赤城さんが食べる!   作:砂夜†

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第一話とか書いてるけど、続くかは完全に未定! 


第一話 カツ丼を食す。

 横須賀。大日本皇国でも有数の大都市であるこの地には、様々なものがある。

 服飾店、書店、スポーツ専門店、玩具店。人間の欲望を満たすあらゆる店がそこに存在した。

 そして、飲食店。人間の三大欲求である食欲を満たすための店。和洋中、あらゆる国の料理が横須賀の一角に列をなしていた。

 

「ん~いい匂いですね。加賀さんじゃないけど、気分が高揚してしまいます!」

 

 腰まで伸びる長い黒髪の女性が、目を輝かせながらそこに立っていた。

 女性は上等な和服を着ており、黙って佇んでいればさぞかし絵になるだろう。しかしその雰囲気はまるで童女のそれだ。

 彼女の名は赤城。皇国が誇る艦娘という兵器だ。

 

「うへぇ、凄いっすね」

 

 そして赤城の傍には、ノースリーブのセーラー服を着た少女がいた。歳は十代の後半あたりだが、その眼光は鋭い。

 彼女の名は摩耶。彼女もまた、赤城と同じ艦娘である。

 

「摩耶ちゃんが住んでた場所には、こういった飲食店街は無かったんですか?」

「無かったっすね。私の実家は凄く田舎で、定食屋も満足にありませんでしたから」

「なんと……それじゃあ今日はいっぱい楽しんでください」

「うす! ゴチになります!」

 

 赤城は微笑み、摩耶の前を歩き先導する。今日は摩耶に食事を奢るという約束をしているのだ。

 

「ところで赤城の姐御。今日はどこに行くんすか?」

「ふふ。今日はですね、これです」

 

 赤城が指差した先は、一件の揚げ物屋。

 

「揚げ物ってことは、コロッケとかトンカツとか串カツですか?」

「ええ、ですが今日は……カツ丼です」

「カツ丼っすか。いいっすね」

 

 女性が食べる物としてはかなり重い部類ではあるが、だが彼女達艦娘は日々体を酷使する。一日に必要な摂取カロリーは、並のスポーツ選手よりも遥かに多い。

 

「しかも今日は」

 

 店の入り口には、大きな張り紙が貼ってあった。大きな字で「大食い挑戦! 特大カツ丼十杯、一時間以内に食べきれば無料!」と書かれている。

 

「大食いっすか」

「ええ。摩耶さんはよく食べる方ですよね?」

「食べるは食べますけど……正直十杯は無理っす。三杯が限界っすね」

「あら、それは残念。では挑戦は私一人だけにしておきましょう」

 

 二人は店内に入り、注文をする。

 摩耶は普通のカツ丼。赤城は大食い挑戦で、特大カツ丼を頼んだ。

 赤城が大食い挑戦をすると言うと、店内の客に動揺が走る。

 

「おい。姉ちゃん止めとけって」

 

 一人の恰幅のいいおじさんが、赤城に話しかけてきた。

 

「この店の大食い挑戦、とても女一人で食べきれる量じゃねーよ。どんな奴も4杯が限度ってとんでもねー代物だ」

「ご忠告有り難うございます。ですが、一度挑んだ戦いに背を向けることは出来ません」

 

 まさしく、赤城は戦場に立つ覚悟であった。

 

「そ、そうかい。まあ、頑張ってな」

 

 その気迫に圧倒されたのか、もしくは呆れたのか、おじさんは引き下がる。

 そして十数分後、二人の料理が運ばれてきた。

 

「……大きいっすね」

「そうですか? 食べごたえがありますよ!」

 

 摩耶のカツ丼は常識的なサイズだった。普通の一人前の量だ。

 しかし赤城のカツ丼は違う。カツは二枚だし、溶き卵も量から考えて二個は使われている。そして器の大きさからしてご飯の量も二人前は軽くあるだろう。

 

「これって事実上二人前……大食い挑戦に勝つには二十杯は食べないとダメってことじゃないっすか。これじゃ誰も食べきれねーよ」

「ふふ。相手にとって不足はありません! いざ! いただきます!」

 

 赤城は手を合わせ食前の挨拶をすると、割り箸を割ってカツ丼を切り崩しにかかった。

 一口ずつ、ゆっくりと咀嚼する。

 

「あの、姐御。もっと急がなくていいんすか? あ、水もっと持って来ましょうか?」

 

 摩耶の気遣いに、赤城は静かに首を横に振る。

 

「いえ、一度に大量に食べてしまっては逆に量は食べられません。咀嚼することでこそ、より多くの量を食べることができるのです」

 

 赤城は、食べることが好きだった。それゆえに、より多く食べられる方法を日々模索していた。これは進化なのだ。キリンの首が長くなったように、象の鼻が長くなったように。赤城にとっての進化は、より多く物を食べることなのだ。

 

「はふはふっ! もぐもぐ!」

 

 水を飲むのは厳禁だ。胃の中で米が膨れてしまい、容量が圧迫される。一口ずつ咀嚼して食べなければ、この量は食べきれない。

 赤城は少量を定期的に口の中に入れていく。そのペースは全く乱れがない。

 

「おっしゃあ! 姐御、あと二杯ですよ!」

 

 摩耶の心配をよそに、赤城は順調に食べ進んでいく。そして8杯の空になった丼が机に積まれた。

 

「さあ、店主! おかわりをお願いします!」

 

 赤城は勝利を確信し、おかわりのお願いをする。余裕の表情であった。汗一つかいていない。

 

「……どうぞ」

 

 苦々しい顔をした店主が、丼を運んできた。

 

「あれ? なんか丼の大きさが……違わね?」

 

 それは摩耶の目の錯覚などではなかった。明らかに丼が一回り大きくなっている。おまけにカツは三枚に増量だ。判別しにくいが、当然卵と米の量も増量されているだろう。

 

「ふふ。やってくれますね」

 

 明らかに、赤城の顔色が変わった。赤城は綿密な計算で、これから出されるカツ丼をどう食すかを考えていた。しかし今、その計算が狂ってしまった。

 脂汗が一筋、赤城の頬を伝う。

 

「ゴラァ! 店主待てオイ!」

「ひっ!?」

 

 摩耶の怒声が店内に響き渡る。

 

「なんだこれ! いきなり量が増えてんじゃねーか!」

「あ、いやその……うちでは最後の二杯は増えるんですよ」

「舐めてんのかコラァ!」

「やめなさい摩耶さん!」

 

 今にも殴り掛からんばかりの摩耶であったが、赤城の凛とした声が摩耶を制止した。

 

「あ、姐御……でもよ……」

「一度食卓についたら、どんな状況になっても間食するのが真の食闘士です」

「いや、食闘士とか正直意味わかんねーっすけど……こんな卑怯な真似するヤツにはヤキ入れねーと」

「摩耶さん、ちょっとこっちに」

「あ、はい?」

 

 赤城は摩耶に耳打ちをする。

 

「私達は艦娘なんですから、一般人に手なんて出したら大変なことになるでしょ?」

「あ……そういやそうっすね……」

 

 艦娘の力は、常人を遥かに超える。もし本気で殴ったりしたら、確実に相手を殺してしまうだろう。

 

「とにかく、今は目の前のカツ丼を食べなければ」

 

 時間は残り二十分。一つ十分で食べなければならない。

 赤城は箸を進めるが、やはり食べ進む速度は急激に落ちてしまう。

 

「……摩耶さん、水を。大きなコップで」

「うっす!!」

 

 摩耶は赤城の指示通り、水を大ジョッキに入れて持ってくる。

 

「禁を侵します……」

 

 赤城は猛烈な勢いでカツ丼を口の中にかき込み、それを水で強引に流し込む。

 五分もかからず、丼は空となった。

 

「次!」

 

 そして最後のカツ丼も、5分かからずに空にした。

 

「すげぇっす、姐御! 完食っすよ!」

「ごちそうさまでした」

 

 赤城は満ち足りた表情で、食後の挨拶をする。

 

「さあ、摩耶さん。出ますよ」

「え? あ、うっす」

 

 赤城は摩耶の食べたカツ丼の代金だけを支払い、店を出る。

 

「いや~しかしさすが赤城の姐御っすね。まさかあんだけの量を食べるなんて」

「いえ、私もまだまだです。最後の二杯、味わって食べることができなかった……」

 

 赤城は悔やむように、顔を伏せた。

 

「ふふ、もう忘れましょう。摩耶さん、せっかくですし何かお買い物していきませんか?」

「あ、いいっすね! じゃあ服屋いきませんか?」

「それじゃあ行きましょうか? この前長門さんからいいお店を教えてもらったんですよ。フリフリの可愛い衣装がたくさん置いてある店」

「え、いや、まあ……姐御のオススメなら」

 

 摩耶は顔を赤くし、満更でもなさそうに赤城に同行した。


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