこう。

 

(駆逐艦の子達ってピーマン苦手な子多いですよね~)

 

 やはり苦味がダメなのだろう。

 

(この苦味が大丈夫になったってことは、私も大人になったってことですかね)

 

 いつの間にか子供時代は終わってしまっていたのか。そういえば、ピーマンを食べれるようになったのはいつからだったか。ちゃんと覚えておけばよかった。

 

(さてさて、次はミノをいただきましょうかね)

 

 これもまた美味しい。不味いミノはゴムみたいだが、このミノは程よい弾力だ。

 

(次はロース!)

 

 脂身が真珠色。良いロース肉の証拠だ。

 赤城は焼肉の中で、このロース部分が一番好きである。脂身が少なめで、さっぱりと食べられるからだ。

 ロースの焼き方はとにかくレア。軽く焼き色がつくぐらいが食べごろだ。

 味付けはタレではなく、塩。肉本来の旨味を味わう。

 

(うん。うんうん! 私、今お肉食べてるって感じしますよ!)

 

 次は、タンを食べることにしよう。

 片面を焼いて、レア状態で少し火が入って外側が反り上がったところで素早く裏返す。このとき少し引きずるように返すのが、美味しいタンの焼き方だ。これを何度か繰り返し、両面にうっすら焼き色がつけば食べごろだ。

 焼きあがった牛タンを、口の中に入れる。サクっとした独特の食感のあと、温められた脂が舌の上でとろける。

 

(ふわ~……これはまた美味しい。タンって言うと牛の舌ですけど、これなら毎日牛と接吻してもいいかもしれませんね~)

 

 少し、焦げた臭いが赤城の鼻孔をくすぐった。

 

(ん? この臭い……あっ)

 

 失態である。タマネギとピーマンが焦げてしまった。

 

(まあこれも焼肉の醍醐味ですよね)

 

 焦げた野菜をタレに浸けて、ご飯と一緒に食べる。焦げた味もこれはこれで美味しいものだ。

 肉をいつ焼くか、野菜をいつ焼くか、何をどのタイミングで食べるか。全てを自分で決められるのが一人焼肉の良いところだ。

 

(最初は少し後悔しましたが、これはいいものです。今、まさに私は! この網の上を支配していると言っても過言ではありません! 言うなれば、私は焼肉という艦隊を指揮する提督ですね)

 

 赤城は気の向くままに、肉を、野菜を焼く。

 

(あ、しまった……)

 

 お肉がおいしすぎて、ついついご飯を食べ過ぎてしまった。茶碗はからっぽになっている。

 

「すいませーん! ご飯のお代わりを」

 

 無くなればおかわりをすればいいのだ。

 

(やはりお米は日本人の魂ですよね~。日本人に生まれて良かったですよ)

 

 再び運ばれてきた山盛りのご飯の上に、タレに浸けたカルビを置いて、一緒に食べる。赤城は日本に生まれた喜びを感じながら、一人焼肉を存分に堪能した。


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