赤城さんが食べる!   作:砂夜†

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第十話 餃子を食す。

「ぐっ……うぅ!」

 

 横須賀鎮守府の食堂。食券の販売機の前で、赤城はかつてないほどに迷っていた。

 赤城の指先には、水餃子定食のボタン。

 いつもなら何も迷わず即ボタンを押すところだが、今はそうもいかない。

 なにしろこれから大事な会議があるのだ。それも、格鎮守府から将官級の指揮官が集まる重要会議だ。赤城もその会議に出席することが決まっている。

 そんな会議に、ニンニク臭い息をして出席するわけにはいかない。

 

(あーでも……餃子食べたいですね)

 

 焼き餃子とは違い、つるりとした食感の水餃子。

 中の具は豚肉、ニラ、ニンニク、タマネギ。それがたっぷりと入っており、物凄いボリュームだ。しかも横須賀鎮守府食堂の水餃子はさっぱりと食べられるので、いくらでもおかわりできてしまう。

 そしてもちもちの皮。皮は厚く、むっちりぷりぷりでコシがある。まさに隠れた主役と言ってもいい。

 

(それをそのまま食べてもいいですし、付け合わせの中華スープに浸けて食べてもいいですし、タレで食べてもいいですし……ああっ! 考えたら食べたくなってきました!)

 

 いまさら別の物を頼むか?

 何を注文する? ダメだ! 今はどんな食べ物も色あせてしまう。どんな美味しい料理だろうと、意味はない。

 

(私の胃は完全に餃子状態! 他の食べ物なんて受け付けません!)

 

 赤城は勢いよく水餃子のボタンを押す。

 

「おねがいしま~す」

 

 食券を出して、代わりに水餃子を受け取る。

 

「ん~♪ いい匂いですね~」

 

 横須賀鎮守府の水餃子定食。

 水餃子はなんと驚きの十五個というボリューム。しかも一つ一つが大きい。濃い目の味付けの中華スープに、ネギと生姜の微塵切りが入った醤油ベースのタレ。そしてほかほかのご飯! 餃子とご飯の相性は抜群だ。餃子を食べるならご飯が、ご飯を食べるなら餃子は欠かせない。

 

「では、いただきます!」

 

 まずは、タレで食べるとしよう。

 水餃子を醤油ベースのタレを少しつけて、口に入れる。

 

(んふ~♪ 少しピリっとしたタレが、食欲を増進させてくれますね~♪)

 

 次は中華スープに浸けて、スープと一緒に食べよう。

 

(ガツンとした濃い味の中華スープ! スープだけでもお腹が膨れそうです。うんうん。一口噛んで餃子の具がスープと合わさると、スープの味もまた変化して面白いですね! ……ん?)

 

 赤城はあることに気付いた。

 

(そうか! わかった! わかりました!)

 

 今まで何度も食べて、やっとわかった。

 横須賀鎮守府の水餃子定食が、これほどボリュームがあるのに食べやすい理由が!

 

(秘密はこの皮! 冷水の代わりに、烏龍茶を使っているんですね!)

 

 長い間気になっていた謎が氷解したことにより、餃子を食べる手も進む。

 

「ふぅ……」

 

 完食。それどころかおかわりまでしてしまった。

 

「不思議ですねぇ」

 

 胃も心も満たされたはずなのに、なんなのだろうか。この「やってしまった感」は。

 はーっと息を吐いてみる。うん。凄まじいニンニク臭だ。

 

「後悔しても仕方ありませんね」

 

 赤城は吹っ切れたように微笑んだ。食べたいものを食べたのだ。後悔なんて、あるはずない!

 

「……長門さん怒りますかねぇ」

 

 第三艦隊旗艦の怒った顔を思い浮かべると、少し気分が沈んでしまう赤城であった。


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