横須賀鎮守府の正面入り口。その場所で、正規空母の赤城は一心不乱に落ち葉を掃いていた。
一見すると清掃活動に精を出しているだけのように見えるが、そうではない。
「ダメです……まだこの量では」
赤城は落ち葉の量に不満を漏らした。これでは少ない。
「これでは焼き芋が焼けないじゃないですか!」
赤城の持ってきた芋は五本。これを全部焼くには、集めた落ち葉の量はやや少ない。そもそも樹木の数が少ないので、自然と落ち葉の量も制限される。
「三本入れるのが限界そうですね……」
一度に全部作りたかったが、この落ち葉の量では無理そうだ。
「仕方がありません。これでやりますか」
赤城は新聞紙を取り出し、マッチで火をつける。燃えだした新聞紙を落ち葉の中に入れ、落ち葉の山が燃え出すのを確認する。
「は~やく燃えろ~どんどん燃えろ~♪」
煙を出しながら燃える落ち葉の山を前にして、赤城は上機嫌になる。
今はまだ入れてはダメだ。落ち葉が灰になって、熾火になるまで待たなければ。今入れると芋は黒焦げだ。
決して焦ってはいけない。美味しい焼き芋は時間をかけなければならない。
「あの、赤城さん。鎮守府内は火気厳禁ですよ?」
「はい? あ、大鳳さん」
そこにいたのは、装甲空母の大鳳であった。駆逐艦娘のようなフルフラットボディが特徴的な艦娘である。
「いえね、焼き芋を作ろうと思って。やっぱり焼き芋は電子レンジじゃダメですよね」
電子レンジやオーブンで作ると、どうしても甘さが足りない出来になってしまう。やはり焼き芋は落ち葉で焼くに限る。
「や、焼き芋ですか……」
大鳳は一歩後ずさった。
「ええ! 甘くてホクホクの焼き芋ですよ! お一つ食べます?」
「えっと、その……」
大鳳は何事か言いづらそうに、口をモゴモゴさせる。
「お嫌いですか? 焼き芋」
「いえ、焼き芋は好きなんですけど……」
「ははぁん」
赤城は納得した。花も恥じらう乙女としては、焼き芋は食べたくても食べれないときがある。
「大丈夫です。お互いにちょっと離れて食べましょう」
「あ、それなら是非食べたいです」
灰になった落ち葉の山の中に、アルミホイルに包んだ焼き芋を三つ入れる。そして一時間ほど待つ。
「さぁ、できましたよ!」
灰の中から取り出した焼き芋の皮を剥く。ホカホカの湯気と共に、黄金色の身が姿を現す。
「ではさっそく、いただきます」
両手に焼き芋を持った赤城は、フーフーと息を吹きかけて冷まし、パクリとかぶりつく。
「んふ~♪ いいですね~ホクホクであま~くて、身体があったまりますよ~」
自然と頬が緩んでしまう美味しさだ。
甘い焼き芋は、噛めば噛むほど甘さが湧いてくる。
「私もいただきますね」
少し離れた所で、大鳳も焼き芋をパクリと食べた。
「あはっ、凄く美味しいですね」
「でしょう?」
モグモグと食べ続けていると、腹部に少し違和感を覚える。
(ありゃ。これはガスがたまってしまいましたか)
しかし恥じることはない。お芋を食べた後のガス漏れは、内臓が健康に動いている証拠なのだから。
大鳳の方をちらりと見ると、少し顔を赤くしている。どうやらあちらもガス漏れのようだ。
「まあ、これも焼き芋の風物詩ですよね」
赤城は周囲に誰もいないことを確認して、顔を赤らめた。